10代のネット利用を追う
垂直二等分線の引き方はFlashで解説、今時の「進研ゼミ中学講座」
中学・高校時代に「進研ゼミ」を受講していたという方も多いことだろう。毎月郵送されてくる課題に解答して提出すると、赤ペン先生が添削して返却してくれる通信講座だ。その進研ゼミが最近はずいぶん進化し、インターネットでもいろいろできるようになっているらしい。ベネッセコーポレーション教育事業本部の三橋佐知子氏(中学生商品開発部中1ユニット/共通機能ユニット・ユニット長)に話を聞いた。
●ネットの特性を生かしたWeb教材「進研ゼミ中学講座+i(プラスアイ)」
中学生を対象とした「進研ゼミ中学講座」では現在、2種類のメディアで教材を用意しており、おなじみの紙の教材のみか、紙の教材とWeb教材を組み合わせた「進研ゼミ中学講座+i」(以下、プラスアイ)か、好きな方を選べる。料金は、英語・数学・国語・理科・社会の5教科セットで、紙の教材のみが月額5840円(中1・中2講座)または月額6480円(中3受験講座)。Web学習ありのタイプは、Web学習なしの料金に加えて月額960円程度をプラスすることで多様なサービスを利用できる(毎月払いの料金。半年払い・年間払いで割り引きもあり)。紙だけでも独立した教材として十分だが、そこにWeb教材を組み合わせるとさらに学習効果が高まるという。
では、プラスアイとはどんなものかを見ていこう。
「進研ゼミ中学講座+i(プラスアイ)」のホーム画面 |
パソコンのWebブラウザーからログインすると、ホーム画面として机を模したインターフェイスが表示される。机の上には各教科の本が並んでおり、これをクリックすると、それぞれの教材にアクセスできる仕組みだ。教材は、ドリル型の「要点スピードWeb確認問題」のほか、解説やトレーニングなどの「動く!Webレッスン」などがある。
「要点スピードWeb確認問題」では、ペーパーテストふうの問題が1問ずつ表示され、それを解くごとに正誤を画面上に大きく「○」「×」で瞬時に提示。あわせて解説文も表示する。解答はマウスクリックによる選択肢方式だけでなく、キーボードから文字を入力させるものもあるという。
「動く!Webレッスン」は、Flashを用いたWebならではの教材だ。単に問題を解いていくだけでなく、漢字の覚え方や数学の公式など、アニメーションや音声を使って解説してくれるため理解が深まる。
「動く!Webレッスン」は、Flashを使った動きのある教材となっている |
さらに英語では、音声認識技術も活用している。英単語の正しい発音を聴いた後、自分でマイクに向かって発音したものが録音され、聴き直したり、正しい発音と同時再生して違いを確認することができる。「外国人につうじる度」もパーセンテージで判定される。
音声認識技術を活用した、英語の「単語・熟語・表現ボキャブラリートレーニング」 |
学力を向上させるには、間違えた問題を見直し、つまずきをなくすことが重要だ。「要点スピードWeb確認問題」で間違った問題は、「ニガテBOX」として教科ごとに記録・蓄積され、後日、苦手な問題だけを繰り返し取り組めるようになっている。過去に取り組んだ問題はすべて見直すことができ、復習の達成率も表示されるため、自分の取り組み度合いが客観的に分かる仕組みだ。
間違った問題がまとまっている「ニガテBOX」。表示されている数字は、それに含まれる設問の数。空いている時間などに、数問ずつ取り組めるようになっている |
このほか、自分の学校の定期テストの範囲を入力することで、適切な学習スケジュールやアドバイスを提示したり、それに対応した「定期テスト必勝!スペシャルニガテBOX」からの復習問題、さらには出題範囲や苦手分野も考慮したリハーサルテストまで作成してくれる機能もある。
期末テストに向けて苦手分野のチェックが行える「定期テスト必勝!スペシャルニガテBOX」 |
●紙とインターネットの“ブレンド型”、ベストバランスを探る
プラスアイは、Web教材といってもインターネットですべてを完結させているわけではなく、紙に書く作業も受講者に求めている。学校のテストなどでは紙に書く必要があるからだ。例えば数学の作図など、実際に紙に書いてもらいたい問題は、画面上にノートマークを表示する。
このように紙の教材とWeb教材は連動しており、逆に、紙の教材に対応した解説を「動く!Webレッスン」で見られるようにもなっている。垂直二等分線をコンパスを使って作図する数学の問題では、実際に線分の両端を中心として等しい半径の円を描く様子がFlash動画で見ることができるため、作図の仕方がより分かりやすい。紙とインターネットの“ブレンド型”のスタイルをとっているわけだ。
垂直二等分線の引き方をFlash動画で説明している「動く!Webレッスン」 |
一方、まだWeb教材の活用法に苦心しているのが、国語の読解問題だ。パソコンの画面では長文を読みづらいため、ただ長文を読み、問題を解くといった展開では、人気コーナーになりにくいのだ。ただし、それも画面を工夫することなどで改善できてきているという。
「ネットと紙という異なるメディアを、どのようにバランスをとって取り入れるかが今後の課題」と三橋氏は語る。パソコンでも今後、ニンテンドーDSのように文字や図の手書き入力が行えるようになり、画面が見やすくなれば、記入する際の操作がシームレスになって、そうした課題を乗り越えられる可能性がありそうだ。
●受講者向けのコミュニティや、お楽しみの“努力賞”も用意
プラスアイのホーム画面では、添削問題の締め切り日などが通知されるほか、受講者専用のコミュニティに意見を投稿したり、学習の進ちょくに応じてクラスコーチからアドバイスメールを受け取ったりすることも可能だ。
