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元ウィルコム社長の八剱洋一郎氏が新社長に就任、デジタル地図の草分け ジオテクノロジーズが目指すのは――
“自動運転”よりも先に“安全運転”の世界。「SD Map+」データ整備で貢献
2024年7月29日 06:05
Googleマップなどに地図データを提供するジオテクノロジーズ株式会社は、4月1日付で前任の杉原博茂氏に代わり、代表取締役社長CEOに八剱洋一郎氏が就任したと発表した。同社は新社長の就任を受けて7月5日に記者懇談会を開催し、八剱社長が今後の方針について説明した。
IBMやウィルコムなど数々の企業を経てジオテクノロジーズへ
ジオテクノロジーズは、1994年にパイオニア子会社のインクリメントP株式会社として設立し、カーナビやPC、スマートフォンなどに向けてデジタル地図データを提供してきた。同社は2021年6月にパイオニアの子会社という立場から独立し、2022年1月にジオテクノロジーズ株式会社へと社名変更して現在に至っている。
現在は岩手県盛岡市に地図データの開発・整備拠点として東北開発センター(TDC)、地図整備のためのフィールド調査を行うための子会社として埼玉県さいたま市にグローバル・サーベイ株式会社を持つほか、大阪や上海、北米のサンノゼにもオフィスを構えている。また、2024年には札幌市を拠点にポイ活アプリ「ビューティーウォーク」の開発・運営を手がける株式会社フォーサもグループ会社化した。
新社長に就任した八剱氏は、日本アイ・ビー・エム株式会社やAT&T Global Network Services、日本テレコム株式会社などを経て、2005年に株式会社ウィルコムの代表取締役社長に就任。2007年にはSAPジャパン株式会社、2011年にはイグレック株式会社の代表取締役に就任し、2021年からは株式会社電算システムの専務取締役・DX事業本部長を務めるとともに、2023年12月からはジオテクノロジーズの社外取締役を務めていた。その後、電算システムの専務取締役は2024年3月に退任し、同年4月からジオテクノロジーズの社長に就任した。
ポイ活アプリ「トリマ」をはじめとしたコンシューマー向けアプリを提供
ジオテクノロジーズは地図データの開発・整備を軸にオートモーティブやエンタープライズ向けソリューション/プラットフォームを企業や自治体へ提供する一方で、近年はポイ活アプリ「トリマ」が1900万ダウンロード・400万MAU(2024年7月現在)と人気を集めており、同アプリから収集された位置情報をもとにした人流データの活用にも力を入れている。同社が展開するこのようなビジネスのラインアップについて、八剱社長は以下のように語る。
「トリマを使うことにより、個人が特定されないように匿名化処理されたユーザーの位置情報を収集することが可能で、これらの人流データと地理空間データを核にして、エンタープライズのお客さまに価値を提供するとともに、コンシューマーのお客さまにもポイントや情報提供で還元し、ユーザー様からは地図や施設の情報をいただきながらギブ・アンド・テイクで回しています。このように社会を改善しながらエンタープライズからコンシューマーまで価値を提供することで全体を循環させていきたいと考えています。」(八剱社長)
トリマの特徴は位置情報を5秒に1回のペースで取得しているため細かい人流データが取れることで、ユーザーが歩いているのか、自動車に乗っているのか、といった移動手段まで分かるという。さらに、ユーザーにアンケートを取る機能があり、多くの回答が得られる点も特徴としており、この機能を使ったリサーチサービスも提供している。
さらにトリマに続くコンシューマー向けアプリとして、見守り・健康増進を目的とした「みん歩計」を2023年4月に提供開始したほか、2024年6月にはユーザーが撮影した写真に価値が付く“Photo to Earn”アプリとして新たに「GeoQuest(ジオクエスト)」を提供開始した。
