第95回:050番号を複数の電話機で利用する
「ドットフォンパーソナル」で疑似ダイヤルイン環境の構築に挑戦



 OCNが提供する「ドットフォンパーソナル」を利用すると複数の050番号を手軽に取得できる。この番号をPCの専用ソフトウェアではなく、普通の電話機で利用することはできないだろうか? ダイヤルインやiナンバーのような複数050番号の利用に挑戦してみた。





ISDNへの未練

 筆者宅には現在、アナログ回線が3本引き込まれている。仕事の都合でADSLのテストをしなければならないという特殊な事情がある上、自宅用、仕事用、FAX用という3つの電話番号を使い分けたかったからだ。もちろん、ADSLの登場前は、ISDNのiナンバーによって3つの番号を利用していたのだが、ADSLを利用する以上、ISDNという選択肢はないため、仕方なくアナログに頼っている。

 よって、今でもADSLのテストをしなくていいなら、すぐにでもISDNへと移行したいほどだ。音声通話の面を考えれば、ISDNはアナログとは比較にならないほど使い勝手が良い。前述したように、iナンバーによって複数電話番号を使い分けられるうえ、通話も2回線分が同時に行なうことができるのは、やはり大きな魅力だ。

 このような悩みは、何も筆者だけに限った話ではないだろう。小さなオフィスや個人事業主の間には、依然としてISDNの需要が存在する。中には、ISDNの電話としての魅力を捨てることができずに、ADSLへの移行を迷っているという人もいるほどだ。決して数は多くはないのかもしれないが、ISDNへの未練を捨てきれないユーザーも中には存在するのだ。

 しかし、ISDNに頼らずとも、複数電話番号の使い分けができるかもしれないという、かすかな光が見えてきた。それが、前回、本コラムで紹介したOCNの新サービス「ドットフォンパーソナル」だ。サービス自体の詳細は前回を参照していただきたいが、このサービスを利用すると複数の050番号を手軽に取得できる。もちろん、追加で割り当てられる050番号は、専用のソフトウェアでの利用を前提としたものなのだが、仕組みとしては通常のIP電話と同じSIPを利用するものでしかない。つまり、理論上は、VoIPに対応した機器に登録して利用することでも不可能ではないのだ。





ヤマハ

 050複数番号の利用に当たって、最大の障害になるのは、どのVoIP機器を使うかだ。VoIPアダプタやVoIP機能内蔵ルータなど、現在一般的に利用されているVoIP機器は、基本的に1つの050番号を利用することしか想定されていない。よって、実際に複数の050番号を利用するには、複数のSIPサーバーに接続することができること、複数のアナログポートを装備していること、そして各アナログポートで鳴り分け(着信識別)の設定ができることの3つの条件が要求される。

 このようなVoIP機器となると、事実上、ほとんど選択肢はないのだが、まったく無いというわけでもない。たとえば、ヤマハの「RT56v」や「RT57i」などがそうだ。これらは、アナログ回線やISDNで電話を利用したり、独自のインターネット電話機能を利用するために、2~3のアナログポートが装備されており、複数のSIPサーバーの登録なども可能となっている。つまり、これらをOCNのドットフォンやドットフォンパーソナルで利用できれば、複数050番号の使い分けも可能というわけだ。

 というわけで、実際にテストしてみることにした。利用したのはヤマハのRT57iだ。理想としては、アナログ回線に接続でき、アナログポートも3ポート装備するRT56vを使うべきなのだろうが、機器の調達の関係で、今回はRT57iを利用した。VoIP機能に関しては、RT57iでもRT56vでも同じだが、RT57iの場合、接続できる電話回線がISDNのみとなるので、今回は一般電話回線は利用せず、純粋にIP電話が使えるかどうかだけをテストした。

 ヤマハのルータは、設定画面に多少のクセがあるのだが、設定自体はさほど難しくなかった。まずは、プロバイダーにOCNのIDなどを登録し、インターネットに接続できる状態にしておく。

 続いて、設定画面からメニューをたどり、「IP電話サーバの設定」という項目を表示し、IP電話サーバー1としてドットフォンのSIPサーバー、IP電話サーバー2としてドットフォンパーソナルのSIPサーバーの両方を登録した。ちなみに、プロバイダーが提供するIP電話サービスの場合、自動設定が採用されていることがあり、SIPサーバーやID、パスワードの情報がユーザーに提供されない場合もあるが、OCNの場合は、これらの情報が加入時にきちんと書面で送られてくるので、これを参照しながらの設定が可能だ。

 唯一の注意点は、ドットフォンパーソナルのSIPサーバー情報が提供されない点だが、これはドットフォンの情報から類推可能だった。OCNの場合、SIPサーバー名は「voip-ca3359.ocn.ne.jp」のような形式となる。「caXXXX」の部分は、割り当てられた050番号の4~7桁目になるので、ドットフォンパーソナルの050番号の4~7桁目を利用して、RT57iのサーバーアドレスとして登録しておけばいい。主な設定項目の詳細については、以下の画面の通りだ。


