10代のネット利用を追う
子どものDSユーザー、マジコン率が7割!? 野良APでネット接続、WEP破りまで
ニンテンドーDSやWii、PSP、PS3など、ゲーム機のネットワーク機能は現在、通信対戦で遊べるだけではなく、インターネットに接続してウェブを閲覧・利用できるようになっている。今回は、特に携帯ゲーム機による子どものインターネット利用について取り上げる。
最近では子どもが外で携帯ゲーム機で遊んでいる光景も普通になった。夏休みに入り、子どもが携帯ゲーム機に接する時間も増えていることだろう。友達と対戦ゲームをしているものとばかり思っていたら、実は彼らは、保護者の目の届かない所で自由にインターネットを利用していたのかもしれない――。
【記事更新 2010/08/06 22:40】
携帯ゲーム機におけるボット感染率およびマジコンの所有率に関するパートに、補足説明を加筆しました。(編集部)
●携帯ゲーム機でインターネットを利用する子どもたち
ネットスター株式会社が3月に実施した第11回「家庭でのインターネット利用実態調査」によると、小・中学生へのウェブアンケート調査(有効回答2174人)の結果、子どもだけ(兄弟姉妹との共用を含む)で使っている機器(複数回答可)として最も多く挙がったのが、ニンテンドーDS(DS Lite/DSi含む)で71.9%に上った。以下、Wiiが35.0%、携帯電話が29.3%、パソコンが25.3%、PSPが13.7%、PS3が4.9%、その他のゲーム機が24.0%だった。
一方、子ども専用の機器はなく、すべて家族共用で使っていると回答したのは19.5%。すなわち、8割が何らかの子ども専用機器を持っていることになる。
子どもだけで使っている機器 |
子ども専用の機器があると回答した1750人に対して、初めて買ってもらった自分専用の機器を聞いたところ、ニンテンドーDSが63.9%で突出している。以下、携帯電話が11.0%、パソコンが6.6%、Wiiが4.5%、PSPが1.5%、PS3が0.9%、その他のゲーム機が11.5%だった。
初めて買ってもらった子ども専用機器 |
また、これら子ども専用機器におけるインターネット利用経験(複数回答可)を見ると、パソコンが34.6%で最も多かったが、2位はニンテンドーDSの20.4%で、携帯電話の16.4%を上回った。以下は、Wiiが12.8%、PSPが4.0%、PS3が1.5%と続く。
一方、これら子ども専用機器でインターネットを利用したことがないとしたのは24.4%となっている。
子ども専用機器でのインターネット利用経験 |
また、ゲーム機の通信機能(Wi-Fi)を使って遊んだことがある子どもは全体(2174人)の55.9%と半数を超え、そのうち小学校低学年で19.0%、高学年で23.3%、中学生で33.3%が自分で通信機能の設定をしていたという。
さらに、友達または兄弟姉妹にしてもらった子どもまで含めると、4割近くが大人の手を借りずに通信機能を設定したことになる。
ゲーム機の通信機能(Wi-Fi)を使って遊んだ経験 |
ゲーム機の通信機能(Wi-Fi)を設定した人 |
なお、ここでいう通信機能とは、設問の文面を見る限り、対戦ゲームなどで遊ぶための機能とみるのが自然で、いわゆるインターネットも想定して回答しているのかどうかはわからない。また、今回のアンケート調査では、回答者の92.5%が女子と偏っていたことも書き添えておく。
いずれにせよ、インターネットに接続可能な機器で小・中学生(の女子?)に最も普及しているものは携帯ゲーム機のニンテンドーDSであり、その2割において子どもがインターネットを利用した経験があるということを、まず認識しておく必要がある。
●野良APや無料スポットから、携帯ゲーム機で容易にネット接続
子どもが携帯ゲーム機からインターネットを利用することの危険性をかねてから指摘しているのが、神奈川県川崎市立学校インターネット問題連絡協議会の委員などを務める田島和彦氏だ。デジタルアーツ株式会社が4月に開催した「子どものインターネット利用とゲーム機器のセキュリティに関するメディア勉強会」では、田島氏がこれまでに啓発活動ボランティアなどを行ってきた経験に基づき、実態が紹介された。
神奈川県川崎市立学校インターネット問題連絡協議会の委員などを務める田島和彦氏 |
