週刊Slack情報局

コロナ禍における「Slack活用の秘訣」、古市憲寿氏がリモートーワーク活用企業に聞く

 「Slack」のユーザー企業3社がニューノーマル時代の働き方について語る座談会「Slackラウンドテーブル リモートーワーク活用企業に聞く! コロナ禍における、Slack活用の秘訣」を、Slack Japan株式会社が3月25日にオンラインで開催した。

 パネリストは、株式会社インテージヘルスケア代表取締役社長の仁司与志矢氏、生活協同組合コープさっぽろ の中山亜子氏(デジタル推進本部 システム部 リーダー)、ソフトバンク株式会社の飯塚和詩氏(コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業戦略本部 AI/RPA 推進室)の3人。モデレーターは、社会学者で慶應義塾大学SFC研究所上席所員の古市憲寿氏が務めた。

 まず自己紹介を兼ねて、パネリストが自身や会社の立場を紹介した。インテージヘルスケアは2019年に株式会社アンテリオと株式会社アスクレップが経営統合してできた、医療分野のマーケティングリサーチ会社だ。仁司氏は、2017年からフルフレックスやテレワークを導入してきたと語った。

 コープさっぽろの中山氏は、DX推進を担当していることや、コープさっぽろは2020年7月からだがその前は東京のベンチャーで札幌からフルリモートで働いていたことを語った。

 ソフトバンクの飯塚氏は、Slack社内導入推進や、社内業務効率化のためのRPA活用推進に取り組んでいることを紹介し、社内導入の自分の経験や事例をもとに話したいと語った。

(画面、左上から順に)Slack Japan株式会社の伊藤哲志氏(シニアプロダクトマーケティングマネージャー)、モデレーターの古市憲寿氏(社会学者/慶應義塾大学SFC研究所上席所員)、株式会社インテージヘルスケア代表取締役社長の仁司与志矢氏、生活協同組合コープさっぽろの中山亜子氏(デジタル推進本部 システム部 リーダー)、ソフトバンク株式会社の飯塚和詩氏(コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業戦略本部 AI/RPA 推進室)

メールそのままの固い文面からしだいに柔かく

 最初のテーマは「The future of work is empathetic & inclusive(仕事の未来は共感&包容力)」。古市氏は、コミュニケーションメディアが仕事のしかたに与える影響は大きいと思うと語り、各自につながりの施策について聞いた。

モデレーターの古市憲寿氏(社会学者/慶應義塾大学SFC研究所上席所員)

 インテージヘルスケアの仁司氏は、2020年4月に出社しないことになり、いったん足踏みをしたが、あらかじめ週1回などリモートワークに対応した働き方をしていたので立ち直る力があったと回答した。また、社内でSlackの絵文字をたくさん自作して、同氏を含め積極的に使っていることを紹介し、「辛い状況の中で楽しんで働く共感のため」と語った。

株式会社インテージヘルスケア代表取締役社長の仁司与志矢氏

 コープさっぽろの中山氏は、ちょうどGoogle WorkspaceとSlackの導入を進めていたところに、たまたまコロナ禍がやってきたので、スムーズに移行できたと語った。また、Slackは使ってみたら便利で、一度に通知できるなどのことから、社内であまり抵抗はなかったことを紹介。とはいえ、リテラシーの高くない人もいるので、「Slack勉強会を週2回ぐらい開催し、概念を覚えるところから体感してもらっている」と説明した。

 ソフトバンクの飯塚氏は、在宅勤務のほか、フレックスタイムやサテライトオフィスなどを整備して働きやすいようになってきていることや、リモートワークの有効な手段としてSlackを推進していることを紹介。その一方で課題として、オフィスなら無意識に雑談が聞こえてくることによる情報共有のがリモートワークではないことを挙げ、その対策の例として、Slackで朝礼のように1日1投稿などの雑談を意識してしているチャンネルのことを紹介した。

 このテーマではそのほか、Slackを入れて最初はメールそのままの固い文面だったのが、だんだん柔かく短い文面になってきたという声があり、「メールの場合は1回で読むように文章をきちんと書かなくてはならないが、Slackならその場で話を確認できるので、意外と敷居が低い」という意見が出た。

