レビュー

4万円台のハイエンドルーターは、機能も性能も極めて充実! 10GbE+強力アンテナは伊達じゃなかった!

「動画6本見ながら」でも余裕の余力、ASUS「RT-AX89X」レビュー

 近年のトレンドと言えば、やはりWi-Fi 6(IEEE 802.11ax)。Wi-Fi 6対応のノートPCも増え、ルーターもエントリークラスからハイエンドまで、Wi-Fi 6対応は標準的なものになってきた。

 そのWi-Fi 6に対応するのはもちろんのこと、10GbEのWAN/LANポートに加え、10GbEのSFP+ポートも利用可能で、さらにはメッシュネットワークにも対応する。まさにフルスペックを詰め込んだ高機能ルーターであるASUSの「RT-AX89X」により、Wi-FiとLANがともに高速化するメリットを確認していきたい。

10Gポートを2つ搭載するASUSのWi-Fi 6ルーター「RT-AX89X」の性能を確かめてみる


Wi-Fi 6でも、WANが1Gbpsでは宝の持ち腐れ10GbE×2にメッシュ対応と、機能満載すぎる1台

 Wi-Fi 6に、PC(子機)とルーター(親機)がそろって対応することで、従来のWi-Fi 5(IEEE 802.11ac)より高速な通信を実現でき、オフィスなどの複数機器が同時接続する環境でも安定した通信が可能になる。

 ただ、ここで注意したいのが、ルーターの多くはWi-Fiの高速化のみに留まっている点だ。つまり、Wi-Fiが高速化された一方で、インターネットに接続するWANポートは従来通り1Gbpsまで、という製品が少なくないのだ。

 最近では5Gbpsや10Gbpsのインターネット回線を利用できる地域・プロバイダーが徐々に拡大しつつあるが、1Gbps超のWi-Fi 6に対応していたところでWANが1Gbpsでは、宝の持ち腐れになってしまう。

 WANが10Gbpsのルーターも少数ながらあるとはいえ、10GbEのポートが1つしかなく、LAN側も10GbEにしようとすると高価なスイッチを追加しなければならないパターンも多い。さらに言うと、Wi-Fiのカバー範囲をスマートに広げるメッシュネットワーク化も可能な10Gbps対応ルーターとなれば、まず見当たらない。

 長らく待たれていた、Wi-Fi 6の高速性能を本当の意味で活用し、その本領をWANとLANの両方で発揮できるルーターがRT-AX89Xだ。そのカタログ性能は文句なく高いが、既存のWi-Fi 5環境からの置き換えで、ネットワーク環境をどれだけ進化させられるのか、実際に導入して確かめてみたい。


Wi-Fi 6に対応、5GHz帯で最大4804Mbpsの通信速度を実現

 RT-AX89Xの機能・性能においてポイントとなるのは、5GHz帯で最大4804Mbps(8ストリーム)の通信速度を実現するWi-Fi 6に対応していること。2.4GHz帯は最大1148Mbps(4ストリーム)であり、合わせて約6Gbpsもの通信帯域を持つことになる。もちろん、Wi-Fi 5以前の従来規格にも対応するので、古いデバイスから最新のデバイスまで、幅広く利用できる。

8本のアンテナを備えるRT-AX89X


10GbE対応のWAN/LANとSFP+の2ポートを装備

 そして、何といっても最大10Gbpsを実現する10GBASE-TのWAN/LAN兼用ポートと、もう1つLAN用に使える10Gbpsのポート(SFP+)を備えているのが大きい。10GBASE-TのWANポートによって、5Gbpsや10Gbpsのインターネット回線のポテンシャルを引き出せる上に、SFP+を使えば同時にLAN側に10Gbpsの機器1台も接続できる。

写真中央に見える3ポートのうち、左から1GbE対応のWANポートと、いずれも10GbE対応のWAN/LANポート、SFP+ポート

 SFP+から一般的な10GBASE-Tの機器に接続するには変換コネクタなどが必要になるものの、別途高額なネットワークスイッチを導入することなく、手軽に10GbE対応機器を接続できるのは嬉しいところだ。

