さくらインターネット田中社長に聞く「さくらのクラウド」サービスコンセプト
さくらインターネットは11月10日、イベント「クラウドコンピューティングEXPO」のブースにて、IaaSサービス「さくらのクラウド」(仮称)を発表した。12月にユーザー限定でα版サービスを開始するという。
大ヒットとなった「さくらのVPS」に続いて投入されるIaaSサービス。詳細について、さくらインターネット株式会社の田中邦裕社長に話を聞いた。
●「何の変哲もないIaaS型パブリッククラウドを圧倒的なコストパフォーマンスで提供」
さくらインターネット株式会社 代表取締役社長 田中邦裕氏 |
「“何の変哲もないIaaS型パブリッククラウドを圧倒的なコストパフォーマンスで提供する”がコンセプトです」と田中氏は語る。「最近はIaaSでも高性能より高機能のほうに向かう傾向がありますが、原点に戻ってシンプルなサービスを提供します」。
IaaSの基本は、サーバーとディスク容量を必要な量だけ利用できること。さくらのクラウドでも、さまざまなコア数のサーバーとさまざまな容量のディスクのラインナップを幅広く用意し、組み合わせて利用できる。そのため、Webなどのサービスを小さく始めて、必要に応じてスケールアップしたりスケールダウンしたり自在にできる。また、サーバーやディスクの作成、起動と停止など、すべての操作はAPIからでもできる。
料金は「イメージとしては、さくらのVPSよりも少し高い価格からスタートします」と田中氏。これは1台を動かし続けた場合で、サーバーを止めておけばその間のCPU利用料金はかからない。料金はサーバーのCPUとディスクに対してかかり、ネットワークの転送量による従量課金はなされないのも特徴だ。
課金単位は1日。「Amazon EC2では時間単位の課金をサポートしていますが、さくらのクラウドはどちらかというと“すぐに使えてすぐに解約できるホスティング”の要素が強いサービスといえます。たとえば、月末だけサーバーを増やすとか、クリスマス商戦のときだけ増やすとかいった要求に応じていますので、ピーク時にあわせてサーバーを用意するよりコストダウンできます」(田中氏)。
Amazon EC2とのコンセプトの違いは、サーバーでのデータの扱いにも現れている。Amazon EC2では、共通のサーバーイメージから複数の仮想サーバーを起動する。仮想サーバーを停止するとデータは失なわれ、データを保存するには仮想ディスクやクラウドストレージを別途利用する必要がある。
一方、さくらのクラウドでは、自分の仮想ディスクに通常のサーバーと同じようにOSをインストールして利用する。データも通常のサーバーと同じように仮想ディスクに保存され、サーバーを停止してもデータは残る。
なお、α版は、「専用サーバーをソーシャルアプリなどの(クラウド向きの)用途で使っているユーザーさんの中から個別にお話をして」スタートするという。
「さくらのクラウド」は12月にαサービス提供開始 | 「さくらのクラウド」コンセプト |
「さくらのクラウド」はデータセンター事業の1つ。利用方法により、シームレスに利用できる他サービスとの使い分けを提案する | 今後の事業ロードマップ |
●仮想サーバー、仮想ディスク、VMイメージバンクの組み合わせ
技術的な構成としては、KVM技術による仮想サーバーと、iSCSIによるストレージの組み合わせだ。iSCSIストレージの中に用意された仮想ディスクをKVM上の仮想マシンに割り当てて動作する。KVM上の仮想マシンからは仮想ディスクは通常のディスクとして見える。
新しいサーバーのために仮想ディスクを作るときに、既存の仮想ディスクのコピーとしても作る「サーバコピー」機能も提供される。これにより、OSインストール済みの仮想ディスクから必要な台数ぶんだけコピーすることで、仮想サーバーの作成作業が軽減される。起動中のサーバーを止めずにディスクイメージをコピーできるのも特徴だ。
サーバーとストレージのほか、もう一つ重要な構成要素が「VMイメージバンク」だ。VMイメージバンクには、OSインストーラーのCD/DVDイメージをアップロードしておき、仮想的な光学ドライブのように利用できる。
また、自分の仮想マシンで使う仮想ディスクをVMイメージバンクに保存することもできる。VMイメージバンクにマスターとなるディスクイメージを保存しておけば、複数の仮想サーバーを作りやすくなる。
そのほか、停止した仮想サーバーのディスクイメージをVMイメージバンクに保存し、仮想ディスクは消して、停止中のディスク使用料金を削減する、ということもできる。この場合、仮想サーバーを再び起動するときには、VMイメージバンクに保存したイメージから仮想ディスクを作り直せばよい。
なお、VMイメージバンクは当初、無料で提供される予定。田中氏によると、いまのところ有償化はあまり考えていない、とのことだった。「将来的には、自分用のVMイメージバンクのほかに、登録したデータをユーザー間で共有できるようにする共有用のVMイメージバンクも考えています」。
「さくらのクラウド」サービス価格イメージ。「さくらのVPS」より少し上の価格帯での提供となる見込み | 「さくらのクラウド」では、API、サーバーコピー、VMイメージバンクの機能を提供。VMイメージバンクは「さくらのVPS」でも利用できるようにしたいという |
●コントロールパネルやAPIから、リアルタイムに作成や削除
