インタビュー
「人間を拡張する電子部品」とは? CEATEC初の「電子部品+ディスプレイデバイス」共同ブースの狙いを聞く
18社が最新技術を展示予定、「未来の技術」などの講演も
2023年10月11日 11:31
10月17日~20日に幕張メッセ(千葉県千葉市)で開催される「CEATEC 2023」。
CEATEC 2023において、主催者の一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)で活動を行っている電子部品部会とディスプレイデバイス部会が、共同企画ブースをパートナーズパークエリア(ホール5)に出展する。
テーマに掲げたのは「人間拡張」。
電子部品メーカーやディスプレイメーカー、大学、研究機関など、18社/団体が共同で出展し、デジタル社会における電子部品とディスプレイデバイスが実現するウェルビーイング社会の可能性を示すという。果たしてどんな展示内容になるのだろうか。
JEITAの電子部品部会、ディスプレイデバイス部会の担当者に、出展の狙いとポイントを聞いた。
「電子部品」と「ディスプレイデバイス」を扱う18社・団体が共同出展
JEITA電子部品部会とディスプレイデバイス部会が、共同ブースで出展するのは、今回のCEATEC 2023が初めてのこととなる。
JEITA ディスプレイデバイス部会ディスプレイデバイス統括委員会の下川浩司委員長(シャープ パネルセミコン研究所戦略推進室室長)は、「ディスプレイデバイスは半導体技術がベースになっており、センサーをはじめとする電子部品でも半導体技術が活用されている。基本的な技術やプロセスは共通する部分も多く、お互いの業界が一緒になって盛り上げていくことができるきっかけになると期待している」と語る。
また、JEITA 電子部品部会プロモーションWGの臼田哲司主査(アルプスアルパイン コーポレートコミュニケーション部渉外担当課長)は、「センサーやアクチュエーター、ハプティクスなどの入出力に関わる電子部品と、出力系で重要な役割を担うディスプレイデバイスが連携することで、垣根がなく連動した世界を見せることができると考えた。日本のハードウェアの強みを訴求する場にしたい」と意気込む。
JEITAがまとめた「電子情報産業の世界生産見通し」によると、2022年の日系企業の電子部品生産額は10兆4106億円の規模を誇り、日系企業の世界シェアは34%に達する。日本の電子情報産業を代表する業界のひとつだといえる。
一方、ディスプレイデバイスは、日系企業の世界シェアが7%に留まるが、1兆2265億円の生産額規模を誇り、そのうちの84%が国内生産という構造を持つ。日本の技術が生かされている分野のひとつであり、今後はカスタマイズの要請が強い車載分野での需要拡大などに注目が集まっている。
まず、電子部品部会では、電子部品メーカーや関連企業が参画し、電子部品業界の成長分野への対応や市場動向把握、共通課題への対応などを行っており、環境対応や標準化活動の取り組みのほか、日本の企業の信頼性技術のさらなる向上、経済安全保障に関する活動、各種啓発活動の推進や電子部品業界のブランド力向上などの取り組みを行っている。
また、電子部品技術の現在、過去、未来を俯瞰する「電子部品技術ロードマップ」を取りまとめており、最新版として第10版が発行されている。近いうちに、日本の電子部品産業を紹介した資料をウェブで公開する予定であり、学生などに関心を持ってもらう活動につなげるという。
一方、ディスプレイデバイス部会は、日本国内に製造拠点を持つディスプレイデバイス企業で構成し、フラットパネルディスプレイを中心とするディスプレイデバイス業界の活性化に向けた活動を実施。
標準化や環境への取り組みのほか、人間工学の観点からの調査や検討も行っている。業界における共通事業の最高意思決定機関として、重要事項の審議や意思決定を行い、関連機関に提言する役割も担っている組織だ。2023年6月には、10年後のディスプレイの姿や必要な技術動向などについて取りまとめた「Display Vision」を発表している。
