第352回:内蔵WiMAXはやっぱり便利

ソニー「VAIO type P WiMAX搭載モデル」


 WiMAXを内蔵したノートPCがようやく入手可能となった。今回は、各メーカーから登場したWiMAX内蔵ノートPCの中から、ソニーのモバイルノートPC「VAIO type P」を実際に使用してみた。

モバイルがより身軽に

 PC本体に通信アダプタ、それにACアダプタ。PCを持ち歩く際、最低限の荷物はこの3つだと思われるが、このうち、通信アダプタに関しては、これからは持ち歩く必要がなくなりそうだ。

 7月1日からUQコミュニケーションズが「UQ WiMAX」の有料サービスを開始したが、これに合わせて、各メーカーからWiMAXモジュールを内蔵したPCが登場しはじめた。


ソニー「VAIO type P」のWiMAX搭載モデル。VAIOオーナーメードでプラス1万円のオプションで選択可能で、最小構成価格は7万9800円

 これまでWiMAXを利用するためには、USB接続などの外付けアダプタを購入する必要があった。1万数千円と良心的な価格である上、必要に応じていろいろなPCに接続できるため利便性は高いのだが、常に携帯しなければならないのが欠点だ。わずかとは言え外出時の荷物が増えることになるし、うっかり忘れて通信ができないと困ることも少なくなかった。

 しかし、このような状況も、WiMAX内蔵PCの登場によってようやく解消されることになる。もちろん、現状のサービスエリアを考えると、まだまだWiMAXのみで安心というわけにはいかないのも確かだが、かつて出張や外出時にPCと一緒に持ち歩いていたモデムカードや無線LANアダプタなどが、PCに内蔵されて、すっかり姿を見かけなくなったことを考えると、WiMAXに関してもそれと同じような状況になるのも時間の問題だろう。

 残りのACアダプタに関しては当分持ち歩くことになりそうだが、荷物が1つ減ったことで、これからはより身軽にモバイルを楽しめることになりそうだ。

プラス1万円の価値は十分にある

WiMAX搭載モデルのデバイスマネージャ。Intel WiMAX/WiFi Link 5150が搭載され、IEEE 802.11a/b/g/n(1×2 MIMO)とWiMAXの両方が利用可能となっている

 というわけで、今回取り上げるのは「VAIO type P」のWiMAX搭載モデルだ。VAIO type P自体は以前から発売されており、すでにレポートも多数掲載されているのでそちらを参照して欲しいが、このVAIO type Pのカスタマイズオプションとして7月27日からWiMAX搭載モデルの受注が開始された。

 VAIO type Pには、NTTドコモのFOMA HIGH-SPEEDを搭載したワイヤレスWANモデルも存在するが、これに加えてWiMAXも選択可能になったことになる。

 WiMAX搭載モデルでは、標準モデルで搭載されるAtheros製の無線LANモジュール「AR928X」が、Intelの「WiMAX/WiFi Link 5150」へと変更になる。「WiMAX/WiFi Link 5150」は、IEEE 802.11a/b/g/nに準拠した無線LANとWiMAXの両方に対応しているため、WiMAXが利用できるというわけだ。

 なお、WiMAXオプションはWindows XPモデルでは選択できないほか、FOMAハイスピード対応ワイヤレスWANとの同時選択ができないなど、モデルや組み合わせによって選択できない場合もあるので注意が必要だ。

 価格はプラス1万円となっており、最小構成時の価格は7万9800円だ。外付けのWiMAXアダプタを購入するよりも若干安い計算になる。詳しくは後述するが、内蔵の使い勝手の良さを考慮しても、お得感の高いオプションと言えそうだ。

ワンクリックで無線LANとWiMAXを切り替え

 それでは、実際の使い勝手を見ていこう。なお、今回試用したモデルは、評価用のマシンとなっているため、あらかじめUQコミュニケーションズの「UQ WiMAX」に加入済みの状態となっていた。通常であれば、市販のWiMAXアダプタを購入した場合と同様に、初回利用時にWiMAXポータルから任意の事業者を選んで契約する必要がある(UQ WiMAXの場合は既存契約への機器追加も可能)。このあたりは、「ついにスタートWiMAX! 市販アダプタ+MVNOでサインアップしてみた!」でレポートしているので参考にして欲しい。

