第244回:HD-PLCとの混在による影響は?
UPA規格に対応したロジテックのPLCアダプタ「PlugLink」
ロジテックから、市場で先行する「HD-PLC」とは異なる高速PLC規格「UPA」に対応したPLCアダプタ「PlugLink」が登場した。HD-PLCと比較してその実力はどうなのだろうか? また、混在した場合でも通信できるのだろうか? 実際の環境でテストを実施した。
●UPA規格のPLCアダプタが登場
高速PLCの規格は、大きく分類して3つ存在する。1つは2006年末に松下電器産業から登場した「BL-PA100」をはじめ、アイ・オー・データ機器、バッファローの製品で採用されている「HD-PLC」。1つは秋葉原などで製品を見かける「HomePlug」、そして今回ロジテックから登場した「PlugLink」やネットギアの「HDXB101」で採用されている「UPA」だ。
ロジテックの「PlugLink LPL-TX」。UPA規格に対応した高速PLAアダプタ |
HomePlugに関しては現状入手可能な製品が輸入品であることもあり、国内に拠点を持つメーカーが発売する高速PLC製品の規格としては、このUPAがHD-PLCに次ぐ2番目の規格ということになる。これまでHD-PLCの独占だった高速PLC市場に新規格が参入することで、今後の競争が激しくなりそうだ。
規格が異なると言っても、認可の関係から利用する周波数はHD-PLCと基本的には同じだ。ただし、HD-PLCは(正確には松下のBL-PA100は)本来利用可能な2~30MHzのうち上下2MHz分をノイズ対策で利用していないため、実質的に利用している周波数対が4~28MHzとなっている。これに対して、今回のロジテックのPlugLinkではカタログを見る限り2~30MHzをフルに利用している。
このため、内部的な変調速度もHD-PLCの190Mbpsに対して、PlugLinkは200Mbpsとなっている。もちろんLAN側のインターフェイスが100BASE-TXとなっているため、実効速度には大きな影響はないが、この点が規格としての違いだ。このほか、暗号化方式にも違いがあり、HD-PLCでAESが採用されているのに対して、UPAのPlugLinkでは3DESを採用している。
なお、アマチュア無線の周波数帯などへの対策については公表されていないため不明だが、PLCアダプタとして認可されている以上、おそらく該当周波数へのノッチなどの対策が行なわれていると考えられる。
●サイズはルータサイズでやや大きめ
今回試用した製品はPLCアダプタの「LPL-TX」が2台セットになったセットモデルの「LPL-TX/S」(店頭予想価格24,800円)だ。このほか、単体モデルの「LPL-TX」(店頭予想価格14,800円)も存在するが、PLCの場合アダプタが2台ないと通信できないので、通常はセットモデルの購入となるだろう。
外観は松下のBL-PA100などと比べるとかなり大きく、そのデザインもルータに近い印象がある。部屋の片隅にポンと置かれていたら、無線LANのAPかルータかと見間違えてしまうことだろう。ただし、若干幅が狭いので家具などの隙間に入れ込んでおくというような設置方法には適しているかもしれない(熱の問題は考慮する必要があるが……)。
正面、側面、背面。前面のLEDとリセットボタンが側面にある程度で、非常にシンプルな構成 |
松下電器産業のBL-PA100との比較。幅は若干狭いが、高さも奥行きもかなり大きい |
スイッチ類はほとんど見あたらず、側面にリセットボタンが用意されるのみ。前面に「POWER」「LAN」「PLC」の3つのランプがあり、背面に100BASE-TXのLANポート、直付けの電源ケーブルが備え付けられている。PLC製品らしくかなりシンプルな構成だ。
●つなぐだけですぐに使える
