Dropbox対応新アプリでクラウドもNASもシームレスに ウェスタンデジタル「My Book Live」


 ウェスタンデジタルから販売されている個人向けNAS(パーソナルクラウドストレージ)「My Book Live」が飛躍的に使いやすくなった。Dropbox対応の新アプリ「WD 2go 2.0」でクラウドとローカルのNASをシームレスに扱える世界を体験してみた。

アプリの完成度がモノを言う時代に

 サービス全盛の今の世の中で、ハードウェアにいかに魅力を持たせるか?

 ウェスタンデジタルの個人向けNAS(同社のカテゴライズではパーソナルクラウドストレージ)「My Book Live」は、その具体的な方策を見事に実践している製品と言って良さそうだ。

ウェスタンデジタルの個人向けNAS「My Book Live」

 Dropboxに、SkyDrive、Google Driveと、大容量でリーズナブルなクラウドストレージが登場しつつある中、これらクラウドストレージと容量や速度などで全面的に対抗するのではなく、クラウドとうまく融合を図るためのアプリを新たにリリースすることで、クラウドとローカルのどちらも便利に、シームレスに扱える環境を実現することに成功している。

 詳しくは後述するが、iOSやAndroid向けのアプリである「WD 2go(バージョン2.0)」を利用することで、自宅に設置したMy Book Liveだけでなく、Dropboxのデータにも同アプリからアクセスすることが可能なうえ、My Book Live上のデータをDropbox上へとコピーしたり、My Book LiveやDropbox上のデータをアプリで自動的に同期し、オフラインでも使えるようにしている。

新たにリリースされたアプリ「WD 2go」を利用することで、NASのデータだけでなくDropboxにもアクセス可能になった

 現状、Dropboxなどのクラウドストレージを利用しているユーザーにとって、容量や速度などの面でサービスに不満があったとしても、慣れた環境とすでに蓄積されたデータを捨ててまで他のサービスに移行することには大きな抵抗があるはずだ。

 しかしながら、WD 2goでは、本家アプリと完全に同等とは言えないものの、今までのDropboxの使い勝手や資産を活かしつつ、さらに自宅に設置したMy Book Liveの資産をプラスできるというメリットがある。

 よく考えてみれば、複数あるSNSを管理するための統合アプリがあるくらいなのだから、ストレージ系のアプリでも、複数のクラウドストレージやローカルストレージを統合的に利用できても良いはずだ。それを見事に実現しているのがMy Book LiveのWD 2goというわけだ。

 今後、アプリがどこまで進化するのかわからないが、どうせならSkyDrive、Google Drive、WebDAV、FTPと、ありとあらゆるサービスをサポートしてくれることを期待したいところだ。

 もはやハードウェアの魅力は、ハードそのものだけでは図ることができない。このように、外部のサービスをうまく取り込み、使いやすいアプリを提供することが求められるというわけだ。


NASとしてもあなどれない実力

 それでは実際の製品を見ていこう。今回、取り上げるのウェスタンデジタルのMy Book Liveと呼ばれるNAS製品だ。同社ではパーソナルクラウドストレージとカテゴライズしており、単純なデータの保存先としてだけでなく、保存したデータをさまざまなデバイス、さまざまな場所から利用できるようになることを想定した製品となっている。

 サイズは幅50×奥行き139×高さ167mmとなっており、「Book」と名付けられている通り、ちょっと厚めの辞書のようなサイズとなっている。

正面側面背面

 容量は1/2/3TBの3モデルがラインナップするが、今回利用した製品は1TBのモデルとなる。店頭で1万円強で販売されているが、在庫が少なくなりつつあるようで、主力は2TB(実売19,000円前後)となりつつある。

 なお、どのモデルもHDDの搭載台数は1台となっており、RAIDには対応しない。データの信頼性が気になるかもしれないが、このあたりは「セーブポイント」と呼ばれるバックアップ機能(詳しくは後述)によってうまくカバーされている。

 インターフェイスは、背面にACアダプタのポートと10BASE-T/100BASE-TX/1000BASE-T対応のLANポートが1つ用意されるのみと非常にシンプルで、前面も動作状況を示す小さなLEDが1つあるのみとなっている。

