イベントレポート

一から学ぶ、ビットコインと仮想通貨

ビットコイン入門! 仮想通貨を学ぶと分かる「ブロックチェーン」の凄さとは?

日本ブロックチェーン協会・樋田桂一事務局長がトークイベント

日本ブロックチェーン協会・事務局長の樋田桂一氏

 日本ブロックチェーン協会・事務局長の樋田桂一氏によるトークイベント「一から学ぶ、ビットコインと仮想通貨」が17日、東京・神保町のコワーキングスペース「EDITORY 神保町」で開催された。ビットコインを題材に仮想通貨の基本と現状を学びつつ、その基幹技術であるブロックチェーンの革新性について、レクチャーした。


ビットコインは「オープンソース」「稼働率100%」

 トークイベントには約20名の参加者が集まった。樋田氏は2013年ごろから仮想通貨・ブロックチェーン関連のセミナーで度々講師を務めているが、その当初と比べて、近年は女性参加者が増えているという。今回のトークイベントも、参加者の3分の1程度が女性だった。

「一から学ぶ、ビットコインと仮想通貨」トークイベント会場の様子

 ビットコインについては入門書などが幅広く出版されているが、今回のトークイベントでは復習も兼ねて基本中の基本から解説された。

 ビットコインとは、数ある仮想通貨の中の一種。政府・中央銀行などが発行する法定通貨と異なり、発行主体が存在せず、紙幣・硬貨などのモノとしても発行されていない。あくまで実体はデータであるため、スマホやPCを使って個人同士が直接送り合う、つまり決済に使うことができる。

 単位表記は「BTC」。2月18日の時点では1BTCが約115万円前後の金額で取引されている。最小単位は「1Satoshi」で、これは0.00000001BTCに相当する。

ビットコインの概要

 あらゆるユーザー間のビットコイン送受信履歴は、そのすべてが、ブロックチェーン技術にのっとってインターネット上に保存・公開されている。

 ブロックチェーンとは、データベース技術の一種。ネットワークに繋がっている不特定多数のノードが協調し、データのやりとりをブロックという単位にまとめる。ブロックは一定の時間が経過するとその中身が固定され、あとから変更をかけることはできない。時間の流れによってブロックがどんどん生成され、鎖のようにつながっていくことからブロックチェーンと呼ばれる。

 ビットコインでは、その取引台帳として、ブロックチェーンが使われている。その誕生から現在に至るまでの記録が連綿と記録され続けており、悪意ある第三者がデータを遡って改ざんすることは、前述の性質のとおり、難しい。よって“偽造”は極めて困難である(編注:そのほかのリスクは存在する)。

ブロックチェーンの概要

 ビットコインとブロックチェーンの仕組みは2008年11月、Satoshi Nakamoto氏が暗号化関連のメーリングリストに投稿した論文「Bitcoin: A Peer-to-Peer Electronic Cash System」によって提唱された。

ビットコインの誕生は、ある人物による論文がきっかけだったが、開発自体はオープンソース

 この論文をもとに、世界中のソフトウェア開発者が協力してオープンソース開発したのが、現在のビットコインだ。運用がスタートしたのは2009年1月3日。以来、ブロックチェーンのデータは段階的に増えているが、それでも全体で150GBほどのサイズという。

 また、データ自体がP2P型ネットワークで世界中のコンピューターに分散保存されているため、運用スタートから現在に至るまで、システム稼働率は100%を誇る。仮に政府などの手によって規制が入ったとしても、インターネット上で共有している人がいる限り、ビットコインの仕組みはなくならないと考えられている。

 Satoshi Nakamoto氏は正体不明とされるが、かつてはメーリングリストでの発言などを行っていた。そして、ごく初期のブロックチェーン生成に携わったため、100万BTCを実際に保有している。ただし、それを現金化したなどの動きはブロックチェーン上では確認されていない。樋田氏も「もしこのBTCに変化があったら、恐らくは『神が動いた』と大騒ぎになるだろう」と話す。

P2Pでデータが保存される点も、ビットコインの特徴である


仮想通貨最大の特徴?! 「転々流通性」とは

 では、BTCはなぜ多くの人に利用されるのだろうか? 1つは手数料の節約だ。「海外送金は普通に数千円かかる。ビットコインの送金手数料は一時期4000円近くまで上がったが、いま下がってきて数十円で済む」(樋田氏) また、銀行送金と違って24時間365日、送金できる。

 一方で「仮想通貨は匿名性が高い」と考えられがちだが、ビットコインについては、必ずしもそう断言できないという。銀行の口座番号に相当する「アドレス」はブロックチェーンに公開されていて、しかも入出金の状態を第三者が把握できる。そしてアドレスに保有されたビットコインを日本円などで引き出す場合には、基本的に取引所を介すことになり、そこではアドレスの持ち主に対して本人確認作業が発生する。その意味において、「匿名性」ではなく「仮名性」とでも言うべき特徴を備えるのがビットコインだ。