CEATEC 2023では、電子部品メーカーやディスプレイメーカーも個別に出展しているが、2つの部会に参加する企業が共同で出展することで、個別企業の展示では実現できないような幅広い未来の姿をみせることができる。共同ブースでは、産学連携の展示も行われ、その点でも個別企業の展示とは異なる内容が期待されている。
テーマは「人間拡張」増大していくデジタルデータで人間の能力を拡張するために~
CEATEC 2023の共同展示ブースでテーマに掲げたのは、「人間拡張」である。
人間拡張(Human Augmentation)は、AIやIoT、VRおよびARなどのデジタル基盤とエレクトロニクス技術を用いて、人間の能力や知覚などを増強、拡張させる技術と位置づける。ディスプレイデバイス部会が発行した「Display Vision」のなかでも「人間能力拡張」という表現が用いられている。
「人間拡張」は、加速度的に増大していくことが予想されるデジタルデータを活用し、電子部品やディスプレイなどの先進デバイス技術がデータをつなぎ、適切に人間にフィードバックすることによって、豊かで、多様なウェルビーイング社会の実現を目指するとともに、地方創生や人手不足などの課題解決にも貢献できると定義する。
たとえば、電子部品は、フィジカル空間をセンシングして、リアルの状態をデジタルデータ化する役割を担う。人間では得ることができないデータを収集することができるというわけだ。また、ディスプレイデバイスは、人に対して最も情報量が多いとされる視覚に訴える技術であり、ここでもフィジカルとサイバーを結んだ領域において、人間拡張を支援することになる。
【ディスプレイデバイス】透明ディスプレイパーティションや空中ディスプレイ、「太陽電池+液晶」の次世代発電デバイスも
現時点で公開されている情報をもとに、両部会の共同ブースにおける具体的な展示内容と出展者を見てみよう。
ディスプレイデバイス関連では、透明ディスプレイパーティションや裸眼3Dディスプレイ、3Dホログラムタッチパネル通信機、空中ディスプレイなどの展示が予定されているほか、VRやARを活用した展示も行われることになりそうだ。
「人間拡張という観点でディスプレイデバイスがどんなことに貢献できるのか。そうした観点から、各社の展示が行われることになる。ディスプレイという窓に対して、センサーなどを組み合わせることで、どんな活用ができるのかといったことも見せることができるだろう。日本の先進的な技術と、その強みを訴求する内容になる」(下川氏)と語る。
色素増感太陽電池と液晶ディスプレイの製造技術を融合した次世代発電デバイスも展示されるという。また、透明ディスプレイパーティションでは、受付窓口の対話にも活用できるように、日本語と外国語を透明のディスプレイ上にそれぞれ表示し、外国人観光客への対応を支援するといったユースケースも示すことになる。
【電子部品】足底の錯触覚を提示する装置やニオイセンサー、障がい者支援用の杖型デバイスなど
また、電子部品関連では、センサーを活用して足底の錯触覚を提示する装置や、触覚を提示する杖型デバイスによって、障がい者の行動を支援することができる技術展示が行われるほか、空中に指で絵を描くことができる空中お絵かきや、ニオイセンサー、産業メタバースでの活用事例などが展示される。
「センサーなどの電子部品を活用したユースケースを広く紹介することができるだろう。建設現場で作業員がかぶるヘルメットに装着したセンサーから心拍数などを把握し、作業現場を管理する会社が、遠隔地からこれをモニターすることで、作業者の熱中症などを予防することができる事例も紹介する。また、難聴者向けウェラブルデバイスでは、後ろから人が近づいていることをセンサーが検知し、装着しているベストに組み込まれたハプティクス装置が、近づいている方向や距離を知らせることができるデモストレーションも行う」(臼田氏)という。
そして、ディスプレイと電子部品の組み合わせによって実現する展示も予定されており、静電触覚ディスプレイなどがこれにあたりそうだ。
このように、電子部品やディスプレイデバイス技術を組みあわせることで、人間の視覚や聴覚、触覚、嗅覚、味覚を含めた人間の五感や身体能力などを拡張するとともに、これらをデジタルデータ化し、遠隔操作や自動操縦、感覚器官の向上など、人間の能力を拡張するキーテクノロジーとして、社会実装される未来が、共同ブースでは展示することになる。