 実際のWiMAXの使い方は非常にシンプルだ。VAIO type Pには、Intel製のWiMAX接続ユーティリティとソニー製の通信管理ユーティリティ「VAIO Smart Network」の2種類のアプリケーションが登録されている。


WiMAX用のユーティリティは2種類搭載されている。1つはIntel製の接続ユーティリティ。WiMAXへの接続を行うもう1つはVAIOオリジナルの通信管理ユーティリティ「VAIO Smart Network」。利用する機器の切り替えやプロファイル管理ができる

 役割としては、前者のIntel製ユーティリティがWiMAXの接続と切断を、後者の「VAIO Smart Network」が通信デバイスの切り替えを担当する格好となっている。デスクトップ上部に表示されている「VAIO Smart Network」のアイコンの中から「WiMAX」を選択すると、通信デバイスが無線LANからWiMAXへと切り替わり、自動的にIntel製の接続ユーティリティで登録した接続事業者(今回はUQ WiMAX)に接続されることになる。

 WiMAXの場合、機器単位での認証になるため、ユーザー認証などの必要はなく、基本的に接続が自動的に進められる。この点は、外付けのWiMAXアダプタを利用する場合も同じだ。

 唯一違うのは、外付けのWiMAXアダプタを利用する場合、WiMAXに接続するためにはWiMAXアダプタをPCに装着する必要があるが、内蔵モデルの場合はこれが必要ないという点だ。ユーザーはユーティリティ上で無線LANからWiMAXへと切り替えるだけで、WiMAXによる通信が利用できるようになる。


実際の接続はデスクトップ上のWiMAXアイコン(1番左)をクリックするだけ。これで自動的に無線LANからWiMAXへと切り替わり、事業者へと接続されるもちろん前面のワイヤレススイッチでもオンオフ操作が可能

 もちろん、VAIO Smart Networkには無線LANの接続先も登録できる。このため、家では無線LAN、外出先ではWiMAXと、利用場所に応じて画面上のアイコンをワンクリックするだけで、いつでも通信を使い分けることができるわけだ。

 ちなみに、切断された場合にどうなるのかというと、基本的にそのまま再接続が試行される。例えば、普段は家で無線LANで接続しておき、外出時には自動的にWiMAXで繋がる、などというのが理想的かもしれないが、残念ながらそうはいかない。家で無線LANで利用している場合、そのまま外出先でPCを起動しても、やはり無線LANでの接続が試行され、接続に失敗すればそのままとなる。

 逆も同じで、外出先でWiMAXで接続していた場合、移動してWiMAXが繋がらなくなったからといっても自動的に無線LANに切り替わることはなく、WiMAXでの再接続が試みられる。繋ぎたければ、前述したようにVAIO Smart NetworkでWiMAXと無線LANを切り替える必要があるというわけだ。

 無線LANとWiMAXの同時利用ができないのが主な理由だが、無線LANとWiMAXのどちらの接続を利用するかは、やはりユーザーが自ら判断した方がシンプルでわかりやすいとも言えるだろう。

内蔵ならではのメリット・デメリット

 WiMAXを内蔵しているメリットは、移動時の荷物が少なくなること、接続がシンプルでわかりやすいことがあるが、このほかに消費電力を節約できるというメリットもある。

 以下は、VAIO type PのWiMAX搭載モデルと、USB接続型のWiMAXアダプタ「UD01NA」のバッテリー動作時間を比較した際のグラフだ。一定時間間隔でキーストロークとWebアクセスを実行するアプリケーションを動作させ、バッテリー切れで自動的に休止状態になるまでの時間を計測した。