SFP+に10GBASE-Tの機器を接続するのに必要な変換コネクタ
LANケーブルを接続するとこのような見た目になる


8基の1GbE LANポートはLAGで最大2Gbpsにできる

 1GbEのLANポートは8基用意され、そのうち2基(LAN1とLAN2のみ)はLAG(Link Aggregation)にも対応する。これも既存環境の改善を図るにはありがたい機能だ。例えばルーターを10GbEにしたからといって、周辺のネットワーク機器までをいきなり一気に10GbEに置き換えるのは難しかったりもする。しかし、LAGを利用すれば、2本の1GbEを束ねて最大2Gbpsにできる。既存の機器がLAGに対応していれば、すぐに高速化できるわけだ。

1GbEのLANポートは8基装備する


ASUS独自のメッシュWi-Fi機能「AiMesh」

 ASUS独自のメッシュWi-Fi機能「AiMesh」に対応する点にも注目したい。AiMesh対応ルーターであれば、異なる製品間でメッシュWi-Fiを構築し、Wi-Fiのカバー範囲を拡大できる。

 RT-AX89Xは、1台で3階建ての戸建住宅、あるいは4LDK程度のマンションに対応するとしているが、建築構造や間取り、設置場所によっては電波が届きにくいエリアも生まれてしまう。

 広い家に転居するなどして不満を感じるようになったとき、ルーターをもう1台追加してカバー範囲を広げられるメッシュWi-Fiは、高速通信がウリのWi-Fi 6環境において、よりいっそう重要な機能になるだろう。

Wi-Fi 6は高速とはいえ、電波の届く範囲が従来より広がるものでは基本的にない


ファイル共有やバックアップに使えるUSBポートも装備

 インターフェースとしては、ほかにUSBポートが2基あり、外付けのHDDやSSDを接続することで、簡易的なNASのように扱うことができる。家族やオフィスのチームメンバーとファイル共有するためのファイルサーバーとして利用するのもいいし、macOSのTime Machine機能にも対応しているため、バックアップ環境を簡単に整えたいときにも便利だ。

USBポートにHDDなどを接続することで、簡易的なNASとしても運用できる

 ASUSのハイエンドルーターに位置付けられるRT-AX89Xは、実売価格で4万円台とやや高額にはなる。しかし、広帯域のWi-Fi 6に加えて10Gbpsのポート2基を装備し、将来を見据えたメッシュネットワークへの対応など、充実の機能・性能をもつことを考えると、価格相応か、むしろリーズナブルに感じてきてしまいそうだ。


大きめの筐体と周囲に広がる8本のアンテナで置き場所に困る?

RT-AX89Xのアンテナは、実は畳んでおくこともできたりする。クモっぽさがさらに増す?

 8本のアンテナが外周にそびえ立ち、まるでクモのようなインパクトあるRT-AX89Xの外観。機能・性能が充実しているとしても、海外メーカーの製品ということもあって「大きすぎて日本の住宅事情にマッチしないのでは」と不安に思う人もいるかもしれない。

 実際のところはどうなのか。筆者の自宅のルーター置き場にしているところに設置してみた様子が、以下の写真だ。

メインルーター置き場にしている筆者宅2階の棚。手前側が少しはみ出てしまった

 スペックシート上のサイズは343×343×80mm(幅×奥行×高さ、立てたアンテナを含まず)ということで、写真を見ると分かる通り、設置した奥行き250mmの棚から若干はみ出てしまっている。たしかに占める面積は小さいとは言えず、大きな地震など万が一のことを考えると(ヒモなどで固定しないと)落下の不安がある。

 とはいえ、アンテナを立てたときの高さは実測175mmほどで、意外と「薄い」。形のインパクトはあるけれど、全体的に見ると大きさについては驚くほどではない。前後左右のスペースさえ確保できれば、高さ方向には狭い収納スペースでも収まりよく設置できるはずだ。

 それでも、可能な限り広範囲で高速通信できるようにしたいのであれば、通信するデバイスまで見通しのいい高さで、周囲に障害物が少なく、できるだけ建物の中心に近い場所に設置したいところではある。

真横から見ると意外と「薄い」
ただ、できれば障害物に遮られない余裕のあるスペースに置きたいところではある


セットアップはウィザードで簡単!ビジネス用途なら「AiProtection」にも注目

 セットアップの手順は難しくはない。ざっと説明すると、最初にプロバイダーや通信会社から支給されているモデムまたはゲートウェイの電源を念のため入れ直し、そこからRT-AX89XのWANポートにケーブルをつないで、起動したらWi-Fi接続し、「router.asus.com」にアクセスし初期設定を行なう。あとは画面の指示に従って操作すれば設定完了だ。