コミュニティでは、受講者全体や自分の所属しているクラスごとに、その日・その時間のログイン数、都道府県別のログイン数も知ることができる。それにより、孤独ではなく、仲間やライバルの存在を感じながら勉強できるのだ。
受講者同士が交流できるコミュニティは、テーマが決まっている上、ペンネーム制になっており、個人的なやりとりはできないようになっている。また、ITリテラシーの学習コンテンツも用意している。プラスアイを初めて利用する際には、インターネットの危険や他人を中傷してはいけないなど、基本的なリテラシーとルールを学ばなければホーム画面にも行けず、コミュニティでの発言もできないようになっている。
コミュニティのトップページ |
“努力賞”のような楽しい仕掛けもある。問題を解くことでネットポイントが手に入り、アバターや壁紙のほか、文房具などがもらえるというものだ。子どもたちには、アバターなどのデジタルアイテムの人気が高いという。アバターはプロフィール画面に表示され、服装や髪型、背景などを変えることができる。ちなみに、アバターなどはお金では買えず、ネットポイントを貯めて交換するしかない。
勉強で分からないことは「質問ひろば」のQ&Aで調べることができ、それで解決しない時には「質問ポスト」に投稿すれば、48時間以内に回答してもらえるのもうれしい。
勉強で分からないことを調べられるQ&Aコーナー「質問ひろば」 |
●苦手な教科も楽しく学習、取り組みのサイクルも早まる
進研ゼミでパソコンを活用するようになったのは、教材の付録としてCD-ROMを添付したのが始まり。音声や動画利用の可能性を感じ、2004年ごろから活用するようになった。
その後、郵送による提出・返却のタイムラグを解消するため、「eサポート」というサービスを段階的に開始した。ファックスで提出を受け付けたり、添削後にWebで返却するなど、いわば周辺部分から通信・インターネットを活用したサービスを取り入れてきた経緯がある。
ベネッセコーポレーション教育事業本部の三橋佐知子氏(中学生商品開発部中1ユニット/共通機能ユニット・ユニット長) |
これに対してプラスアイは、進研ゼミの教材本体にインターネットを取り入れたものだ。2008年にまず中1を対象として提供を開始した。教材にインターネットを取り入れたのは、「時代によるところが大きい」という。「大人はパソコンで勉強するのが面倒くさいと感じるが、彼らは抵抗感がない。インターネットや携帯ゲーム機も日常的に使っているため、学習にも取り入れたらいいのではないか」と考えた。
同時に、課題をきちんと提出してもらえなければ受講生それぞれの勉強の進み具合が把握できないというジレンマを、インターネットを使うことで解消し、日々の進ちょく状況も把握できるのではないかと期待したこともある。
インターネットを導入したことによる変化や効果としては、「学習のサイクルが変わった」という。進研ゼミは、教材を月1回郵送して、その中の添削問題を解答・提出してもらうようになっているが、郵送だと提出から返却まで約10日かかる。これがインターネットでの返却なら約4日に短縮されるため、学習サイクルが速くなるというわけだ。ちなみに、インターネット返却の方が問題の見直しがきちんと行われる傾向にあるという。「まだ記憶が新しいうちに返却されるため、見返すのかもしれない」。
また、「パソコン学習には、苦手な教科でも勉強が楽しくできるといったマインド的な強みがある」と三橋氏は指摘する。紙の教材だとどうしても勉強をしているという意識が強くなるが、パソコンならば肩肘張らずに勉強できるのだ。実際、「プラスアイを受講している子は、紙のみの教材の子よりも学習が継続できている」という。
当初は中1コースのみだったプラスアイは、2009年には中2にも拡大。2010年4月からは中3コースも開始され、中学講座のラインナップが完成する。進研ゼミ中学講座全体の受講者75万人のうち、2008年には中1の4万人が、2009年には中1・中2合わせて13万人がプラスアイを受講した。一度プラスアイを受講した生徒は継続して利用することが多く、今後さらに増えることが予想される。
2008年に中1でプラスアイを始めた生徒は来年度、高校受験を迎える。「3年間プラスアイを活用してきた子どもたちが志望高校に合格するのが楽しみ」。
●高校生や小学生、幼児向けの教材でもネット活用を検討中
現在、プラスアイはパソコンからのみ利用できる。画面が大きく学習に向いていることと、中学生の家庭における所持率が約7割と高いためだ。一方、携帯電話を持っている中学生はまだ3、4割程度。ただし、最近では所持率が上がってきているため、携帯電話でコミュニケーションをとれるようにする方向性も視野に入れている。
プラスアイのナビゲーターであるキャラクター「クリンク」 |
また、英語教材での会話のやりとりは、インターネットを活用しているとはいえ、現時点では疑似コミュニケーションとなっている。「今後はネットの特性を活かし、実際に世界の子どもとつなぐことができるようにして、英語を学べば世界とつながれるという感覚を子どもたちに感じてほしい」と三橋氏は抱負を語る。
ベネッセコーポレーションは今後、高校生や小学生、幼児向けの教材でのインターネット活用も検討中だ。中でも高校生は携帯電話の接触機会が多いため、携帯電話の取り入れ方なども含めて検討しているという。
デジタルネイティブの子どもたちにとって、効果的な学習のあり方はこれまでとは異なることも考えられる。今後、プラスアイのようなWeb教材の効果を検証していくことで、学習におけるインターネット活用の可能性が見えてくるのではないだろうか。
関連情報
2010/3/10 06:00
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