清水理史の「イニシャルB」

「Copilot GPT Builder」登場! 知識や機能をカスタマイズして“自分専用Copilot GPT”を作る

オリジナルのCopilot GPTを作れる。画面は筆者作成のサンプル

 個人向けの有料プランとなる「Copilot Pro」で、オリジナルのCopilot GPT(CopilotによるAIチャット)を作成できる「Copilot GPT Builder」の提供が開始された。

 ChatGPTのカスタムGPT(「ChatGPTの新機能『GPTs』『Assistants』を試す。特別なツール不要でカスタムChatGPTを開発可能に!」参照)のように、知識や機能をカスタマイズすることで、特定用途向けのオリジナルCopilot GPTを作れる機能だ。現状は、Copilotならではの「クセ」もあるが、QAチャットなどを簡単に作れる機能となる。

再利用可能、共有可能なAIチャットアプリを作れる

 ChatGPTのカスタムGPTもそうだが、オリジナルのCopilot GPTを作るメリットは、再利用可能、もしくは共有可能な特定用途向けのAIチャットアプリを手軽に作成できる点にある。

 例えば、あなたが組織の総務担当だったとして、何度も何度も、オフィスの鍵の扱い方や社用車の予約方法などについて質問されて困っていたとしよう。社内掲示板や社内マニュアルなどに詳しい使い方を掲載していたとしても、手っ取り早く知りたいという人も少なくない。

 こうしたケースで、役立つのがCopilot GPT Bulderだ。

 オフィスの鍵の扱い方や社用車の予約方法などのドキュメントを「知識」として登録しておくことで、その情報をもとにした回答をさせられる。いわゆるRAG(Retrieval Augmentation Generation:検索拡張生成。自分が用意した文書など、ソースとなる特定のデータを参照させて言語モデルに回答させること)を実現できるわけだ。

Copilot GPT Builderを利用して、知識や機能を特定用途にカスタマイズしたCopilotを作成できる

 通常のCopilotでは、事前に学習した知識やBing検索によって得られた知識から、一般的な回答をするが、Copilot GPT Builderを使えば、与えられたドキュメントをもとにした社内のルールについて回答できるCopilot GPTを自分を利用できるようになる。

 もちろん、通常のCopilotでも、Edgeで該当するドキュメントを開いた状態でチャットすれば、特定の情報だけをもとに回答させることはできる。だが、Copilot GPTなら、この前段階の操作を毎回行う必要がなくなり、また、ほかのユーザーとも共有できる。

 このように再利用可能、共有可能なAIチャットアプリを作成することで、業務の改善などに役立てることができるわけだ。

ChatGPTのカスタムGPTとはどこが違う?

 前述したように、同様の機能はChatGPTでも提供されていた。ただし、Copilot GPT Buiderとは大きく2つの視点で違いがある。

Copilot GPTは有料ユーザー以外も利用できる

 1つは、共有に対する考え方だ。ChatGPTのカスタムGPTは、作成だけでなく、利用にもChatGPT Plusなどの有料プランの契約が必要になる。つまり、前述したような社内ドキュメントQAのシナリオなら、利用する人、つまり全社員に有料プランが必要になる。

 一方で、Copilot GPT Builderの場合、作成には有料プランのCopilot Proが必要だが、作成したオリジナルのCopilot GPTは、インターネットにアクセスさえできれば誰でも利用できる。

作成したCopilot GPTは広く公開可能。リンクを知っていれば有料プランでなくても利用できる

 例えば、以下のリンク先は、後述するサンプルとして筆者が作成したCopilot GPTだ。誰でもアクセスして利用できるようになっている。なお、利用するにはMicrosoftアカウントにログインしておく必要がある。後述する例のように「ティラノサウルスのステータスを教えて」と質問すれば、例と同じ回答が得られるはずだ。

▼筆者が作成したCopilot GPTサンプル
モンスターデータベース

 これには、メリットとデメリットの両方がある。

 例えば、先の社内Q&Aのような用途の場合、社内の一部のユーザーのみ有料プランを契約しておけば作成したAIチャットアプリを誰でも利用できるメリットがある。つまりコスト的に非常に有利だ。

 しかし、セキュリティ的には問題がある。URLを知っていれば、社外からも社内ドキュメントをもとにしたチャットが可能になってしまう可能性があるため、事実上、重要な情報を扱うAIチャットアプリには利用できない。

