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アトラシアン、Slackの両CEOが「新しい働き方」について語りまくる。危機への対処、両社の提携にも言及

新しい働き方とは、在宅かオフィスかではなく「従業員の望む形」を実現すること

豪Atlassian(アトラシアン)CEO兼共同創設者のマイク・キャノンブルックス氏(右)と、米Slack Technologies CEO兼共同創設者のスチュワート・バターフィールド氏(左)

 豪Atlassian(アトラシアン)CEO兼共同創設者のマイク・キャノンブルックス氏と米Slack Technologies CEO兼共同創設者のスチュワート・バターフィールド氏によるオンライン会見が8月下旬に開催され、両社が提携に至った詳細などが説明された。この会見は、Slack Technologiesのマーケティング担当者が両氏に質問を投げ掛けるという座談会形式で行なわれ、現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大などにより進むデジタルトランスフォーメーション(DX)についての考え方も語られた。

我々はいま「史上最大の在宅勤務の実証実験」に参加している

イベントはSlack TechnologiesのAPACマーケティング責任者であるジュリー・ウォーカー氏(左)の司会で行なわれた

――COVID-19のパンデミックによるリモートワークに関するシフトに関してどう考えるか?

マイク・キャノンブルックス氏:
 最初の影響は小さくなかった。3月には従業員を自宅待機にさせ、48時間で5000人の従業員が在宅勤務ができるような環境を整えた。元々ワールドワイドに10カ所のオフィスを構えているという分散型のオフィスになっていたので、従業員はZoomでのやりとりに慣れていたし、経営会議をZoomで開催できるようにしていたので状況に対応するのは他の企業よりは容易だった。それに対して他の企業はそうではなかっただろうから移行は大変だったと思う。

 そうした状況を議論するときには、精神面や福祉の観点からどのように従業員に助け船を出すのかが重要になり、それは我々の予想よりも時間がかかった。皆が在宅勤務に移行してから、我々は新しい従業員120人を雇用した。というのも、従業員の中には毎日ノートPCを持ち歩いて仕事している人もいれば、そうではない人もいて、そうした従業員へのサポートが重要になってきたからだ。これらへの対応を最初の1、2カ月で終わらせて、その後は持続的にそのかたちで事業が継続できるようになった。

 そうした我々の学びを共有しようとしてきた。というのも、我々はいま、史上最大の在宅勤務の実証実験に参加していて、そこにはA/Bテスト(筆者注:プランAとプランBという2つの計画を実行して結果を数値化することで、どちらの方がよい計画か調べること)はないからだ。いま、それ(在宅勤務の実証実験)には数百万人もの人が参加していて、いろいろな学びが出てきていると思う。

――スチュワート、Slackはこの課題にどう対処し、Slackの顧客はどう反応したか?

スチュワート・バターフィールド氏:
 このテーマは重要だ。企業にとっても、個々人にとっても影響は小さくない。ごく一部の人にとっては在宅勤務になってもさほど大きな影響はないし、むしろ通勤が必要なくなってうれしいという人もいる。しかし、自宅がそんなに大きくなかったり、シングルマザーやシングルファーザーだったりするとさまざまな課題があるのも事実だ。

 同じことはお客様にも言える。我々には12万を超える顧客がいるが、その中には航空会社だったり、オンライン予約サイトだったり、小売店、食品などさまざまな種類のお客様がいる。中には操業ができなくなったお客様もある。

 ビジネスを持続する上で重要になるのは、ビジネスが1つのツールに依存していないということにある。従来、多くの企業は従業員が会社に来て、対面会議を行なう、そういうことに依存していた。いまでもそうした電子メールや対面会議に依存している企業は少なくなくて、そうした企業では、Slackも、アトラシアンも導入されていない。

 多くの企業はオフィスを持っていて、そこで会議をするために1週間サンフランシスコへ出張することが当たり前だったが、今後はそうしたことは再開することはないだろう。今後は社会的な繋がりが弱いチームが当たり前になるが、それは決して悪いことではないと考えていい、むしろそうなることはとても重要なことだ。そして我々は他の企業と比較してパンデミック前よりも急速に成長している。そうしたことが世界中の企業で今後は当たり前になっていくだろう。

