インタビュー

「ひとりのエンジニアが金融機関を作れる時代に」~ブロックチェーンの分散型金融「DeFi」は何を目指すのか~

~Japan DeFi Alliance発起人の田上智裕氏に聞く

 DeFi(分散型金融)を推進する業界団体であるJapan DeFi Alliance(JDA)が2021年2月26日に設立された。9つの企業、団体が参加する。

 日本の株式会社のメンバーがtechtec、HashHub、Fintertech、Stake Technologies、ソラミツ、FRAME00、Fracton Ventures。またDeFiプロジェクトとしてステーブルコインのプロジェクトMaker Foundation、DEX(分散型取引所)などのプロジェクトKyber Networkが参加する。発起人である田上智裕氏に、団体の狙いや、団体が考えるDeFiの価値について聞いた。

金融サービスの「開発の民主化」の側面に注目

――JDA、Japan DeFi Allianceをこの2021年2月26日に発表しました。

[田上氏]現在9つの会社、団体が参加していますが、意見をとりまとめるのはなかなか大変です。基本方針として、「DAO(分散自律型組織)っぽく」投票制で進めていこうとしています。

Japan DeFi Alliance発起人の田上智裕氏

――DeFi(分散型金融)については「マネーレゴ」、つまりレゴブロックのようにステーブルコイン、レンディング、DEX(分散型取引所)のような各種サービスを組み立てて新サービスを短期間で開発できるところが特に注目されていると思います。このDeFiについてどのような見方をしていますか。

[田上氏]DeFiの見方は人それぞれですが、個人的には金融分野の「開発の民主化」が重要だと考えています。

 一個人が金融機関を作ることは、今まで考えられないことでした。しかしDeFiの世界では、一個人のエンジニアが金融サービス、金融プロトコルを作れます。背景として、パブリックブロックチェーンのイーサリアムの上で開発者のエコシステムが形成されたことが大きいですね。開発者が集まり、資金が集まるようになりました。ソフトウェア開発プロジェクトに対して資金が集まっていることが画期的です。

 最近のトレンドとして、イーサリアム以外のブロックチェーンでDeFiが作られ始めています。イーサリアムの手数料が高騰したので他のチェーンに載せ替えていく。もしイーサリアム2.0が正常稼働したときにどうなるか、またイーサリアム互換のブロックチェーンを対象としたプロトコルがどうなるのか、そこも注目点です。NFT(非代替性トークン)の動きもあります。

――JDAという団体がやろうとしていることを教えてください。

[田上氏]今、世界中でDeFiに関係するアライアンスはいくつも立ち上がっています。有名なのはシカゴのDeFi Allianceで、彼らはアクセラレーション(初期段階プロジェクトの支援)に力を入れており、ファンドを作っています。

 大事なことは、DeFiに関わるビジネスの実事例を積み上げていくことです。DeFiに規制が入るのではないか、との見方もありますが、まず事例がないと規制作りも進みません。

 JDAという団体でやろうとしていることは、まずナレッジ共有。セミナー開催などです。次にビジネスマッチング。DeFiに詳しい個人と企業をマッチングする取り組みです。そして政策提言です。

 私は政策提言の場のひとつである「ブロックチェーンに関する官民推進会合」(新経済連盟と内閣官房IT総合戦略室が開催)に呼んでいただいたことがあるのですが、そうした場にDeFiのスペシャリストが不在だったりします。そこを補っていきたい。政策提言の場で、DeFiのスペシャリストが参加できるようにしてきたいと思っています。とはいってもJDAも若い団体です。そこで、すでに政策提言の場に参加している既存団体に協力してスペシャリストを紹介していく形をまずは考えています。

――既存団体とは協調していく形なのですね。規制では、どのような提言が必要だと考えていますか。

[田上氏]誰でも金融サービスを開発できること、つまり金融開発の民主化がDeFiの特徴です。既存の仮想通貨取引所への規制をそのまま適用して本人確認の徹底やライセンス取得を要求してしまうと、DeFiのイノベーションを阻害するおそれがあります。個人的には、特区を設けてイノベーションと規制のバランスを取っていくやり方がいいのではないかと考えています。

