第151回:無線LANの設定が3ステップで完了
コレガの新11aルータ「CG-WLBARAG2」で採用された「JumpStart」とは



 コレガから、無線LANの設定を手軽に行なえる最新の無線LANルータ「CG-WBARAG2」が発売された。Atheros Communicationsが開発した「JumpStart」と呼ばれる仕組みが採用されており、わずか数ステップの操作でセキュリティを含めた無線LANの設定が可能だ。実際にJumpStartの実力を検証してみよう。





新たに登場した無線LAN簡単設定技術「JumpStart」

 バッファローの「AOSS」、NECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」など、セキュリティ設定を含めた無線LANの設定が手軽に行なえる製品が増えてきている。このような流れの中、もう1つ新たな選択肢が登場してきた。無線LANチップベンダーとして知られるAtheros Communicationsが開発した「JumpStart」だ。

 前述したAOSS、らくらく無線スタートともに、安全性と設定の煩雑さという相反する要素をうまく両立させた画期的な技術で、ボタンを押すだけでクライアントとアクセスポイント間で自動的に設定情報がやり取りされ、セキュリティを含めた接続設定が簡単にできるようになっている。今回の「JumpStart」も、細かな仕様の違いはあるが、基本的にできることはこれらの技術と同じだ。





今までのソリューションの中ではもっとも手軽

JumpStartを搭載した国際標準11a対応のルータ「CG-WLBARAG2」「CG-WLCB54AG2」

 今回、このJumpStartが採用された初の製品であるコレガの「CG-WLBARAG2」(国際標準11a対応、IEEE802.11a/b/g同時通信対応無線LANルータ)を実際に試用してみたが、設定に関しては、これまでのどのソリューションよりも手軽だと感じた。

 具体的な設定方法を紹介すると、まず、クライアント側に無線LANカードを装着し(ドライバのインストールも含む)、JumpStartを起動する。そして新規に設定するのか、既存のネットワークに接続するのかを選択する。

 新規を選んで設定を進めると、自動的に近くのアクセスポイントが検索され、本体のLEDが一定パターンで点滅して設定モードへと移行する。この状態でクライアントの追加時などに利用するパスワードを登録すれば、アクセスポイントとクライアントの間で鍵の交換などが行なわれ、設定が完了するといった具合だ。


JumpStartの新規設定手順。起動後、まずは設定方法を選択するアクセスポイントが自動的に発見される。設定モードへの移行をLEDの点滅パターンで確認

設定用のパスワードを入力。クライアントを追加するときに利用する設定完了。セキュリティ設定を含めた接続が自動的に完了する

JumpStart設定前(左05)と設定後(右06)の状態。設定前は「Jumpstart-P1-xxx」というフェイズ1のSSIDが設定されており、暗号化も未設定(運用には十分に注意)。設定後は「Jumpstart-P2-xxx」とフェイズ2のSSIDに変更される。11a、11b/gともに同じSSIDとなる

 言葉で説明すると少々複雑に思えるが、実際にユーザーが行なわなければならない操作は、1)JumpStartの起動、2)設定方法の選択、3)ランプの確認、4)パスワードの設定の4ステップだけだ。JumpStartで設定済みの既存のネットワークに接続するのであれば、1)JumpStartの起動、2)設定方法の選択、3))パスワードの設定だけと、さらに簡単になる。

 JumpStartがこれまでの無線LAN設定技術と決定的に異なるのは、アクセスポイント側の操作が不要だという点だ。バッファローのAOSSにしろ、NECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」にしろ、設定にはアクセスポイント側のボタンを押すという操作が必要だった。しかし、JumpStartの場合はこの操作は必要ない。新規設定時にアクセスポイント側のLEDを確認する必要はあるが、基本的な操作はすべてクライアントから行なうことができる。設定の度にアクセスポイントとクライアントの間を行き来しなくて済むのは確かに楽だ。

 もちろん、ボタンを押すという物理的な動作が必要な方が安全性は高い。外部から不正にアクセスポイントに接続しようしている第三者がいたとしても、本体側のボタンを押さない限り、接続することはできない。これに対して、JumpStartでは新規設定時に登録したパスワードによって不正な接続を排除できるが、パスワードが推測されると第三者が接続することも不可能ではない。かといって、複雑なパスワードを設定すると、クライアントを追加するときに面倒だし、パスワードを忘れてしまうとすべての設定を初期化せざるをえない。単純な設定手順だけで比較すればJumpStartの方が有利だが、それだけで優劣を判断できないのも事実だろう。





高い互換性を実現

 さて、この手の設定技術の場合、もっとも注意しなければならないのは、やはり互換性だ。前述したように、JumpStartを利用すれば手軽に無線LANを設定できるが、対応機器以外で利用できないのであれば意味がない。無線LAN内蔵ノートPCが増えてきていることなどを考えると、他社製品からでも、この技術が利用できるかが注目されるところだ。

