クックパッド佐野氏が語る設立の経緯や今後の展開


 IVS 2009 fall2日目は、「クックパッド 成長の軌跡と今後の展開」と題し、クックパッドの佐野陽光代表執行役がクックパッド設立の経緯や現状、今後の展開を語った。

「日本のあらゆるシーンで料理が楽しくなるきっかけを作りだす」

クックパッドの佐野陽光代表執行役

 佐野氏はクックパッドを開始した経緯について「日本は家庭料理のレベルが非常に高く、山の幸や海の幸、地のものを活かしておいしく食べるノウハウが各家庭にある」とした上で、「今はそのノウハウの伝承が途絶えている」との問題を指摘。「すべての家庭のあらゆるシーンで料理が楽しくなるきっかけを提供することを考えながら、12年間取り組んできた」と語った。

 佐野氏は「料理が楽しくなるにはどうすればいいかを考えた結果、料理は食べるとなくなってしまうのでそれをどこかに保存すればいい、そして料理が楽しくなるには『おいしい」と言ってもらえることが大事だとの仮説を立てた」と、クックパッドのコンセプトを説明。

 「IVSの他の講演を聞いていても、今はインターネット業界でで新しい価値を生み出すためにさまざまな試行錯誤が行われているようだが、クックパッドはどちらかというと生活の中で道具になっているもの」との考えを示した。

 クックパッドの特徴としては「64万品という日本最大規模の投稿数」「ユーザーの98%が女性で、20~30代の4分の1が月に1回は利用する」「アクセスのピークは16時台」で、「献立の意思決定に用いられている」の3つがあるという。

 クックパッドの現状について問われると佐野氏は「まだやりたいことの1%もできていない」とコメント。「こうすれば家庭の料理が楽しくなるのでは、という仮説を実証して事業にするまでに7年もかかってしまった」と振り返ったのち、「今はまだ料理を楽しむきっかけが『おいしい料理ができたとき』『料理を作りたいとき』でしかない。もっとあらゆるシーンで、買い物や移動中、旅行中、もしかしたら銀行に行く時も含め、いろいろなところで料理が楽しくなるきっかけを作りだしたい」との展望を示した。

クックパッドの会員数は816万人20~30代女性の4人に1人がクックパッドを利用利用時間のピークは献立を決める16時

収益は広告、有料会員、マーケティング支援の3つが柱

 ビジネスモデルについては「広告」「会員」「マーケティング支援」の3点を挙げて説明。有料会員については「もともとは有料で始めたサービスで、価値に対して直接お金を頂くというのはクックパッドのDNAでもある」と説明。「インターネットと小額決済の普及が遅れたことで有料会員を収益化するのに時間がかかった」とした上で、「小額決済はまだまだだと思っており、ソーシャルゲームなどが増えることで小額決済のブームが来るのではないかと期待している」と語った。

 マーケティング支援については「食品の会社に特化し、どうすれば自社の商品を消費者に伝えられるかという点で、クックパッドの持つ世帯での食のやり取りに関するデータでマーケティングを支援できる」と説明。「日本の家庭料理は4900万世帯で40兆円と言われており、我々はそういう意味で8兆円程度の意思決定を司っている」との考えを示した上で、キリンビールと行った「ビールが飲みたくなるトマトレシピ」というキャンペーン、郵便番号で利用者をチェックし、地域ごとのレシピに対する需要を可視化する取り組みなどを紹介した。

 クックパッドの企業理念としては「グッドではなくてベストしかやらない」。「クックパッドでは『本当に料理を楽しめるアイディアか』『世界で一番になれるのか』『利益が出せるのか』という3つが、1つでもかけていたらそれはやらない」とコメント。

 「上場してもやりたいことはまだまだあり、100年かけてでもやりたいことをやりきる。そのためには利益を出して成長させる必要がある」とコメント。「辞めようと思ったこともあったが、辞めた1年後を想像すると、結局は同じことをやっていた。そうすると今やりたいことをやれている自分がとても恵まれている」と語った。

マーケティング支援に大きな可能性を期待キリンビールとの流通対策支援の事例クックパッドのユーザー位置を地図上で可視化

 IPOで変化したことを聞かれると、「あまり変わりはないが、サイレントマジョリティと呼ばれる人たちが、クックパッドの名前を口にすることが増えたとは感じていて、Twitterでもクックパッドの発言が増えている」とコメント。また、世界展開については考えてはいるものの、「まずはローカルな部分からしっかり広げていきたい」とし、日本での展開に力を入れる考えを示した。

 IVSのテーマでも多かったソーシャルアプリについては「ヒットしているゲームを見ると食べ物関係が多く、人間の根本的な欲求として食はあると感じた」と感想を述べた上で、「まずはエンタメの世界でソーシャルが活性化しているが、こうしたゲームでソーシャルを体験した人々も、お腹がすいたり移動したりというリアルな生活の中で、ソーシャルな体験を活かしていくのだろう」とコメント。「次のフェーズとして、本当にリアルなものにソーシャルの仕組みを活用していく事例は増えていくだろう」とした。



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(甲斐 祐樹)

2009/11/16 12:22