前述したように今回試用した製品はセットモデルであり、いわゆる親機と子機の関係が出荷時に設定済みとなっている。このため、使い方は至ってシンプルで、親機と子機それぞれのLPL-TXにPCや通信機器をLANケーブルでつなぎ、電源コンセントに接続するだけ。リンクアップするまでにかかる時間がHD-PLCに比べて若干長い印象があるが、15~20秒もすれば接続が完了し、LANポートに接続したPCで通信が可能となる。
興味深いのは、機器側で親機や子機を明確に設定する必要が無い点だ。松下のBL-PA100の場合、本体のスイッチでマスター(親機)、またはターミナル(子機)の設定をしておく必要があったが、LPL-TXではこういった設定が内部的に自動的に行なわれる。
また、本体には設定ボタンなどが用意されておらず、3台目以降のアダプタを追加する場合は手動設定となる。PCからブラウザを利用してLPL-TXの設定画面を表示し、ここにすべてのアダプタに共通のネットワークIDと暗号キーを入力するという仕様だ。
LPL-TXの設定画面。通信速度などの状況を確認できるほか、3台目以降のアダプタを接続する際にネットワークIDや暗号キーを設定するのに利用する |
ボタンを押すだけで設定できるHD-PLC製品と比べると一見面倒に思われるが、HD-PLCでは設定時に近くのコンセントに接続する必要があるものの、大抵の場合、近くのコンセントに空きがなく、結局、タップなどを用意して設定することが多い。これに対して、LPL-TXではあらかじめ設定が必要なものの、設定さえすればあとはつなぐだけで済むというメリットがある。どちらも一長一短といったところだろう。
なお、今回は2台しかアダプタを用意できなかったためにテストできなかったが、LPL-TXには「スマートルーティング」と呼ばれるリピータ機能が搭載されており、通信を中継することが可能となっている。たとえば、1階と2階、3階の各フロアを接続する場合、1階と3階のアダプタで直接通信できない場合でも、2階のアダプタが通信を中継するといった使い方が可能となっている(実際には配線上でもっとも近い場所にあるアダプタが中継する)。環境に依存しそうだが、この機能の効果がどこまであるのかも改めて検証してみたい。
●パフォーマンスは良好
気になるパフォーマンスだが、木造3階建ての筆者宅でテストした結果を以下に示す。比較のために松下電器産業のBL-PA100も最新のファームウェアに書き換えた上でテストを行なった。なお、BL-PA100の結果は、前回テストした結果と異なる部分もあるが、おそらく家庭内の家電でいくつか買い換えた製品があることや、その稼働状況が当時と同一ではない点が影響していると考えられる。
サーバーにはアイ・オー・データ機器 HDL-GT1.0を、クライアントにはCore Duo T2400、RAM1.5GB、HDD160GB、Windows Vista搭載ノートを使用。コマンドプロンプトからFTPを起動し、3回計測した平均を記載。アダプタはすべてコンセント直付けで、家庭内の家電製品の電源も可能な限りオフにした状態で計測 |
結果を見ると、ほとんどのコンセントで若干ながらLPL-TXの方が高速な結果となった。前述したように、LPL-TXではBL-PA100が利用していない上下2MHzずつの帯域を利用しているが、このあたりの差が現われていると推測できる。なお、同一電源タップに接続して計測した値も以下のグラフのように若干ながらLPL-TXの方が高い結果となっている。
製品名 | GET値 | PUT値 |
LPL-TX | 50.7Mbps | 54.5Mbps |
BL-PA100 | 46.5Mbps | 48.1Mbps |
LPL-TXとBL-PA100の測定比較 |
なお、パフォーマンステストに関しては、あくまでも筆者宅での状況であることを十分に考慮して欲しい。PLCの速度は、戸建て住宅と集合住宅で大きく異なるだけでなく、屋内の配線状況、さらにはコンセントに接続されている機器などでも影響を受ける。たとえば筆者宅の場合でも、食器洗浄機などの家電を動作させた状態でテストすると、どのコンセントでも20Mbpsを割り込むことがある。本テストは良好な条件下での参考値であることを考慮していただきたい。
●混在環境ではUPAが有利?