 全体として、我々はうまく状況に適応し、最初の3~4週間で信じられないほどの需要の盛り上がりを目にした。世界中の企業が現在の状況に対処する必要があると考えているからで、本当にこれはウェイクアップコールだ。握手も、イベントも、オンサイトでの会議もなくビジネスを行なうことは、我々にとっても、顧客にとってもチャレンジだが、我々も顧客と同じ課題を抱えているため、それを解決するソリューションを顧客に提案できる。

 アトラシアンはとても素晴らしいソリューションを持っており、マイクと私は毎週のようにそのことについて話をしており、こうした変化に対処できるようにしていこうと助け合っている。

オフィススペースは「新しい使い方」に役割を変えていく

――オフィスもツールであると述べたが、その重要性は下がりつつある。重要なことは前に進むことだが、企業にとっては物理的なスペースをどう活用するかの議論は重要になりつつある。Slackのオフィス環境の変化は、長期的にはどうなっていくと考えているか?

スチュワート・バターフィールド氏:
 オフィスにはさまざまな役割がある。お客様をもてなす場だったり、文化を共有したり、環境への配慮だったり。ただコンピューターを使う場所としてだけなら、価値は高くなく、生産性も高くない。確かにそうした場としてのオフィスを削減したり無くしたりすれば経費は節約できる。もしそれを残すとしたら、何のために残すのか?というのが議論だ。

 すでにマイクが説明したとおり、経営会議もZoomで行なわれるようになっているし、在宅勤務も増えている。今後は、そうした物理スペースは多くの従業員がそろってブレインストーミングしたり事業計画を立案する場所になり、それが終われば従業員は在宅勤務やコワーキングスペースなどに戻る。そうした働き方が普通になると考えている。いままでとは全く異なる労働環境になっていくだろう。

 現在、我々は特定のオフィススペースをアサインした従業員の働き方を調査しているが、多くはオフィスにいないということが分かってきている。従業員は出張に行くし、休暇で旅行にいくし、時には病欠だってあるからだ。約3分の1の従業員がオフィスにいない。このため多くの従業員は、もっと柔軟性高く働けることを望んでおり、今後は85%の従業員がオフィスにいないことになるという調査もあるほどだ。であれば、そのスペースはもっと価値のある他のことに使うと考えるのが自然だ。

「働く場所」と「働き方」は分けて考える

――マイク、アトラシアンは社員が恒常的に在宅勤務できる仕組みを発表した。なぜ、そして、どのようにそうした決断を下したのか教えて欲しい。

マイク・キャノンブルックス氏:
 まず説明したのは、我々はチームと呼ばれるプログラムを持っていることで、それが事の始まりになっている。働き方改革と在宅勤務というこの2つのテーマは一緒にされがちだが、分離して検討する必要がある。オフィスビルに入って対面会議をするときには同じ部屋に入ることになる。例えば、我々はシドニーに3つのオフィスビルを構えているが、会議をするにはそれらのビルを移動する必要がある。そこに行くまでにはエレベーターで下って、別のビルへ行って、またエレベーターで上ってということを繰り返す……それをカレンダーに従って行なっていくというのがこれまでのやり方だ。

 こうしたことを変えるには、まず望む場所で働けるように我々の働き方を変える必要がある。我々の従業員とのコミュニケーションに関するポリシーは非常に単純で、従業員に必要な通知を与えるだけだ。それにより従業員はタイムゾーンとチームの制約と相談して働き方を決めることができる。

 しかしながらこれらのことは標準化されている必要がある。例えば会議ならZoomで行なう、それらのコミュニケーションはSlackで行なう、また、電子メールで行なうかもしれない。そんなふうに異なるコミュニケーションのスタイルがあるので、例えばZoomを使っているとしゃべっていないときにはマイクはミュートにすべきとかすべきじゃないとかあるし、Slackでもいつ返事をしたらよいかという議論がある。メッセージを送ってきた相手はすぐに返事があることを期待するものだし、その逆にユーザーがDNDセッティング(いまは返事できませんよという通知を相手に示す設定)を使いたいと思うのも当然だ。