 デフォルトではルーターモードで動作するため、利用しているインターネット回線(ゲートウェイ)によっては二重ルーター状態になることがある。その場合は(利用できる機能は残念ながら少なくなってしまうが)アクセスポイントモードで動作させよう。

起動したら「router.asus.com」にアクセス
Wi-Fi 6は必ず有効にしておきたい
インターネット回線やゲートウェイの都合上、二重ルーターになってしまう場合は「アクセスポイントモード」を選ぼう

 オフィスにRT-AX89Xを設置するときは、セキュリティを高めるため「AiProtection」機能の設定も最初にしておきたいところ(ルーターモードで利用する場合のみ)。

 AiProtectionは、トレンドマイクロが持つデータベースを用いて、悪質なサイトへアクセスしたときの通信や、外部からの攻撃、不正な通信をブロックしてくれたり、LAN内のコンピューターウイルスに感染したデバイスを検出してブロックしてくれたりと、ネットワーク上のさまざまなセキュリティリスクを防ぎ、安全にインターネットを利用できるようにするものだ。

ネットワークのセキュリティを高める「AiProtection」の設定画面
現在のルーター設定で脆弱性のありそうな部分をチェックリスト形式で確認できる
クライアントデバイスが何らかのセキュリティリスクに遭遇してブロックしたときに、管理者宛にメール通知する機能も備える

 このAiProtectionには「ペアレンタルコントロール」の機能も含まれており、家庭でも活躍してくれる。成人向けサイトやSNS、ストリーミングといった代表的なコンテンツカテゴリーから選ぶだけで、指定したデバイスをそれらのサービスにアクセスできないように設定できるのだ。

 指定した時間帯だけインターネットにアクセス可能(不可)にする設定もあり、小さな子どもが不用意にインターネットにアクセスして有害な情報を閲覧したり、動画やゲームに熱中し過ぎたりしないように管理ができる。

ペアレンタルコントロールの機能で、デバイスごとにアクセス不可のコンテンツを設定可能
インターネットアクセスが可能な時間帯を曜日ごと、デバイスごとに指定して、子供のネット依存を抑えることも


2階+ロフトの木造戸建住宅でどれだけWi-Fiが改善するのか?

 さて、Wi-Fi 6と10GbEに対応したRT-AX89Xを導入することで、ネットワークのパフォーマンスはどれだけアップするだろうか。ベンチマークテストで確かめてみよう。

 テスト環境となる筆者宅のインターネット回線は5Gbps。しかしながら、現在のネットワークでは、ルーターやスイッチ間の有線LAN接続がすべて1GbEで、回線が5Gbpsの実力を発揮できていなかった。

 そして、Wi-Fi 6対応(リンク速度最大1200Mbps)のスマートフォンは2台あるものの、これまで使っていたのは最大リンク速度が867MbpsのWi-Fi 5対応ルーターだったため、LAN内の通信においてもデバイス本来のパフォーマンスが生かし切れていないと言える。

 とはいえ、これまでのWi-Fiルーターはメッシュ対応でルーターで3台構成。1台は2階中央付近の棚にあり、ここから有線LANで1階中央のサテライト1台に、残りの1台も1階に設置しており、有線LANが通っていない仕事部屋に置くことで少しでも電波強度を高め、オンライン会議や動画再生などで帯域不足に陥らないようにしていた。

筆者宅のざっくりとした間取り図。従来環境では2階にメインルーター、1階にサテライトとして2台のルーターを集中させている


3台のメッシュWi-Fiと比較して電波強度は一長一短

 そんなわけで、このメッシュ3台体制の環境から1台のRT-AX89Xに置き換える。10GBASE-Tで接続することで5Gbpsのインターネット回線をフル活用できるようにし、LAN側ではWi-Fi 6と10GBASE-Tポートを増設する2つのPC用PCIe拡張カードを用意して、1Gbpsを超える通信速度も計測可能にした。

 ルーターが1台になれば電波範囲がその分狭くなる可能性はあるが、Wi-Fi 6による高速化でカバーできるだろうか? まず筆者宅におけるWi-Fi電波強度を、従来の環境とRT-AX89X導入後で比較してみた。

 条件を揃えるため、RT-AX89Xも(落下しないよう固定した上で)既存メインルーターと同じ場所、2階の建物中央付近の棚に設置。いずれも5GHz帯に接続した状態で、アプリ「Wi-Fiミレル」を使用。数値が大きいほど電波状況がいいことを意味する。

