イベントレポート

CEATEC 2024

「発電するガラス」に「責任あるAI」…、パナソニックは「AI&センシング」の社会実装などをアピール

初公開の細胞培養装置やAI活用の冷蔵庫も

ブースのデザインは、パナソニックが創り出す将来のAI技術によって、「人が創る、人に寄り添う」といった観点から、有機的な存在をイメージしたという
「発電するガラス」
「嘘をつかないための独自LLM」

 CEATEC 2024のパナソニックグループブースでは、センシング技術と掛け合わせたAIの社会実装や、サステナビリティな社会の実現に向けたテクノロジーなど、社会課題解決を行う技術、製品、サービスなどを展示。

 初公開となった細胞培養装置や、2026年度中の実用化を目指しているペロブスカイト太陽電池の最新技術なども展示した。また、会期中はブース内のステージで、出展技術や製品、サービスについて担当者が語るセッションを毎日開催している。主な展示内容を、写真で紹介する。

ヒューマンセンシング技術のデモストレーション
社外初公開の細胞培養装置
パナソニックグループブースのエリアマップ

責任あるAIのための「AI倫理原則」製品へのAI実装を推進するマルチモーダル基盤モデル「HIPIE」も

 パナソニックブースは、人々の「くらし」と「仕事(現場)」をより良くするために同社が取り組んでいるAIの社会実装を紹介する「AI&センシング」と、持続可能な社会の実現に向け、地球環境課題や地域課題を解決する取り組みを展示する「サステナビリティ」のコーナーにわけている。

 AI&センシングのエリアでは、ブース正面において、パナソニックグループが取り組む「Responsible AI」および「Scalable AI」を紹介している。

 Responsible AIでは、パナソニックグループのAI製品やサービスを信頼して使ってもらうために、責任あるAI活用を実践するAI倫理原則や、未知の情報に対しても知ったかぶらないAI技術を紹介。また、Scalable AIでは、パナソニックグループの様々な事業や製品へのAIの実装を推進するために、わずかなデータ入力や学習だけで、AIを展開できるマルチモーダル基盤モデル「HIPIE」を紹介した。パナソニックグループの社内データを追加事前学習させた「Panasonic-LLM-100b」も展示した。

「Responsible AI」および「Scalable AI」を紹介
パナソニックグループの社内データを追加事前学習させた「Panasonic-LLM-100b」

AIカメラ付き冷蔵庫を展示「先に使った方がいい野菜」を提示、既に発売中

 AIの社会実装事例として展示したのが、AIカメラ搭載の冷凍冷蔵庫「CVタイプ」だ。すでに発売中の製品で、冷蔵庫の天面に取り付けられた広角および狭角望遠の2つのカメラが、ドアを開けた時に庫内の画像を撮影。アプリの「LivePantry」とつながって、庫内を管理できる。AIによる野菜自動認識によって、野菜の状況を把握し、先に消費した方が良い野菜と、それを用いたレシピを提案する。

AIカメラ搭載の冷凍冷蔵庫「CVタイプ」。上部のカメラで野菜の状況を把握する

マイナンバー連動の医療機関向け顔認証ソリューションもデモ

 顔認証ソリューションは、パナソニックグループが得意とする画像処理技術を活用。顔の特徴を学習するディープラーニングの応用によって、世界最高水準の評価を得ている技術だ。ブースでは、医療機関や薬局向け顔認証付きカードリーダーの実機を展示して、マイナンバーカードによるデモを行っていた。

医療機関や薬局向け顔認証付きカードリーダーの実機を展示

「RGBカメラでは識別困難な色の違い」を判別できる世界最高感度の撮影技術

 センシング技術では、独自の圧縮センシング技術とカメラ開発のノウハウを活用して、動画にも対応した世界最高感度のハイパースペクトル画像の撮影技術を展示した。この技術を使うことで、RGBカメラでは困難な色の違いを識別できる。スキャンレスでハイパースペクトル画像を撮影することができ、わずかな色の違いから果物などの状態を把握するといった使い方が可能。

 また、高精度3Dレーザースキャナ(3DLiDAR)を展示。使用する現場が、広域や屋外でも、高精度に距離や速度を計測することによって、3Dモデリングが可能なことをデモストレーションした。

ハイパースペクトルセンシング技術。RGBカメラでは困難な色の違いを識別する。わずかな色の違いから果物などの状態を把握するといった使い方ができる
ハイパースペクトラル実物フィルタの展示
空間を3Dスキャンできる高精度3Dレーザースキャナ