 このため、我々はどのようにこれらのツールを使いこなすか、新しい常識を構築していく必要がある。いまはオフィスが閉鎖されているが、スチュワートが言ったようにどのように使っていくかを見直ししていく必要があって、スペースの利用割合を変えたり、レイアウトを変更していく必要がある。しかし、仮に従業員がオフィスに行きたいというのであればそのためのスペースを残さないといけないし、自宅勤務をしたいというのであればそうした環境を整える必要がある。サンフランシスコやシドニーの中心部から郊外に引っ越したいならそれに対応する必要もある。

 このため、我々は働き方改革と在宅勤務という2つの取り組みを分離して考える必要がある。

 第1に、我々はどちらもソフトウェアの企業で、デジタルな製品を提供していて、ハードウェアは提供していない。文字通り我々の頭にあるナレッジを提供しているが、従来は席に座って行なう会議をやっていた。しかし、これからはさまざまなデジタルツールを利用して我々の頭脳と頭脳をつないでいって実現していく必要があるのだ。それが我々2社のビジネスだ。その意味で我々は物理的なサンプルを作る必要も無いし、それを見せる必要も無いし、工場も持っていない。我々2社ともそうした尖った企業だから、これができる。逆に言えば、顧客がそうしたことを実現するにはビジネスをフルにデジタル化する必要があるということだ。

 第2に我々はパンデミック前から多くの従業員を抱えていて、「どうやって会社に行ったらいい、いまの状況はいつまで続くのか?」という従業員の疑問に答えないといけなかった。そのときに従業員は家族を抱えていて、仕事のスタイルを変えないといけないのか、あるいは自分のホームオフィスに投資をしないといけないのか、そしてこの状況はずっと続くのかという不安を抱えていた。そのため、我々は従業員が望むものを与えることにした。それがとても重要なことだと考えている

 第3に我々はパンデミックや働き方改革は少し違っていることを説明している。オフィスに行く行かないにかかわらず、学校が閉鎖されて子どもたちの面倒を見ないといけない状況は今後も長い間続くかもしれない。このため、我々は働く場所と働き方は分けて考える必要がある。それが従業員にとって誠実であるということだ。

 5000人も従業員がいれば、それぞれここの事情があり、それぞれ試行錯誤しながら前に進めていて、それがこれまで取り組んできた方向性だ。アトラシアンではそうした我々の経験を外部に向かって公開していきたいと考えている。

月~金で働くのではなく、7日間に40時間働くと考える

――しかし、両社にとってもチャレンジは容易ではない。例えば産業革命は100年前に起こり、まだ継続している。COVID-19は伝統的な週5日間勤務という働き方を変えることになるか?

スチュワート・バターフィールド氏:
 我々はそうした幅を持っているが、変えることがいいことだとも思っていない。しかし、必要があれば従業員に柔軟性を与えることはよいことだ。マイクが言ったように時差の問題は課題の1つだ。あるタイムゾーンに近いエリアに住んでいれば、チームで活動するのに問題は無い。なぜなら、他のチームのメンバーから返事が返ってくるのが12時間後ではなかなか物事はうまくいかない。

 従って、チームはできれば同じタイムゾーンであることが望ましいが、別の考え方をすれば、人々の働き方を12時間でシフトさせていけば24時間営業が叶うかもしれない。そうした柔軟性のある働き方を可能にする、それが企業にとって重要なことだと思う。

マイク・キャノンブルックス氏:
 月~金で働くとは言わないで、7日間に働く時間が40時間あると考えれば良い。ただ、土曜日の夜にすごく働いて誰かと会議をしたいと言っても、誰も応じてくれないだろう。だが、土曜日の夜に資料を作る、それならできるだろう。企業にとっては従業員を信頼して、結果さえ出しているのであれば時間をどう使おうが構わないということだ。