 メッシュWi-Fiだった従来は、宅内のほぼ全域に電波が届いている。屋外のガレージはさすがに厳しいが、それ以外は極端に弱いところも(もっと言うと極端に強いところも)なく、そこそこ無難に通信できそうな状況だ。

メッシュルーター3台による従来環境の電波強度レベル

 対してRT-AX89Xでは、1階の浴室など距離のあるエリアではかなり減衰している。さすがにメッシュWi-Fiの3台構成と比べ、離れた場所で電波強度がやや弱くなってしまうのは仕方のないところだろう。

RT-AX89X環境の電波強度レベル


通信速度はほとんどの場所で従来以上電波の通りが良くないテレビ裏までカバー

 では、通信速度はどうだろうか。電波強度を計測した箇所でLAN内のデータ転送速度をチェックしてみる。使用したツールはiPerf3。Wi-Fi 5およびWi-Fi 6対応のスマホをクライアントとして、10GbEで有線接続したPCをサーバーとして稼働させ、クライアントサーバー間の通信速度を計測した。

 電波強度としては弱くなっていたRT-AX89Xだが、クライアントとして動作させたスマホの最大1200MbpsのWi-Fi 6を生かして、データ転送速度はほとんどの箇所で従来環境を上回った。筆者が最も重視している仕事部屋については、ルーターから距離があるため通信速度が低下することも覚悟していたが、速度は2倍以上にまで向上している。

iPerf3によるLAN内速度計測結果
※iPerf3のパラメーターを「-i1 -t10 -P10」として、サーバー用PCとクライアント(スマホ)との間で通信して検証

 距離的に最もルーターに近いリビングは当然ながら高速。加えて、通常は電波の通りが良くない(Google ChromecastやAmazon Fire TV Stickなどを接続したときに通信が不安定になりがちな)テレビ裏まできっちりカバーしているあたり、RT-AX89Xの8本の立派なアンテナは伊達ではないと思わせる。


ネットの速度はリビングで2.5倍、仕事部屋は3倍に向上!

 ここまではLAN内の測定値だが、インターネット回線の速度は10GbE(5Gbps)で接続することで向上するだろうか。最も電波状況の良かったリビングと、一番重要な1階の仕事部屋の両方で計測してみた。計測パターンは下記の3つで、従来の1GbEのままWi-Fi 6にしたケースについても確認している。

  1. 従来環境でWi-Fi 5かつ1GbEでインターネット回線に接続
  2. RT-AX89XでWi-Fi 6かつ1GbEでインターネット回線に接続
  3. RT-AX89XでWi-Fi 6かつ10GbEでインターネット回線に接続
インターネット回線の通信速度計測結果
※Googleの「インターネット速度テスト」を利用

 従来環境は、リビングでは不満なく通信できるが、仕事部屋では少し重めの通信が重なると不安を感じる速度となった。RT-AX89XでWi-Fi 6にするだけで、インターネット回線が1GbEだったとしても、受信速度は2倍弱もしくは3倍弱にまでアップした。

 さらに5Gbpsのインターネット回線を10GbE LANに接続すると、リビングは元の2.5倍、仕事部屋は3倍の速度に向上。Wi-Fi 6化の恩恵は大きい。


NASへのファイル転送も高速化、時間が半分になる場合も

 もう1つ、LAN内での計測に戻ってしまうが、ルーターに接続したNAS(8TB HDD×4)におけるデータ転送速度も見てみよう。このNASは1GbEもしくはLAGによる2Gbpsでの接続に対応している製品だ。こちらも下記の通り3パターンで大容量ファイルのデータ転送にかかる時間を比較している。このテストのみ、クライアント側はWi-Fi 6(リンク速度最大1200Mbps)対応のPCを使用した。

  1. 従来環境のWi-Fi 5かつ1GbEで接続
  2. RT-AX89XでWi-Fi 6かつ1GbEで接続
  3. RT-AX89XでWi-Fi 6かつ2Gbpsで接続
NASとPC間のデータ転送テスト結果
※ファイル数429個、計14.1GBの写真・動画データをNASにアップロード(書き込み)したときと、PCにダウンロード(読み込み)したときの時間を計測

 結果としては当然ながら、従来環境のWi-Fi 5よりRT-AX89XのWi-Fi 6の方が短時間でデータ転送できた。1GbEのままWi-Fi 6にした場合でも確実に速度アップしていることが分かる。ただし、2GbpsのLAGによる速度向上は残念ながらほとんどなかった。