田島氏によると、最近、子どもたちが利用していることで問題となっているのが、“野良アクセスポイント(野良AP、野良ポ)”だという。
最近の携帯ゲーム機では簡単に無線LANに接続できるようになっており、ニンテンドーDSでは設定画面でタッチ操作により周辺にある無線LANアクセスポイントをスキャン・選択していくだけで、無線LAN接続設定が完了してしまう。もちろん、WEPが施されているアクセスポイントは、WEPキーを知らなければ接続はできない。
これに対して野良APとは、WEPなどによる無線通信の暗号化やアクセス認証などのセキュリティ設定を施しておらず、電波の届く範囲内なら誰でも接続できてしまう無線LANのことだ。家庭や企業などに設置された無線LANが野良AP化しているケースがあり、子どもたちはこれを見つけて勝手に接続しているというわけだ。
さらには、無線LANの暗号を破れる解析ソフトをバンドルしたアダプターなるものが安価で売られているという。「たとえセキュリティ設定を施していても、中学生がWEPや簡単なセキュリティを破ることがある」(田島氏)。
野良AP以外にも、ニンテンドーDSから正規に利用できる無線LANスポットもある。玩具店や家電量販店の店頭などに設置された「ニンテンドーWi-Fiステーション(DSステーション)」や、公衆無線LANスポット「FREESPOT」では、特別な設定なしで無料でインターネット接続が可能だ。
ゲーム機から無線LANに接続できたとしても、家庭内など保護者がきちんと見守っているような環境であればそれほど深刻ではないだろう。しかし街中にはこのように、保護者の目の届かないところで子どもたちがインターネットを利用できる環境があるのだ。
デジタルアーツが指摘する、携帯ゲーム機によるインターネット接続の危険性 |
●パソコン以上に危険? ゲーム機のボット感染も
野良APがらみの子どものトラブル事例もすでに報告されている。2008年6月、高校生が携帯ゲーム機から他人の無線LANを介してインターネットに接続し、2ちゃんねるに殺害予告を書き込んだ事件があった。「野良APを利用すれば、犯行予告などをしても、警察は(自分のところではなく)そちらに行く。子どももそういう知識を持っている」(田島氏)。
悪徳業者がSEOを駆使し、子どもがよく使う検索キーワードから有害サイトに誘導していることもあるという。子どもたちが意図せずに有害なサイトやフィッシングサイトを見てしまうことになるわけだ。
そのほか、ゲーム機にもボットネットの危険があると田島氏は語る。「パソコン以上にゲーム機が危険。ゲーム機の数割がボットに感染している」。
【追記 2010/08/06 22:40】
田島氏は2009年9~12月、小学校7校と中学校5校において、協力が得られた児童・生徒71名の携帯ゲーム機(ニンテンドーDS/DS Lite/DSi/DSi LL、PSP)計114台を調査。その結果、マジコンを使用またはカスタムファームウェア化したゲーム機の39%で、ウイルス(スパイウェア)の混在が確認されたという。
ウイルスとしては、悪意のあるプログラムに限らず、常駐型プログラム以外であっても、フック系関数(自作アプリが動作する環境のこと)が混在している非正規アプリはすべてカウントした。
これは、携帯ゲーム機の標準カーネルのままであればウイルスが動作するものは現状ほとんど無いが、マジコンやカスタムファームウェアでは、標準で実装されていない命令も実行されてしまうためだという。その時点では悪意のプログラムでなくとも、後からダウンロードした別のソースと複合で作動する恐れがあるとの判断だ。
田島氏によると、これらウイルスはマジコンやカスタムファームウェア向けの非正規アプリに仕掛けられて侵入することが調査からわかっているという。そして、それらウイルスの中に、ボットネットコードも存在しているとしている。
なお、ノーマルのニンテンドーDSiでは、18台のうち混入が認められたのは1台のみ。これも、挿入されていたメモリーが以前マジコンに使用したものだったためで、その中から検出された。PSPについては、ノーマル機における混入は確認されなかった。
ネットマイルリサーチが2009年11月に発表した調査でも、子どもの2~3割がニンテンドーDSでインターネットを利用しているという結果が出ている |
●DSを持っている子どもの7割がマジコン所有!?