また、Society5.0が実現する社会において、フィジカルとサイバー空間が融合するなかで、人間の能力を大きく拡張するために、ディスプレイがヒューマン・マシン・インターフェイス(HMI)としての役割を果たす姿も見ることができる。
コンファレンスも多数実施「技術の未来」や学生向けセッションが多数……
今回の出展にあわせて、コンファレンスも同時に開催する。
「業界の将来性と可能性を伝えるコンファレンスを実施することで、次世代層に向けてデジタルの素養や知識などを幅広く習得する機会を提供する。展示とあわせて、参加してもらうことで業界の理解を深めてもらうことができる」(JEITA事業戦略本部事業推進部の石崎芳典担当部長)という。
共同ブースの展示エリアが、コンファレンスと連動しやすい環境にある点も見逃せない。
電子部品などのテクノロジーにフォーカスして、未来のテクノロジーと次世代のイノベーションを発見するためのステージと位置づける「Tech-Hub」と、未来を担う学生や若手のキーパーソンにスポットを当て、デジタル産業の魅力やキャリア選択に役立つ情報を発信する「Future-Hub」が、CEATEC 2023では新設されたが、この2つの目玉ステージの間に、両部会の共同ブースが設置されることになり、展示とコンファレンスを連動させた訴求も特徴のひとつになる。
Tech-Hubでは、今回取材に応じてくれたJEITAディスプレイデバイス統括委員会の下川氏による「Display Vision~人間拡張を実現するディスプレイ活用機会の拡大~」や、JEITA 部品技術ロードマップ専門委員会の加藤喜文主査による「電子部品技術ロードマップ ~電子部品技術の未来を俯瞰する~」、アルプスアルパインおよび宇都宮大学による「電子部品・デバイス技術が広げる“空中ディスプレイ”の可能性」などのコンファレンスを実施。
Future-Hubでは、JEITA 電子部品部会長でもあるアルプスアルパインの栗山年弘会長による「学生とTOPリーダーとの対話型トークセッション」、電子部品メーカー4社と学生4名による「電子部品メーカー若手社員と学生のクロストーク『電子部品業界で働く』」などの内容が用意されている。
「部品は裏方だが、もっと表舞台に出ていかなくてはならない」
電子部品およびディスプレイデバイスの業界においても、少子高齢化を背景にした労働人口不足は大きな課題だ。若い世代にこの業界に関心を持ってもらうことは重要な要素になる。
また、中国や韓国では、国家政策により、電子部品やディスプレイデバイス市場の拡大に取り組んでおり、日本の企業の強みを再構築する時期にあるのも事実だ。業界全体としても、世界市場における成長戦略を描く必要があり、今回のCEATEC 2023は、それに向けたロードマップを示す機会にもなっている。
下川氏は、「CEATEC 2023に来場する学生たちとの対話を増やしたい。将来のディスプレイデバイス業界の方向性を示し、そこの興味を持ってもらいたい。また、来場者との対話を含めて、将来の成長に向けたヒントを得たい」と語る。
そして、臼田氏は、「部品は裏方の存在だが、もっと表舞台に出ていかなくてはならない。CEATEC 2023に来場する様々な業界の方々に向けても、電子部品の可能性を訴求していきたい。生成AIをはじめとして、ソフトウェアが注目を集めているが、ハードウェアがなければ成り立たない。電子部品はエレクトロニクスを支えている基幹産業である。部品の底力や、デバイスが持つ魅力を感じてほしい」とする。
さらに、「今回展示する技術は、10年後に実用化されるようなものも多い。いまの学生や若手技術者たちは、それが実用化されるときに活躍できる世代となる。将来の技術をどう感じ、どう実装していくかということを考えてもらえる場にしたい」とする。
今回の電子部品部会とディスプレイデバイス部会によるCEATEC 2023の共同ブースは、将来の技術やユースケースを体験できる場であるとともに、業界の底力を感じることができる展示、コンファレンスになりそうだ。
CEATEC 2023を訪れたら、足を向けてもらいたいブースのひとつだ。