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第1回「サイバーセキュリティアワード2023」の最優秀賞を発表、「piyolog」やアニメ「地球外少年少女」などが受賞

3つの各部門で最優秀賞を選定

 産学官でデジタル政策について議論し提言するデジタル政策フォーラムは、第1回「サイバーセキュリティアワード2023」の優秀賞を選定し、3月15日に表彰式を開催した。

 サイバーセキュリティアワードは、サイバーセキュリティやプライバシー、トラストに関して、一般の人にも分かりやすく伝える書籍、ウェブ、フィクションなどから優秀なものを表彰するもの。アニメやマンガ、ドラマなどのフィクションも含まれるのが特徴だ。応募作品は2021年9月~2023年10月に発信された、サイバーセキュリティリテラシーの啓もう促進に貢献したコンテンツが対象となる。自薦または他薦により、ウェブサイトのフォームから申し込まれたものの中から選考された。

 審査では「書籍部門」で5件、「フィクション部門」で3件、「Web・コンテンツ部門」で9件の計17作品を優秀賞として選考。さらに優秀賞の中から最優秀賞および奨励賞を選定し、結果を表彰式で発表した。

 表彰式において、実行運営委員長の谷脇康彦氏(デジタル政策フォーラム 顧問)は、サイバーセキュリティアワードの特徴として3点を挙げた。

 1つ目は、「初心者にも分かりやすいコンテンツを表彰したい」こと。2つ目は、マンガやドラマを見てサイバーセキュリティを志した人もいることから、「書籍に加え、ウェブコンテンツと、エンタメ系フィクションで3部門を設けた」こと。3つ目はサイバー攻撃に対する防御のあり方だけでなく、プライバシーのあり方なども含めるなど、「サイバーセキュリティの範囲を広くとる」ことだ。

実行運営委員長の谷脇康彦氏(デジタル政策フォーラム 顧問)

 審査委員長の後藤厚宏氏(情報セキュリティ大学院大学学長)は、審査の講評として「多数かつ多様な作品がエントリーされた。また書籍・ウェブコンテンツまで幅広く表彰の対象とする、過去に類を見ないアワードだったため、審査委員会はとても白熱した議論の場となった。分かりやすさ、適格性、独自性の観点から議論を行った」とコメントした。

(画面中央)審査委員長の後藤厚宏氏(情報セキュリティ大学院大学学長)

書籍部門 最優秀賞:「『サイバーセキュリティ、マジわからん』と思ったときに読む本」

(画面左)書籍部門 最優秀賞を受賞した大久保隆夫氏

 書籍部門の最優秀賞は、一般ユーザー向けのサイバーセキュリティの入門書である大久保隆夫氏の「『サイバーセキュリティ、マジわからん』と思ったときに読む本」が受賞した。

 後藤氏の講評では、「思わず手に取ってみたくなるタイトルで、サイバーセキュリティの基礎から技術的な事項まで網羅されている。また、日常的な視点やイラストを活用した分かりやすい内容になっている点が高く評価された」と選考理由が語られた。

大久保氏の受賞コメント要旨:

「サイバーセキュリティはいろいろな分野にかかわるので、教えるのが大変。本書は、そのような各分野の言葉などについて、できるだけ拾って、一つ一つについて解説し、知識のない人にも分かってもらおうというコンセプトで作った。本書ではそれぞれの言葉を掘りさげることはせず、気になった言葉についてもっと学びたい人には参考書を示した。まず本書を手にとっていただき、これを入口にして、いろいろな分野について学び深めてもらえればと思って作った」

 そのほかの入賞作品は以下のとおり。

受賞名作品制作・関連会社等
優秀賞 ウクライナのサイバー戦争松原実穂子
優秀賞 未来をつくる仕事がここにある サイバーセキュリティー会社図鑑NRIセキュアテクノロジーズ(監修)
優秀賞 情報戦、心理戦、そして認知戦──サイバーセキュリティを強化する佐藤雅俊・上田篤盛
優秀賞 物語でセキュリティ啓発SecHack365 学習駆動コース コンテンツゼミ 古田花恋

フィクション部門 最優秀賞:アニメ「地球外少年少女」

フィクション部門 最優秀賞を受賞した、アニメ「地球外少年少女」

 フィクション部門の最優秀賞は、磯光雄氏の監督・脚本によるアニメ「地球外少年少女」が受賞した。

 後藤氏の講評では、「日本におけるSFの完全オリジナル作品で、エンターテイメントとしてのクオリティも大変高い。物語において、サイバーセキュリティやハッカーはもちろん、宇宙、AI、次世代端末などのテーマを扱い、幅広い層が楽しめるコンテンツとして高く評価された」と選考理由が語られた。

