清水理史の「イニシャルB」
Microsoft WhiteboardにCopilotが搭載、意外なほど「人間らしい」AIの振る舞いに驚く!
2024年4月1日 06:00
法人向けのCopilot for Microsoft 365が、Microsoft Whiteboardでも利用可能になった。
アイデアの提案、整理、要約についてCopilotがサポートしてくれるおかげで、1人でもCopilot相手にブレストができる。まるでメンバーとしてCopilotが参加してくれているイメージで、一緒に考えながら、アイデアを発展させたり、次のステップへの道筋を見つけ出したりできる印象だ。
Whiteboardで何をCopilotに手伝ってもらうの?
以前から、イベントやビデオでの紹介などで予告されていたが、日本語版のMicrosoft WhiteboardでもCopilotが利用可能になった。Whiteboardは、その名のとおり複数のユーザーで共有できるオンラインホワイトボードサービスで、メモを書いた付箋を貼り付けたり、図形を描いたりできる機能があり、ブレストなどに利用できる。
利用できる環境は法人向けのCopilot for Microsoft 365で、現時点では無料版のCopilotや個人向けの有料版Copilot Proなどでは確認できていない。法人向けのCopilot for Microsoft 365では、3月上旬からFormsでもCopilotが利用可能になったが、Copilotが使えるアプリやサービスが着々と広がっている印象だ。
WhiteboardのCopilotで利用できる機能は、大きく3つある。
- アイデアの提案
- やりたいことを自由に入力することで、アイデアをいくつか提案してくれる
- アイデアの整理
- ボード上のアイデアをカテゴリごとに分類してくれる。カテゴリは自動的に生成してくれる
- アイデアの要約
- ボード上のアイデアを文章としてまとめてくれる。議事録的に全体をまとめてくれる
いずれの機能も、現状は「付箋」をベースにしたものとなっており、手書きやテキストボックスなどでは利用できない。会議やグループワークなどで、アイデアを付箋で貼り付けながら議論を進めるシーンでの利用が想定されている。
Copilotが「もう1人の参加者」のように感じられる
WhiteboardのCopilotが面白いのは、他のCopilot製品よりも、AIがより人間的に感じられるところだ。
例えば、Whiteboardでは、付箋の左上にアイデアを出した人のユーザー名が表示されるのだが、Copilotが提出した付箋には「Copilot」という名前が表示される。ボード上の付箋を眺めながら、「なるほどね」と思うアイデアを発見し、その付箋の名前が「Copilot」となっていると、「Copilotさん、やるねえ」と感心してしまう。
まるで、オンラインで「Copilot」さんがブレストに参加しているような感覚になってくる。
要するに、Copilotが裏方として人間をサポートしているというよりは、同じ参加者としてブレストに参加しているという感覚が強いのだ。
アイデア出しなどは、通常の対話型チャットのCopilotでもできるので、仕組み的には従来のAIと何ら変わらないのだが、チャットという独立したインターフェースで閉じているのではなく、人間とAIがボードや付箋といった同じインターフェースを共有している点が、そういった感覚を強めているのだと考えられる。
余談だが、Microsoft Researchのプロジェクトで「AutoGen」というマルチエージェントモデルが存在する(「Microsoft『AutoGen』で、生成AIの新時代“マルチエージェント”を試す」参照)。AIに複数の役割を設定し、合議しながら課題を解決するモデルだ。
同様に、「リスクを恐れない積極派のCopilotさん」「反対派のCopilotさん」「慎重派のCopilotさん」などのように、Whiteboardの参加者として複数のCopilotを設定できるようになれば、筆者のように1人で仕事をしている環境でも、白熱したブレストができるのではないかと期待してしまう(もしかすると、人間の参加は必須ではなくなるかもしれないが……)。
Whiteboardでのブレストの流れを体験してみよう
具体的に、どのようにWhiteboardでCopilotとの1人ブレストができるのかを見てみよう。今回は、例として、小売業の業務改善について検討してみる。
STEP 1:依頼内容を伝えてアイデアを出してもらう
Whiteboardで新しいボードを作成し、Copilotボタンから[候補表示]を選択すると、画面中央に[Cplilotでコンテンツを提案する]というプロンプト入力画面が表示されるので、「売店の売り上げを向上するための施策」と、依頼したいことを入力する。
すると、下の画面のように、さまざまな視点から改善案を6つほどリストアップしてくれた。よくあるアイデアではあるが、会議の場でパッと出せと言われると、少し時間がかかる。これを瞬間的にリストアップできるのは素晴らしい。
STEP 2:アイデアを増やす