 もともと、Copilot Proそのものが法人向けのサービスではなく、個人向けのサービスなので、当然ではあるが、法人向け用途では、同様にオリジナルのAIチャットアプリを作成できる「Copilot Studio」(旧 Power Virtual Agent)を利用すべきだろう。

使える機能はChatGPTの方が豊富

 利用できる機能も異なる。まとめると、以下の表ののようになる。

ChatGPTのカスタムGPTとCopilot GPT Builderの違い
ChatGPTCopilot
名称GPTsCopilot GPT Builder
作成可能ユーザーPlus/TeamCopilot Pro
利用可能ユーザーPlus/Team制限なし
スタートメッセージ×
知識
ウェブ閲覧
DALL-E画像生成
Code Interpreter×
Action×

※料金はChatGPT Plusが20ドル、Teamが25ドル。Copilot Proが3200円

 大きな違いとして、Copilot GPT Builderには、Python実行環境となる「Code Interpreter」や外部APIを呼び出すための「Action」を利用できない。

 このため、例えば、知識として与えたExcelデータの分析についてチャットしたり、外部サービスやデータベースの情報を参照して回答したりすることができない。

ChatGPTのカスタムGPTでは、Code InterpreterやActionが使えるが、Copilot GPT Builderでは使えない

 Copilot GPT Builderでできるのは、回答の仕方やキャラクターなどの指定や、文書を知識ベースとしたRAGとなる。単純に機能を比較すると、実現できることは限られる印象だ。

▼MicrosoftによるCopilot GPT Builderの概要(英文)
Microsoft Copilot GPT Builder overview

CSVのデータをもとに回答するAIチャットアプリを作る

 具体的な使い方を見ていこう。Copilot GPTの作り方は、Copilotとチャットしながら作る方法と、自分でフォームの設定を入力して作成する方法の2通りがある。はじめて作るときは前者でもかまわないが、対話しながらだと時間がかかるので、慣れてきたら後者の方が効率的だ。以降も、後者の方法で行う。

 例として、CSVファイルの内容について回答するチャットアプリを作成する。ChatGPTで作成したダミーデータで、ゲームのモンスターデータベースをイメージしたものとなる。CSVの中身やCopilot GPTのパラメーターを書き換えれば、QAデータやカタログデータなどをもとにした回答に応用できる。

モンスターの名前や種類、ステータスなどが記載されたCSVファイルをもとに回答してもらう

STEP 1:Copilot GPT Builderを表示する

 Copilot Proの画面にアクセスし、右上に表示されている[自分のCopilot GPT]欄から[全てのCopilot GPTを表示]をクリックし、[+(新しいCopilot GPTを作成)]をクリックする。

自分のCopilot GPTから作成する

STEP 2:各パラメーターを設定する

 Copilot Proを構成する各パラメーターを設定する。それぞれ、以下のように設定する。

各パラメーターを設定する

名前

 任意の名前を設定する。今回は、「モンスターデータベース」とした。

説明

 Copilot GPTの用途や目的などを記入する。利用者が何に使うGPTなのかを紹介する文章となるが、どうやらGPTの振る舞いを決定する重要な要素の1つでもあるようだ(詳細は後述)。ここでは「ユーザーが提供した「monster_data.csv」ファイルからモンスターの情報を検索し、モンスターデータベースからモンスターの名前、種類、ステータスなどを回答します」とした。

手順

 手順は、実際にCopilot GPTが実行する作業内容を記述しておく。一般的なLLMの「Instructions(指示)」に相当するが、[作成する]から自動生成された結果などを参考にすると、Copilot GPTでは箇条書きで記述するスタイルが使われるのが一般的なようだ。

 今回は、次のような[手順]を記述した。

- モンスターの種類やステータスなどの情報を提供します。

- 提供された「monster_data.csv」ファイルからの情報のみを使用します。それ以外の情報は提供しません。

- ユーザーが求める情報がファイルにない場合は、それを明確に伝えます。

- COMMANDが指定されたときは、例外として、COMMANDの条件を優先してください。

# COMMAND

@web:ユーザーが提供した知識を検索せず、Web閲覧機能を使ってbing検索を実行し、回答してください。

 工夫としては、[COMMAND]という項目を記入している点だ。ChatGPTのカスタムGPTでもよく使われるテクニックだが、「@」や「/」などでコマンドと指示となるプロンプトを記入しておくと、チャットの中でショートカットコマンド的に利用できる。