実際に、さくらのクラウドを使うところをデモしてもらった。
仮想サーバーの作成や起動・終了などの管理作業は、「クラウドコントロールパネル」から行なう。仮想サーバーを新規作成するには、条件を選んで設定するだけでよい。
さくらのクラウドを管理するクラウドコントロールパネルのホーム画面。左のメニューに「仮想サーバ」「ディスク」「VMイメージバンク」が並ぶ。 | 仮想サーバーの一覧。「仮想サーバを追加する」をクリックして新規作成。 |
ブロック(データセンター)、CPU構成のプラン、仮想ディスクの初期状態、仮想ディスクの容量などを選ぶ。サーバーの名前のほか、一覧するときのためにアイコンやタグも付けられる。 |
選んだ構成を確認される | 仮想サーバーが作成された。OSのインストールに進む。 |
仮想ディスクを既存ディスクからコピーして作った場合以外は、作成直後はディスクが空の状態なので、まずOSをインストールする。
なお、さくらのクラウドでは、仮想サーバーはすべてDHCPでIPアドレスが割り振られる。サーバーをコピーしたときに、IPアドレスを変更する必要はない。起動中は同じIPアドレスに固定される。シャットダウンしても、1日以内であれば同じIPアドレスが割り振られる。
仮想コンソール画面。OSがインストールされていない状態で起動したため、起動エラーになっている。 | VMイメージバンクからCD/DVDイメージを選ぶ |
インストーラが起動した | ネットワークはDHCPで割り振られる設定に |
「サーバコピー」も見せてもらった。動作中の仮想サーバーのコピーを指定して新しい仮想サーバを作ると、コピーされた仮想サーバーが起動する。
動作中の仮想サーバー。Windows XPのインストール中の状態。 | 新しい仮想サーバーを作る |
ここでは「既存ディスクからコピー」を選ぶ | 作成が終わり、コピーした仮想サーバーを起動。元のサーバーの状態から再起動した場合と同じところから始まる。 |
仮想ディスクは、同じサーバーに複数割り当てたり、削除したりもできる。VMイメージバンクへのコピーもクラウドコントロールパネルからできる。
仮想ディスクを追加する | 仮想サーバーから仮想ディスクの割り当てを解除する |
仮想ディスクをVMイメージバンクにコピーする | ディスクの詳細情報を表示する |
仮想ディスクの容量を変更する | 仮想ディスクを削除する |
APIには、さくらインターネットの会員メニューにある「APIポータル」で認証のためのAPIキーを発行してもらってアクセスする。個別のキーごとに、取得や削除、編集などのアクセス権限を設定できる。
APIにはREST形式でアクセスする。GETメソッドによってサーバー情報をJSONで取得したり、PUTメソッドで状態や容量などを変更したり、POSTメソッドで新規作成したりできる。クラウドコントロールパネルも同じAPI経由して操作しているため、クラウドコントロールパネルと同じ操作はAPIですべてできる。
APIキーを発行 | APIキーが発行された。発行されたキーで操作できる権限も設定できる。 |
サーバー一覧をAPIで取得。結果はJSONで返る。 | URLにサーバーの指定を追加して情報を取得 |
●VPSの上位プランやプライベートクラウドも登場予定
「さくらのクラウド」と「さくらのVPS」の位置づけについて、田中氏は「VPSは個人でも使えることを維持します。クラウドのほうが、同じスペックでも料金が高くなります。伸び縮みの少ない用途はVPSで、スケールアウトが必要な用途はクラウドで、ということになるでしょう」と答える。
さくらインターネットはクラウドを、ハウジングやホスティングなどと並べ、ニーズに応じて提供する戦略として位置づける。「クラウドはあくまでもデータセンター事業内の1サービスです。クラウドは万能ではありません」(田中氏)。
戦略の一環として、さくらインターネットでは、「さくらのVPS」の上位プランを2010年度の第4四半期から提供する予定だ。また、第3四半期中には、専用サーバーでXen仮想化サービス(プライベートクラウド)を提供することも予定している。
クラウドの正式サービス開始時期は明かされなかったが、実現したい機能をいくつか語ってもらった。まず、OSは当初はインストール用のCD/DVDイメージでの提供を予定しているが、できあいの仮想サーバーイメージを用意することも考えているという。
また、VMイメージバンクに保存した仮想ディスクイメージから仮想サーバーを直接起動できる機能も考えているそうだ。この場合、Amazon EC2のように終了するとデータが残らないかわりに、ディスク料金がかからないメリットがある。
そのほか、ゲストOSから使えるシェアデイスクも予定している。さらに、VPSの上位プランや専用サーバーのプライベートクラウドと仮想マシンイメージを相互に流用できることなども考えているという話だった。
以上、説明と実演で、さくらインターネットが予定するIaaSサービスを見た。実際の使用感やサーバーのパフォーマンスなどは現時点ではわからないが、IaaSとしての基本機能に注力したサービスでありユーザーにとって明快なサービスだ。α版やそれ以後で、機会があれば試してみたい。
関連情報
2010/11/11 00:00
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