 正直、作りはさほど凝ったものではないが、静音性は非常に高く、動作中の音は非常に静かだ。データを読み書きすると、コリコリというHDDのアクセス音がかすかに聞こえるが、ファンの音はごくわずかで、部屋の中で常時稼働させていてもほとんど気にならない。この点は高く評価したいポイントだ。

 気になるパフォーマンスも普及価格帯のNASのわりに優秀だ。以下は有線LANで接続したThinkPad X201sからCrystarl Disk Mark3.0.1cを実行した結果だが、シーケンシャルリードで50MB/sをマークしている。計測方法の違いにより、カタログスペックの100MB/sを実現することはできなかったが、この速度なら映像のストリーミングや複数ユーザーでの利用にも不満が出ることはないレベルだ。

 それにしても、一般的に低価格のNASは、パフォーマンス、機能、拡張性、音のいずれかが犠牲になることが多く、特にパフォーマンスと音に我慢を強いられるケースが少なくないのだが、このMy Book Liveに関しては、拡張性以外、あまり大きな欠点が見当たらない。

 位置づけとしては入門者モデルであることに違いはないのだが、NASを使い込んでいる人でも納得して使うことができるバランスの良い製品と言えそうだ。


使いやすさへの配慮も万全

 使いやすさという点でも感心させられる点が多い。海外製品らしく、同梱されるガイドは英語で、簡単なイラストしか記載されていないが、実際に使ってみると、これで十分なのだ。

 背面にLANケーブルを接続し、ACアダプタを接続すると自動的に電源がオンになる。この状態でネットワーク上のPCに、付属のCDをセットし、ウィザードに従っていけば、ネットワーク上のMy Book Liveを発見し、ネットワークドライブとしてマウントすることができる。

 また、QuickViewと呼ばれる専用のアプリをインストールすることが可能で、通知領域からMy Book Liveの容量の利用状況や温度、ファームウェアの更新案内、ネットワークドライブのマップ、設定画面の表示、再起動などを実行できる。

付属のCD、もしくはMy Book Liveの共有フォルダからユーティリティを利用して簡単に設定できるユーティリティをインストールすることで、My Book Liveの状況を確認したり、設定画面を簡単に開くことが可能

 もちろん、手慣れたユーザーの場合、CDやアプリは不要だ。マイネットワークなどからネットワーク上のMy Book LiveのIPを探し当て、「\\192.168.x.x」と共有フォルダにアクセスすると、同梱のCDの内容が共有フォルダに納められている。これを起動して設定しても良いし、直接、ブラウザから設定画面にアクセスしてもかまわない。

 きちんと初心者向けの配慮をしつつも、慣れたユーザーが面倒なステップを省ける工夫をしているのは評価できるポイントだ。

 また、冒頭で触れたスマートフォン用のアプリ「WD 2go」を利用するためには、ルーターのポートフォワードの設定などが必要になるが、この手間もまったくかからない。リモートアクセスの設定は、標準で有効になっているうえ、UPnPによって自動的に設定されるため、ルーターが設定に失敗しさえしなければ、難しい設定に一切悩まされずに済む。

 実際に、スマートフォンからの接続やウェブアクセスを利用する際の設定も、セキュリティと手軽さのバランスをうまく取った方法が採用されている。たとえば、スマートフォンからの接続を許可する場合、設定画面から「モバイルアクセス」のページを表示し、「アクセスの追加」ボタンから接続を許可するユーザーを選択する。

 すると、クライアントを認証するための12桁のアクティベーションコード(有効期限8時間でワンタイム)が表示される。この値をスマートフォンにインストールした「WD 2go」に入力することで、接続設定と接続の許可が同時に実行される。

リモートアクセスは標準で有効に設定されている。UPnP対応ルーターを利用していれば、特に本体側で何も設定しなくてもリモートアクセスを利用可能リモートアクセスでは、アクティベーションコードを利用してクライアントの認証と設定を行なう。手軽さと安全性を兼ね備えた方法だ

