第384回:アナログ放送終了が近づき注目度アップ
NTTぷららに聞く、「ひかりTV」の現在と今後


 光ファイバー回線を利用した、NTTぷららのフレッツ向け映像配信サービス「ひかりTV」。2011年7月のアナログ放送終了に向けて、関心が高まりつつある地上デジタル放送のIP再送信サービスを中心に、サービスの現状と今後の展開について担当者に話を伺った。

「ひかりTV」のおさらい


「ひかりTV」サービス画面

 アンテナを設置するか、CATVに加入するか、それとも光ファイバー回線を使ったサービスに加入するべきか……、アナログ放送から地上デジタル放送にどのような方法で移行するか迷っている人も少なくないだろう。

 こうした移行手段の中で、今回はNTTぷららが提供する「ひかりTV」を取り上げてみたい。放送波ではなく、IPによって地上デジタル放送を配信する方法に加え、今後どのような方向で発展していくのかを、NTTぷららのネットワーク管理部の中川伸朗担当部長、石丸敦彦マネージャー、土井猛氏の3氏に話を伺った。

 その前に、「ひかりTV」のサービス内容に関して簡単におさらいしていこう。「ひかりTV」は、NTT東日本およびNTT西日本の光ファイバー接続サービス「フレッツ光」を利用した映像配信サービスだ。「フレッツ光」の契約者であれば、ISPを問わず利用が可能で、2009年12月時点の契約数は83万世帯になっている。

 「ひかりTV」では、専門チャンネルを視聴できる「テレビサービス」、ビデオ・オン・デマンド(VOD)形式で個別に作品を視聴できる「ビデオサービス」に加え、「カラオケサービス」を用意。契約プランによって各サービスを組み合わせて利用できる。例えば、「テレビサービス」と約5000本のビデオが見放題になる「お値うちプラン」は、月額3675円で提供されている。

 さらに、NTT東日本およびNTT西日本が提供するNGNサービス「フレッツ 光ネクスト」を利用している場合には、地上デジタル放送のIP(Internet Protocol)再送信サービスも追加料金の必要なく利用できる。提供エリアは限られるが、すでに提供を開始している東京や大阪、福岡などに加えて、2010年4月には栃木と群馬、茨城の3エリアを合わせた計17エリアでIP再送信による地上デジタル放送の視聴が可能になる。

 光ファイバー回線を利用して、地上デジタル放送を受信できるサービスとしては、NTT東西およびオプティキャストが提供する「フレッツ・テレビ」もある。技術的には、「フレッツ・テレビ」はインターネット用の通信で用いる波長とは別に、テレビ放送で使用する波長を利用しており、これらを多重化してRF信号をそのまま送信する一方、「ひかりTV」は放送信号をIPへと変換してIPv6のマルチキャストで伝送している点が異なる。

 サービス内容に関しても違いはあるが、いずれにしても光ファイバー回線を使って、さまざまな映像サービスを楽しめるのが「ひかりTV」というわけだ。


(左から)今回話を伺ったNTTぷららの土井氏、中川氏、石丸氏

映像配信サービスが与える通信パフォーマンスへの影響

 それでは、「ひかりTV」のサービスについて具体的に話を聞いていこう。まず、気になるのは通信パフォーマンスについてだ。インターネット接続に利用している回線を、テレビやビデオ、さらに地上デジタル放送のIP再送信で利用するとなれば、通信パフォーマンスの低下を懸念する人も少なくないはずだ。

 この点に関して土井氏は「確かに、映像配信サービスなどで数Mbps~十数Mbpsの帯域を利用すれば、全体からその分を引いた帯域がインターネットで利用できる帯域となります」と説明する。ハイビジョン映像など、高品質な映像を複数の機器で視聴するといった場合には、インターネットで利用できる帯域は小さくなり得るというわけだ。

 ただし、実質的にはあまり心配する必要はないと土井氏は続ける。「インターネットを利用するアプリケーションの多くは、どちらかというと単純な帯域よりも、ラウンドトリップ(RTT:応答速度)が実質的なパフォーマンスの決め手となるのが一般的」だという。このため、「『ひかりTV』と同時に、「Youtubeなどのインターネット上の映像配信サービスのように、下りで一定の帯域を必要とするアプリケーションを利用するケースでも、実質的な影響がないことを検証で確認しています」とのことだ。

 それでは逆に、PCで大量に帯域を利用している場合、例えば大きなファイルをダウンロードしているケースなどでは「ひかりTV」のサービスが影響を受けることはないのだろうか。

 土井氏は一般論であると前置きした上で、「PCで利用する多くの通信はTCPですが、『ひかりTV』の通信はUDPとなっています。通常、UDPはTCPの通信と比べて通信処理も軽く、ネットワーク機器の実装においては、UDPが優先的に処理されることが多いようです。従って、PC側でTCPの通信による多くの帯域を利用していたとしても、一般的には映像配信サービスの通信が優先されるので、あまり影響を心配する必要はないと思われます」とのことだ。