GeoQuestでは、街中にあるビルやコインパーキング、矢印信号機、EV充電ステーション、郵便ポスト、公衆トイレなど30種類以上のさまざまな施設がクエストとして出題され、ユーザーは現地に行って写真を撮影・投稿することによりマイルを獲得できる。貯めたマイルは、トリマと連携することでAmazonギフトカードやPayPayマネーライトなどの他社ポイントや現金に交換できる。
「ユーザー様に道路やポスト、標識、交差点の情報が欲しいと投げ掛けると、かなり多くの方に回答していただけます。このUGC(User Generated Content)の仕組みを利用して、当社が必要としている情報についてユーザー様から写真を投稿していただき、その対価としてポイントを提供するというサービスです。
日本には約190万kmの道路があると言われていますが、そのうち約60万kmは、車で通ることはできるけど片側一車線しかないなど運転には推奨できない道も含まれており、そのような“細街路”の情報をどれくらい整備できるかというのは地図会社にとって重要な課題です。当社としてはユーザー様のサポートを受けながら細街路の情報を整備し、安心・安全な道路地図の整備をしていきたいと考えています。」(八剱社長)
車の安全性の向上に役立つ「SD Map+」
八剱社長は、ここ3~4年のオートモーティブ分野の変化についても言及した。2018年当時は、完全運転自動化の時代がすぐに訪れるという言説が見られたのに対して、現在は自動運転技術の進展は見られるものの、一般道路の完全運転自動化にはまだまだ時間がかかるという意見が多くなっているという。それにともなって自動車業界は現在、自動化よりも安全性向上に力を入れており、そこに自動運転技術で培った技術を活用する方向になってきている。
そして安全運転のための地図としては、自動運転用の「HD Map(高精度三次元地図)」ほど高精度な地図は不要なものの、カーナビ向けの一般的な地図「SD Map」では足りないということで、SD Mapに車線情報などを付加した「SD Map+(Enhanced SD Map)」というべき中間的な情報量の地図が求められている。
「当社は国内では唯一、実用に耐えうるHD Mapを持っている企業だと自負しています。そこで培った技術をもとに安全・安心なSD Map+を作り、より安全な運転に寄与していきたいと考えており、現在はその方向へ舵を切っています。一部の自動車メーカーさんは、解像度の高いカメラを搭載していれば車線変更や人身事故防止に対応できると考えているようですが、交差点を曲がった先にある情報など、カメラやセンサーだけでは認知できない情報もあるため、当社としては地図とカメラを組み合わせることで、より安全な車社会を作っていこうと考えています。」(八剱社長)
同社は地図の新鮮さも大事であると考えており、基本的には1カ月ごとに地図データをアップデートしている。高速道路のIC等の開通情報を即日反映し、道路の開通日時にリアルタイムにルート案内が可能となる体制を整えたり、道路の幅員データを向上させて狭い道路を避けるルーティングを実現したり、トラックの大きさに応じた道路を優先するルーティングを行ったりと、さまざまな取り組みを行っている。
マーケティングビジネスを第4の柱へ
八剱社長は今後、トリマを利用したマーケティングビジネスを既存のオートモーティブやエンタープライズ向け、コンシューマー向けのビジネスに次ぐ新しい柱として取り組む方針としている。トリマを使うことにより、例えば山手線の乗客に沿線の広告を見ているかをユーザーアンケートで聞いて効果測定を行うなど、同社しか持っていないデータセットと、独自の顧客接点を持つ強みを生かして、“今この瞬間のインサイトを調べるツール”として展開していきたいと考えている。
「当社としては、トリマのユーザーを大幅に増やしたいとは思っていませんが、より深いユーザー様とのお付き合いを通じて、ユーザー様が便利に思っていただけるような機能を提供することで、質を深掘りすることに注力していきたいと考えています。
ユーザー様にご協力いただくことで地図情報をブラッシュアップし、人流データを分析しながら、それを生かしたオートモーティブやGISのソリューション、そして人流を分析するアクティブなマーケティングビジネスを展開します。この取り組みは巡り巡ってユーザー様へのメリットにもなると考えております。」(八剱社長)