イベントレポート

新経済サミット 2014

LINEの森川氏やジェリー・ヤン氏などが語る「イノベーション」

 新経済連盟が開催する「新経済サミット」の2日目にあたる4月10日は、9つのセッションが組まれている。そのトップバッターにあたるセッション5では、LINEの代表取締役社長 森川亮氏や、米Yahoo!の創業者で現在はAME Cloud Ventures 共同創業者 ジェリー・ヤン氏、投資家のマット・ウィルシー氏らが登壇。モデレーターを、iモードの父として知られる慶應義塾大学大学院の特別招聘教授 夏野剛氏が務めた。

サッカー型の組織、野球型の組織~LINE森川氏

LINEの代表取締役社長 森川亮氏

 LINEの森川氏は、日本テレビ、ソニーといった大企業に勤めたあと、現在の会社で代表取締役社長に就任している。そうした経験を踏まえ、イノベーションに対する「課題は企業の中にある」と指摘。「大きい小さいは関係なく、(イノベーションを起こせる)メンバーがいることが重要」と語った。

 一般的な企業では事業計画を立て、それに基づいて業務を遂行するが、LINEでは「先の計画はなるべく立てないようにしている」という。この方針は、現在の課題に柔軟に対応していくためのものだ。森川氏は経営をサッカーに例えながら、次のように話す。

 「特に、日本の人は一度計画を作ると、計画通りにいかないと気持ち悪いと思うことがある。一方で、世の中は常に変化していて、その変化についていくことだけに時間をかけてはいけない。僕らは計画が変わっても、変わったという認識すらない。そのことで、速いスピードについていける。組織は常に柔軟に動けるような体制にして、社内ではサッカー型と言っている。日本は野球型が得意で、野球には先攻・後攻や打順があるが、サッカーはフィールドの中で意思決定することが多い。バラバラにやっているのではなく、どれだけ現場のリーダーに任せられるかが重要。」

 こうした取り組みを通じて、インターネットでもイノベーションを起こしていくというのが森川氏の考えだ。「社会に変革を生み出したいが、それは大きいものではなく、“道”のように地道なもの。必ずそこにあって、そのことによって前に進めるインフラに近い存在になりたい」という。

 インフラに近い存在を目指すだけに、目標も高い。現在、LINEは4億ユーザーを突破したばかりだが、森川氏は「5億、6億といき、来年は2桁億を目指したい」と意気込みを語った。

今はイノベーションの黄金時代~ジェリー・ヤン氏

米Yahoo!の創業者で現在はAME Cloud Ventures 共同創業者 ジェリー・ヤン氏

 LINEの経営に基づいたイノベーション観を語った森川氏に対し、ヤン氏はファンドという立場を活かし、現在、どのような分野でイノベーションが起きているのかを解説した。ヤン氏によると、その1つが「ビッグデータ」となり、Hadoopという分散処理を支える技術が有名だ。「Yahoo!出身者がHadoopでビッグデータのビジネスを作るようになった」といい、現在同社のポートフォリオにも加わっているという。また、LINEをはじめとするメッセージングサービスや、エンタープライズ分野でも「大きなイノベーションが見られる」。

 こうした状況を指し、「今はイノベーションのゴールデンエイジ(黄金時代)」と語るヤン氏。「Yahoo!を創業したころや、2000年代半ばの時代とは違う」としながら、「今は絶好の時期で、ビジネスを急速に、少人数で立ち上げることができる」と語った。具体例として挙げられたのが、農地の解析事業で、これもヤン氏が投資している会社だという。

 「投資している会社に、農地にセンサーを配置している企業がある。環境情報をセンサーで読み取り、Hadoopで解析する。従来だったら、何年もコンサルして初めてできたことだ。」

 日本に住んでいた経験もあるヤン氏は、1990年代初めの状況にも言及。「1992年に日本にいたときは、AIが話題だったが、その当時我々が仮説として立てていたものが、今実現しようとしている」とした。

どうしたらイノベーションを起こせるのか

 ウィルシー氏からは、投資家としてのスタンスが紹介された。氏が活躍するシリコンバレーでは、「企業文化の醸成に、あまり時間をかけていない」という状況がある。一方で、「2人がガレージで仕事をしているうちはいいが、200人、2000人となると、政治的な思惑も出てきて、会社の中にサイロができてしまう」。こうしたなか、ウィルシー氏は「エンジェル投資家として心がけているのは、小切手を切ることでもネットワーキングをすることでもなく、課題をどう克服するかのアドバイスをすること」だとした。

投資家のマット・ウィルシー氏
モデレーターを務めた慶應義塾大学大学院の特別招聘教授 夏野剛氏

 では、どうしたらイノベーションを起こせるのか。モデレーターの夏野氏が挙げた、「イノベーションを起こすマインドセットは、どう育成するのか」という質問に対し、登壇した3名は次のように回答している。

 森川氏は「生き方と直結している」としながら、「何かを生み出したい人と享受したい人の両方がいる。享受したい人では、新しいものを生み出せない。生み出したい人を集めるのが重要」と語った。これに対し、マット氏は昨日のセッションを振り返りつつ、失敗を受け入れる重要性を語る。

 「みんな成功はしたいが、企業家になるには相当な失敗もある。優秀な企業家は、悲惨な失敗もしてきている。失敗を克服し、イノベーターやリーダーとして、周りに共有すれば、失敗は問題ではない。むしろ努力しないのが問題と考えなければならない。」

 ヤン氏も、こうした意見を引き継ぎつつ、「スタートアップ企業にはいつも危機感がある」と語り、「大手企業だともう1四半期待てる、来月まで待てるということになってしまう。企業文化の中で危機感を醸成しないといけない」とした。

(石野 純也)