 これは今回使用したWi-Fi 6のリンク速度が最大1200Mbpsで、実質的には1GbEの帯域で間に合っていることと、そもそもNASのHDDにおけるデータ転送速度の限界に近づいているから、と考えられる。

 しかし、少なくともWi-Fi 6にするだけで、ほかの物理回線が既存の環境のままでも、インターネット回線はもちろん、LANにおける実データの転送の両方が高速化されることは間違いない。そして10GbEでインターネット接続すれば、さらに一段上の快適な通信環境が得られるのだ。


「動画6本見ながら」でも余裕の余力、実効速度の低下は5%

 最後に、同時通信による速度の違いも確認しておこう。Wi-Fi 6では、「OFDMA(直交周波数分割多元接続)」や、拡張された「MU-MIMO」など、いくつかの新しい技術を採用しており、単なる高速化だけでなく複数のデバイスが同時接続したときの安定性の高さも特徴となっている。

 個人が所有する数台程度の端末で違いが出るかどうかは分からないが、PC2台、スマホ2台、テレビ2台の計6デバイスで、フルHDもしくは4K解像度の高ビットレート動画を再生しながら、ほかのPCとスマホでLAN内(iPerf3)のデータ転送速度を計測してみた。

複数デバイス同時接続時のLAN内速度計測結果

 通常時の速度と比較して、同時通信した場合は、従来のWi-Fi 5環境では約3割減、100Mbpsを超える速度低下を引き起こしている。ところがRT-AX89XのWi-Fi 6環境ではわずか5%あまり、40Mbps程度の低下に留まっている。

 6デバイスのうちWi-Fi 6対応デバイスは2台のみ、有線LANで接続している端末が1台あるので、OFDMAやMU-MIMOの効果はおそらく限定的と思われる(ルーターの処理性能の違いが影響していることも考えられる)が、従来環境とWi-Fi 6環境とで同時接続の安定性には多少なりとも違いは出てくるようだ。

 なお、結果的には、どちらの環境でも全端末で安定して動画を再生できていた。しかし、10台、20台と同時通信するデバイスが増えていくほど、この結果に比例するように速度低下の度合いが顕著になっていく可能性もある。

 大勢が同時アクセスするオフィスでWi-Fi環境を構築するときは、特にこうした同時通信時における安定性にも着目して製品を選びたい。


高速回線ユーザーなら必携の1台。Wi-Fi 6デバイスの進化による伸びしろにも期待できる

 従来環境を大きく上回るスピードを手に入れることが可能なRT-AX89Xだが、個人的に気になる部分もある。

 1つは、やはり1台体制では木造1戸建とはいえ、電波が届きにくいエリアができてしまうこと。テスト時のデータ転送速度としては高速に見えるが、電波の弱い箇所、例えば浴室では、ウェブブラウジングや動画再生などの日常使用で、タイミングによってはスムーズに通信できないこともあった。建物のあらゆる場所で安定して通信したいのであれば、AiMesh対応機を追加で用意し、メッシュWi-Fiを構築することは不可欠だろう。

 それと、筐体のサイズが多少大きいのは仕方ないとしても、ただの平置きだけでなく、壁掛けや天井付けなども可能にする構造になっているか、もしくはオプションのアタッチメントなどがあると、筆者宅のような狭い建物でも設置の自由度が高まるのではないかと思う。オフィスのようにワンフロアでより広く電波を届かせたい場面でも、天井に付けられると都合がいいかもしれない。

 と言いつつも、Wi-Fi 6対応かつ10Gbpsポートを2つ搭載し、メッシュWi-Fiにも対応して、家庭だけでなくオフィス用途にも耐える機能・性能をもつRT-AX89Xの魅力は大きい。Wi-Fiだけが高速化されるWi-Fi 6ルーターとは異なり、5Gbpsや10Gbpsのインターネット回線をもしっかり生かせるし、高速回線ユーザーにとっては待望と言える決定版の1台と言えそうだ。

 実際にテストしてみたところでも、期待に違わずWi-Fi 6の本来の性能を発揮できる製品に仕上がっており、2400Mbpsやそれ以上で通信可能なWi-Fi 6デバイスを手に入れたときの伸びしろも考えると、まだまだ将来の楽しみが残っているとも感じる。

 従来のWi-Fi 5デバイスや1GbEしかない環境でもネットワークとしてのパフォーマンスはアップするので、先行してRT-AX89Xだけ導入する、というプランも強くおすすめしておきたい。

(制作協力:ASUS JAPAN株式会社)