 一般的なNASのリモートアクセス機能の場合、ユーザー認証のみでセキュリティが実現されることが多いが、このコードによって端末も認証されることになる。同様に一般的なPCからブラウザを利用してアクセスできるウェブアクセスでは、My Book Liveに登録したローカルユーザーの認証に加えて、メールによる確認と、メールアドレスによるログイン認証までも行なわれる。

 ここまで複雑にすると、通常は、設定に手間がかかるものだが、設定画面の丁寧なヘルプと次に何をすれば良いのかという指示が画面上に明確に表示されるため、まったく設定に迷わない。

 また、同一LAN上に接続したスマートフォンから設定を実行した場合、上記のアクティベーションコードの入力などは不要で、アプリから接続可能なMy Book Liveを選択するだけで、設定が自動的に行なわれる。

 おそらく開発者は、設定によほど気を遣ったのではないかと推察される。機能を利用するためのルートを複数想定し、それぞれにきちんと迷わない工夫を施している。正直、海外製の製品らしくない印象だ。NASは、どちらかというと使える人が使えれば良いというユーザー任せの印象がある製品が多いのだが、本製品でははじめてNASに触れるユーザーへの配慮がしっかりなされている。

PCからブラウザでウェブアクセスを実行。まずはメールアドレスで認証自宅のMy Book Liveが表示される
My Book Liveに登録されているローカルアカウントで2度目の認証をかけるMy Book Liveの共有フォルダにアクセス可能。リンクをクリックすると、ネットワークフォルダとしてマップされ、エクスプローラーからアクセスできるのも大きな特長のひとつ


これもあれも「できる」多機能アプリ

 肝心のスマートフォンとの連携機能だが、iOS、Androidともに最新の「WD 2go(2.0)」の日本語版がダウンロード可能になっており、いずれも無償で利用することができる。プラットフォームによって、操作などに若干の違いはあるものの、全体的にかなり多機能で使いやすい印象のアプリだ。

 できることは非常に多彩で、まず単純にファイルの参照が可能となっている。前述したようにアクティベーションコードで自宅のMy Book Liveを登録することで、共有フォルダにアクセス可能になり、保存されているファイルを開いたり、ダウンロードすることができる。

アクティベーションコードをアプリに入力することで接続設定が完了するファイルやフォルダをフリック(Androidはロングタッチ)すると、ダウンロードやメール送信、共有、コピー、削除、ファイル名変更などのアイコンが表示され、さまざまな操作が可能
ファイルを複数選択したり、フォルダごと操作することも可能オフィス文書のプレビューや動画、音楽の再生なども可能

 このダウンロードが秀逸で、単にファイルをローカルに保存するだけでなく、その後、自動的に同期させることができる。標準ではWi-Fi接続のときのみ、3分間隔で同期される設定になっているが、これにより、ファイルのダウンロード後、My Book Live上の元ファイルを更新すると、このデータをダウンロードし直さなくても、自動的に最新版に同期することができる(アプリは起動する必要あり)。

 標準で5GBの容量がキャッシュ用として確保されているが、変更することができるので、より多くのデータを同期させることも可能だ。また、このキャッシュのおかげで、リモートアクセス時にフォルダをたどってアクセスする際にスピーディでストレスレスなのも大きな魅力だ。

ダウンロードしたファイルは同期対象に設定され、標準では3分ごとに自動更新される。新しいファイルが追加されたり、ファイル内容が更新されても自動で最新ファイルを持ち歩ける自動同期のネットワークとキャッシュ容量を設定可能

 この機能は、Dropboxでも利用できる。Dropboxのアカウントを登録して、接続先としてDropboxを登録しておくと、同アプリからDropbox上のファイルを参照したり、ダウンロードできるだけでなく、同様に同期させることもできる(Dropboxはフォルダ単位の同期は不可でファイル単位)。

 また、DropboxとMy Book Liveとの間でのファイルのコピーも可能だ。My Book Liveでコピーしたいファイルを選び、iOSの場合はフリック、Androidの場合はロングタッチしてメニューを表示し、「コピー」を選択する。この状態で、コピー先のDropboxのフォルダを開き、同様にメニューから「ペースト」を実行すれば、ファイルがコピーできるというわけだ。

