レビュー
Zoom飲み会とぜんぜん違う! 「距離」をオンライン飲み会に導入する「SpatialChat」
「あっちの話題のほうが面白そう!(すすすす……と場所移動)」を実現
2020年5月15日 15:50
家から出ることなく、遠く離れた友達とも気軽に楽しめることで最近流行している「オンライン飲み会」。筆者は以前に掲載された記事で紹介した通り、ビデオ会議サービスとして「Zoom」を主に利用しており、その理由として下記の3点を挙げた。
- 参加人数がほぼ無制限
- ユーザー登録不要で参加できる
- ビデオチャットを楽しむ機能が充実
この3つの要素を持ちつつ、Zoomをはじめとするビデオ会議サービスとは一線を画す個性的なサービスとして登場したのが、今回紹介する「SpatialChat」だ。
「近くの人」の声が大きく聞こえる!Zoom飲み会とは明らかに異なるコミュニケーション
SpatialChatの利用料金は無料で、同時利用は最大50人のため、よほど大規模な飲み会でもない限りは十分。主催者はユーザー登録が必要だが、参加者は名前を入力するだけでいいため参加のハードルも低い。利用はブラウザーベースのため、アプリのインストールも不要だ。
そして3つ目の「ビデオチャットを楽しむ機能」こそがSpatial.Chat最大の特徴だ。Zoomの場合、仮想背景や「Snap Camera」といった機能やアプリで飲み会を盛り上げることができるが、コミュニケーションのスタイルとしては他のビデオ会議サービスと大差はない。
一方、SpatialChatは「距離」という概念を取り入れることで、他のサービスとは明らかに異なるコミュニケーションを実現している。
SpatialChatではログインしたユーザーが丸いアイコンで表示され、マウスやタッチ操作で自由に画面内を移動可能。ユーザー同士の距離が近ければ会話が成立し、距離が遠くなるほど声が小さくなり、最後には一切聞こえなくなるという、リアルの世界における物理的な距離感を再現しているのだ。
リアル飲み会さながらのこの感覚!「あっちの話題のほうが面白そう!(すすすす……と場所移動)」を実現
オンライン飲み会では参加者が多いと会話が難しくなり、数人が司会的に動きながら他の人に会話を回していく、という流れになることも多い。Zoomでは参加者を複数のグループに分割する「ブレイクアウトルーム」という機能も用意されているが、この場合、他の部屋の話は一切分からず、部屋ごとにコミュニケーションが分断されてしまう。
その点、SpatialChatは人数が増えてくればアイコンを移動するだけで複数のグループを作成できるし、グループ間の移動も簡単。グループ間の距離が近ければ、他のグループの会話がなんとなく聞こえつつ自分たちのグループの会話で盛り上がる、という現実の飲み会に近いコミュニケーションが可能だ。
筆者はこれまで何度もオンライン飲み会を主催・参加しているが、SpatialChatでのオンライン飲み会は、明らかにこれまでの飲み会とは違う個性的な経験ができた。荒削りな部分も多いものの、個性的な体験が可能なSpatialChatを使った飲み会の楽しみ方を紹介したい。
みんなでYouTubeを見ながら音楽談義で盛り上がる。グループから抜け出せば……2人きりでの会話も可能
SpatialChatの利用は非常にシンプル。主催者はまずサイトからユーザー登録を行い、専用のURLを作成する。参加者はブラウザーから専用URLにアクセスし、名前を設定して入室するだけ。主催者も管理権限などは持たず、参加者として参加する仕組みになっている。
ログインすると自分のアイコンが画面に表示され、前述の通りマウスやタッチ操作で自由に移動できる。話したい相手の近くに移動すると音声が聞こえ、距離が遠くなると少しずつ声が小さくなり、カメラをオンにしている相手がアイコン表示になると一切音が聞こえない状態になる。
画面上部のメニューからはカメラとマイクのオン/オフ、参加ユーザー一覧表示のほか、YouTubeの表示や画像のアップロード、画面共有が可能だ。なお、コミュニケーション手段は音声のみで、ビデオ会議サービスでは一般的なテキストチャットは現状、用意されていない。
面白いのがYouTubeで、ユーザーと同様に距離で音の大きさが変わるほか、1人で複数のYouTubeを表示することも可能。ユーザーごとに好きなYouTubeの動画を表示して好きな音楽について語り合う、という楽しみ方が可能だ。同様に画像も複数アップロードできるので、おいしい食べ物や旅行の写真などテーマを決めて盛り上がるのもいい。
機能らしい機能はほぼこれだけというとてもシンプルなサービスだが、繰り返しながら「距離」の概念がSpatialChatの魅力。数人程度だとその面白みが体験できないかもしれないが、複数のグループを行き来したり、グループから抜け出して2人きりで話したり、というリアルのコミュニケーションがネット上で簡単に実現できる。
YouTubeを使った動画鑑賞も、好きな動画なら近づくだけで大音量で聞こえ、BGM程度に聞こえる距離で会話をメインに楽しんでもいいし、一切音が聞こえない距離まで離れてもいい。シンプルな機能ながら距離の要素がコミュニケーションを広げているのがSpatialChatの魅力だ。
「SpatialChat飲み会」はここがポイント!筆者オススメのうまい使い方と注意点
