インタビュー

「時間がかかるパワポのグラフ作成」で「時短70%」を実現するツール「think-cell」が日本法人を設立

「think-cell」を利用すると、パワポのグラフ作成にかかる時間を70%削減できるという(出典:think-cell)

 ビジネスパーソンにとって最も時間をとられる作業と言えば、「パワポ作成」(PowerPointを利用した資料=パワポを作成すること)であることは衆目の一致するところではないだろうか。コロナ禍になり、営業先などへの対面のコミュニケーションがZoomやMicrosoft Teamsなどのビデオ会議ソフトを利用したオンラインミーティングに切り替わったことで、パワポ作成の重要性は以前よりも増し、それにかかる時間も増加傾向にあると思う。

 そうしたパワポ作成――特にその中でも、見栄えがよく説得力あるスライドを作成するために必須の「グラフ作成」を、より効率よく行なうツールを提供しているのが、今回紹介するthink-cell(シンク・セル)だ。同社は2002年にドイツで創業したソフトウェアベンダーで、これまでも知る人ぞ知るツールとして提供されてきたが、今年6月に日本法人が設立され、日本での営業などが正式に開始されている。

 think-cellはどのようなツールなのか、同社創設者兼会長のマルクス・ハンバウアー氏にお話を伺ってきた。

自身もコンサルタントだった創業者が「パワポ作成のタイパ」を改善しようと創業

think-cell創設者兼会長のマルクス・ハンバウアー氏(写真提供:think-cell)

 think-cellが日本に正式に上陸したのは今年6月、同社の日本法人が設立されたときになる。しかし、それ以前からも、特に「パワポ職人」と呼ばれるような、PowerPointを駆使して見栄えの良いプレゼンテーション資料を作成するようなパワーユーザーにはよく知られた存在だった。

 ハンバウアー氏は、創業者の1人がPowerPointのグラフ作成ツールに不満を抱いていたのが創業のきっかけになったと説明する。

 「弊社は20年以上前に私の友人2人と創業した会社だ。当時、われわれ3人はコンピューター科学者で、AI科学者、コンサルタント、研究者として働いていた。その中でコンサルタントとして働いていた1人が、PowerPointを駆使して資料を作るときにグラフを作るのがあまりに時間がかかるという不満を感じていた。Microsoftに改善を求めてもあまりいい反応はなく、それなら自分たちで作ってしまえばいいのではないかと考えて、創業することにした。」

 そうした経緯で2002年にthink-cellを創業し、ツールの提供を開始したそうだが、すぐに好評を博すようになり、今でいうところの“サブスクリプション”の価格体系をスタートし、これも成功を収めたという。

think-cellのウェブサイトで公開されている価格体系

 今となっては「Microsoft 365」「Adobe Creative Cloud」など、サブスクリプション型の月額ないしは年額課金の価格体系を採用するソフトウェアはむしろマジョリティーになり、買い切り型のソフトウェアの方がマイノリティーになりつつある。しかし、think-cellが創業した当時(2000年代)はMicrosoftもAdobeも買い切り型のライセンス料金を採用しており、サブスクリプション型に移行を開始したのは2010年代に入ってからだ。その意味では、いち早くそうした料金体系を採用したことも、他のソフトウェアベンダーが消えていった中でthink-cellが長くビジネスを継続できている理由の1つだと、ハンバウアー氏は説明した。

think-cellの最大の特徴は、PowerPointのアドオンとして動作し、標準ツールよりも使い勝手が良いこと

think-cellはPowerPointのアドオンとして動作し、リボンUIから利用することができる(画像提供:think-cell)

 それではthink-cellとは、いったいどういう製品なのだろうか? PowerPointのグラフ作成を簡単にするツールというが、そもそもPowerPointにはグラフを作成するツールは標準で搭載されている。それに加えてthink-cellを利用するメリットは何か? ハンバウアー氏は、そのメリットをこう説明する。

 「ユーザーがプレゼンテーションのスライドを作成するときにグラフを作成しようとすると、PowerPointとExcelを行ったり来たりして、『あれ、そもそもどこを変えないといけないのだったか?』と混乱することも少なくない。迅速に作業ができるとは言いがたい。think-cellはPowerPointの上位レイヤーとして動作し、チャート、レイアウトなど、PowerPointで行なうことを自動的に行なうことが可能だ。think-cellはPowerPoint、そしてExcelのアドオンとして動作し、PowerPoint上でグラフやデザインなどを全て行なうことが可能になるのだ。」

think-cellは、PowerPointおよびExcelのメニューの中から呼び出すことができる(出典:think-cell)