 実際にテストしてみたところ、コレガのクライアント(CG-WLCB54AG2)以外でも、JumpStartを利用することは可能だった。手元にあった4種類の製品でテストしてみたが、このうち3製品でJumpStartによる設定ができることを確認できた。

筆者宅でのJumpStart動作結果
メーカー名製品名動作
IntelPro/Wireless 2915ABG
NECWL54AG
バッファローWLI-CB-G54S
ASUS802.11b/g(Marvelチップ)×
手元にあった4製品のうち3製品でJumpStartの利用が可能だった。ドライバのバージョンなどによっても利用できる場合とできない場合がある

 ただし、注意点がいくつかある。まず、現状、JumpStartはコレガ「CG-WLCB54AG2」のドライバと一緒にインストールされる仕様となっているため、単体でのインストールができない。将来的に同社のホームページでユーティリティを単体提供予定とのことなので、現状はドライバを利用しないとしても、すべてインストールするしかないだろう。

 そして、こちらが肝心なのだが、JumpStartによる設定を行なう場合は、無線LANの制御を必ずWindows XPのWireless Zero Configに行なわせる必要がある点だ。

 筆者宅でテストした限りでは、Centrino機でIntel製のユーティリティでの制御が有効になっている場合、JumpStartでの設定に失敗してしまった。また、メーカー製のPCには独自の無線LANユーティリティソフトが付属しているが、このようなユーティリティで制御されている場合も同様に設定に失敗した(あくまで制御をどちらで行なっているかの問題。ユーティリティが起動していること自体は問題ない)。ユーティリティソフト側で、Windows XPのWireless Zero Configで制御するように設定可能な場合は、事前に設定を変更してからJumpStartを利用する必要があるだろう。


富士通のノートPCに搭載されているユーティリティ「Mr.WLANer」(左)とIntel製のユーティリティ(右)。これらのユーティリティを利用している場合は、事前に制御をWireless Zero Configに設定しておかないとJumpStartの設定に失敗する

 なお、これは余談だが、筆者宅ではWireless Zero Configで制御した場合でも、JumpStartでの設定に失敗するケースが非常に多く見られた。この原因を調査したところ、筆者宅でほかのアクセスポイントが稼働している場合に、設定に失敗することがわかった。筆者のような特殊な環境でもない限り、自宅に複数台のアクセスポイントがあるケースはあまり考えられないが、環境によっては、近所のアクセスポイントの影響を受けて設定に失敗することも考えられる。どうしても設定がうまくできないときは、アクセスポイントの設置場所を近所からの影響を受けない別の場所に変えてみるというのも1つの手だろう。





未対応製品が混在する場合は利用不可

 このように、JumpStartは、手軽に利用できる上、互換性も高い技術と言える。チップベンダーが開発した技術であることを考えると、今後、採用する製品が増えることも予想できる。

 ただし、ひとつ気になる点がある。これはJumpStart自体というより、その実装方法の問題とも言えるのだが、コレガの「CG-WLBARAG2」では、JumpStart以外での設定があまり考慮されていない。

 具体的に言うと、JumpStartで設定後、設定された暗号キーを設定画面などから参照できないのだ。このため、困ったことにJumpStartに対応していない製品からは一切接続できないことになる。たとえば、Ethernet接続タイプの子機、無線LANネットワークプレーヤーなどがこれに相当する。


JumpStartによって設定された暗号キーは設定画面からは確認できない。このため、JumpStart未対応の製品を接続する場合は、JumpStartを無効にして利用する必要がある

 確かにセキュリティを考えると暗号キーを参照できないようにするもの1つの方法ではあるのだが、この心配をするのはあまり意味がないと言える。なぜなら、第三者が不正に設定画面から暗号キーを参照できるということは、すでに無線LANへの接続に成功しているか、有線でネットワークに接続しているかのどちらかしか考えられないからだ。無線LANの接続に成功しているのであれば、もはや暗号キーを参照する必要はない。また、有線で接続されるということ自体あまり考えにくいのだが、万が一、そうだとすれば無線LANうんぬん以前に企業や家庭のセキュリティ自体を考え直した方がいい。設定画面にパスワードを設定することでも十分に保護できるだろう。

 要するに、それであればJumpStart未対応機器からの接続もできるように、設定画面から暗号キーを参照できるようにして欲しいということだ。実際、バッファローの「AOSS」やNECアクセステクニカの「らくらく無線スタート」などでは、自動的(もしくは出荷時)に設定された暗号キーをきちんと設定画面から確認できる(非常に長いキーなので実際に手動設定するのは面倒ではあるが)。実際問題として、このように暗号キーを確認できないと困るシーンも多々ある。

 また、無線LAN市場全体として考えた場合、異なる設定技術が乱立するというのも困った話だ。JumpStartも含めてさまざまな技術が登場してきたが、設定技術を統一するような方向で進んでいかないと、ユーザーは混乱するだけかもしれない。


関連情報

2005/6/14 10:52


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。