イベントレポート

ブロックチェーンでビジネスが変わる

仮想通貨とブロックチェーンの「今」を俯瞰、マネーパートナーズ奥山氏や韓国業界団体理事長などが講演

「ブロックチェーンの分析企業」や「ブロックチェーン3.0」、ブロックチェーンの活用例なども

 4月13日に開催された「ブロックチェーンでビジネスが変わる~技術動向、ビジネス変革~仮想通貨の最新動向から危機管理まで」(主催:株式会社インプレス)では、株式会社マネーパートナーズグループ/株式会社マネーパートナーズ代表取締役社長の奥山泰全氏による特別講演「仮想通貨を取り巻く昨今の状況」が行われたほか、日韓、オセアニアのブロックチェーンに関するトレンドや技術動向に関して、7人の日本および韓国、オセアニアの関係者が講演を行った。

「マネーゲームのために仮想通貨があるのではない」 ~ マネーパートナーズ奥山氏

 奥山氏の特別講演は急きょ、追加で決定したもの。奥山氏は一般社団法人日本仮想通貨事業者協会(JCBA)の会長を務めるとともに、一般社団法人日本ブロックチェーン協会(JBA)と歩調を合わせ、仮想通貨取引に関する自主規制を行うための新たな業界団体設立に向けて中心的役割を果たす人物だけに、その発言にも注目が集まった。

株式会社マネーパートナーズグループ代表取締役社長の奥山泰全氏

 奥山氏は冒頭、4月10日に金融庁が仮想通貨に関する有識者会議を開催したことに触れ、「ここでは、ICOに関する制度を日本で作り上げる必要性とともに、仮想通貨に関してはマネーゲームとなる過剰な投機を抑えつつ市場を健全に育むことが必要であり、金融・投資取引と仮想通貨の実需、決済、利用のバランスを保つことの重要性を指摘する声が有識者から挙がっていた」と語った。同会議には奥山氏も出席したという。

 また、「ブロックチェーンは、インターネット上のレイヤーが群を成すことによって成立する特定ネットワークであり、これが機能するためには、マイニングやエンクリプトを行う『マイナー』などに対して、インセンティブを発生する仕組みが必要である。プライベートブロックチェーンであればインセンティブが必要ない場合もあるが、パブリックブロックチェーンの仕組みを構築するという点では不可欠である」と説明しながら、「仮想通貨とブロックチェーンは切っても切れない関係にある。ブロックチェーン技術がさまざまな用途で使われ拡大していくためには、さまざまな仮想通貨が、円滑に、流動性を保ちながらやりとりされることが必要である。ネットの価値の流通、交換が行われること、法定通貨との橋渡しが、いかに円滑にできるかも大切である。それを実現するために、仮想通貨交換業者の存在が重要視されており、将来の発展に向けてもこの存在が必要である。だが、仮想通貨交換業者というと、マネーゲームの要素が強く出ており、ビジネスマンが電車に乗るたびにレートを確認して、儲かった・損をしたと話しているイメージが強い。そうした状況にしてはいけない。マネーゲームのために仮想通貨があるのではなく、ブロックチェーンのために仮想通貨があり、仮想通貨の市場の健全な発展するために仮想通貨交換業者の存在意義がある。市場の健全な発展を成し遂げるためには、利用者が、安心して取引してもらえるような環境を自主的に作る必要がある」と語った。

 ICOについても言及。「ICOは、イニシャルコインオファリングを語源としているが、資金を調達するための手段や投資して荒稼ぎするイメージが強く、実際、詐欺的なコインが多いのも事実である」と前置きし、「ICOとは何かが定義され、これが正しいルールに則って発行されていく必要がある。株式のような有価証券型や、クラウドファンディングのような貸付型のほか、海外では定着し始めているユーティリティトークンのような実務的な役務と交換可能なトークンがある。発行されているトークンがどれに分類されるのか、どういうルールに則ったものなのか、どんな利用者を対象としたものなのか――ということが分かるように整備される状況が必要である」と述べた。

 また、4月10日の有識者会議では、改正資金決済法においては、交換業者規制を盛り込み、ICOに関するルール整備をしなくてはいけないという共通意見が出ていることも報告した。

 「今後、日本におけるICOの発行形態はこうあるべきだということや正しい発行はこうであるなどのルールが、段階的に整備されていくことになるだろう。国によってはICOはすべて禁止という国もあるが、日本では仮想通貨に関するルールを定め、それを育てる環境を作ることができる。麻生太郎財務大臣は、日本を仮想通貨やICOのデフィクトスタンダードにすると国会答弁で発言した。ブロックチェーンの技術を規制することなく、イノベーションを促進するには、お金に関わる問題などを解決する必要がある。技術促進のためにも、金融面におけるミニマムスタンダードとしての業界ルールの構築は重要なテーマである。これが整えば、仮想通貨、ICOにおいて、日本は、世界の中でも群を抜いてリーダーシップを発揮できる国になる。こうした土壌ができれば、ブロックチェーンでもリーダーシップを発揮できることにつながる」と述べた。

日韓のブロックチェーンに関するトレンド・技術動向は?