 よく使うファイルだけをDropboxに残し、My Book Liveをアーカイブ先として活用するといった使い方もできるだろう。

 もちろん、ファイルの共有も可能だ。転送したいファイルを選択して、メニューからメールで送信を選べば、ダウンロード先のURLを記載したメールを送信できる。メールを添付するのではなく、My Book LiveからダウンロードするためのURLを送るだけなので、容量を気にせずファイルをやり取り可能だ。

 このほか、ファイル名を変更したり、フォルダを作成することもできるうえ、My Book Liveに保存した音楽データをストリーミング再生することも可能だ(iOSはバックグラウンド再生対応、Androidは再生するアプリ次第)。

 このように、考えられる機能はほとんど搭載しているWD 2goだが、ファイルのアップロードだけは、ひと工夫必要になる。WD 2go自体にはiPhoneやAndoroidのストレージからデータを直接アップロードする機能は搭載されていないため、他のアプリからWD 2goを指定してファイルを開くか(iOS)、共有(Android)を実行して、いったんファイルをWD 2goのダウンロード領域へとコピーし、その後、WD 2goでダウンロード領域のファイルをコピーしてから、My Book Liveの共有フォルダにペーストすることでアップロードできる。iOSの場合、アプリによっては、アプリを指定してファイルを開くことができない場合もあるが、メールから添付ファイルを保存したり、Goodreaderなどで利用可能なので活用するといいだろう。

※お詫びと訂正
初出時、アップロードできない旨の記載がありましたが、上記方法にてアップロードできることを確認いたしました。お詫びして訂正いたします。

 ただし、WD Photoと呼ばれる別のアプリを利用すると、スマートフォンで撮影した写真をその場でアップロードしたり、保存された写真をまとめてアップロードすることなどが可能になっている。汎用的なファイルのアップロードはできないが、一般的にアップロードが必要になるものとしては写真が主になるので、これで間に合わせるしかないだろう。

WD Photosを利用すれば写真をMy Book Liveにアップロードすることが可能


FTPサーバーなども利用可能

 以上、ウェスタンデジタルのMy Book Liveと、新たに提供が開始されたアプリのWD 2goを紹介したが、思いの外、といっては失礼だが、良くできたソリューションと言える。

 個人的に、低価格の初心者向けNASと侮っていたところがあっただけに、使い込むほどに、これもできるのか、それもできるのか、と意外に多機能であることに驚かされることが多かった。

 このほか、今回は詳しく触れなかったが、Twonky(5.1.9)によるメディアサーバー機能やiTunesサーバー機能も利用できるうえ、FTPサーバーを有効化することも可能となっている。

 また、RAIDが利用できない代わりとして、本体のバックアップ機能として、ネットワーク上の別のMy Book Liveや他社製のNASの共有フォルダに対して、セーブポイントと呼ばれるバックアップを保存することが可能となっている。セーブポイントは、毎日、毎週など、指定した日時に自動的に作成可能で、複数のタスクを設定することも可能だ。

ネットワーク上の別のMy Book LiveやNASにセーブポイントを作成可能。データを定期的に自動バックアップできる

 このため、データの信頼性を確保したいのであれば、My Book Liveを2台利用すれば良いことになる。コストはかかるが、考えようによっては、HDD以外のハードウェアを共有するRAIDよりも安全だろう。

 もちろん、クライアントのバックアップに関しても、Windows 7のバックアップ機能(Professional以上)やMac OS XのTimeMachineに対応しているうえ、専用のバックアップソフトも提供されており、至れり尽くせりだ。

 家庭で利用するのはもちろんだが、これなら中小規模の企業やSOHOなどで利用するのも十分と言える。製品自体は地味なのだが、久しぶりに「地味に良くできている」というか、「じわじわ来る」という製品に出会った印象だ。



関連情報

2012/7/31 06:00


清水 理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるWindows 8.1/7 XPパソコンからの乗り換え&データ移行」ほか多数の著書がある。