イベントレポート

アドテック九州

FacebookのAPAC責任者が語るマーケ論~実名IDがもたらす古き良きバー体験

 デジタルマーケティングのカンファレンス「ad:tech Kyushu 2013(アドテック九州)」が6月5日、福岡国際会議場で開幕した。基調講演に米Facebookでアジア・パシフィック(APAC)地域の責任者を務めるDoug Stotland(ダグ・ストットランド)氏が登壇し、「会話からコンバージョンまで」と題した基調講演を行った。

米Facebookでアジア・パシフィック(APAC)地域の責任者を務めるDoug Stotland(ダグ・ストットランド)氏

 以下、主な発言をまとめる。

Facebookの「Identity」がマーケティングにもたらす影響とは

 Facebookのマーケティングは他のサービスのそれとは違うと言われるが、みなさんが思うほど違いはない。まずは、ソーシャルがもたらす機会が莫大であることを理解する必要がある。マーケティングは対象者が増えるほどチャンスが増える。その点で言えば、日本では1900万人がFacebookを使ってくれていることに期待を抱いている。

 Facebookを活用するマーケティングのユニークな点は、正真正銘の本人であることを証明する「Identity(以下ID)」を踏まえていることだ。

 例えば、とあるバーを想像してほしい。男が入店すると、バーテンダーは男がいつも座る椅子に案内し、お気に入りの曲や飲み物をサーブする。古き良きバーのワンシーンだ。仮に、男はこのバーに入店したことがないにもかかわらず、このような待遇を受けられるとしたらどうだろうか?

 ネットが普及し、物よりも情報が早く拡散する社会では、情報は本物でなければ役に立たない。Facebookではその人が本当に好きな曲や飲み物が分かる。そのため、初めて訪れたバーでも古き良き時代のような待遇を受けられる。FacebookでIDを踏まえて投稿する情報は、このようなことを可能にしている。

マーケターは雄弁な「実名ID」の可能性を刮目して見よ

 私も数年前までは、ウェブサービスを利用する際に偽名のIDを登録していた。匿名を維持することは悪いことではないし、それで長年ことが足りていた。しかし、重要なのは、少なくとも偽名のIDは私について何も語っていないということだ。

 これに対して、Facebookのアカウントは雄弁だ。私がどこで働いているか、どの学校に通ったか、どこで育ったかといったことが分かる。私の写真も掲載されているし、私が好きなテレビ番組、私が過去に訪れた場所もFacebookのタイムラインの一部を構成している。

 同じように正真正銘のIDを持つ友だちも、好きなテレビ番組を公開している。それによって私は、その友だちが好きなテレビ番組を見ようとするだろう。より彼を深く知りたいからだ。

 マーケターであれば、正真正銘のプロフィールで自らを語り、その情報を共有していることについて、非常に多くのチャンスが含まれていることに気付くはずだ。

 もちろん、ただ単純に多くの人にリーチするだけでは足りない。耳を傾ける心境にある人にメッセージを届けることが重要になってくる。日本でFacebookを使っている1900万人は、新しいものを見つけ、自分自身を表現したがっている。Facebookは、何を買うかを意思決定する場所になっているということだ。

 Facebookが大きなチャンスになりうる理由は、1日中いつでもリーチできることだろう。日本では多くの人が職場や通勤中、家庭でアクセスし、1週間で平均4.5回利用している。ネットで10分あれば1分はFacebookを見ている。つまり、友人とのコミュニケーションの舞台がFacebookに移りつつあるということだ。

ソーシャルはあとで付け加える「調味料」ではない

 マーケティング担当者に1つだけ覚えておいてほしいのは、ソーシャルを「調味料」としてマーケティングプランにあとから付け加えるべきものではないということだ。Facebookにはたくさんの人が「本人」として長時間滞在していてチャンスがあふれている。ソーシャルはマーケティングプランの「調味料」ではなく「メイン」に据えるべきだ。

 「ソーシャルは目的でない」ということも注意すべきことの1つ。ファンが増えれば実績が上がるわけではない。マーケティングのKPIは昔から変わらない。FacebookでもmixiでもTwitterでもYouTubeでも、いわゆるソーシャルと呼ばれているもので目的を履き違えると、チャンスを逃すことになる。

 過去1年間でFacebookのマーケティングは大きく変わった。1年前は認知度を高めるためのプラットフォームと思われていた。もちろん、これには意味があり、ケロッグやサムスンといった世界的企業がFacebookを通じてブランドづくりに成功した。

「認知度アップ」から「結果を出す」プラットフォームへ

 その一方で、コンバージョンを高めるためのツールも開発してきた。2013年3月には、ユーザーのサイト閲覧履歴に基づいて広告を掲載するリターゲティング広告「Facebook Exchange」をリリースした。

 2012年9月には、広告主が事前に用意した顧客リストに基づき、自社のFacebook広告を顧客に配信する「Facebook Custom Audiences」を開発。食材宅配のオイシックスは、購入頻度に応じて広告を配信したところ、すばらしい実績を残している。

 2013年1月には、Facebook広告のコンバージョンを測定する「Facebook Conversion Pixel」、3月にはターゲットにしたい顧客と似ているユーザーに広告を配信する「Facebook Lookalike Audiences」をリリースし、いずれも成果を残してきた。

Facebookマーケティングの落とし穴

 Facebookをマーケティングに使うにあたって注意すべきことの1つは、「最後のクリックだけにとらわれるな」ということだ。オンラインマーケティングは、購入決定をする直前のクリックも重要だが、そこに至るまでの経緯を無視してはいけない。

 ある人は商品を購入するまでにYouTubeの動画やテレビCM、Facebookのニュースを見ていたかもしれない。最後のクリックだけに目を向けて投資しては効率は上がらないだろう。マーケティング担当者に言うほどのことでもないが、広告効果が最も高いものに投資することが、最大の結果を生み出す。

 また、Facebookのマーケティングでは「ファンの人数」を意識しがちだが、人数を増やすことを目的にしてはいけない。正真正銘の実在する顧客とつながることに重きを置くべきだ。

(増田 覚)