 時差の課題に関して言うと、アトラシアンは太平洋時間で動いていて、例えば土曜日の朝によくミーティングしている。なぜならその時間はサンフランシスコは金曜日の夕方だからだ。その逆にサンフランシスコの人達は日曜日の夕方にシドニーとミーティングしている。シドニーは月曜日の朝だからだ。その意味では稼働日は月~土となるが、従業員には土曜日の午前2時に起きて仕事することが健康的かと言えばそうではない。自分の健康と福祉を自分で管理しながら、結果だけを注視しながら管理する。そういうことが大事だ。

 いまは新しい従業員を雇っており、その人たちに向かって9時~5時で働いてとかつての工場労働のように言うのが正しいか? そうではなく、従業員には持続可能なように働いて欲しいと願っており、彼らがそれをできるように手助けすべきだ。従業員がもっと柔軟に働けるようにすべきなのだ。

会議でパワポを読み上げるのは辞めて、前日に資料を配布して皆で読み込む

――アジャイルの開発方法はテック企業にとっては当たり前になりつつあり、両社ともそうした方法を導入していると思う。従来型の企業が、新しいテック企業などから学べることはなんだろう? そうしたことを真似することすら難しい企業にとってできることは?

マイク・キャノンブルックス氏:
 アジャイルな企業について言えることは3つある。

 1つは、アジャイルの開発プロセスから学ぶことはできるが、同時にそれはミスリードされやすいことも知っている必要があることだ。アジャイル企業にとっては常に方向性は明確にしておかなければならない。

 2つめとしては、その目的地にたどり着く方法は誰も知らないことを理解しておくことだ。以前のソフトウェア開発は仕様書を作り、そこへたどり着く方法を決めてからコーディングを開始してきた。しかし、いまはその方法は通用しない。アジャイルな開発をしている会社はそれを理解している。

 3つめとして、アジャイルな開発をしている会社は常に再評価を行なっているということだ。アジャイルのソフトウェア開発は、従来のような長距離走ではなくて、短距離走のようなものだ。このため、常に再評価を行なうことが重要で、それを行なってから新しい目標を立てて先に進むことが重要だ。

 いまの世の中は四半期の未来すら予想するのが難しい時代だ。疫病の専門家でさえ、未来を予測することは難しい。ビクトリア州で起こったことはいい例だ。3カ月前には都市がロックダウンされるなど誰も予想していなかったが、いまはそれが起きている。このように将来は不確実なので、毎四半期、毎月、そして毎週刻々と変わる状況の中で、学んだことから長期的な方向性を常に修正しておく必要があるのだ。

スチュワート・バターフィールド氏:
 19世紀の産業革命がライン生産を効率化していったように、現代ではナレッジワークが自動化されていっている。例えば、かつてデータベースは我々のビジネスで重要だったが、いまはそれに誰も人を雇おうとは思わないだろう。いまは多くの人がソフトウェアによりビジネスプロセスを変えようとしている。

 ある顧客の例なのだが、最近就任したばかりのCIOが自分のオフィスで何かおかしいと感じていろいろ調べてみると、あるフロアの担当者の仕事がファックスでオーダーを受け付ける業務をしていたことが分かった。しかもそのオーダーフォームというのはちゃんとデザインされていなくて、システムのオーダープロセスと合致してないことが分かってクラクラきたと。

 そんなときにCIOとして何ができるかというと、両方のソリューションの必要性を理解して、コントロール下にある方をうまくやるということだろう。そこをよりサービスオリエンテッドな仕組みに変えたり、複雑なシステムを異なるパーツに分解して自動化できるようにすれば大きな改善が期待できる。

 我々はソフトウェアを作るときだけでなく、ソフトウェアで何を実現するかのときにこうしたことを見ていかないといけない。1980年代にはソフトウェアの会社は1つか2つしかなかった。1990年代には2ダースぐらいになって、2000年ごろには数百に達するようになり、いまは数え切れないほどのソフトウェアの会社がある。いまでも大事なことはビジネスプロセスを解析し、それに適したモデルを採用することだ。そして重要なことは、変化を恐れることなく、必要に応じてツールを変えたりすることに取り組んで行くことだ。

――いまでも紙を利用している企業は少なくない。そうした中でも業務プロセスを変革していくというのはどういうことだろうか? ただ対面会議をZoomに置き換えることなのか……。