 「ひかりTV」は、オプション契約によって2台のひかりTV対応チューナーを利用することが可能だが、そういったユーザーも含め、PCとの同時利用によって映像配信サービスに不具合が発生したという例は現状ないとのことなので、映像品質に関して心配する必要はなさそうだ。

無線LANでの利用はロゴを目安に

 続いて、家庭内で利用する場合のネットワーク構成について聞いてみた。特に最近では間取りの関係などで、無線LANを利用して対応チューナーやテレビを接続したいというニーズが高まってきている。こういった使い方でも映像の品質を確保できるのだろうか。

 土井氏は「ユーザーニーズがある点はじゅうぶん把握していますが、無線LANの性能は環境にも左右されるので、NTTぷららとして動作を保証することは難しい状況である」という。確かに、無線LANがいくら高性能になったとは言え、通信距離や遮蔽物の状況、さらには周辺での無線チャネルへの干渉などが考えられる以上、サービスを提供する事業者として、家庭内の状況まで把握することは事実上困難だ。

 それでは、無線LAN経由で「ひかりTV」をまったく利用できないかというと、そういうわけではない。土井氏によれば、各機器との動作確認検証は第三者機関によって2月10日から市販の無線LANルーターやPLCアダプターなどが「ひかりTV」の利用に適しているかを検証する動作確認試験が開始されているとのことだ。

 この試験に合格した機器には、「ひかりTV 動作確認済み」とのロゴマークが付与される。ロゴの有無を目安に製品を選べば、利用環境などの外部要因は別にして、動作の心配はしなくて済むことになりそうだ。


動作確認済みロゴの一例

 現時点では、動作確認済みロゴが付与された製品は市場に登場していないが、今後増えていることが予想される。また、NTTぷららでも「ひかりTV」のホームページなどで紹介を検討する予定なので、実際に無線LANで接続したい場合は、ロゴ付きの機器が登場するのを少し待つと良さそうだ。

 なお、本コラムで以前に取り上げたNECアクセステクニカの無線LANルーター「Aterm WR8700N」および無線LANコンバーター「Aterm WL300NE-AG」などのように、IPv6マルチキャストでの動作に配慮した機能を搭載した製品も存在する。現状の製品でも、こうした機能や無線LANチャネルの混雑を避けて高速な通信ができるIEEE 802.11a/n(5GHz)対応の製品などを用意すれば、無線LAN環境で「ひかりTV」を利用することも現実的と言えるだろう。

どうやって地デジを再送信しているのか

 続いて、地上デジタル放送のIP再送信に関して話を聞いた。担当の石丸氏によると、「各エリアに設置した配信センターにおいて、アンテナを使って放送波を受信し、それを配信用のフォーマットにコンバートして、SNI(Application Service-Network Interface)経由で当該エリアのフレッツ 光ネクスト網に配信しています」という。

 こうした配信センターは都道府県単位に設置されている。一方、「テレビサービス(多チャンネル放送)」や「ビデオサービス(VOD)」では、NTT東西のフレッツ 光ネクスト網のSNI、もしくはフレッツ網のPOI(Point Of Interface)へと配信されるようになっている。


「ひかりTV」サービスの配信形態

 サービスが地域単位で展開されている点からもわかることだが、NTT東西別、さらには通常のフレッツ網とNGN網への配信といったように、一見しただけでは少々わかりにくい複雑な構成となっている。もちろん、こうした点はユーザーとして一切意識する必要はないのだが、システムを構築したり、運用管理する側としての苦労は少なくなさそうだ。

 また、映像のコンバート処理などに関しては、大きな設備を持つ集約されたセンターなどで行っているイメージも持つかもしれない。しかし、中川氏によれば「(各エリアで受信した放送の処理は)すべて各エリア内で完結している」とのことで、各エリアに設置された配信センターの機器で個別に処理しているという。

 セキュリティの都合上、写真撮影はできなかったものの、実際に配信を行っているセンターを見学させてもらったところ、ラックに収められた機器でアンテナ受信した映像を同軸ケーブルを使って映像を受信し、それをリアルタイムにコンバートして配信しているところを実際に確認することができた。

 前述したように各センターで配信できるほど、さほど大きくない機器を利用して配信がなされていたが、よく考えると放送をリアルタイムにコンバートし、さほど遅延なく配信するというのは実は非常に高度な技術が用いられていると言える。

 土井氏によれば、「国内でIP再送信を手がけている事例がなかったため、システムの構築や調整には非常に苦労した」という。IP再送信にあたっては、サービス品質を放送と同等レベルに確保するために、高度な技術もかなり投入されているようだ。