続いて、UPAのLPL-TXとHD-PLCのBL-PA100が混在した場合をテストしてみた。同一タップに、あらかじめ片方の規格のPLCを接続して通信できる状態にしておき、その上で、もう片方の規格の親機、子機を順番に接続した場合の影響、さらに両規格で同時に通信した場合の影響を調べてみた。
同一タップにLPL-TXとBL-PA100を混在させ、異なる規格の混在をテスト |
まず、BL-PA100を先に接続し、後からLPL-TX100を接続した場合の結果が以下の図だ。BL-PA100のみの場合44.8Mbpsでの通信が可能だったが、LPL-TXの親機を接続すると速度は2.1Mbpsにまで低下し、親機子機の両方の接続(UPAのリンクアップ)で900kbps前後に、さらに通信によって300kbpsにまで落ち込んでしまった(タイミングによっては数十kbpsにまで低下することも確認できた)。
BL-PA100を先に接続し、後からLPL-TX100を接続 |
この状況でも、後から接続したLPL-TXは問題なく通信できていた。なお、FTPの速度は7~45Mbpsと幅があるが、これは通信のタイミングによって速度が異なるという意味だ。最初の通信、もしくは通信し始めの速度は7Mbps前後と遅いのだが、連続して何度も転送すると、そのたびに速度が次第に上がっていく。最終的にはLPL-TXがBL-PA100の帯域をほとんど奪い取るような感じで45Mbpsとフルスピードでの通信が可能となり、この瞬間、BL-PA100は数十kbps、もしくは通信不可能な状態にまで落ち込んでしまった。
念のため、同一のテストを今度は逆の順番で行なってみたのが以下の図だが、面白いことにLPL-TXは後からBL-PA100が接続されても、その影響をほとんど受けない。さすがにBL-PA100がリンクアップ(PLCランプは点灯するものの、実際には通信不可だったのでリンクアップしていない可能性もある)すると、速度が35Mbps前後にまで低下したが、これも先ほどのテストと同様に続けて何度も転送を繰り返しているうちに、45Mbpsのフルスピードまで回復した。一方、BL-PA100は、LPL-TXが起動している限り、結局通信することはできなかった。
逆にLPL-TX100を接続してからBL-PA100を接続 |
この結果を見る限り、LPL-TXとBL-PA100が混在した場合はどうやらLPL-TXが常に勝つようだ。もちろん、この結果は特定製品でのテストに過ぎないため、この結果がイコールHD-PLCとUPAという規格自体の優劣になるとは限らない。また、別の方法や環境でテストすれば異なる結果が得られる可能性も否定できない。
特に今回のテストは同一タップというもっとも強い干渉が発生するケースでのテストであり、実際の環境、たとえば集合住宅のある部屋でHD-PLC、別の部屋でUPAというような場合は干渉の影響は少ないだろう。このため、今回のテストのようにHD-PLCがまったく通信不能になってしまうようなケースは考えにくいと思われる。
実際、同一フロアの同一系統のコンセントを4つ利用し、LPL-TXでGyaOの映像を再生しながら、BL-PA100でFTPによるテストを実行したのが以下の図だ。この場合、さすがにBL-PA100は通信不能になることはなかった。しかし、LPL-TXの影響は免れず、単独では34Mbpsで通信できていたのが、LPL-TXの通信が行なわれると4Mbpsにまで低下してしまった。影響をどこまで受けるかは配線上の距離に依存すると考えられるため、別系統であればさらに影響は少ないかもしれないが、HD-PLC側は何らかの影響を受けることにはなりそうだ。
同一フロアの同一系統のコンセントを4つ利用し、LPL-TXでGyaOの映像を再生しながらBL-PA100でFTPによるテストを実行 |
●異なるPLC規格の共存を考慮した調整が不可欠
以上、UPA規格を採用したロジテックのPlugLink LPL-TXを利用しつつ、HD-PLCとの混在について検証したが、やはりPLC規格の混在はあまり好ましい状況ではないということがわかった。以前、パイオニアの「music tap」のときにも触れたが、異なる規格が混在すると、環境によってはまともにPLCによる通信を行なうことができないと考えるべきだろう。
HD-PLC同士のように、同一規格同士の場合であれば、速度は低下するものの、当然のことながら通信をうまく調整することができる。複数の規格の製品が実際に市場で購入きるようになったのだから、こういった調整が異なる規格同士でもうまくできるような仕組みはもはや不可欠だろう。政府でも業界団体でもかまわないが、早々に混在環境を想定した仕組み作りを期待したい。
関連情報
2007/5/15 11:06
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