マイク・キャノンブルックス氏:
 マット・マレンウェッグ氏の有名な投稿によれば、リモートワークには5つの段階があるという。まず皆がやるのが全て(の業務システム)をGoogleに置き換える。そして会議の一部をリモートに置き換えていく。そこから変化がどのように起きているのかを学習していく……。こうしたことがデジタル化していき、そして回線の帯域幅の問題にぶちあたり、さまざまな経験をしていく……。

 我々の歴史を振り返っても7月1日から新しい期が始まったが、通年であれば120人のリーダーがカルフォルニアに集まってこの期でやるべきことを議論する。いまはそれがオンラインになっている。そのときに5時間会議をするが、1人1人には15分を与えられ……と組んでいくが、では、アムステルダムのスタッフは、横浜のスタッフは……と考えていくと、どのタイムゾーンにするかはなかなか決めるのが大変だ。それを誰かの時間に合わせてしまえば、他のタイムゾーンには合わなくなってしまう。そこで次の対応としては、非同期で行なうことにした。15分の動画を撮り、それを好きなときに見てもらえるようにして、Slack Roomとして提供。見たあとには視聴者が質問できるようにした。そしてその質疑応答のセッションをライブで行なった。こうしたやり方は従業員にも評判はよかった。

 このようにコミュニケーションは常に同期している必要があるわけでなく、正しいツールを使って非同期で行ない、その逆にリアルタイムに行なうときもある。そのように理に適うかたちで変えていけば良いと考えている。

スチュワート・バターフィールド氏:
 マイクの言ってることに付け加えることはあまり多く無いが、彼が言うように、同期、非同期、リアルタイムということにこだわる必要は無いと思っている。多くの従業員は何かが起きているときにその情報にアクセスしようとするが、全員ではない。例えば従業員にコンテンツを見てもらっても、集中してもらえるのはせいぜい25分~1時間程度だ。その意味ではこのことはビジネス全体を変えることではないが、マイクが言ったようにそうした小さなことの積み重ねが大きな変革を促していくのだ。

マイク・キャノンブルックス氏:
 その通りだ。例えば、いまは多くのミーティングが資料を閲覧することから始まるだろう。我々は「それを見せるのはやめて」とお願いしている。みんなそうだと思うが、会議というと、すごく凝ったパワポの資料を作ってしまう。もちろん、我々の経営会議でも長文の資料は用意している。でも、それを読むためにまず10分間確保して、それから議論を始める、そうしたことをしている。

 我々も先ほどの言い方をするなら「同期」なミーティングも多数やっているし、そこには長文の資料も用意される。だが、大事なことはその時々に合わせて正しいツールを使うことだ。私は常にミーティングをこう始めている。「素晴らしい、いま我々は8つの読むべき資料がある。まずそれを読むべき時間をカレンダーに入れて、まずはそれを読み込むことだ。それをしなければ、一体どうやって議論を始めるのか?」って。うちのメンバーはそれを理解してくれ、それが当たり前になっている。そしてそれをいまは会議の前夜に時間をとっているのだ。

Slackとアトラシアンの提携は「顧客のメリットを最大化」するために

――そうしたツールを選ぶということはとても重要だと考える。先週、Slackとアトラシアンは強力なパートナーシップを発表した。この2社のパートナーシップはとても重要なものか?

マイク・キャノンブルックス氏:
 もちろんだ。我々は数年前からパートナーシップを結んでいる。数年前に私たちは2.0を発表し、Slackとアトラシアンの統合やより強力な接続性を実現してきた。例えば「Trello」(筆者注:アトラシアンが2017年に買収したタスク管理ソフトウェア)を使い始めたら、それをSlackに統合することができるようになっている。両社は協力して顧客がよりよく両社のサービスを利用できるように常に協力しているのだ。正確な数字か自信は無いが、両社のサービスを同時に使っているユーザーは百万のアクティブユーザーがおり、すでに多くのユーザーが両者を同時に利用している。

――Slackの側はどうか?