子どもの携帯ゲーム機利用に関連する話題としては、いわゆる“マジコン”も挙げられる。
田島氏は各地の学校を回ってきた現場の感覚から、「ニンテンドーDSを持つ子どもの7割がマジコンを持っている」と説明する。にわかに信じがたい数値だが、子どもたちの間では「ゲームソフトを買わなくても、ダウンロードしたゲームで遊べてしまう機械」として知られているらしい。
【追記 2010/08/06 22:40】
マジコンの所持率については、地域・学校によって大きなばらつきがあるため、この7割という数字が、広くどこででも当てはまるわけではない点に注意が必要だ。マジコンの存在自体あまり知られていない地域もあれば、田島氏の報告にあるように、高い比率を示す地域もある。野良APについても同様だが、こうしたことに詳しい子どもが数人いると、その地域の子どもたちの間で口コミによって一気に“普及”してしまう模様だ。
田島氏が紹介した7割という数字は、同氏が2008年9月~2009年6月、小学校3校の児童約190名に対して、「マジコンを持っている人? PSPでカスタムファームウェアしている人?」と質問し、挙手で回答してもらった結果。そのため、厳密にはニンテンドーDSにおけるマジコン使用のほか、PSPにおけるカスタムファームウェア化も含まれる。
なお、田島氏によれば、マジコン以上に、中・高校生におけるPSPのカスタムファームウェア化の方が比率は高いとしている。2009年10月と2010年3月、中学校2校の生徒計203名に対して同様に挙手で回答してもらった結果、計168名がカスタムファームウェア化をしていたという。
●ゲーム機を子どもに渡す前に、保護者がきちんと設定を
ゲーム機による子どものネットトラブルを防ぐには、まず、ゲーム機に搭載されているペアレンタルコントロール機能をきちんと設定することだ。ニンテンドーDSシリーズであれば、CEROの年齢区分に基づいたソフトの使用制限のほか、ウェブブラウザー(ニンテンドーDSブラウザー、ニンテンドーDSiブラウザー)の起動制限、ピクトチャットの使用制限、一部のユーザー作成コンテンツ(UGC)の送受信制限などが行える。
もし、子どもに携帯ゲーム機からのウェブアクセスを認めるならば、フィルタリングサービスを利用する必要があるだろう。デジタルアーツは、家庭用・企業用フィルタリングソフト「i-フィルター」シリーズを提供しており、各ゲーム機に対応した有料のフィルタリングサービスもラインナップしている。
例えばニンテンドーDSシリーズであれば、「i-フィルター for ニンテンドーDSブラウザー」「i-フィルター for ニンテンドーDSiブラウザー」がそれぞれ月額315円で利用できる。ニンテンドーDSiブラウザーでは「お気にいり」から申し込めるようになっており、プロキシを設定することでフィルタリングが有効になる。
ソニー・コンピュータエンタテインメントの携帯ゲーム機「PSP」にも、ペアレンタルコントロール機能が搭載されている。また、有料のフィルタリングサービスについても、「i-フィルター」のほか、トレンドマイクロ株式会社からは「キッズセーフティ for PSP」が提供されている。
ニンテンドーDSiでの「i-フィルター」導入方法 |
PSPでの「i-フィルター」導入方法 |
問題は、こうした機能やサービスがあることを知っている保護者が少ないことだ。実際に利用している割合はさらに少なく、ほとんどの家庭で制限なく使わせている状況になっているのではないだろうか。保護者の知らないところで、子どもが携帯ゲーム機から自由にインターネットを利用している可能性があるのだ。
保護者は、携帯ゲーム機がインターネット接続端末であることをきちんと認識しなければならない。そして、目の届かないところで子どもがインターネットを自由に利用することの危険性を知り、ペアレンタルコントロールやフィルタリングなどの対策を講じてから子どもに渡すよう徹底する必要があるだろう。
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2010/7/30 06:00
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