外付けWiMAXアダプタとのバッテリー駆動時間を比較したグラフ。ごくわずかだが、WiMAX搭載モデルのバッテリー駆動時間が長い

 結果は、ごくわずかだがWiMAX搭載モデルで通信した方がバッテリー駆動時間が長くなっている。今回のテストではWebへのアクセスが数十秒に1回という頻度だっため、通信機器の違いがあまり出ていない可能性もあるが、モバイルという利用環境を考慮すると、やはり内蔵のメリットはあると言えそうだ。

 一方、通信速度に関してはメリットはあまり活きてこない。本来であれば、感度の良い場所にアンテナを配置できる関係で、外付けのWiMAXアダプタよりも良い通信環境を実現できるはずだが、結果としてはそのメリットは見えてこない。

 以下はWiMAX搭載モデルとUD01NAの速度の違いだ。筆者宅のみでの計測となるため、参考程度に考えて欲しいが、ほとんど差がないという結果になった。


speed.rbbtoday.comを利用した速度比較。筆者宅で計測した範囲では、速度面での差はほとんどない

 今回は評価期間が限られていた関係で筆者宅でのみのテストとなったことから、あまりはっきりとした結論は言えないが、VAIO type Pの場合、本体サイズがかなりコンパクトなことから、アンテナの設定場所も限られている可能性が高い。このため、速度という点では内蔵のアドバンテージがあまり出ていない可能性がある。

 また、試用したVAIO type Pに限らず、現状のIntel製のWiMAX対応モジュール「WiMAX/WiFi Link 5150/5350」のWiMAX通信速度は下りが最大13Mbps、上りが最大3Mbpsとなっている。これに対して、USB接続のWiMAXアダプタは下り最大40Mbps、上り最大10Mbpsとなっている。このため、テストによっては外付けアダプタの方が高速な結果が得られることもあるようだが、筆者宅の場合、もともとWiMAXの通信環境があまり良くないため、この差もあまり見られなかったことになる。

 内蔵と外付けの比較という意味では、速度よりも、その手軽さと、バッテリー動作時間の長さを素直に評価すべきだろう。

無線LANの利用に注意

無線LANの設定がかなり制限されていた。5GHz帯を利用する場合などは事前にチェックしておきたい

 このようにWiMAXに関しては、内蔵のおかげでさまざまなメリットが存在するVAIO type Pだが、無線LANに関してはいくつかの注意点がある。

 まず、搭載されるIntel WiMAX/WiFi Link 5150だが、この製品はWiMAX時だけでなく、無線LAN時も1×2のMIMOとなっており、受信には2本のアンテナを利用するものの、送信には1本しか利用しない。このため、受信速度は最大300Mbpsとなるが、送信は最大150Mbpsとなる。

 また、さまざまな評価者の手を渡ってきた評価用のマシンであることが原因と考えられるが、無線LANの設定が標準で「IEEE 802.11b/g」(2.4GHzモード。要するに5GHz無効)となっており、5GHz帯を利用したアクセスポイントに接続できなかった。同様に、2.4GHzのIEEE 802.11nのチャンネル幅も標準では20MHz固定になっており、スループットの増加(パケットバースト)という設定項目も無効になっていた。

 このため、標準では2.4GHz帯のアクセスポイントにのみ接続でき、接続できたとしても最大で130Mbps前後でしかリンクしなかった。上り速度は仕様通りとなるため、実用上は問題ないが、今回の標準設定では5GHzのアクセスポイントに接続できないため、無線LAN設定に関しては利用時にセルフチェックする必要がありそうだ。

 以上、VAIO type PのWiMAX搭載モデルを試用してきたが、やはりWiMAXモジュールを内蔵する手軽さは大きな魅力だ。これまでは出かける前に、PCに加えて、通信アダプタ、ACアダプタと、忘れ物がないかチェックする必要があったが、そんなことは一切考える必要なく、サッと本体を持って出かけても、WiMAXを搭載しているおかげで、外出先での利用に苦労しない。

 WiMAXサービス自体は、まだまだサービスエリアの問題はあるものの、都内であれば、比較的場所を選ばずWiMAXが使えるようになりつつあるので、これからPCを購入するなら、迷うことなく内蔵WiMAXをオプションで選びたいところだ。


関連情報

2009/7/28 11:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。