 そして衆目の一致するとおり、現在のビットコインはボラティリティ(価格変動性)が極めて高い。よって、投機の対象としても扱われている。

ビットコインが使われる理由

 また、樋田氏が仮想通貨の最大の特徴として挙げたのが「転々流通性」だ。自身が保有している仮想通貨は、不特定の他者に譲渡でき、受け取った人間はさらに別の相手にその仮想通貨を譲渡できる。ビットコインはその投機性の高さが魅力の1つではあるが、樋田氏自身は、この転々流通性こそが仮想通貨に興味をもったきっかけという。

 対して、一般的な電子マネーは加盟店と利用客の間の一方向への決済にしか使えない。転々流通性のある仮想通貨と、電子マネーの決定的な違いがここだ。「ビットコインはすぐ隣にいる人に簡単に渡せるし、海の向こうの人にも送れる。電子マネーはこれがなかなかできないが、仮想通貨なら簡単だ」(樋田氏)。

電子マネーと仮想通貨の決定的な違いの1つに「転々流通性」がある

 このほかにもビットコインには独特のルールがある。ビットコインの発行数量は、プログラムの規定により上限が2100万BTCと定められている。しかし現時点でその全量は発行されているわけではなく、2140年までに段階的に発行される仕組み。また、発行ペースは基本的に約10分に1回だが、その1回ごとに発行されるビットコインは年月の経過によって減少する。例えば、システム稼働当初は10分ごとの発行量が50BTCだったが、現在は12.5BTCとなっている。

ビットコインの発行ペース。上限の2100万BTCに達するのは、なんと約120年後


個人での「マイニング」は、事実上もう無理

 ビットコインを巡っては、「マイニング(採掘)」という言葉もよく聞かれる。ビットコインの台帳にあたるブロックチェーンを作成するにあたって、一連の処理を行うためのリソース(サーバーの利用権や電気代など)を提供すると、その対価がBTCで受け取れるという仕組みだ。

 ただ、ビットコインのマイニングは、業者などによる設備の高度化が進んでしまったため、個人用PC程度の計算能力ではもはや成功しない状況になっている。

 マイニング業者は電力料金の安さの関係で中国に集中していたが、同国では2017年9月、政府がマイニングおよび取引所に関する規制の方針を発表。規制の実施時期こそ未定だが、一部業者が国外進出を模索するなど、影響が出始めている。

ビットコインのマイニングは、個人ではすでに難しいレベル
中国ではマイニングや取引に規制の影が……

 日本では、仮想通貨交換業者が16社存在する。これは仮想通貨法に基づいて登録を受けた事業者の数であり、法律制定前から交換業務を行っていた「みなし仮想通貨交換事業者」も15社、そして樋田氏によれば、新規参入を検討している事業者も含めると100社近くある。「金融庁のほうの受付体制もまだ完全に整っていないため、聞くところによると、今から登録申請した場合、申請が通るまでに1年半くらいかかる」(樋田氏)。

仮想通貨交換業者の一覧

 ビットコインは、これら交換業者を通じて入手・購入できる。また、前述の「転々流通性」があるため、友人から直接売ってもらうことも可能だ。

 ビットコインで支払える小売店や通販サイトも存在する。その中でも特に知名度が高いのはカメラ・家電量販大手のビックカメラだ。「振り返ってみると、ビックカメラは(日本におけるビットコインの知名度向上にとって)大きかったと思う。特に有楽町のビックカメラは、世界のビットコイン利用者が必ず訪れる場所というか『聖地化』している」(樋田氏)。

ビットコインは当然ながら買える
ビットコインを決済に使える店の例


「日本ブロックチェーン協会」ってどういう協会?

 ところで、樋田氏と仮想通貨が出会ったのは2013年4月のこと。いわゆる「キプロス危機」が顕在化したタイミングだった。キプロス共和国は地中海にある島国。ロシアの富豪らがキプロス国内の銀行に資産を大量預け入れしていたが、この金融危機を乗り切るため、ビットコインを活用したというネットニュースを読み、興味を持ったという。

 「ビットコインと聞いて、最初はBitCashのような電子マネーの一種かと思ったが、どうも違う(編注:BitCashは、ビットキャッシュ株式会社が発行する電子マネー)。当時は日本でも詳しい人が見つからず、自分で海外サイトを調べたりする中、『これは面白いものになりそうだ』と直感した」(樋田氏)。

 樋田氏が事務局長を務める日本ブロックチェーン協会は、2014年9月に発足した。当初の名称は「日本価値記録事業者協会」。この年の2月には、日本国内初のビットコイン交換所として知られるマウントゴックスが経営破綻し、世間では「仮想通貨」という言葉が注目を集めていた。

日本ブロックチェーン協会の概要

 だが6月に政府が「(仮想通貨は)通貨ではない」との見解を発表。この影響もあり、与党・自民党の委員会では仮想通貨に代わる語として「価値記録」が用いられていた。協会の名前はまさにこれが反映された格好だ。なお、現在の日本ブロックチェーン協会に名称が変更されたのは2016年4月。

