イベントレポート

Blockchain for Enterprise 2018

bitFlyerが語る近未来、次世代ブロックチェーン「miyabi」の特徴と活用は?

積水ハウスやメガバンク3行が実証実験、地域通貨や「自社通貨」もブロックチェーンで

 2018年2月22日に、JPタワー名古屋ホール&カンファレンス(愛知県名古屋市)で開催された「Blockchain for Enterprise 2018 ―名古屋―」において、株式会社bitFlyerの執行役員COOである小亀俊太郎氏が、次世代ブロックチェーンと位置付ける「miyabi」に関する講演を行った。

 講演では、メガバンク3行、積水ハウス、三井住友海上火災保険がそれぞれ実施した実証実験の内容が語られたほか、それを実現する「miyabi」の特徴を解説。さらに、同社が提供するコインソリューションで地域通貨や自社の仮想通貨が発行できることなどが説明されている。

bitFlyerの次世代ブロックチェーン「miyabi」を解説
「世界最速のブロックチェーン」

 小亀氏は、「ブロックチェーンとは新たなデータベースであり、改竄できない上、壊れていても自動修復されて落ちずに、合意された情報だけが有効となるネットワーク共有型の技術。2030年には、グローバルで300兆円、国内でも67兆円の市場規模が見込まれる」とした。

 bitFlyerが2016年に開発した「miyabi」は、ブロックチェーンの特徴である堅牢性を維持しながら、取り引きの確定や処理速度などに関連する課題を解決。さらに秒間1500~2000件のトランザクションを実現するほか、Microsoft Azureの最高位高速マシンの使用時には、秒間4000件の処理を実現する「世界最速のブロックチェーン」(同社)としている。

 その高速性を実現するために開発された技術は、ブロックチェーンの基礎技術として、初めて特許を取得したという。「特許の内容は、プライベートノード、プライベートノードにおける処理方法およびそのためのブログラムであり、当社は、今後もブロックチェーンに関する研究開発を継続していく」と述べた。

メガバンク3行や積水ハウス、三井住友海上火災が実証実験
「安価でセキュア」なシステムで業務効率化

 続けて、小亀氏は、miyabiの活用事例のいくつかを紹介した。

 1つ目は、三菱東京UFJ、みずほ、三井住友のメガバンク3行およびデロイトトーマツとともに行った全銀システムによる国内銀行間振込業務におけるブロックチェーン技術の活用実証実験だ。ブロックチェーン技術の活用によって、システム領域において、コスト削減効果を享受できる可能性を確認。実用に耐えられるパフォーマンスを達成することにも成功したという。

 この取り組みの第2弾として、全国銀行協会では、bitFlyerをブロックチェーン連携プラットフォームに取り組むパートナーベンダー4社のうちの1社に選定。新たな決済/送信サービスや本人確認や取引時確認、金融インフラなどへのブロックチェーン技術/分散型台帳技術の活用を目指すという。

 2つ目は、積水ハウスの事例。同社では、不動産情報管理システムにブロックチェーン技術を活用し、不動産データや入居者情報、クレーム情報などをブロックチェーンに格納して、賃貸サービスに利用。2018年度を目標に、他業種とのコンソーシアム統合を視野に入れた日本の不動産業界における標準プラットフォーム化を目指すという。「ブロックチェーンを活用した業務運用は日本で初めての事例になる」としている。

 3つ目は、三井住友海上火災保険が実施したブロックチェーンを活用した保険申し込み書類の確認業務における実証実験である。全国の営業拠点と事務センター間において、保険申込書類の照会や回答、進捗状況などを、ブロックチェーン上で情報共有するシステムを構築した。

 「これまでの各種申請では、照会業務や回答での書類のやり取りをFAXや郵送で行っていたが、ブロックチェーンを活用することで業務を効率化した。保険証券発行期間の短縮、高度なセキュリティの確保に加え、安価にシステムを構築できるメリットがある。これまで紙で行われていた業務をデジタル化したいと考えていても、セキュアなデータベースの開発などにコストが掛かるため、移行できないといった例が多かった。ブロックチェーンを活用することで、安価でセキュアなシステムを構築でき、事務の効率化が可能になる。最近では、こうした商談が増えている」とした。

