iNTERNET magazine Reboot

木曜コラム2 #10

やはり日本のITスキルは周回遅れ、ITとは何かの再認識を

昨年11月に「iNTERNET magazine Reboot」を発刊したのに引き続き、かつてINTERNET Watchで週間で連載していた「木曜コラム」をRebootしました。改めて、よろしくお付き合いください。

 今週、ガートナーから、日本のビジネスパーソンはITスキルが先進国で最も低いという調査結果が発表された。米国、英国、フランス、ドイツ、シンガポール、オーストラリア、日本の7か国のビジネスワーカーを対象に、Webによるアンケートで調査した結果だ。

日本のITスキルは最低

 最も顕著な結果は、「デジタル・テクノロジーのスキルに関する自己評価」において、自分のITスキルを「素人」または「中程度」と考えている人が6割近くもいて、7か国中の最低になっていることだ。ちなみに、ワースト2位のシンガポールの36%、ベストの米国の24%と比べると大きく離されているのが分かる。

 その他、「デバイスとアプリケーションの満足度」や「デジタル・スキルを習得するための手段と機会」でも最低となっている。

日本の多くの会社がITを勘違いしている

 ここからは私見だが、日本は、従来から「モノづくり大国」を標ぼうしていて技術者は頑張っていると思う。特に、ハードウェアの技術者にはいまでも一定の評価がある。また一方のユーザーとしては、操作レベルも利用意識も相当に高いレベルにあると思う。たとえば、かつてはパソコンを使いこなし品質向上に貢献したし、ゲーム市場を拡大したし、スマホの評価についても厳しい目を持っている。つまり、製品開発のエンジニアと、その消費者であるユーザーにおいてのレベルは低くないと思うのである。では、低いのはどこか?

 いま起きているIT革命は、IT製品の開発や消費というコンシューマ市場だけではなく、ビジネスの世界で起きているのだ。日本の多くの会社はこのことを正しく認識できておらず、いまだにITを技術者がやること、または特定の製品やサービスのことだと勘違いしているように感じる。いま大事なのはホワイトカラーの領域でのIT理解で、それを活用した売上拡大、生産性向上への取り組みだと思うのだ。

いま必要なITスキルとは

 そもそもITスキルとは何のことなのか。パソコン操作ができること?、エクセルが使えること?、ネット検索ができること? 確かに、それらはITスキルの一部ではある。しかし、それが本質ではないだろう。

 某会社の実話だが、社内調査をしたら1つの業務フローを遂行するのに、合計11回のコピペ(copy&paste)が行われていたという例がある。たとえば、起案者がワードで書いた書類のデータを、ある部署ではエクセルに転記し、ある部署ではフレームメーカーに転記し……そして基幹システムに転記していた。それぞれの担当者は、パソコンが使え、アプリケーションソフトも使えていた。しかし、それらは別々のソフトで行われていたので、自分の手元作業は効率化されても、会社全体としての業務フローで見ると連続性がなく共有されておらず、無駄な転記作業が発生し、ミスの原因にもなっていた。つまり、「個人の作業のIT化」はできても、業務としてのIT化はできておらず、逆に全体の生産性の足を引っ張っていたのだ。

 いま真に大事なのは、ITを「情報処理」に使うことではないだろうか。情報処理というと古い概念のように聞こえるかもしれないが、デジタル機器が超安価になり、マルチメディアになり、ネットワークされたいまこそビジネス現場に必要なスキルである。

 昨年11月に発行した『iNTERNET magazine Reboot』の村井教授のインタビューでも、世界がインターネットでつながったので、次は「処理」の時代だといわれている。情報はデジタルデータになることで、コンピュータで演算することができ、ネットワークで通信することができる。それに加え、この30余年のマルチメディア化技術のおかげで、画像が、映像が、音声がデジタルデータになってきた。つまり、文字情報だけでなく、すべての情報が同じテーブルの上で処理できる。デジタルデータ処理の時代到来だ。ビッグデータ、データサイエンティストやオープンデータなどの「データ」が付いた言葉がバズワードになっているのはそのせいだ。また、昨今のAIやIoTはこれをさらに加速することになるだろう。

 ビジネス現場の具体例でいえば、スカイプなどを利用し会議へのオンライン参加を可能にする。会議の議事録は音声認識ソフトで自動記録し、アーカイブしておく。出張レポートの写真は全員で共有し、ほかの社員が再利用できるようにする。製品売上の集計とレポーティングを自動化し、社内ネットワークで共有する。そしてそのデータを分析し、需要を予測し生産数を制御する。など、いろいろな処理が考えられる。大事なのは、ほかの人や部署や会社などのステークホルダーが「再利用」できるようすることだと思う。場合によっては、そこには消費者やユーザーも含まれる。

そろそろ気づかないと手遅れに

 ITは技術者だけがやることではなく全員がやること。情報システム部門に任せておけば済むという時代は、とうの昔に終わっている。情報システム部門は、基幹システムは設計できても事業システムの要件定義を一人でできるわけではない。事業は現場で起こっているはずだ。ITはコスト削減のためだけにやるのではない。ITは、いまや「xTech」というコンセプトで各産業に浸透し、それぞれの産業で再定義、再発明を引き起こしている(デジタルトランスフォーメーション)。金融産業しかり、メディア産業しかり、農業しかり、交通しかり、物流しかり、である。政府が切望している「働き方改革」や「第三の矢」もITなしに成しえることはできないはずだ。

 政治、行政、マスコミ、経営者など、日本社会をリードする立場にある人たちの新たな気づきが必要だし、分かっている人たちのより積極的な言動が必要ではないだろうか。そろそろ昔の成功体験から抜け出さないと手遅れになるように思う。

井芹 昌信(いせり まさのぶ)

株式会社インプレスR&D 代表取締役社長。株式会社インプレスホールディングス主幹。1994年創刊のインターネット情報誌『iNTERNET magazine』や1996年創刊の電子メール新聞『INTERNET Watch』の初代編集長を務める。