 樋田氏は、株式会社bitFlyerの代表取締役である加納裕三氏、弁護士の斎藤創氏らとともに、協会設立に尽力した最初期メンバーの1人だ。国会議員へのロビイング活動はもちろん、海外の仮想通貨事業者協会との情報交換などに力を入れている。

 協会の活動も広がっている。まず仮想通貨関連の監督官庁である金融庁と連携。国税庁とは、所得計算の手法などについて意見を交換した実績もある。また、国民生活センターとは協会設立の段階から連絡を取りあっている。

日本ブロックチェーン協会の活動目的


ビットコインに続け! 次々生まれる「アルトコイン」

 仮想通貨のムーブメントは広がりを見せており、結果としてビットコイン以外の仮想通貨が次々と生まれた。これらは「アルトコイン(alternative coin)」と呼ばれる。

アルトコインとは

 ビットコインの仕組みはオープンソースのため、単純にコピーして別のブロックチェーンを作ってもそれはアルトコインと一種となる。2月17日の段階では少なくとも1542種類のアルトコインが存在し、仮想通貨取引所に上場している。

 樋田氏はアルトコインを以下の3種類に分類している。

1)独自ブロックチェーンを用いたアルトコイン
「Litecoin」「Ethereum」「Monacoin」など

2)他の仮想通貨のブロックチェーン上で発行したアルトコイン
「Counterparty(Bitcoinを利用)」「Auger(Ethereumを利用)」など

3)ブロックチェーンを使わないアルトコイン
「Ripple」「IOTA」など

アルトコインの分類例
「Monacoin」は日本生まれ。仮想通貨としては珍しく、コミュニティ主体で発展を遂げているという


IPOならぬ「ICO」にはご用心! 「99.9%は詐欺、ポエム」

 一方、樋田氏が警戒感を丸出しにしたのが「ICO」という動きだ。仮想通貨の新規発行を、株式の新規上場になぞらえ、資金調達を図るプロジェクトのことで、すでに国内でも事例が出ている。

なんとなく格好よさそうな「ICO」だが、詐欺まがいのものが横行しているという

 株式の新規公開は「Initial Public Offering」つまりIPOだが、ICOは「Initial Coin Offering」の略。名前こそ似ているが、樋田氏は「ICOの99.9%は詐欺、ポエム」と厳しい口調で糾弾した(編注:Facebookが1月に発表した『仮想通貨の広告禁止』ポリシーでは、ICOの広告も禁止対象となっている)。

 日本ブロックチェーン協会でも、会員各社に対するICO自主規制ルールの制定をすでに進めている。「ICOに関してはまだ一切ルールがない無法状態。このままでは間違いなく(詐欺の)被害者が出てしまう。協会としてもこれを正常化すべく、何らかのガイドラインを出したい」(樋田氏)。

 仮に新たな仮想通貨を立ち上げたいとしても、現状ではベンチャーキャピタルからシードマネー(種銭)を調達したり、小規模なベータ版システムを公開して利用者の反応を見るなど、一般ユーザーから資金を集める前にやれることがたくさんあるはずだ――というのが樋田氏の主張だ。


ブロックチェーンは仮想通貨以外でも使える

 ビットコインの成立にはブロックチェーンの技術は欠かせない。しかし、ブロックチェーンは必ずしも仮想通貨のためだけの技術ではなく、さまざまな分野での応用が期待されている。例えば自治体などが発行する地域通貨や土地登記などをブロックチェーンで管理する方法が模索されている。

ブロックチェーンは、仮想通貨以外の用途にも応用できる

 樋田氏が一例として挙げたのはIoTとの連携。「センサー同士がM2Mで通信していく中で決済情報を同時にやりとりする。例えば、今ここで使っているプロジェクターが電気コンセントと通信するだけでなく、料金も払う。ブロックチェーンには金銭のやりとりだけでなく、IoT同士の通信も記録できる。もしこれが実現すれば、途方もないトラフィックが発生するかもしれないが、これから来る技術ではないか」(樋田氏)。

 ブロックチェーンの応用例で比較的著名なものには、英国のEverledger社によるダイヤモンド取引の所有権確認・移転履歴照明システムがある。すでに100万個近くのダイヤモンドのシリアル番号、カラット数などが登録済み。犯罪集団の資金源を絶ったり、採掘者に正統な利益配分を行うための証拠といった効果が期待されている。

 また、国連はAccentureおよびMicrosoftと共同で「ID2020」というプロジェクトを進めている。全世界では約11億人が身分証明を持っていないと推定されている。この場合、公共サービスなどを満足に享受できないのが実情。そこでブロックチェーンとバイオメトリクス認証技術を用い、問題解決しようという枠組みだ。

 「ID2020のような取り組みは、いわゆる『ソーシャルインパクト(投資)』と呼ばれる領域かと思う。やっぱり、社会を改変していくことにブロックチェーンが使われるのは好き。新しい価値観を与えてくれる仕組みが今後ドンドン出てきて欲しい」(樋田氏)。

ブロックチェーンで身分証明を管理しようという「ID2020」プロジェクト