磯光雄氏の受賞コメント(代読)要旨:

「とてもユニークな賞で、こういった取り組みでフィクションの世界を応援していただけるのは、とてもありがたい。これからも、サイバー界隈の技術の進化とともに、変わりゆく脅威を観測しながら、われわれも前進し続けたい」

 そのほかの入賞作品は以下のとおり。

受賞名作品制作・関連会社等
優秀賞 量子の北風(リンク先は第1話)umi
優秀賞 トリリオンゲーム小学館/稲垣理一郎・池上遼一

Web・コンテンツ部門 最優秀賞:セキュリティ芸人 アスースン・オンライン/「piyolog」

Web・コンテンツ部門 最優秀賞を受賞したセキュリティ芸人 アスースン・オンライン
同部門で最優秀賞を受賞した「piyolog」。piyokango氏はリモートで出席

 Web・コンテンツ部門の最優秀賞は、YouTubeを中心にお笑い芸人として活動するセキュリティ芸人 アスースン・オンライン氏と、piyokango氏によるセキュリティ情報ブログ「piyolog」が受賞した。

 後藤氏の講評では、アスースン・オンライン氏については「見始めると最後まで見てしまう内容や、マニアックすぎるネタ構成など、これまでにない圧倒的に独自性のあるスタイルが高く評価された」と選考理由が語られた。

 また「piyolog」については「サイバーセキュリティに関するタイムリーな情報発信と、社会的価値のあるトピックが掲載されており、的確な内容と分析、一般の方のみならず専門家も情報源として活用できるような内容となっている点が高く評価された」と選考理由が語られた。

アスースン・オンライン氏の受賞コメント要旨:

 「一見ふざけた取り組みに見えるかもしれないが、人材育成プログラムSecHack365がきっかけで誕生した。情報漏えいの大半は操作ミスや管理ミスなどの人的脅威によるものからという事実がある。セキュリティが技術的にしっかりしていても、扱う人がリテラシーを持ってしっかりしていないと意味がないと感じている。そこで、お笑いと組み合わせた作品を作ろうということでセキュリティ芸人が生まれた。こうしたかたちで評価されて嬉しい」

piyokango氏(リモート出席)の受賞コメント要旨:

 「セキュリティについてブログで取り上げ始めたのが2010年。変化を続ける脅威に対して“正しく恐れ、正しく守る”には、情報が中心的な役割を果たす。一方で、古い情報は揮発性が高く、サイバーセキュリティでは特にそれが顕著で、数年前の出来事にあたるのも大変。昨今では生成AIなど情報生成の省力化も進んで、情報の信頼性に疑念を抱かざるをえないことも増えた。重要で正確な情報を記録し、社会に共有していることの必要性が増しているのではないかと思う」

 そのほかの入賞作品は以下のとおり。

受賞名作品制作・関連会社等
優秀賞 みんなの「サイバーセキュリティコミック」NPO日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)
優秀賞 【マンガで分かるシリーズ】我が社のプライバシー保護規制対応奮闘記!!株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ)
優秀賞 華麗なる情報セキュリティ対策独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
優秀賞 ゆっくり解説によるサイバーセキュリティ啓発動画の配信埼玉県警察本部生活安全部サイバー局サイバー対策課
優秀賞 サイバーセキュリティ仕事ファイル~みんなが知らない仕事のいろいろ~(リンク先は第1回)株式会社ラック
奨励賞 AIアート、その未来についてSecHack365 学習駆動コース コンテンツゼミ 谷口宝
奨励賞 プライバシーポリシーまもるくんSecHack365 思索駆動コース 松原優太

審査員がサイバーセキュリティ普及啓発コンテンツについて議論

 表彰式では、サイバーセキュリティ普及啓発コンテンツについて審査委員が議論するパネルディスカッション「今、サイバーセキュリティのコンテンツはウケるのかウケないのか」も開かれた。

 パネリストとして、実行運営委員長の谷脇康彦氏、審査委員長の後藤厚宏氏のほか、森井昌克氏(神戸大学大学院工学研究科教授)、鵜飼裕司氏(株式会社FFRIセキュリティ 代表取締役社長)、西本逸郎氏(株式会社ラック 代表取締役社長)、そしてリモート出席した盛合志帆氏(NICT 執行役 サイバーセキュリティ研究所長)が参加。また、当日は欠席した上原哲太郎氏(立命館大学 情報理工学部)が、テーマについて事前コメントを寄せた。

