出版物の複製方法、スキャンして電子ファイル化は27.3%、中高生でも18.5%
紙の書籍をスキャンして電子ファイル化する、いわゆる“自炊”という行為について、電子出版に関心が高い一部の層で経験者が4割を超える一方、一般層ではわずか6%にとどまるとの調査結果を株式会社インプレスR&Dが10日20日に発表したが、1冊丸ごとしないまでも、出版物の複製方法としての電子ファイル化行為が4~5人に1人の割合で普及していることを示す調査結果が、社団法人日本書籍出版協会から発表されている。ただし、電子ファイルとして保有することが目的ではなく、地図や楽譜、参考書など、出版物の一部を利用するための紙のコピーの代用という意味合いが大きいようだ。
調査は今年4月15日から20日まで日本書籍出版協会が実施。全国の18歳以上(高校卒業者以上。高専4~5年生を含む)3876人と、全国の18歳未満(中学1~3年生、高校1~3年生、高専1~3年生)600人が回答した。調査対象は、自宅に自身で操作できるPC(家族との共用を含む)があり、そのPCでインターネット利用している人、かつ、2010年の1年間に出版物を複製した経験がある人となっている。
調査結果は、8月26日に開催された文化庁の「電子書籍の流通と利用の円滑化に関する検討会議」第11回会合でも「出版物の複製に関する実態調査」として概要が報告されており、PDFファイルが同庁のサイトで公開されている。
●丸ごとスキャンは少数派、頻度も月に1日以下が過半数
2010年の1年間に出版物を複製した方法としては、「コピー機・複合機などで紙にコピー」は91.4%(18歳未満で89.0%)に上り、紙のコピーが主流であることがわかる。次いで「スキャナーでスキャンし電子ファイルを作成」が27.3%(18歳未満で18.5%)。
作成した電子ファイルについては、必ずしもそのまま電子ファイルとして利用するとは限らないことがわかった。「印刷して使用することの方が多い」が31.6%、「電子ファイルで使用することの方が多い」が36.3%、「半々くらい」が32.1%だった。特に18歳未満では、「印刷して使用することの方が多い」が58.6%と6割近くを占め、「電子ファイルで使用することの方が多い」は17.1%だった。
また、スキャンする範囲についても多くの場合は部分的だ。スキャン経験者の中には、出版物の「すべてまたは大部分をスキャン」した冊数が最大300冊という人もいたが、平均では1.8冊。また、「半分程度をスキャン」も平均1.1冊だったという。8割弱の人は半分以上のスキャンをしてはいないとしている。
スキャンする頻度としては、1カ月に1日以下が過半数。逆に週1日以上は、14~15%だったという。なお、複製の頻度については、コピー機・複写機で紙にコピーする場合でもほぼ同様の傾向が出ている。
●スキャン元の出版物、最多は「地図」、中高生では「楽譜」
スキャンした出版物の種類は、「地図」が32.3%で最も多く、次いで「専門書」が26.2%、「雑誌」が25.4%、「ビジネス書」が22.5%、「実用書」が21.1%など。18歳未満では、「楽譜」が最多で34.2%、次いで「雑誌」が27.0%、「学習参考書・問題集」が23.4%、「地図」が22.5%など。
紙のコピーでもほぼ同様の傾向だが、18歳未満では「学習参考書・問題集」が42.7%で最多。次いで「楽譜」が37.8%、「地図」が24.9%、「雑誌」が21.0%、「辞書・辞典」が17.6%と続く。
なお、出版物をスキャンした電子ファイルをインターネット上にアップロード・公開したことがあるとした人は6.2%にとどまった(18歳未満では15.3%だが、サンプルが少ないため参考値としている)。この数字について日本書籍出版協会は、「このまま手をこまねいて何もしないでいると、この値というのは基本的に上がる方向にあるのではないかということが推測できる」とコメントしている。
●「オフィシャル目的」での複製も
調査では複製の目的についても聞いており、「オフィシャル目的」か「プライベート目的」かで分類。紙・電子ファイルともに、プライベート目的が7割台に対して、オフィシャル目的も6割台に上っている。また、複製物を勤務先のスタッフや取引先などに提供した経験があるという人もおり、日本書籍出版協会では、私的使用目的の範囲を超える「オフィシャル目的」での複製が行われている実態を指摘している。
また、紙でのコピーの際に、著作者や管理団体などに許諾をとった経験のある人は、5.7%にとどまった。特に18歳未満ではわずか0.6%だったという。複製を行う場所としては、紙・電子ファイルともに「自宅」が最多。次いで「勤務先」または「学校」だが、18歳未満では特に紙のコピーの場合に、コンビニエンスストアなどの店頭サービスも学校に並ぶほど多く利用されている。
日本書籍出版協会では、出版物の違法流通対策を検討するための資料として今回の調査を実施したという。これら一般消費者に対するアンケート調査のほか、インターネット上における書籍の無許諾配信についての実態調査も行っている。公開されている概要資料では、日本国内で発行されている書籍の著名作品のタイトルなどをもとに、検索サイトや日本人向けおよび中国語の無許諾配信サイト、ファイル共有ネットワークで入手可能な無許諾配信ファイルを調べた結果も報告されている。
関連情報
(永沢 茂)
2011/10/24 14:24
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