スチュワート・バターフィールド氏:
 非常に重要だ。例えば人間が決定を下さなければならない何か起きたとする。だいたいはシステムのエラーだったり、バグだったりするが、ミーティングの前にそれを文章にまとめないといけない。

 それは在庫管理だったり、アルバイトの退勤管理かもしれない。言い換えれば、それらに異なるシステムを使っているかもしれないということだ。そうしたサービスを提供するソフトウェアベンダーの数は増え続けており、その全てをカバーできるソフトウェアベンダーなどいない。このため、相互接続性が何よりも重要になっている。Slackがアトラシアンと接続することで、アトラシアンの製品群を我々のユーザーが利用することが可能になり、利便性が向上する。それによりワークフローの使い勝手はさらに拡張していく。

 例えば、HRのシステム、人事のオファーレターのためのDocuSign、特別なスケジューリングソフトウェアなどがそれぞれに接続して従業員が簡単にアクセスできるようにする。アトラシアンと接続することで、Slackだけではできない何かができるようになる。それは価値があることだ。

――それは製品の統合であり、2つの会社のパートナーシップでもあるわけだ。Slackとアトラシアンは長期間にわたりパートナーとして活動しているが2つの会社のパートナーシップのコアとなる部分は何か?

マイク・キャノンブルックス氏:
 それは若干の哲学的な話になるが、2社の製品は接続して利用するときに共通点が少なくない。本来、2つの異なるツールを利用する場合には、その連携には調整が必要になる。しかし、我々の製品はそこの連携がうまくいくように調整されており、それが強みを生み出している。何か困ったときにはSlackチャンネルに行って使い方を学ぶことができる。

 本当に協調して動くことは難しく、特にマシンの数、ツールの数が増えたりすればなおさらだ。しかし、それでも従業員同士がお互いに効率よくやり取りをさせる必要があるが、ボタンを押せば使える、そういうものじゃない。その先どうするかは人間が調整しないといけない。そのためには、複数のツール間で自然な連携を実現しないといけない、哲学だけでなく実際に動作するように、だ。それは人間と機械を接続するようなもので、ロボットにより構成されている工場の中に「どうやって人を置いていくか?」ということを考えるようなものだ。

 1つの機械が壊れても、その機械を直す機械はない。それと同じように、人間、コミュニケーション、コラボレーションを人間と協調して動かないといけないのだ。

――今回の提携ではあなた方2人の関係が重要なように見える。あなた方2人のリーダーシップは常にオープンで透明性があり、非常に情熱的だ。両社が提供するツールはサイロ(筆者注:組織内がさらに細分化され、その維持が目的となること)を破壊する。そうしたリーダーシップはツールに対して影響を与えるか?

スチュワート・バターフィールド氏:
 どちらも弁証法的なプロセスだ。だが、答えはイエスだ。我々のパートナーシップはうまく行っている、非常にうまく行っていると言っても良い。マイクとの会話で興味深いことは、ソフトウェアの未来に関することが50%以上を占めていることだ。それは遠い未来に向かって何ができるのかの可能性やマインドセットについての議論だ。そして我々は競合していない、それゆえに良い関係を容易に築けている。だが、仮に競合していたとしても、それはそんなに問題では無かった。なぜなら重要なのはお客様にとっての価値なので、それがあれば一緒にやれただろう。ただ競合しているから統合しないというのは、お客様の誰も望んでいない。

マイク・キャノンブルックス氏:
 50%以上というのはその通りだ。起業家たちと我々の親しい友人たちのグループ、そして我々が属している世代にとってはそれをなんて呼ぶかはよく分からないが、同じような考え方をしていて非常に近い。以前もっとオンラインになることでできることがあるんじゃないかという議論をして、異なることをトライしてきた。しかし、ソフトウェアが今後はSaaSになっていくという点で同意し、それそれがターゲット市場が異なる別のソフトウェアをそれぞれに構築してきた。

 エンタープライズアプリケーションのSaaS化の未来は、より多くのコラボレーションの可能性を秘めていると考えている。それは新しいタイプのリーダーがビジネスプロセスをどう定義するということだ。それらは同時並行的に起こり、古いタイプのエンタープライズソフトウェアとは違う考え方だ。我々は異なる種類の企業によるパートナーシップを構築しようとしている。そしてこの先登場する新しい企業も異なる考え方で自分たちのツールを提供していくだろう。それらの企業とも同じようにやっていく、そして少しずつ進化していく、それが世界にとって大きな進化になる。

在宅勤務にせよ、オフィス勤務にせよ、大事なことは「従業員の望む形」で働けること

――アトラシアンがシドニーの中心部に構えているオフィスはどうするのか、すでに決めているのか?

