インタビュー
Trelloが新機能追加で目指すものは? Trello共同創業者のマイケル・プライアー氏に聞いた
多機能でもシンプル、さらにデータレジデンシー実現にも最優先で取り組む
2021年3月16日 06:55
「Trello(トレロ)」は2010年にFog Creek Softwareが自社製品の開発向けに開発したプロジェクト管理ツール「Trellis」をベースにして、2011年に「Trello」としてウェブサービス、iOSアプリケーションとして提供が開始された。その後、Trelloを開発する部門自体が2014年にFog Creek Softwareから独立し、「Trello,Inc.」としてソフトウェア企業としてスタートしたが、2017年1月にはオーストラリアのSaaS(Software as a Service)ベンダーとして知られているAtlassian(アトラシアン)に買収され、現在はアトラシアンの1製品部門として運営されている。
そうしたTrelloの製品開発をリードする、アトラシアンTrello共同創業者・責任者のマイケル・プライアー氏がTrelloの新機能の発表に合わせて本誌とのインタビューに応じてくれたので、その模様をお伝えしていきたい。
5つのビューやリンクカードなどの新機能追加が発表されたTrello
Trelloはグループウェアやプロジェクト管理ツールに分類されるウェブベースのソフトウェアサービス(つまりはSaaS)で、トヨタ自動車の効率的な生産方式として知られる「カンバン方式」にヒントを得て開発された掲示板に付箋を貼っていくような感覚で使えるユーザーフレンドリーなプロジェクト管理ツールとなっている。
2月17日にアトラシアンが行なった「Atlassian TEAM TOUR」の中で、Trelloが新機能を発表した。その模様に関しては関連記事『Trelloが大幅に機能を刷新! アトラシアン式ガントチャートとは?』をご参照いただきたいが、従来からTrelloで提供してきたカンバン方式のボードビューに加えて、新しく5つのビューを追加する。
- マップビュー
- タイムラインビュー
- カレンダービュー
- ダッシュボードビュー
- テーブルビュー
これらの追加により、使い勝手が大幅に強化されたというのが今回のTrelloの発表概要となる。このほかにも、リンクカードという新機能も導入され、より機能が増えた。それが今回のTrello発表のハイレベルでの変化と言える。
Trelloに新しい機能は追加していくが、直感的な分かりやすさは残す
プライアー氏は「2020年の2月から起きた世界的なパンデミックで、多くの従業員がリモートワーカーになった。その結果として全ての従業員がオフィスにいるのではなく、SlackやTeamsのようなデジタルツールを利用して接続されるようになった。実際、我々のTrelloも2020年の3月は前年同月比で73%ほどユーザーサインアップ数が増えている」と述べ、いわゆるリモートワークや在宅勤務などの言葉で示されるようなオフィス以外の場所で仕事をするのが当たり前になったことで、Trelloのユーザーも増えていると説明した。
プライアー氏は「しかし、いざリモートワークをしようとした時に多くの従業員は困難に直面した。例えばある企業では129ものアプリを使っていて、従業員がどれが正しいツールなのかを探すのに時間がかかってしまった。IDCの調査によれば3分の1は正しいツールの検索に多大な時間を使っており、2分の1は発見できなかったというぐらいで、まさにサイロ(細分化されすぎ)が発生しており、それがパンデミックで明らかになったと言える。我々がTrelloで目指していることは、そうしたノイジーでストレスの高い環境ではなく、アプリケーションを快適に楽しんで使えることだ。機能は複雑であってはならないのだ」と述べ、Trelloの特徴が、1つのアプリケーションの中でプロジェクト管理の全ての機能がシンプルなインターフェースで利用できることだと強調した。
そのため、今回新しいビューを追加する時にも複雑にならないように注意を払いながら設計したという。「全てのアプリケーションは、新しい機能の導入と複雑性がトレードオフになる。このため、よりシンプルでかつ、カンバン方式のボードビューを補完するようなビューを追加している。例えば、カレンダービューは予定を確認するのに便利なように、マップビューであればセールスチームがセールスに行ったカスタマーのロケーションをビジュアルで確認できる。必要に応じて新しいビューを使っていただければいいので、決して複雑になっているわけではない」と、シンプルで直感的に使えるというTrelloの特徴を維持したまま新しい機能を追加したことを強調した。
また、今回実装された新機能のうち、もう1つの目玉となる「リンクカード」に関しては、「カードの機能をどう強化するか検討してきたが、リンクカードはその最初の実装になる。リンクカードを使うとJiraのチケットをTrelloに貼り付けてビューから見ることができるようにすることができる。今後より多くのサードパーティーのツールをサポートできるようにしていきたい」としており、Trelloとほかのサービスの連携を強化する機能だと言える。例えば、Google DriveのファイルのURLを貼ると、その縮小版などをカードに表示することなどが可能になる。
プライアー氏によればこのリンクカードは最初の一歩で、今後さらに機能を充実させていくという。例えば、現在開発している機能としては、Jiraのチケットをオートメーション化して、Jira側が更新されるとTrello側も更新される、そうしたオートメーションの機能を今後は充実させていきたいということだった。
データレジデンシーの実現は今後の最優先の課題
Trelloがアトラシアンの製品として展開されてから4年強が経過しているが、アトラシアンのメンバーになって良かったことは何かと聞いてみると、プライアー氏は「アトラシアンに買収される前から働いていた従業員の多くはそのまま残って今も働いており、その多くは10年前(※筆者注:Trelloの前身が開発されたころ)からずっと働いている。その点では何も変わっていないとも言える。ただ、アトラシアンの製品になったことでプラットフォームとして進化しており、Jiraなど他のアトラシアンのサービスともよりよく連携できるようになっている。その代表例はSSO(シングルサインオン、一度のログインで複数のサービスを利用できること)で、Jira、Confluenceなどを一度のログオンで利用することができる」と述べ、アトラシアンのメンバーになっても、Trelloの開発チームそのものに大きな変化はないが、Jiraなどとのサービスの連携といった部分で大きく進展したことを示した。
そうしたTrelloの今後の課題については「常にトッププライオリティとして検討しているのは顧客のデータを保存するデータセンターの場所が選択できるようにすることだ。Trelloでは個人ユーザーとエンタープライズユーザーの両方にコミットメントしており、既にFortune 500企業のうち80%に使っていただいている。このため、データの暗号化や米国政府の認証などを既に取得しており、今後もそうしたエンタープライズ向けの機能を増やしていきたいと考えている」と述べ、顧客のデータをどこのデータセンターに置くかという、いわゆるデータレジデンシーに関しては最優先で実現できるように取り組んでいると明らかにした。
特に日本のエンタープライズではこのデータレジデンシーを重視する顧客は少なくない。というのも、データが海外のデータセンターに置かれている場合、何かが起きたとき(例えば裁判になったりしたとき)に日本の法律が適用されない可能性があり、法務上問題があると考える企業が少なくないからだ。その意味で、Trelloがデータレジデンシーの実現を最優先で取り組んでいると表明したことの意味は小さくなく、今後日本でTrelloを導入しようと検討しているエンタープライズにとっては重要なニュースと言えるだろう。