 一方、日韓のブロックチェーンに関するトレンドや技術動向に関する講演では、日韓におけるブロックチェーンの取り組みや課題などが浮き彫りになった。

「仮想通貨に対する政府の姿勢に憂慮する部分も」 ~ 韓国ブロックチェーン産業振興協会

 最初に登壇したのが、韓国ブロックチェーン産業振興協会(KBIPA)理事長のキム・ヒョンジュ氏。

 「韓国公共部門でのブロックチェーン事業活性化戦略」をテーマに、ブロックチェーン技術を活用した社会安定と信頼回復のための取り組みについて講演した。韓国にはブロックチェーンに関する業界団体が3つ存在しており、KBIPAにはサムスンやLGなどが参加しているという。

韓国ブロックチェーン産業振興協会(KBIPA)理事長のキム・ヒョンジュ氏

 ヒョンジュ理事長は、「シンギュラリティが、いつかの時点で訪れることになる。2030年なのか2045年なのかは分からないが、それまでに残された時間は少ないと言える。これは、世の中が男性の社会から女性の世界に変わったように、人の時代からマシンの時代に変わることを意味する。例えば、P2Pによる個人間の金銭のやりとりが、人間に代わって機械同士が通貨をやりとりするM2Mの時代が到来することになる。いわば、データ主権時代の実現とも言え、ここにブロックチェーンが重要な技術として位置付けられることになる」と指摘した。

 また、韓国では仮想通貨に対して否定的であったことを示しながら、「昨年、総務大臣が仮想通貨取引所に対する規制強化を発表した。これに対して若い人たちを中心とした国民が反対し、22万8000人がこれに同意したため、政府としての意見を回答せざるを得なくなった。若い人たちは、世界の中で韓国だけが仮想通貨に関して厳しい規制が行われることを懸念した。政府は仮想通貨を強く規制をしないことやブロックチェーン技術の活用を活性化することを示した。若い人たちの声によって政府の考えが変わった。まだ仮想通貨に対する政府の姿勢には憂慮する部分があるが、今年6月には基本法に関する討議をすることになり、年内にはブロックチェーンの活用を活性化させることできるだろう。選挙にあわせて、ブロックチェーンに関する公約を掲げる例が増えることにも期待している」などと語った。

「ブロックチェーン技術を評価・分析、情報共有も」 ~ CryptoLab

 2人目は、ブロックチェーン技術や仮想通貨の分析・評価を行う株式会社CryptoLabを設立した同社代表取締役の大高潤氏。「プロックチェーンテクノロジーを活用したサービス・ソリューションの分析と情報共有について」とし、CryptoLabが果たす役割について説明した。

株式会社CryptoLab代表取締役の大高潤氏

 大高氏は、「CryptoLabは、ブロックチェーンでサービスを構築したり、世界中で活用されているブロックチェーンの仕組みを使いたい、あるいはICOを行いたいと考えている企業などに正しい情報を提供することを目指す。1000以上の項目をもとに分析し、暗号技術や経済的価値を評価。それを認定する役割を果たすことになる」としたほか、「CryptoLabでは教育の仕組みも提供し、メディアと連携しながら情報を広く拡散する機能も提供する」などとした。

 また、「ブロックチェーンは履歴情報の改ざんが困難であり、部分的に情報が消失しても復元が可能という特徴がある。戸籍管理や学籍管理、本人認証などでの利用のほか、データセンターでの利用も可能になる。世界中のサーバー、パソコン、スマホをIDD(Internet Data Decentralization)として利用でき、強固なセキュリティシステムを構築できる」と述べた。

「ブロックチェーン3.0で、処理速度や取引数拡大の課題が解決」 ~ Certon

 3人目は、Certon代表取締役のキム・スンギ氏。ブロックチェーンベースの文章認証プラットフォーム「ASTON」と、電子文章の構築過程にて最適化される多次元ブロックチェーン「x-chain」を活用した「ASTON」ベースの商用化サービスについて紹介した。