 また、フレッツ 光ネクストではなく、Bフレッツを利用したサービスでも、地上デジタル放送を視聴したい要望もあるかもしれない。この点に関して中川氏に尋ねると「地上デジタル放送の場合、各エリアに限定した配信が必要ですが、Bフレッツ網ではこのような機能は提供されていません。また、フレッツ 光ネクストで提供されている高品質な映像を遅延なく伝送するためのトラフィックの優先制御機能も利用しています。このような理由から、フレッツ 光ネクストでのみIP再送信を提供しています」とのことで、BフレッツでのIP再送信の利用は難しそうだ。

 ただ、サービス提供エリアや料金など、「フレッツ 光ネクスト」への移行に関する敷居も下がってきているので、「ひかりTV」でIP再送信を利用したい場合には、素直にサービス移行を検討した方が良いかもしれない。

対応機器の拡大や機能アップも検討中

 続いて、対応機器の広がりに関しても話を聞いてみた。「ひかりTV」では現状、対応チューナー「Picture Mate 700」をレンタルする以外に、東芝の液晶テレビ「REGZA」やシャープの「AQUOS」の一部機種、もしくは東芝やNECの「ひかりTV」に対応した一部のPCなどを利用する方法がある。それでは今後、対応機器が増える可能性はあるのだろうか。

 土井氏によると、「『ひかりTV』のサービス自体は、主にソフトウェアのみで対応できるようになっているため、ハードウェアが限定されることはあまりない」という。実際、前述の液晶テレビやPCで利用可能な点からわかるように、ハードウェアやOSなどの動作環境はそれほど限定されないようだ。

 個人的にはスマートフォンなどのモバイル機器でも、家庭内の視聴環境として利用できるようことも期待したいところだ。これに関して、土井氏は「著作権などの問題は別として、技術面だけをお伝えするならば、映像のデコードや通信の暗号方式などに対応できれば技術的には不可能ではありません」と説明してくれた。もちろん、実際に対応させるにはバッテリーの持ちなども重要になる点に加え、小さな液晶画面で映画の字幕などをどこまで認識できるかといった問題もあるので現実的には難しそうではあるが、さらに幅広い機器への対応も今後は期待できそうだ。


Picture Mate 700テレビやPCでも対応製品が登場している(写真は東芝「REGZA『ZX9000シリーズ』」)

 一方、ひかりTV対応チューナの機能面では、1月15日から「Picture Mate 700」でUSB接続のHDDを利用した録画機能がサポートされるようになった。これにより、地上デジタル放送やテレビサービス(一部除く)をHDDに録画して、あとから視聴できるようになった。

 この仕組みに関しては、詳細は明らかにできないそうだが、接続するHDDに関しては市販品でも利用が可能であり、しっかりと暗号化されているため、番組を保存したHDDをPCに接続し直しても、番組を視聴することはできないようになっている。

 このほか、個人的には録画番組をBlu-rayなどに書き出せるようになることも期待したいところだ。中川氏は、今後の可能性について「一般的なデジタル家電で利用できる機能に関しては、『ひかりTV』でもできるだけ追従すべく技術検討・技術開発を進めていきます」と説明するように、今回のUSB接続型HDDへの録画対応のように将来的には実現できる部分も出てくるかもしれない。

BSデジタル放送のIP再送信に向けた検討も進行中

 最後に、今後の展開について話を伺った。まず、利用者の期待も大きいと思われるBSデジタル放送のIP再送信に関してだが、これはサービス提供に向けて現在検討中だという。

 中川氏によれば「技術面での大きな課題は概ねクリアできているものと考えている」とのことなので、あとは事務的な処理の問題を残すのみと予想される。BSデジタル放送が視聴できるようになれば、放送サービスに関しては、CATVや「フレッツ・テレビ」などに見劣りすることもなくなるため、競合サービスとの争いも今後が本番といったところになりそうだ。

 また、将来的な展開という意味では、“IPTVならでは”のサービスにも期待して欲しいという。具体的な計画は検討中とのことであるが、IP技術を駆使することで、他社にはできないサービス展開の可能性があるという意味でもある。将来的に「IPTVだから」という理由でユーザーが「ひかりTV」を積極的に選ぶような時代が来ることになるかもしれない。

 個人的には、家庭内の複数台の機器での視聴がもう少し柔軟かつリーズナブルになることも期待したい。現時点において、テレビやHDDレコーダーなどに加え、プレイステーション 3でもテレビ番組の視聴・録画が可能になる点を考えると、これらの機器でも地上デジタル放送のIP再送信が受信できるようになるのが理想だ。ただ、現実にはさまざまな課題もあると思われるので、せめて複数チューナーの設置をよりリーズナブルな価格で提供して欲しいところだ。

 以上、NTTぷららへのインタビューとともに「ひかりTV」の現状と今後について考えてきた。「ひかりTV」の特徴は、専門チャンネルやVOD、カラオケ、地上デジタル放送まで、1つのサービスで映像サービスのフルラインナップが楽しめる点であり、今後の発展もまだまだ期待できそうだ。これから地上デジタル放送の視聴対策や専門チャンネル、VODサービスの利用を考えている人は、選択肢の1つとして検討してみると良いだろう。


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2010/3/23 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。