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テレワークでも机がつながっている感覚――身体性コミュニケーション技術で振動や鼓動も伝達

NTTとパーソルが「はたらくWell-being」の共同実験

 日本電信電話株式会社(NTT)とパーソルホールディングス株式会社は、「はたらくWell-being」(はたらくことを通して、その人自身が感じる幸せや満足感)に関する共同実験を開始する。リモートワークであってもほかの人とつながることでWell-beingの状態を保つことを主眼に置いている。

NTT社会情報研究所の渡邊淳司氏(上席特別研究員)
パーソルホールディングスの大場竜佳氏(グループ人事本部 本部長)

 共同実験に関するオンライン記者発表には、NTT社会情報研究所の渡邊淳司氏(上席特別研究員)とパーソルホールディングスの大場竜佳氏(グループ人事本部 本部長)が出席。実験を実施した背景として、情報処理学会の調査結果が示された。その中で「在宅勤務を実施する前後の孤独感と不安感の変化」について、「在宅勤務を実施したあとの方が特に不安感が増している」(渡邊氏)としている。

「在宅勤務を実施する前後の孤独感と不安感の変化」(赤堀ら「在宅勤務が職場の関係性及びメンタルヘルスに及ぼす影響」情報処理学会インタラクション2021より)

 「在宅勤務を実施する前後の紐帯の強い同僚と紐帯の弱い同僚の雑談時間の変化」では、強い紐帯(交流頻度が高い同僚とのつながり)は、リモートワークの実施前は「5分未満」「5分以上10分未満」「10分以上30分未満」が25%~31%だ。リモートワークの実施後は「5分未満」が増加、「10分以上30分未満」は同等だが、「10分以上」は6%で「全くない」と同じだ。

 弱い紐帯は、リモートワークの実施前は「5分未満」と「5分以上10分未満」が合計で半数を超えている。実施後は「全くない」が半数で、「5分未満」が38%となっている。

 「交流頻度が高い同僚との雑談頻度は在宅勤務後も多いが、交流頻度が低い同僚との雑談は在宅勤務後はほとんどない」(渡邊氏)としている。

「在宅勤務を実施する前後の紐帯の強い同僚と紐帯の弱い同僚の雑談時間の変化」(赤堀ら「在宅勤務が職場の関係性及びメンタルヘルスに及ぼす影響」情報処理学会インタラクション2021より)

 共同実験のポイントは、「(リモートとオフィスの)ハイブリッドワーク時代の“はたらくWell-being”の実現」としている。具体的には「はたらくことを通して、その人自身が感じる幸せや満足感」「従来のオフィス勤務とリモートワークという二択にとどまらない新しいはたらき方の検討」の2点を挙げている。新しいはたらき方の検討には、「『身体性』に着目し、共感や信頼を育むチームビルディングプログラムなどの開発」「人事・人材開発視点からの評価」の2点がある。

取り組みのポイント

 NTTは、共同実験では身体性コミュニケーション技術、Well-being価値観共有技術、Well-beingに関するワークショップデザイン、実施ノウハウなどの技術を提供。これらを利用したワークショップデザインおよびワークショップの実施、ワークショップデザイン視点からの実験結果の評価を行う。

 パーソルは総合人材グループの強みとして、人事・人材開発知見、アセスメントスキル、リモートワークとエンゲージメントの関係性データ、健康に関するデータ、実験フィールド(リモートワーク環境、ワーケーション施設)を提供。共同実験の参加者も集める。これに付随し、実験フィールドの準備・提供、実験データの取得、人材開発、組織開発観点からの実験結果の評価という役割もある。

2社が持ち寄るリソースと役割

 共同実験の一例として「普段感じられないその人の生きているという生々しい感覚を感じたり、その人の性格という見えないものを実感する体験」とするチームビルディングワークショップを挙げている。

 この実験では、1)自身や相手の心臓の鼓動を手の上の触感として感じられるツール、2)触覚素材の感覚が想起させる性格傾向を通じた自己紹介、3)Well-beingの要因の書かれたカードを利用した価値観の共有を行う。

 ここでは、NTTが開発した遠くに離れていても相手の感触が伝わる「身体性コミュニケーション技術」が採用されている。

共同実験の内容

 共同実験で採用されている感じられるツールの実装例の1つとして、「机がつながっているというコミュニケーション」(渡邊氏)を挙げている。片方の机を叩くと、遠隔地の机にも同じように叩かれた振動などが伝わるというものだ。

「身体性コミュニケーション技術」の例。机を叩くと相手にも伝わる

 記者発表ではこのほかに、鼓動を伝える技術のデモンストレーションも行われた。体に付けた測定器が鼓動を取得。鼓動に合わせて風船の中にある照明の明るさが変わるというものだ。「心理的距離を近く感じる」(渡邊氏)としている。

鼓動に合わせて明るさが変わるデバイス

 共同実験では、ほかには「メタバース空間(リモート)×身体性コミュニケーション技術」も用いる。VRゴーグルを使用し、左右の手にコントローラーを持って操作。「相手の存在を感じながら、自由にコミュニケーションができる、対面とも遠隔とも異なる新しいコミュニケーション環境を実現」するという。

 大場氏は、パーソルグループで行っている働き方について触れている。リモートワークはコロナ禍以降も続いており、90%の従業員が該当する。また、ワーケーションはチーム単位で行っており、今年は100人(2023年度の実績)が参加。“複業”を行う従業員は1000人だとしている。一般的には“副業”と表記するが、パーソルでは複数の仕事を行うという意味で“複”としている。

 さらに、エンジニアは住居地を問わない、新入社員の教育はハイブリッドワークで行うという。

パーソルグループの働き方

 今後の予定としては、人事・人材開発視点からの評価として、「共感や信頼を育むチームビルディングプログラムの開発を行い、新入社員向けオンボーディングプログラムといった場で評価」。「“はたらくWell-being”の実現」として、「一人ひとりが自らのWell-beingに合わせた形でいきいきと豊かなつながりの中ではたらける世界を実現」することだとしている。

今後の予定