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15モード光ファイバーで増幅中継伝送技術を確立し、大容量伝送距離を1001kmに更新。NICTが発表

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は5月23日、同機構フォトニックネットワーク研究室を中心とした国際共同研究グループが、15モード光ファイバーで初の増幅中継による、273.6Tbps、1001km(およそ東京-札幌間に相当)の伝送実験に成功したと発表した。大容量・多モード数のモード多重信号の増幅中継伝送技術を確立でき、今後もさらなる大容量化、長距離化が期待できるとしている。

 現在広く普及している光ファイバーはシングルコア(光を通す「コア」と呼ばれる部分が1本)、シングルモード(コアの中の光の経路が1本)だが、増大し続ける通信量に対応するため、マルチコアやマルチモードの光ファイバーの研究が進められている。これまでにNICTでは、15~55モード光ファイバーを用いた大容量伝送や、15モード光ファイバーによる48.8kmの伝送の実証実験に成功している。しかし、より区間の長い陸上通信インフラで光ファイバーを利用するには、伝搬中の信号減衰を途中で保障するための、増幅中継が必要だという。

 従来、モード数の多い多重信号は、モードごとの信号の分離と従来型の光増幅器による並列増幅を行った後、モード多重をして中継する増幅中継伝送システムが必要で、加えて大容量伝送のためには、広い波長帯域の利用と、波長チャネルごとの信号強度調整も必要だった。

 それでも、マルチモード光ファイバはモードごとの光信号の伝搬時間が異なり、距離やモード数に応じてその差が蓄積することから長距離の伝送は困難で、これまでに報告されたモード多重増幅中継伝送のモード数は、ほかの研究機関による10モード、1300kmが最大で、周波数帯域は約0.14THzまで、伝送容量は4.13Tbpsだったという。

モードごとの伝播時間の差を抑制する増幅中継装置を使用

 今回の実証実験では、モードごとの信号の分離と従来型の並列増幅を行うのでなく、NICTが新たに構築した15モード増幅中継伝送システムと送受信システムを使用した。これと、国際共同研究グループが製作した15モード光ファイバーとモード合波器/分波器(モード多重化と分離を行う装置。実証実験で使用したものは小型・低損失・高精度を実現できる「多重反射位相板」を用いていることが特徴)を利用したという。

 これらの装置により、モードごとの伝送時間の差が蓄積することを抑制するためにモード多重伝送技術で研究されている方式の1つである「拡張巡回モード群置換技術」を15モード用に発展させ、中継点ごとにモードの乗換えを行った。具体的には、遅延の少ないモードを経由してきた信号と多いモードを経由してきた信号を中継点で載せ替え、これによって、従来の方法よりも、受信端に到達したときのタイミングのずれを抑制している。

画像上(a):15モード増幅中継とモード乗換えのイメージ/画像下(b):15モード増幅中継伝送システム
伝送距離と、モード多重信号間の伝搬時間差との関係

 今回の実証実験では、C波長帯における184波長の偏波多重16QAM信号を15モード多重し、1区間あたり58.9kmの15モード光ファイバーを17回周回させた後、高速な並列信号受信によって全モードの信号を一括で受信し、MIMOデジタル信号処理によってモード間の信号干渉除去に成功したという。過去の15モード多重伝送と比較すると、伝送距離が20倍以上、伝送容量×伝送距離では10倍以上となった。

15モード光ファイバ増幅中継伝送システムの概略図
15モード以上のマルチモード光ファイバーに関するNICTの成果

 NICTでは、今回の実証実験での増幅中継技術や、同時期に開発した結合型19コア光ファイバーなどにより、将来の大容量・長距離光通信インフラの実現へ向けた技術開発が大きく進展したとしており、今後は増幅中継システムの並列数をより増やし、コア数の大きい結合型マルチコア光ファイバーや、モード数の大きいマルチモード光ファイバーでの中継伝送を可能としていくとしている。また、結合型光ファイバーによる長距離化や、波長帯域の拡張による大容量化の実証にも取り組むとしている。

 なお、本実験の結果の論文は、2023年3月5日~9日に開催された、光通信技術に関する世界最大の国際会議OFC2023(Optical Fiber Communication Conference & Exposition)で最優秀ホットトピック論文(Postdeadline Paper)として採択された。