社内徘徊の代わりにSlackチャンネルを徘徊

 2番目のテーマは「The future of work is flexible(仕事の未来は柔軟性)」、つまり働き方の柔軟性だ。

 まずモデレーターの古市氏が、これまで通勤など距離を超えた働き方がテーマとなってきたが、成功していないという歴史があると説明。それが、ようやく時間や場所に縛られず働く気運ができているのではないかと語った。

 その上で古市氏は仁司氏に、普段、柔軟性のために心がけていることを質問した。仁司氏は、以前はできるだけいろいろな人の声を聞くために社内を徘徊していたと回答。それがコロナ禍でできなくなったため、現在ではSlackの主要なチャンネルを全部徘徊して、さまざまな問題を解決していると語った。その例として、在宅での印刷をどうするか、コンビニで印刷するか、プリンターを購入するかといった話題を見て、ルールを3日で整備したという。

 続いて古市氏は中山氏に、コープさっぽろでSlackによりどんな変化があったかを質問した。中山氏は例として、例えばコロナ感染が出たようなときに、遠い部署への指示系統が電話とメールだったのが、SlackとGoogle Meetですばやくその場で会議できるようになったことを紹介。「すばやく、かつ正しい情報が伝わるようになった」と語った。また、それを含めて「情報にヒエラルキーがあったのが、フラットになったのが喜ばれている」とも語った。

生活協同組合コープさっぽろの中山亜子氏(デジタル推進本部 システム部 リーダー)

 そのほか、新しい宅配サービスにおける社内デジタル化の取り組みも紹介された。スーパーで注文したものが置き配で届くというサービスで、コロナ禍の中でドライバーに直接説明していると接触率が上がってしまうので、動画を使って説明したという。これによって、ドライバーが回れる数も1日60件から80件に上がったとのことだ。

 古市氏は飯塚氏に、リモートワークの生産性への効果を質問した。飯塚氏は、通勤や営業の移動時間がなくなった分、自分が使える時間が増えたことを挙げつつ、「ただしマネージャーはZoomで集まりやすくなって会議が増え、一日中会議ということになってしまう」とも答えた。

 また、ノウハウの共有については、今までは同じ時間に同じ場所に集まっていたのに対し、ノウハウを共有して横展開するためのSlackチャンネルで非同期に行うようにしているという。「情報共有目的の会議が多いが、あえて会議ではなくSlackのチャンネルにしようという人がいれば、会議が減らせる」と飯塚氏は語った。

ソフトバンク株式会社の飯塚和詩氏(コンシューマ事業統括 コンシューマ営業統括 営業戦略本部 AI/RPA 推進室)

新入社員にも信頼関係を築いてもらうための施策

 最後のテーマは「The future of work is connected(仕事の未来はつながっている)」、つまり人と人とのつながりだ。

 テーマを設定したSlack Japanの伊藤哲志氏(シニアプロダクトマーケティングマネージャー)は、「Slackは、社内でのコミュニケーションやコラボレーションのものと思いがちだが、社外とのコミュニケーションやコラボレーションも増えている」と意図を説明した。

Slack Japan株式会社の伊藤哲志氏(シニアプロダクトマーケティングマネージャー)

 古市氏は、今は24時間つながっている時代とし、では昔はつながっていなかったかというと村社会でつながっていたと語った。そして村社会のつながりにはいい面も相互監視などの嫌な面もあり、嫌なことを避けてうまくつながれるかどうかが大事だと思うと論じた。

 仁司氏はつながりにおいて、「お互いを信頼できる心理的安全性が大切だと思う」と答えた。そして、リモートワークにおいて、あらかじめ人間の関係性があれば意思疎通できるが、コロナ後に入社した人が心理的安全性を構築するのに苦労していると聞くという話を挙げた。

 それに対するインテージヘルスケアの取り組みの例としては、新入社員が毎日、先輩と5分、持ち回りで雑談するという試みをしているという。「雑談は重要だと思う。ただ、オフィスでは半径3~5mぐらいでしか雑談できない。Slackなら極端には全世界で雑談できる。ある意味画期的だと思う」(仁司氏)。

 中山氏は、コープは女性が多いという性格から、社内で子育てチャンネルができたことを紹介した。「『社内の休職の支援が分からない』と書くとすぐ教えてもらえたり、『新1年生の親だけど』と書くと、一式の情報がそろったりする」と中山氏。