ここから、さらにアイデアを増やしたい。そのためには、作成時に指示してもいいのだが、現在の付箋を選択して[候補表示]を選択すればいい。これで、同じようなアイデアがさらに追加される。
STEP 3:出したアイデアを分類する
たくさんのアイデアが表示されたら、カテゴリごとに分類してみる。全体を選択して、[分類]を選択すると、Copilotがカテゴリを自動的に判断して付箋の色を変えながら再配置してくれる。
今回は、シンプルなアイデア出しだが、ビジネスシーンでは、もっと多くの、方向性の違うアイデアが出て、混乱してくることもあるだろう。このようにして出し合ったものを整理することで、優先順位や担当などを検討しやすくなる。
STEP 4:面白そうなアイデアを掘り下げる
分類できたら、その中から面白そうなものをさらに掘り下げる。例えば[販売促進キャンペーン]というざっくりとした内容のアイデアを選択して、[候補表示]を実行すると、このテーマでさらにアイデアが出される。
このように、アイデアを整理し、次々に掘り下げていくことで、視野を広げたり、特定のアイデアを深堀りしたりできる。
基本的にビジネス向けのアプリなので、特定のアイデアを掘り下げようとしたときに表示される候補は、「プロモーションの開催」「お得な情報の提供」のような、アイデアを実現するための具体的な行動になりやすい。創作活動にも使えるだろうがが、最適化されているのは、あくまでもビジネスシーンと言えそうだ。
STEP 5:全体を要約する
最後に、全体を要約してみる。Copilotボタンから[要約]を選択すると、現在、ボード上にある付箋をすべてまとめて文章化してくれる。
このまとめは、Loopコンポ―ネットとなっており、Teamsなどの他のアプリに貼り付けられるだけでなく、アプリケーション間での変更がリアルタイムに更新される。
例えば、コンポ―ネントをTeamsに貼り付け、Teams上で内容を修正すると、その内容がWhiteboard側にも反映される。話題がずれるが、Loopの原本が必ず1つというこのしくみも、かなり便利だ。
話を戻そう。要約は、会議の内容をもとに次のアクションを考えたり、あとから会議の内容を振り返ったりするのに便利だ。ただし、この機能も基本的にはビジネス向けなので、要約もビジネス視点となり、創作をテーマにしたアイデア出しには適さない文章となってしまう。もう少し、いろいろな用途が考慮されてもよさそうに思える。
空気が重くなるのを回避してテンポよくブレストが進む
このように、WhiteboardのCopilotを利用すると、アイデア出しがかなり楽になる。
画面上で、アイデアを整理したり、特定のアイデアを選んで掘り下げたりと、「位置」や「階層」をビジュアル的に捉えながら、直感的にCopilotを活用できるのが斬新だ。チャットの「プロンプト」だけがAIのすべてではないことを実感できる。
通常の会議の場合、「ここをもっと深掘りしたいね」と言っても、しばらく全員が「うーん」と考え、全員が他の人の状態をさぐりながら意見を言うという、ゆっくりとした時間が流れることがある。
しかし、Copilotが会議に参加してくれていると、必ず最初に発言してくれるので、続いて人間が発言しやすくなるし、次のステップへと話題がどんどん進む。会議のテンポが格段によくなるイメージだ。
何をしても「ビジネス向け」になってしまうのは課題か
このように、なかなか便利なWhiteboardのCopilotだが、使ってみるといろいろな欠点も見えてくる。
まず、前述したように、ビジネス向けなので、情報の整理の仕方がビジネスフレームワーク的なものになりがちだったり、要約が議事録的だったりする。試しに、コンテンツ作りのアイデア出しもしてみたが、創造的なアイデアとは言い難いアイデアが出てくる場合もある。それが反対に想像力を刺激するアイデアとして面白さを演出しているようにも見えるが、用途によっては適してないケースもありそうだ。
このほか、新しく生成したアイデアを既存のカテゴリに分類できない(カテゴリごと作り直される)とか、カテゴリが4つから増えないとか、アイデアを親子関係(階層的)に関連付けできないとか、細かな不満もある。
とはいえ、筆者のようなボッチでも「Copilotさん」と一緒にブレストできるのは面白い。ざっくりから初めて、アイデアを展開したり、深めたりすることも簡単にできる。
チャット版のCopilotは、アイデア出しと言っても、最初のプロンプト入力でかなり迷うので、ゼロからイチの壁を越えるのにコツがいる。しかし、Whiteboardなら、前述したように、Copilotが参加者と同じ土俵で作業している感覚があり、クリックするだけで常に先陣を切ってくれるので、非常に使いやすい。明確な目的が絞り込まれてないアイデア出しなどでは、WhiteboardのCopilotのスタイルが有効な印象だ。
大規模言語モデルは、賢さや速さなどが話題になることが多いが、やはり実用を考えると、アプリにどう実装するか、自然に扱えるようにするにはどうすべきかを考慮することが、非常に重要だと実感させられる。機会があれば、ぜひ体験してほしい機能だ。