 数多くの企業が課題としている、紙を中心とした手間と時間が掛かる非効率な業務を、ブロックチェーンを利用した堅牢な情報連携プラットフォームにより改善。さらに、事務の予定や進捗状況が可視化されていないため、問い合わせが都度発生したり、社内システム間の連携が進んでおらず、ワンストップでやワンスオンリーの実現ができていないといった課題も同時に解決できるソリューションだとした。

 「miyabiを利用した情報連携プラットフォームにより、業務工数を削減し、情報連携の時間を短縮化。miyabiの機能によって、セキュリティを高度化することもできる。本人だけが持つ秘密鍵により、電子署名を行うアクセス管理によるなりすましを防止するほか、個別に暗号化通信チャネル(個別の暗号キー)を構築することで、より強固な盗聴耐性を確保するなど、暗号技術により、盗聴による情報漏えいを防止。時間が保証されたタイムスタンプによるドキュメントとステータスをブロックチェーンに記録することで、改ざんの防止が可能になる。さらに事務の予定や進捗状況を一元管理し、作業のステータスを随時照会することも可能だ」とした。

ブロックチェーンの得意分野は堅牢性
苦手な「高速性」は低コストDBとの連携でカバー

 ブロックチェーンは、セキュアな環境を構築できるという特徴がある一方で、性能やトランザクションでは、既存のデータベースシステムには追いついていないという課題がある。

 「ドキュメント管理など、処理自体に時間が掛かっても構わないといったような、スピードが求められない案件では、ブロックチェーンが最適だが、決済や送金などの高速なデータ反映が求められるものには、対応しにくいところがある。だが、実際には高速処理を求めるケースもあり、miyabiは、そこに大きな特徴を持っている」と前置き。

 「miyabiでは、ブロックチェーンの堅牢な部分を生かしながら、低コストのデータベースサービスを組み合わせることで、高機能なサービスを提供できる。確定したデータは改ざんができず、一部ノードがハッキングされても業務継続が可能な高信頼性を維持しながら、高速処理はオープン系データベースで行うことで、即時応答が必要な処理や、高速で大量のデータを検索処理する場合などにも対応できる。トータルで、既存技術に対して、コスト優位性があるデータベースを構築できるもの」と位置付けた。

地域通貨や「自社通貨」をブロックチェーンで
SDKや運用マニュアル、利用者マニュアルも準備済み

 さらに講演では、同社が提供するコインソリューションについても説明した。

 これは、同社が過去4年間の仮想通貨の決済運用ノウハウと、ブロックチェーン技術を活かしたものであり、容易に自社仮想通貨や地域通貨を発行することができるものだ。

 「明日からの導入が可能なコインソリューションであり、コインの生成、コインのチャージやチャージバック、決済や送金などの活用が可能。開発したスマホアプリを利用して、送金履歴から送金先を選択したり、相手のQRコードを読み取ったり、送金先の検索を行って送金ができる」とした。

 さらに、「仮想通貨と同じ仕組みによって決済が可能であり、本部や店舗側で決済管理をすることができる。利用の際に管理者の承認を必要とするか、必要にしないかといった選択も可能であり、社内コインや通院の記録などでは、管理者による利用者管理を行い、本人確認やメールでの2段階認証の導入を組み合わせることで、不正利用のリスクを下げることができる」と述べた。

 また、「地域通貨コインや大きな経済圏を持つショップコイン、観光地巡りポイントコインなどでは管理者の承認を不要とすることで、誰でもが幅広く利用できる環境を用意できる」とした。同社では、「コインソリューションに関しては、SDKや設定運用マニュアル、利用者マニュアルも用意しており、ブロックチェーンをビジネスに導入できるように支援している」とし、講演を終えた。