装着センサー無しで眠気や集中度、感情を推定できる「ヒューマンセンシング技術」

 ヒューマンセンシング技術は、身体にセンサ類を装着せずに、カメラ映像や距離画像センサから姿勢や動作、表情などを非接触でセンシングし、眠気や集中度、感情などの人の状態を推定し、可視化すことができる。会場ではヨガの体験を通じて、カラダとココロの状態変化を時系列で見える化し、お手本との一致度や、姿勢の安定性、身体負担、ココロの変化など、自分の状態を把握することができる。

 距離画像センサで、姿勢や動作を3次元で取得し、独自のデジタルヒューマンシミュレーションによって、身体各部位の負担をリアルタイムで定量化できるため、家電や住宅設備の開発段階で、使い勝手の向上などの用途に活用しているという。

ヒューマンセンシング技術のデモストレーション。ヨガの体験を通じて、カラダとココロの状態変化を時系列で見える化する

「発電するガラス」を展示、ペロブスカイト太陽電池を活用

 サステナビリティのエリアで、来場者の関心を集めていたのが、ペロブスカイト太陽電池だ。同社では、独自の材料技術やインクジェット塗布工法によって、発電層をガラス基板上に直接形成した「ガラス建材一体型ペロブスカイト太陽電池」を開発。2026年度の実用化を目指している。

 「発電するガラス」として様々な建築物への利用を想定。建材として実用サイズとなる1m×1.8mサイズのプロトタイプを初めて展示。会場内の照明で、実際に発電しているところも実演した。

 パナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、「このサイズができるようになると、窓への応用など、現実感が増す。楽しみにしてほしい。どういう用途で生きるのか。建物のどこに設置するのがいいのかをテストマーケティングを通じて見極めていく。以前の太陽光パネルのように売り方にはならない。テストマーケティングによって、どんな規模の事業になるかが見えてくるだろう」と述べた。

ペロブスカイト太陽電池は、1m×1.8mサイズのプロトタイプを初めて展示
実際に発電している様子を紹介。透過度が異なるカスタマイズ対応も可能だ

GXや資源循環もアピール再生プラスティック、植物由来素材の活用が進む

 GX(Green Transformation)のコーナーでは、ドラム式洗濯乾燥機に再生プラスティックを使用していることや、梱包材の発泡スチロールレスの実現のほか、2005年に世界で初めて搭載したヒートポンプユニットによるCO2排出の削減への取り組み、メンテナンスやリファービッシュによる製品の長寿命化への取り組みを紹介した。

梱包材を発泡スチロールからパルプモールドに変更したという
パナソニックは洗濯乾燥機にいち早くヒートポンプユニットを搭載した
ヒートポンプユニットやファンユニットにも再生プラスティックを利用している

 資源循環に貢献する取り組みとしては、3つの事例を紹介した。

 Kinariは、植物由来のセルロースファイバーを高濃度に樹脂に混ぜ込んだサステナブルな素材であり、現在、自治体や企業、地域と連携しながら、廃材から成形材を作る取り組んでいる。
また、100%リサイクル可能なポリプロピレン繊維強化樹脂であるPPFRPを家電にも採用していること、アブラヤシの廃材から作る木材に代わる新しい材料であるPALMLOOPの開発に取り組んでいることも紹介した。

植物由来のセルロースファイバーであるkinariによる取り組みを紹介
100%リサイクル可能なポリプロピレン繊維強化樹脂のPPFRP
木材に代わる新しい材料であるPALM LOOP

 2025年大阪・関西万博のパナソニックグループパビリオン「ノモの国」では、使用済み家電から回収したリサイクル鉄や銅、工場から出る端材および廃材を積極的に活用しているという。

「ノモの国」ではリサイクルした材料を用いるという

「細胞培養装置」を社外初公開、再生医療の普及に向け

 今回のCEATEC 2024で、初めて社外に公開したのが細胞培養装置である。

 展示したのは閉鎖系小型細胞培養装置のコンセプトモデルで、iPS細胞樹立からT細胞への分化誘導を自動化することにより、低コスト、高品質、安定製造を実現。再生医療の普及に貢献するという。バイオは、旧三洋電機時代から進めている領域で、現在も研究開発テーマのひとつとして取り組んでいる

初めて社外に公開した細胞培養装置のコンセプトモデル

 そのほか、パナソニックグループが新たに開始したECプラットフォーム「ハックツ!」もパネル展示で紹介。人と人が助け合い、コミュニティを形成する考え方を起点とした新たなECプラットフォームと位置づけており、生産と消費の社会の仕組みを変える提案としても注目を集めている。2023年5月から神奈川県藤沢市で、2024年9月から東京都世田谷区でサービスを開始している。

 また、くらしコミュニティCPSとして、地域コミュニティの力によって解決できる日常的なくらしのニーズに対して、デジタル技術を通じて地域とのつながり創出を支援する新たなエコシステムを検証している事例も紹介していた。