RT57iでのドットフォンパーソナル設定例。複数050番号を利用する場合は、ドットフォンとドットフォンパーソナルのそれぞれを個別のIP電話サーバーとして登録しておく

 最後に、RT57iの「VoIP基本設定」画面で、TELポートごとの設定を行なう。基本的には、TELポート1にドットフォンの番号を、TELポート2にドットフォンパーソナルの番号を割り当てればいい。

 なお、TELポートの設定で注意したいのは「着信許可」の部分だ。標準では「すべて許可」に設定されているため、どちらの番号に電話がかかってきた場合でも両方のTELポートに接続した電話機が鳴る。番号ごとに着信するポートを区別したいときは、「電話ユーザ名が一致した場合に許可する」に設定しておく必要があるだろう。場合によっては、メインの番号に電話がかかってきたときは、TEL1、TEL2両方の電話機が鳴り、サブの番号に電話がかかってきたときはTEL2の電話機だけ鳴らすということも可能だ。


TELポートの設定例。今回はTEL1ポートにドットフォンの番号を、TEL2ポートにドットフォンパーソナルで追加した番号を登録した。着信許可の設定により鳴り分けが可能だ




異なる050番号の鳴り分け、同時通話が可能に

 さて、以上のような設定をした後、実際に電話を使ってみたが、予想外にあっさりとIP電話が使えてしまった。各TELポートに接続した電話機ともに、それぞれ発信/着信が可能であった上、TEL1とTEL2の両方の電話で同時に別々の番号に電話をかけた場合も問題なく通話ができた。まさにISDNのような使い勝手の良さだ。


今回のテスト環境。RT57iの2つのアナログポートに電話機を接続し、それぞれに個別の050番号を割り当て。かかってきた電話を番号によって鳴り分けることが可能で、同時通話も可能だった

 一部のIP電話サービスなどでは、市販のVoIPルータを利用すると1分程度で通話が切れるという現象も見られるようだが、今回、テストした限りでは1時間以上、通話を続けても切断されるようなことはなかった。

 ただし、電話をかけるときは注意が必要だ。RT57iではプレフィックス番号によって、発信に利用するIP電話サーバー(SIPサーバー)を指定する仕様になっている。今回の設定例では、IP電話サーバー1(ドットフォン)のプレフィックスを「直接」、IP電話サーバー2(ドットフォンパーソナル)のプレフィックスを「1#」に設定している。このため、相手の電話番号に何も付けず、直接ダイヤルすると、IP電話サーバー1が利用され、その番号が相手に通知される。IP電話サーバー2の番号を相手に通知したいときは、必ず電話番号の前に「1#」を付けてダイヤルする必要がある。


電話をかけるときは、プリフィックス番号に注意。プリフィックス番号によって、利用するIP電話サーバーを指定しないと、意図しない電話番号が相手に通知されてしまう

 なお、このように050番号を市販のルータで使うという方法は、プロバイダーはもちろんのこと、ルータ機器メーカーのサポート外となる点には注意が必要だ。





一気に複数050番号の時代に突入か?

 このように、OCNのドットフォンパーソナルとヤマハ RT57i(RT56v)の組み合わせによって、複数の050番号を使い分けることが可能なことがわかった。これは、IP電話の大きな進歩と言っていいだろう。IP電話が単なる安い電話から脱却するには、これまでの電話と同等以上の機能を備える必要がある。少なくとも、今回のドットフォンパーソナルの登場で、ISDNに手が届くレベルまでになったと言ってもいいだろう。これを機会に、IP電話は一気に複数050番号の時代へと突入する可能性もある。

 たたし、これがすぐにISDNの代わりになるかというと、まだ少し物足りない部分もある。たとえば、050番号に加えて、当然、一般電話回線も利用したいところだが、これは今回利用したRT57iでは不可能で、RT56vでしかできない。しかし、RT56vは処理能力が決して高いとは言えず、FTTHなどの環境で利用するには物足りない面がある。また、RT57i、RT56vともに価格が3万円以上もするため、手軽に購入するというわけにもいかない。

 要するに、IP電話サービス自体は進化しつつあるものの、それにVoIP機器側の進化が追いついていないというところだろう。可能ならば、事業者がレンタルするモデムやアダプタが複数050番号に対応してくれるのがベストだが、将来的に対応する可能性はあっても、現在の市場のニーズを考えると、すぐにというわけにもいかなそうだ。であれば、市販のVoIP製品に頼らざるを得ない。

 ISDNの時代には、3つのアナログポートを備えたり、キャッチホンを擬似的に実現したり、ワイヤレス子機の利用で離れた場所でも電話(アナログポート)を利用できる製品など、それこそ非常に多機能なTAやルータが数多く存在した。これと同様に、IP電話をもっと便利に使うための製品があっても良さそうなものだ。今後、そのような機器が登場してくれることを強く望みたいところだ。


関連情報

2004/3/30 11:11


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。