Certon代表取締役のキム・スンギ氏

 スンギ氏は、「仮想通貨が個人間でやりとりされたり電子契約に活用される例が出ているが、まだ実用化されている例は少ない。今後は、迅速な処理や取引数の拡大などの課題が解決されたブロックチェーン3.0の時代が訪れるようになることで、実用化はさらに進むことになる。ASTONは、ブロックチェーン3.0を目指す技術になる」と位置付け、さらに、「x-chainは、電子文書の認証プラットフォームである。PCよってデジタル化された文書がインターネットを介して迅速に送信され、さらにクラウドによって簡単に共有されるようになっている。だが、この文書が本当に原本なのか、改ざんされていないかを確認しなくてはならないという課題がある。これを、ブロックチェーン技術を使うことで解決でき、電子文書の正しさを検証するシステムを確立できる。これがx-chainである」とした。

 さらに、「Astonは、文書の改ざんを確認できる認証プラットフォーム、文書を分離保管する技術によって構成されている。保管技術はBaaSidと共同で開発したものであり、さらに生体認証の技術を用いることで、より高い信頼性を実現した」とし、「Astonは昨年、2万5000ETHの募集を行った。4月にはホワイトペーパーを発行し、6月にコアコードを開発し、12月にはメインネットがローンチされる。5月には仮想通貨取引所に上場することになる」などとした。今年中には、4カ所の韓国国内の医療施設に導入され、医療に関する各種証明書の発行に活用されるという。ここでは、スマホの操作によって簡単に保管ができ、文書の改ざんを防ぐことができるという。

「ブロックチェーンとP2P、AIを組み合わせたインフラサービスを提供」~Leadhope Internatinoal

 4人目は、Leadhope InternationalプレジデントのJames Huang氏。

 「Blockchainテクノロジーを活用した次世代インフラ」として、ブロックチェーンとP2P、AIを組み合わせた新コンセプトのインフラサービスについて説明した。

Leadhope InternationalプレジデントのJames Huang氏

 Huang氏は、「優れたサービスを開発するには、しっかりとしたインフラが必要である。AWSは、セキュリティを提供するわけでなく、スペースを提供するものである。その課題を解決するのが、BaaSInfraである。ブロックチェーン技術とインフラを融合して、より安全なネットワーク環境を提供できないかと考えた。BaaSInfraは、Blockchain as a Service for Infrastructureという意味であり、非中央集権型のブロックチェーンの仕組みを利用するとともに、クラウドとP2P、AIも融合することで高い信頼性を実現している」と前置きし、「BaaSInfraでは、非中央集権型のデータバックアップとリカバリーのシステム、P2Pのネットワークをベースにしたセキュリティな環境を提供している。P2Pのハニカムが特徴で、メインサーバークラスターとなるクイーン(女王蜂)ノードを作り、そこに多くのワーキング(働き蜂)ノードおよびソルジャー(兵士)ノードを組み込み、拡張性と信頼性を高めることができる。例えば、ノートごとにハッキングやDDoS攻撃などを防御し、データパケットに異常が発生するとブロックアウトし、ほかのノードにつなぎなおすことができる。これらはAIによってコントロールすることができる」などと説明。「ストレージの分散化、クラウドサービスの分散化、ストリーミングサービスの提供が可能になる」とした。

 また、今後のロードマップについても説明。すでに32のクイーンノードの提供を開始しており、2018年第2四半期にはICOを開始。第3四半期にはICOが完了する予定だという。

「価値の高度化をブロックチェーンが解決」 ~ 韓国ブロックチェーン協会

 5人目として登壇した韓国ブロックチェーン協会(KBA)自主規制委員長であるチョン・ハジン氏は、「Next human Life by Blockchain」と題し、ブロックチェーンで変化する新しいライフスタイルと都市再生について言及。「数年前に、多くの雇用が無くなるなかで、人はどう生きていくべきかという課題を考えた。人間の歴史を振り返ってみると、もともと人間は自分がしたくないことを奴隷にさせてきた。最初は筋肉の代わりを奴隷にやらせた。船も奴隷が漕いだ。それが機械化によってマシンが船を動かすようになった。いまでは記憶の仕事を代わりにやってくれる奴隷も機械化されている。人間は、奴隷にやらせてきた筋力や感覚、知能を機械にやらせるところまできた。だが、エネルギーや価値の高度化はまだ機械にやらせることができていない。なかでも価値の高度化については、ブロックチェーンが解決してくれることになるだろう」などと述べた。