 今回は、アップロードした知識ではなく、ウェブ検索してほしい時の例外として「@web」というコマンドを登録した。このほか、「@help」として使い方を表示することなどもできる。

意図しない動作をすることもあるが、「@web」コマンドでウェブ検索も切り替えられるようにできる

知識

 Copilotが回答する際に参照する情報を登録する。Word文書やPDF、テキストファイル、ExcelファイルやCSV、PowerPointプレゼンテーション、log、html、pyなど、さまざまなファイルを登録できる。

 アップロードできるファイルの容量や数の上限などの情報が見つけられなかったが、制限はあるようだ。

 なお、これは重要なポイントだが、Copilot GPT BuilderのKnowledgeの説明に以下のような記載がある。文化庁でも検討されているが、第三者の著作物を登録する場合は注意が必要だ。RAGにおけるデータソースの著作権を侵害しないように注意する必要がある。

In keeping with Microsoft’s code of conduct, make sure you don’t use others’ intellectual property or violate copyright or trademark regulations with your Copilot GPT.

(日本語訳)
Microsoft の行動規範に従い、Copilot GPTで他者の知的財産を使用したり、著作権や商標の規制に違反したりしないようにしてください。

Create or edit a Copilot GPT with Microsoft Copilot GPT Builderより)

機能

 機能は、Copilot GPTが回答時に利用するものとなる。標準でBingを利用した検索機能として[Web閲覧]がオンになっている。与えた知識からのみ回答する場合は不要だが、今回は動作の確認も兼ねてオンにしておいた。

 一方、[DALL-Eイメージ生成]はCopilot GPTに画像を生成させたい場合にオンにする。ChatGPTのカスタムGPTなどでは、テキストアドベンチャーゲームを模したGPTでシーンに合わせた画像を生成するなどといった使い方がなされる。今回はオフにしておく。

STEP 3:テストする

 ひと通り完成したら、右上の[Copilot GPTのプレビュー]をクリックすることで、作成したCopilot GPTをテストできる。

 例えば、「ティラノサウルスのステータスを教えて」と質問すると、下図のようにCSVファイルからステータスが検索され、その内容が回答される。

CSVファイルの内容をもとに回答される

 ポイントとなるのは、「使用中: search knowledge uploaded by user for question answering」という表示だ。

 Copilotは、3つの知識を利用して回答する。ひとつはLLMとして学習済みの知識、もうひとつはウェブ閲覧(Bing検索)を利用した知識、もうひとつがCopilot GPT Builderで「知識」としてアップロードしたファイルだ。

 RAGを利用したQAチャットや社内規則チャットなどを作る場合、LLMの知識やウェブ上の知識ではなく、与えたファイルからのみ回答してほしい。

 例えば、先の例では「ティラノサウルス」という一般的な名称は、LLMの知識としても持っているし、ウェブ閲覧によって回答することもできるが、「使用中: search knowledge uploaded by user for question answering」が表示された場合は、指定したデータから回答していることを示している。

STEP 4:公開する

 動作が確認できたら、右上の[公開する]から完成版としてリリースする。[自分のみ]を選択すると自分しかアクセスできないが、[リンクを知っている全てのユーザー]を選択すると、冒頭で紹介した本稿のサンプルのように外部に公開できる(冒頭で触れたようにセキュリティには要注意)。

自分のみで利用することもできるが、リンクを知っている人に対して公開することもできる

ドキュメントがほしい

 というわけで、リリースされたCopilot GPTを試してみたが、現状は詳細なドキュメントが見当たらないため、手探りで作らなければならないのが難点だ。ChatGPTのカスタムGPTと同じようなものだと考えると、Copilotならではのクセに苦労することになる。

 とはいえ、作成したCopilot GPTを誰もが使えるように公開できるのは、なかなか面白い。ChatGPTのカスタムGPTがなかなか広まらないのは、利用のハードルが高いからだが、こちらはもっと広く使われる可能性がある。

 公開する場合は、セキュリティや「知識」に登録するデータの著作権に注意する必要があるが、いろいろな可能性がある機能なので、試してみることをおすすめする。

清水 理史

製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 11」ほか多数の著書がある。