 言葉だけで説明するのは非常に難しいのだが、例えば、Excelで表なりグラフなりを作るときには、Excelのセルにデータを入れ、そこから適当なグラフを作り成形したあとでPowerPointにコピー&ペーストで貼り付けるというのが一般的なやり方だろう。このやり方だと、グラフを編集したいときには、PowerPointのスライドからExcelを呼び出して編集するというややまどろっこしい方法をとる必要がある。

 think-cellでは、それとは逆の考え方でグラフを作っていく。まず、作りたいグラフのグラフィック要素を選ぶ。そしてそのグラフに対して必要なデータを入力していくかたちになる。これらの作業は全てPowerPointで完結するようになっており、そのうえで最後の仕上げとして、より見やすいような形にthink-cellが自動的に整えてくれる流れとなっている。

 従来のExcel的なやり方とは逆に、グラフィックが先にあって、そこにデータを入れて行くという考え方は、創業者の1人がコンサルタントだった経験が反映されているという。コンサルタントがスライドを作成するときには、相手を説得するために数字を分かりやすいように形にして見せる必要がある。それがグラフという武器なのだが、それをより分かりやすく、見栄え良くする考え方が、まさにthink-cellでサポートされるようなグラフの作成方法なのだという。

こうした複雑なグラフを作成するにはPowerPointとExcelを行ったり来たりする必要があるが、think-cellではPowerPointだけ(ないしはExcelだけ)で操作を完結することができ、かつ、こうした見栄えのよいグラフを作成するための操作の多くを自動で行なうことができる(出典:think-cell)

 ほかにもユニークな使い方としては、ウェブサイトにあるようなグラフのデータを、縦横の数値に転換して自分のプレゼンテーションに取り込むという機能がある。当たり前だが、ウェブサイトで公開されているようなグラフには作成した人の著作権がある。出典を明示すれば引用は認められているとはいえ、グラフはより見やすいものを自前で作りたいというニーズがあるだろう。think-cellでは「抽出」という機能が用意されており、グラフの画像から画像認識で数値を自動的に抜き出して数値化することが可能なので、そうしたこともいちいちデータを手入力しなくても実現可能だ。

 こうしたこともあり、think-cellのユーザーには、コンサルティング会社やコンサルタント個人が非常に多かった。そうした、まさに“タイムイズマネー”でスライドを作成しているユーザーにとって、高い生産性で、かつ、短い時間で顧客を説得できるような、説得力の高いグラフを手軽に作れるツールがthink-cellだということだった。

コンサルティング会社の調査によると、標準ツールだけで作成する場合に比べて「70%の時短」実現

 think-cellは、2002年の会社設立から20年たった今年6月に日本法人を設立し、本格的に営業活動などを開始している。日本法人の関係者によれば、日本にはこれまでも、ドイツ本社から直接ライセンスを買っているユーザーが多く、今回、日本法人を設立することになったという。

 「グローバルに展開を開始したのは、2018年に米国にオフィスを設けたのが最初。今回の日本法人はそれに次ぐ海外オフィスとなる。日本のユーザーはドイツのユーザーと同じでデータドリブンのユーザーが多く、think-cellが受け入れられる余地が大きいと考えており、米国に次いで日本にオフィスを設けることにした。」(ハンバウアー氏)

 なお、think-cellのソフトウェア自体は、日本法人ができる前からすでに日本語対応が終わっており、欧米系の言語以外で初めて対応した言語だという(現在では中国語、韓国語、アラビア語など、さまざまな言語に対応済み)。

 ハンバウアー氏によれば、以前はコンサルタントの利用率が高かったそうだが、今は1割以下だという。「コンサルだけでなく、金融、自動車、化学、保険などの多岐なユーザー様にご利用いただいている。昨年から積極的なマーケティングを開始するまでは、クチコミで広がっている状況だったが、今は徐々に多くのユーザー様に認知いただきつつある」と述べ、日本法人の設立により積極的にビジネスを開始したことでユーザー数を伸ばしつつある現状だと説明した。

 最後に、紹介された機能の中で、これは便利だなと感じた機能を紹介したい。

 グラフを作成したあとで、売上高の推移の説明書きをグラフィックで入れたいというニーズはよくあるだろう。だいたいの場合は、PowerPointのグラフィックツールを利用してあとから手計算した数字を追加したりしていると思うが、think-cellの場合はそうした追加の要素もPowerPoint内で指示をするだけでデータから自動で計算して作ってくれる。今まで電卓で計算して、グラフィックや数値をマニュアルで追加していたことを考えると、非常に「時短」を実現してくれるツールだなと感じた。

例えば、この図の右側の「+42%」というバーは、自動で数字も計算して入れてくれる。そうした機能が充実していることがthink-cellの特徴である(出典:think-cell)

 ハンバウアー氏によると、「こうしたさまざまな機能を搭載していることで、コンサルティング会社の調査では、グラフ作成にかける時間を70%短縮できるという調査が出ている」とのこと。まさにタイムイズマネーで生きている“タイパ”(タイムパフォーマンスの略)重視のビジネスパーソンであれば、「時間をお金で買う」という観点で、こうしたツールを導入するのはありだと感じた。