iNTERNET magazine Reboot

木曜コラム2 #9

詐欺サイトに騙されました。そこには要因があった。

昇天から墜落までの自己心理分析

昨年11月に「iNTERNET magazine Reboot」を発刊したのに引き続き、かつてINTERNET Watchで週間で連載していた「木曜コラム」をRebootしました。改めて、よろしくお付き合いください。

 先月、何と詐欺サイトに引っかかってしまった。インターネットとは最初からの付き合いなので、それなりに気をつけており、これまで不正なサービスに巻き込まれたことはなかったのだが…。振り返ってみると、自分でも笑ってしまうようなお粗末さなのだが、その要因は自分の心理状態にあったようだ。皆さまにもお役に立つと思ったので、恥を忍んでその経緯を報告しようと思う。

 事の顛末はこうだ。

 このコラムでもお話ししたが、私はカメラと天体観望の趣味を持っている。この2つは似てはいるが必要な機材はまったく別もので、それぞれに散財して機材を揃えてきた。天体写真はジャンルとして確立されているので、天体望遠鏡のレンズにカメラを着けることはできるのだが、カメラのレンズに天体望遠鏡のパーツを着けることはほとんどない。しかしこれができると、カメラ機材と天体望遠鏡機材が相互にインターフェイスされ、2つの趣味が融合できてさぞ楽しいだろう、と思っていた。

 最近、この願いを解決してくれるパーツがあることをネットで知った。しかし、残念なことにすでに生産中止になっていて、どこを探しても在庫切れだった。仕事がら、検索には自信があるので徹底的に調べたところ、ついに在庫ありのECサイトを発見した。「やった!」、さすが俺と思った。

 定価15000円の品物だが、10000円程度で販売されていた。最後の1個かもしれないので、すぐに購入手続きをしなければ、と思った。クレジットカード決済はなく、銀行振り込みだけの対応だった。聞きなれないお店でWebの作りも素朴だったが、地方の人が運営している小さなECなんだろうと思い、手続きを進めた。返事はメールですぐに来た。購入した製品名がちゃんと記載されていて、その他の関連情報も書いてあった。ただ、日本語がおかしなところがあり、あれっ、中国人がやっているのかな、とは思った。2通目に着たメールには、振込口座と共に「いまセール中なので、2日以内に振り込むと300円割引」と書いてあった。割引はどうでもよかったが、早いほうがいいと思い次の日に割引料金で指定の口座に振り込んだのだった。

 しかし、1週間経っても何も送られてこない。ちょっとおかしいと思い、メールで問い合わせてみたが返事がない。ひょっとしたら…、まさか…、と疑ったのは10日以上経ってからだった。購入したはずのECサイトはどんなに検索しても出てこず、再三のメールにもなしのつぶてだ。それでようやく目が覚めた、俺は騙されたのだと。

 この顛末を読んで、読者は「バカじゃない」と思われたことだろう。その通りで、見慣れないサイト、日本語がおかしい、割引をうたって早期の振り込みを誘うなど、詐欺サイトと思われる兆候はいくつもあった。さらに、メールを見返してみると、以下のような兆候もあった。

・メールアドレスのドメインが変(@cheapcan.win)
・振込口座名義が個人名になっていて変(ミマチ ミク)
・返信メールに私の名前が書かれていない(親愛なるお客様)

 しかし、私は騙されてしまった。いつもは、サイトの名前やURLを確認し、危なそうな場合は別途、評判を検索して確認していたのにだ。今回に限り、いつもやっているセキュリティチェックをすべて外してしまっていた。思えばそれは、どうしても欲しい「生産中止」の品が見つかったときから始まっていたようだ。「どうしても欲しい」「いま買わなければなくなる」「10000円くらいだし」と思ったし、夢が叶うなら不正かもしれないがそれでもいい、という気持ちさえあったように思う。

 振り込め詐欺のニュースを聞くたびに、何で引っかかってしまうのだろうと思っていたが、今回のことでその心理の一端が分かった気がした。人は、背に腹はかえられない状況になったとき、いつも気をつけていることを度外視して別モードで対応してしまうようだ。

 一般財団法人日本サイバー犯罪対策センターの「詐欺サイト等悪質なショッピングサイトに関する注意喚起」のページに書いてある注意点を見ると、私のケースは見事に当てはまっていた。「背に腹はかえられない」心理状態になったときに気をつけることはとてもむずかしいことだと思う。事前に、これらの具体的な情報をしっかり頭に入れておくことしか、そのモードから目覚める方法はないと思う。

 ちなみに、今回の詐欺サイトの情報は以下の通りで、「悪質ECサイトホットライン」に通報した。

・店舗名:書籍雑貨屋
・メールアドレス:sale@cheapcan.win
・振込口座:ゆうちょ銀行、四〇八店、4983886、ミマチ ミク

井芹 昌信(いせり まさのぶ)

株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。