非常に個性的な特徴を持ったSpatialChatだが、サービス開始から間もないこともあって、まだ荒削りな部分も多い。ここでは筆者がSpatialChatでオンライン飲み会を楽しむための使い方を紹介したい。
使用するカメラやマイクはブラウザーに依存
まずは利用するマイクやカメラについて。SpatialChatはブラウザーで動作するサービスのため、使用するカメラやマイクはブラウザーに依存しており、複数のマイクやカメラを持っていても使いたいカメラが使えない、ということもある。Firefoxなら利用するカメラとマイクを個別に指定できるため、機材にこだわりたい人はFirefoxから利用しよう。
テキストチャット機能がない「割り切り仕様」は、他のサービスで補完
SpatialChatは前述の通りテキストチャットがないため、URLを共有したいというときはもちろん、音が聞こえないというトラブルにも対処が難しい。そのため、できればFacebookやTwitterなど複数ユーザーが参加できるチャットサービスを併用しておくのがお勧めだ。
遅れてきた人/ぼっち参加者を戸惑わせない「画像」活用法
自由にグループを移動できるのがSpatialChatの魅力ではあるものの、グループから離れたり、遅れてきた参加者が複数のグループのどれに入っていいかためらう、という人もいるかもしれない。そういうときのために画像アップロード機能を使って「最初にログインした人はここ」「YouTubeを楽しみたい人はここ」などと集まる場所を用意してあげるのも手だ。テキストチャットがないことをはじめとした「SpatialChatの使い方」を画像でまとめておくのもいいだろう。
なお、SpatialChatでアップロードした画像はユーザーに紐付いており、アップロードしたユーザーが退室すると画像も消える仕様になっている。パソコンやブラウザーがフリーズしてしまって退室せざるを得なくなると、せっかく準備した画像も無駄になってしまう。こうした「おもてなし」を準備する場合は、ブラウザーでタブを別に立ち上げる、別のパソコンからログインする、といった工夫もしておくといい。
パソコンでの参加がオススメ、広い画面で「どこに誰がいるか」把握しやすく
SpatialChatはブラウザーベースで動作するため、パソコンだけでなくスマートフォンでも利用できるが、画面の小さいスマートフォンではどこに誰がいるか、どこでYouTubeが表示されているかを把握しにくい。SpatialChatを楽しむためには、できるだけパソコンで参加することもお勧めしておきたい。
セキュリティ面には注意を、現状では参加者の認証機能なし
気を付けておきたい点としては、一度作成したURLは変更できず、パスワード設定といった機能も現時点では提供されていないこと。そのため、URLを知っている人ならいつでも参加できることになる。今後こうした機能拡張も期待しつつ、知らない人が入っては困る場合は新規にURLを作成する、URLを乱数など類推しにくいものにする、などといった工夫も必要だろう。
また、サイトのトップには「Try Me」というテスト的なボタンが用意されているが、これは「TryMe」という名称のルームに入室するだけ。そのため、テストのつもりでログインしてみると全く知らない他のユーザーも入室していて気まずい思いをする可能性もある。知らない人との遭遇を避けたいのであれば、「Create Space」でルームを新規に作成しよう。
「Stayathome」を機にリリースされた新進気鋭のサービスで、いつもとはひと味違うオンライン飲み会を
最後に、謎に包まれている部分も大きいSpatialChatについて紹介しておきたい。
サイト情報が非常に少ないため、どんなサービスなのかが分かりにくいSpatialChatだが、サイトのフッターに「Designed by FunCorp Lab」と記載されている通り、運営しているのはFunCorp Lab。下記の記事によれば、1年前に開発していたサービスが、新型コロナウイルスの影響を受けて在宅中心の生活になっている今のタイミングで公開した、という流れのようだ。
サービス開始時期は、上記の記事で紹介されている「Product hunt」の登録日を見る限り、2020年4月23日ごろのようだ。開発者の「We believe that virtual parties can make life better in the #stayathome era」というコメントからも、ごく最近リリースされたばかりのサービスということが分かるる。
サービス名称は、ウェブサイトには「spatial.chat」と小文字かつドットが表記されているが、ウェブサイトのtitleタグおよびプライバシーポリシーを見る限り「SpatialChat」という表記が正しい名称のようだ。「Spatial」は「空間の」という意味で、発音は「スペイシャル」、カタカナ表記するなら「スペイシャルチャット」となる。
サービスが一般公開されたばかりということもあり、荒削りな部分も目立ち、セキュリティ的に不安の部分もあるSpatialChatだが、実際に使ってみるとそうしたマイナス要素を吹き飛ばすほど「距離」の概念が面白い。機能やセキュリティについては今後の改善を期待しつつ、いつもとはひと味違うオンライン飲み会の場としてSpatialChatを試してみてはいかがだろうか。