イベントレポート

CEATEC 2024

OpenAI Japan社長の長﨑氏が講演、「今は、AI活用のための重要な局面」

ChatGPT Enterpriseやo1のポイントも紹介

代表執行役社長の長﨑忠雄氏
会場は満席となり、立ち見も出ていた
25周年特別セッションは開場前から多くの人が並んだ

 25周年の節目を迎えたCEATEC 2024では、開催初日の10月15日に、25周年特別セッション「未来を創るAI:イノベーションと挑戦」を開催し、午前10時30分から、OpenAI Japan 代表執行役社長の長﨑忠雄氏による「OpenAI が拓く未来」と題した講演が行われた。

 2024年4月に、アジア初の拠点として東京にオフィスを開設し、日本での事業を本格化するOpenAI Japanの現在の状況と、今後の方向性などが示された。

 定員500人の会場は立ち見が出るほどの盛況ぶりで、急遽、サテライト会場が用意された。

日本進出の理由は「テクノロジーに対する感度の高さ」

 OpenAI は、2015年に、AIの研究を行う非営利団体として米国で設立。現在では、OpenAIのサービスの直接提供を開始しており、2億5000万人が、毎週、ChatGPTを利用しているという。また、フォーチュン500の92%の企業が利用し、アップルやモデルナ、PwC、ボストンコンサルティンググループ、セールスフォースなどが導入していることを紹介した。

 「OpenAIは、世界中の人たちが、AIを手にすることで、より豊かな生活を送ってもらうための活動をしている。従業員の約半分を研究チームが占めており、GTP-4oなどのAIモデルを開発。この研究成果を世の中に届けるために、ニーズとリサーチを取り持つアプライドチームがあり、事後学習した機能を追加して、Open APIによるAPI、ChatGPTといった製品を提供している。また、これを販売しているのがGo To Marketチームである。3つのチームが有機的につながっている」とした。

 また、日本に拠点を開設した理由について長﨑氏は、「すでに日本では、多くの人たちにChatGPTを利用している。また、日本人が持つテクノロジーに対する感度の高さに魅力を感じており、AIによって、日本の社会をより良くしていきたいと考え、いち早く拠点を開設した」と述べた。

今は「AI活用のための重要な局面」

 長﨑氏が強調したのが、「いまは、AIが持つポテンシャルを活用するための重要な局面にある」という点だ。

 すでに、個人や企業、NPO、政府がChatGPTを活用し、カスタマサービスや財務、人事、法務、情報セキュリティ、マーケティング、セールス、サービス運用、製品開発などに利用していることや、個人のAIを仕事に使っている従業員が78%に達し、AIを事業戦略に組み込んでいる組織が30%に達していることなどを示しながら、「従業員は仕事の生産性が向上することに期待しており、すべての企業がAIを、戦略のなかに取り込もうとしている。また、モデルが飛躍的に進化しており、あらゆるものが変える世界が訪れている。GPT-3では、人が5秒で解ける問題を解決した。GPT-4では、5分でかかる作業を解決しはじめた。モデルの進化によって、いずれは5時間、5日間かけて解いていた複雑な課題が解決できるようになる」と予測した。

 さらに、「AIの活用は、どこからはじめるべきか」と切り出し、「AI戦略をつくる」、「従業員とともに革新する」、「正しい長期的なパートナーを選択する」という3点を提示した。

 「AIが急速に進化するなかで、AIを使いこなすことが企業にとっては重要な要素になる。事業戦略に紐づいたAI戦略を策定することで、成功への確率が高まる。また、従業員が実際に使い、トライ&エラーを繰り返し、AIとの付き合い方を肌感覚で学ぶ必要がある。そして、永続的な関係を築くことができるパートナーを選ばなくてはならない。AIによって働き方は大きく変化する。仕事の生産性が向上し、品質が高まり、従業員主導の問題解決が進むことになる。これにより、個人から組織、事業全体に波及する複利効果が生まれ、横断的なコラボレーションが実現する。企業は、AIに寄り添い、AIを使い続けることが欠かせなくなる」と語った。

 ChatGPTを活用したチャットボットとしての用途に代表される「AIとともに働く組織の構築」に加えて、AIを活用した「業務の自動化」、AIを「サービスや製品に組み込む」といった用途での利用が広がっていることも指摘した。