マイク・キャノンブルックス氏:
 我々はすでに方向性は決めている。新しい不動産契約をキャンセルするのは簡単だ。しかし、それを実行すべきなのかと言えばそうではない。多くの従業員にとってオフィスは重要だ。そして、中には在宅勤務で十分だという従業員もいる。これは従業員にとってのチョイスなのだ、そしてそのチョイスがあるということが当たり前のことなのだ。オフィスに来たい人は来ればいいし、そうでなければ来なくてもいい。どっちの従業員にも「サービス」を提供する、そういうことだ。

 その意味では今後、オフィスはコワーキングスペースのようなイメージになっていくだろう。そのためにオフィススペースを確保し、会議室を確保していくということだ。そのために4000人の人が働けるスペースをシドニーに準備する。それまでには在宅勤務を希望するユーザーも増えているだろうが。

 オフィススペースの活用に対する考え方はこれまでとは違うかもしれない。しかし、在宅勤務希望にせよ、そうでないにせよ、従業員が望む働き方ができるようにすることが大事だ。

――スチュワート、あなたは以前、企業にとって難しい選択に迫られる状況があると言いました。人道的な措置と財務の問題の間で難しい判断に迫られるときがあると。現在、経済的に厳しい状況が発生しつつあるが、福祉はあなたのビジネスにとってどの程度重要か?

スチュワート・バターフィールド氏:
 何が贅沢かということに関してはとても素敵なデビッド・パッカード氏(HPの共同創業者)の名言がある。人材を雇いすぎたり、多くのリソースを持ちすぎたりすることが企業の死につながっていると。十分リソースを持っていない組織、それはキャッシュフローだったり、資本だったりが十分でないと、従業員にそうしたチョイスを提供することができない。なので、ちゃんとそうしたことを提供できる程度に従業員の数を減らすことを検討しなければいけないかもしれない。

 しかし、従業員に提供するものや経費を減らすというのは愚かな選択だ。それは次の四半期、来年、そして今後数年の業績として跳ね返ってくる。

――最後に今回の講演を聴いているビジネスリーダーたちに実用的なアドバイスをお願いしたい。

マイク・キャノンブルックス氏:
 ビジネスリーダーであれば、その答は自らのビジネスの中にあると言いたい。現在のような不確実な時代には、スチュワートが言ったようにこの事態に対処する脚本は用意されていない。大事なことは、正直になって答なんて知らない、これをどう対処したらいいか分からないと言うことで、その上でオープンに答を考えていく、そういうことじゃないかと思う。

 我々の社内でもさまざまな試行錯誤を繰り返していて、別の事業部も含めてその成果をシェアしている。ある日それが「それはいいアイデアだ」ということになることもあるし、違う方向に行ってみようということになることもある。ほとんどの企業は、すでに他者が限界を超えていっているのを真似ようとはしていない。しかし、いまこの不確実な時期に従業員はやる気に満ちており、彼らを信頼すると、むしろ新しい何かを考えて、企業が生き残るために必要なことを実行してくれる。そうした私の話を聞くよりも、自分の社内の話を聞くところから始めてみるのがいいのではないだろうか。

スチュワート・バターフィールド氏:
 私の答は、その質問の中にあると思う。正直に言って危機を無駄にしてはならない。我々の人生には限りがあるので、変わり続けることが最も低コストだ。こうした危機の中では人々は変えることを怖がらない。それまで非効率だったことを、顧客のために変えていけば良い。

 それが実験的な変化なのかそうでないのかに限らず、誰もがそのことを受け入れてくれると思う。もちろん危機はいいことではないが、それでも他の方法では得られない機会でもある。そしてその瞬間はあまり長くない。