 一方で情報リテラシーの高くない人向けに、前述のSlack勉強会を開催している。ここでは、まず使ってもらうことを重視しており、「積極的に参加してくれていて参加率もよい」と中山氏は報告し、「ただ職員数が多いので、一定レベルにいったら、プライベートチャンネルは使わないなどのルールも覚えてもらっている」と語った。

 さらに、コープさっぽろでも絵文字を推奨しており、「Slack絵文字大賞」を開催して、社内投票により表彰しているという。実は中山氏が第1回大賞受賞者で、本部長の「やべーよ」という口癖の文字をアレンジして絵文字にしたところ大賞になったと笑いながら話した。

 飯塚氏は、Slackのゲスト機能で社外の人にも参加してもらっていることを紹介し、「Slackでは社外ともカジュアルにやっていけ、コミュニケーションの質が上がったという声がある」と語った。

 また、飯塚氏個人の感想として、Slackでは自分の状態を示せるのが互いに配慮しやすい点だと指摘。「たとえば今のようにイベント登壇中には、そのことを示してあれば電話をかけないといったように、お互いに配慮しながらコミュニケーションできるのが使いやすい」と語った。

「オフィスなら気付くケア」をリモートではどうするか

 最後に、Slack Japanの伊藤氏が、参加者による質問からピックアップして、パネリストに尋ねた。

 まず、リモートワークのデメリットについて。仁司氏は、偶然の出会いが減ることによって新しいものが出てくる力が弱くなることを心配しているとし、「たまたま廊下であって、雑談する中から面白いテーマが出る、ということが生まれにくい。まだそれを補完するツールが出てないんじゃないかなと思う」と語った。

 中山氏は、リモートワークへの移行は進んだが、後に店舗の人は店舗に戻って、定着率がいまひとつ悪いことを懸念し、「自分の働いている様子が意思決定する人に見えないことを心配しているのかもしれない」と語った。

 飯塚氏は、オフィスであれば、近くの席の人がトラブルを抱えていそうな電話をしていればケアできるが、自分の知らないところでコミュニケーションしているのはケアできないことを懸念点として、「リモートではメンバーのケアには相当な意思を持って声を掛けるなどしないといけない」と語った。

 古市氏も回答側に回り、「日本の会食文化や欧米のホームパーティー文化のように、対面の大事さはなくならない。一方で、無駄な会議もある。バランスが大事」と答え、「社会は急に変わらない。急に変わった分だけバックラッシュ(揺り戻し)もあると思う。どれだけバックラッシュするか、社会や企業が考えていければと思う」と語った。

 仁司氏に対しては、印刷ついてルールを決めたという話について、どのようなルールを決めたか質問が出た。仁司氏は、家で印刷するのを許可していなかったので許可し、「むしろ変なところで印刷しないように」というメッセージを出したと答えた。そのほか、通勤手当をやめてテレワーク手当を支払うようにルールを変更したことも紹介された。

 そうした在宅勤務の環境整備の支援については、中山氏は、コープさっぽろではVPNで社内に入れない問題があったので、全規模でネットワークの更改をして、入れるように整備したことを紹介した。飯塚氏も、リモートで働くためのクラウド環境を強化したことを紹介した。

 伊藤氏も、社内コミュニケーション活性化のためにSlack Japan社内でも使っているSlackボットとして「Donut」を紹介した。これはランダムに1対1の雑談ミーティングを割り振ってくれるもので、「例えば私はマーケティングで、サポートの人とはなかなか仕事で関係しないので、そこで面識を持ったりつながったりできる」と伊藤氏は説明した。

 最後に古市氏は総括として、テクノロジーを導入するだけではなく、企業文化を導入するのが重要として、「オープンであることや、信頼しあうことが大事。そうした新しい時代の企業のあり方が、リモートワークやSlackと相性がいい」とまとめた。

一般企業でも利用が広がっているビジネスコミュニケーションツール「Slack」。Slack Technologiesの日本法人であるSlack Japanはこのツールのことを“ビジネスコラボレーションハブ”と表現しており、あらゆるコミュニケーションやツールを一元化するものと位置付けている。本連載「週刊Slack情報局」では、その新機能やアップデート内容、企業における導入事例、イベントレポートなど、Slackに関する情報をお届けする。