議決権をトークン化、DAO的な運営を目指す

――JDAが目指す「DAOっぽい」取り組みについて、もう少し教えてください。

[田上氏]JDAとして、DAOやWeb3.0のような動きをしていこうとしています。まず手を付けたいのはガバナンストークン(投票のためのトークン)です。

――どんな枠組みのガバナンストークンなのですか。

[田上氏]JDAは誰でも参画できるアライアンスで、特別な法人格は持っていません。これは、DeFiプロジェクトの中に、分散型の思想に反することから「管理者が明確に存在する団体」への参加を嫌がるプロジェクトがあったことを反映しています。

 とはいえ、資金を管理するための法人格は必要です。そこで一般社団法人を設立する方向です。誰でも参画できるアライアンスとしてのJDAの下に、資金管理団体としての一般社団法人がくっついているイメージです。

 誰でも会費を払えばガバナンストークンを付与し、理事の選出をはじめとする組織の意思決定に参加できるようにしたいと考えています。個人でも参加でき、会社や団体でも参加できます。会費は、正会員、準会員、賛助会員、個人会員のような区分を設けていくことを考えています。例えば正会員だけが参加できる限定セミナーや、どの会員でも参加できる大規模カンファレンスなどを開いていく。ただし、払う金額の多寡にかかわらず議決権は一人一票です。

 ガバナンストークンは最初はオフチェーン(ブロックチェーン外)で管理します。将来的にはオンチェーン(ブロックチェーン上)で管理したいと考えています。資金の規模としては、開発者を雇い、カンファレンスを開催できるぐらいの資金を集められるといいと思っています。

――トークンは議決権と結びついているのですよね。トークン買い占めのリスクはどう見ていますか。

[田上氏]そこは大事なポイントです。最初はオフチェーンなのでトークンの売買は起きません。また個人も企業も一人一票です。オンチェーンになったときのことは、これから考えていきます。

――トークンはあくまで議決権で、何らかのリターンを約束する訳ではないのですね。

[田上氏]はい。金銭的なリターンを約束すると金商法などの対象になる可能性が出てきます。今考えている枠組みは、会費に伴う議決権をトークンにしたものです。

――「一般社団法人の会員権トークン」なんですね。こういうアイデアは今までにあったのですか。

[田上氏]基本的には自分で考えました。まだまだリソース不足なので(笑)。

――改めて、JDAに参加するメリットを挙げると、どうなりますか。

[田上氏]今までの団体は、会費を払うと情報が得られたり、業界での認知が得られる点がメリットでした。一方JDAでは全員に議決権があり、組織の意思決定に参加できます。これは他の団体にはない点です。その枠組みの中で、先に挙げたナレッジ共有、ビジネスマッチング、政策提言を進めていきます。例えば「こんなセミナーを開くべきだ」とか、「こんな政策提言をするべきだ」という意見を誰でも出して、投票することができます。議論をするためのオンラインフォーラムも開くつもりです。

――誰でも参加でき一人一票ということは、非常に分権的な組織をイメージしているのですね。誰でも参加できるとすると、議論が発散するおそれはありませんか。

[田上氏]そこはいろいろな事が起きるでしょう。そこも含めて、「DAOとはこういうものだ」という事例を作れます。何が起こるか見つけていく取り組みです。

DeFiは世界中の人々に金融サービスを届ける

――DeFiで切り開きたい未来の姿をどのように考えているか、ビジョンを聞かせてください。

[田上氏]金融包摂、ファイナンシャル・インクルージョンがDeFiの大きな目標だと思っています。既存の金融サービスにアクセスできない人が世界中に何十億人もいます。既存の金融サービスは顧客を選びますが、そこから外れてしまう人たちにも金融サービスを届けたい。そういう金融の民主化がDeFiの本質です。

 私はタイのスラム街で2週間ほど生活していたことがあるのですが、そこの人たちは銀行口座を持っていません。水道もなく、水は井戸から汲んできます。しかし全員がスマートフォンを持っていました。明かりの電気代は惜しんでも、スマホの充電はする。そういう人たちが、DeFiの最大のターゲットになっていくと思っています。

――ありがとうございました。