韓国ブロックチェーン協会(KBA)自主規制委員長のチョン・ハジン氏

 一方で「韓国では、2008年の通貨危機によって通貨とは何かというものを改めて考えるきっかけになった。ブロックチェーンは、通貨の価値や考え方を変えるものになる。世の中は生産中心ではなく分配中心、供給中心ではなく需要中心、所有中心から共有中心になる。こうした変化のなかで、ブロックチェーンの登場は新たな大陸が誕生したのと同じとも言え、どの国家の関与を認めない仮想通貨の誕生につながった。これは私はブル大陸と呼んでもいる。国がインフラを作ったり、デフレを作ったりといったこともできない。物々交換のような経済であり、分散経済が作れたと言える」などと語った。

 また、「人類は持続可能性の問題を考えなくてはいけない。人類が自律的に持続可能な先端都市機能を備えた、自給自足の仕組みが必要である。それを実現するシティ(Siti)を確立するにはブロックチェーンの技術が必要である」とも語った。

「ブロックチェーンの交換媒体になりたい」 ~ Hcash

 6人目のスピーカーは、ブロックチェーンプロジェクト「Hcash」のビジネスデベロップメントマネージャーであるAndrew Wasylewicz氏。「新しい価値基準の提供」をテーマに、Hcashの取り組みについて紹介した。

Hcashのビジネスデベロップメントマネージャー、Andrew Wasylewicz氏

 「Hcashはオーストラリア初のパブリックブロックチェーンプロジェクトであり、いくつかの大学と戦略的パートナーシップを結んで取り組んで実現したものである。2017年10月には独自の研究所を設置しており、ブロックチェーン技術を研究。さらにシリコンバレーなどで量子コンピューティングに関する研究も行っている。並行処理が可能になる量子コンピューティングをブロックチェーンに活用したいと考えている企業は多いが、どこが最初にこれをメインチェーンの上で稼働させることができるかを競っているところだ。Hcashは近いうちにこれをいつ稼働できるかを発表できる」とする一方、「Hcashは、ブロックチェーンの交換媒体になりたいと考えている。英語と日本語をしゃべる人がいた場合に、価値ある議論にするには通訳が必要である。ブロックチェーンも同じで、異なるブロックチェーン技術同士をつなげ、コミュニケーションを行うことで、企業や業界、国を超えて、より効率的に、セキュアに利用できる環境を提供したいと考えている。ここでは政府との関連も重要である。いまは政府がブロックチェーンを理解していないため、すべてを規制するといった動きがある。業界全体で政府に働きかけてこれを回避すべきである」と提言した。

「新しい個人認証とセキュリティを実現したい」 ~ BaaSid

 最後に登壇したのが、「BaaSid」のKorea leaderであるムン・インシク氏。「データベースの存在しない新しい個人認証とセキュリティ」として、個人情報の分離、分散を通じたインフラ構築と新しいインターネットビジネスモデルについて紹介した。

BaaSidのKorea leader、ムン・インシク氏

 BaaSidは、ブロックチェーンを活用することで相互認証によって強固な分散環境を実現するとともに、構築・維持コストの大幅な削減が可能になるセキュアなインターネット環境を実現するブロックチェーンプロジェクト。

 インシク氏は、「ブロックチェーンが安全だと言われているのは、公共取引台帳を通じて偽造や変造を防止しているからである。だが、安全なのにハッキングされるのは、データベースが存在するからである。データベースを無くすというのがBaaSidの基本的な発想であり、ハッキングされる対象が無くなることになる」と前置きし、「ユーザーの情報を細かく分割し、この断片をノードに送り、ノードではトークンがトレーディングされると、トレーディングする人たちにウォレットを提供し、ウォレットがノードの役割を担うことになる。これらの情報はインスタントアクセスの手法を採用しており、これにより、インターネットから切り離して管理するコールドストレージのように、接続するたびに認証することになる安全な環境が実現できる。ハッカーにとっても攻撃がしにくい環境となる。また、データを断片化し、ノードに分散するとき、データを二重・三重に複製、重複してデータを分解、分散保存するために、一部のノードのデータが失われても問題なく認証できる」とした。

 なお、「ブロックチェーンでビジネスが変わる~技術動向、ビジネス変革~仮想通貨の最新動向から危機管理まで」の内容は、別記事でも紹介している。