多様なコンテンツで「サイバーセキュリティを憧れの業界に」

 最初のテーマは「サイバーセキュリティコンテンツに関して、コンテンツ自体の変化やコンテンツの役割の変化をどうとらえているか」。

 これについて上原氏は、多くの人に訴求するエンタメのコンテンツは、イメージを一気に変えることがあるが、誤解も生んだと指摘。また、インターネットの普及とともに、エンタメのコンテンツにおけるハッキングはテーマというより物語を進める都合のよい魔法のような扱いとなっており、ときにはセキュリティの泥臭さを扱うハードコアなものも見たいとコメントした。

 また、谷脇氏は、今回のアワードで3部門を設けたことや、それ以外にゲームやカードゲームでセキュリティを学ぶものも出てきていることに触れ、メディアや年齢層の多様性がどんどん出てきているとコメントした。

 森井氏は谷脇氏のコメントを受けて、さまざまなものが登場していることに触れつつ、エンタメは影響が大きいのでサイバーセキュリティに間違った印象を与えないかという懸念も示した。

森井昌克氏(神戸大学大学院工学研究科教授)

 これについて鵜飼氏は、サイバーセキュリティは今は一般的なテクノロジーになってきたことから、より一般の人に分かるコンテンツによってサイバーセキュリティに入ってくる人を増やしたいとコメント。さらに、マンガ/ドラマ「ブラッディ・マンデイ」を見てサイバーセキュリティ業界に入った人が自社にもいるとして、「憧れの業界になるとうれしい」と語った。

鵜飼裕司氏(株式会社FFRIセキュリティ 代表取締役社長)

 また盛合氏は、今回、セキュリティ芸人のアスースン・オンライン氏が受賞したことに触れ、小学生がタブレットを使うようになってどうセキュリティを教えるかが問題になる中で、お笑いもアリではないかとコメントした。

盛合志帆氏(NICT 執行役 サイバーセキュリティ研究所長)

 そのほか西本氏は、エンタメコンテンツによるサイバーセキュリティは、わさびや生姜のようにメインの料理あってのもので、リアルであればいいというわけではないと指摘した。

西本逸郎氏(株式会社ラック 代表取締役社長)

子ども向けや経営層のコンテンツも必要

 2つ目のテーマは「今後のサイバーセキュリティの普及啓発の観点からどのようなものが望まれるか」。各パネリストからのコメントは以下の通り。

  • 上原氏「サイバーセキュリティの泥臭さや達成感を扱った作品が生まれればと思う」
  • 盛合氏「NICTのWarpDriveプロジェクトでゲーミフィケーションのため『攻殻機動隊SAC_2045』のキャラクターを使ったところ、展示会などでこれまでセキュリティに興味がなかった人も関心を示した」
  • 西本氏「すでに関心を持っている人の世界は小さいので、その中心で叫んでも世に伝わらない、世界を広げないといけない」
  • 鵜飼氏「今後、サイバーセキュリティが大事ということが子どもを含め広く一般に分かってもらえるコンテンツが大事になる」
  • 森井氏「サイバーセキュリティは全ての人に素養を持ってもらう必要がある。例えば、サイバーセキュリティを直接に表現していなくても、サブリミナルのように見終わるとサイバーセキュリティの素養がついているというものがあるといい」
  • 後藤氏「今回のアワードでは、絵本や、幼児用のおもちゃ、幼稚園児の遊戯などがなかったのが残念だった」
  • 谷脇氏「経営層が理解できるコンテンツが増えてほしいことや、子ども向けのCTF(Capture The Flag)のようなサイバーセキュリティイベントがあるといい」

第2回以降もアワードに多様な応募を

 最後に各自から、今回の審査を終えてのコメントが語られ、審査委員長の後藤氏は「全作品を審査して、発見や意外性、新しいジャンルなどがあり、唸らせられた。今後も審査員をびっくりさせてほしい、それによって進化につながるパワーになるのではないか」と語った。

 また、実行運営委員長の谷脇氏は、「第1回は手さぐりだったが、今後のアワードでもさまざまな分野のものが出て、これもセキュリティなのか、という気付きが出てくればよいと思う」と締め括った。