日本ではあまり知られていない「Enterprise版ChatGPT」「英語圏では、すごい勢いで利用が増えている」

 長﨑氏は、ChatGPTを「誰でも使えるAIスーパーアシスタント」と位置づけながら、「ChatGPTには、Enterprise版が存在しているが、日本ではあまり知られていない。いま、英語圏ではすごい勢いでEnterprise版の利用が増えている。ChatGPT Enterpriseでは、従業員が入力したデータは一切学習に使わないため、企業内に閉じた形で安全に利用でき、自らがデータをコントロールできるほか、企業がアクセス権限を決めることができたり、企業が導入する際に必要とされるセキュリティやプライバシー、コンプライアンスにも準拠したりといった特徴を持っている。さらに、お客様自身がカスタマイズして、業務やサービスに最適化したChatGPTを個別に作ることができる。モデルナでは、社内だけで700のカスタムGPTを開発して利用している」と説明した。

 現在、100万人以上の企業ユーザーが、ChatGPT Enterpriseを利用しているという。

 「OpenAIが開発するモデルは常に進化し、パフォーマンスがあがり、コストが下がる。Open AIとのパートナーシップによって、顧客体験を変えるだけでなく、利益改善もできる」とし、「AIを持った現場の従業員が、現場の生産性を高めることになる。また、大きな問題にハイライトして、AIを活用した方が成功の確率が高まる。カスタムGPTを作る人たちは、感度が高く、好奇心が強いという傾向がある。その人たちの使用例を見つけ出し、横展開することが重要である。OpenAIは、誰もがカスタムGPTを作れることを支援していく」と述べた。

すぐに答える「GPT-4o」、新たな「o1」は熟考GPT-4oはさらに「今後も飛躍的に進化」

 一方、最新モデルであるGPT-4oについても説明。「GPT-4 turboに比べて、速度は2倍、コストは50%削減し、レートリミットが最大5倍になっている。マルチモーダル化により、テキストに加えて、動画、音声にも対応している。新たに搭載したAdvanced Voice Modeでは、人と対話しているような反応をし、対話のタイムラグやアクセント、感情やトーンなどの課題も解消できる。この機能はこれから飛躍的に進化するだろう。AIの可能性がさらに広がる。AIは常に最先端のものを使わないと、AIの利益を享受できない」などと述べた。

 さらに、新たに発表したo1 previewおよびo1 miniについては、「いままでのモデルとは考え方が異なる」と前置きし、「GPT-4oは質問に対して、ものすごいスピードで回答するのに対して、o1は、時間をかけて、人間のように論理的に、慎重に思考し、誤りがあれば戻って訂正し、正解を出せるようにしている。これをリーズニングモデルと呼んでいる。一般的な利用では、GPT-4oの方が優れているが、コーディングや数学、科学においては、o1が優れている。人が長い時間をかけて解決してきた課題や難題を、速く解くための糸口が掴めたモデルである。パラダイムシフトになるモデルといえる」と位置づけた。

 o1では、開発手法が大幅に強化され、とくに、安全性とアライメントにおいて大幅な進歩を遂げているという。リーズニング能力を活用することで、モデルが安全性やアライメントガイドラインに厳密に従うようにする新たなトレーニングアプローチを採用。厳格なテストも実施しており、その結果、ジェイルブレイクテストでは、GPT-4oの22点に対して、o1では84点という高いスコアを達成しているという。また、米国および英国のAI安全研究所とも協定を結び、安全性の事前評価を行っていることも示した。
「o1は、戦略や研究、コーディング、数学の用途においては、Ph.D.レベルの頭脳を持ったモデルである。フィードバックをもとに進化させ、今後、正式に発売していくことになる」と述べた。

新機能「canvas」は「AIと会話をしながら、検索できるコラボレーションAI」

 さらに、新たな機能として、ChatGPTにcanvasを追加したことにも言及。AIと会話をしながら、検索ができるコラボレーションAIと呼ぶもので、「文章の草案をまとめるときに、ChatGPTとやりとりしながら必要な情報を検索できる。将来的には自動化することができる。ChatGPTの使い方が一段階上にあがることになる。ビジュアルインターフェースを刷新しており、ChatGPTの横に表示される。数カ月すれば使えるようになる」と語った。

 加えて、OpenAI APIも進化させており、これらを利用することで、最新モデルの機能を、企業が提供するサービスなどに適用できるようになることも示した。

中長期てな視点でコミットしていく

 講演の最後に長﨑氏は、「OpenAIは、新たなものが完成すると、できるだけ早く市場に投入し、使ってもらい、慣れてもらい、その結果、さらにAIを進化させていくことを目指している。2024年4月に日本法人を設立したばかりであり、サイトも約2週間前に、ようやく一部を日本語で表示できるようになった。いままでは、OpenAIと取引する際には、米国本社と英語でやりとりする必要があったが、日本語で話ができるようになる。AIを社会に実装していく過程において、パフォーマンス、倫理、プライバシー、セキュリティといった面で安心できるように、中長期的な視点でコミットし、お手伝いをしていく」と締めくくった。