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個人事業主待望のe-Tax送信アプリ! 「freee」の“スマホ電子申告”が快適・便利だった

「ICカードリーダーライター不要」がとにかくありがたい!

個人事業主待望のe-Tax送信アプリ、「freee」の“スマホ電子申告”が快適・便利だった

 フリーランスで稼ぐライターやデザイナー、あるいは飲食店などを個人で経営している人たちは一般的に「個人事業主」と呼ばれ、会社勤めで給料を払ってもらう「給与所得者」とは税法上の立場が微妙に異なる。毎年2~3月の確定申告にあたっては、伝票整理や帳簿処理をキチッとまとめ上げ、所得税を申告したり、事前徴収(源泉徴収)されていた税金の還付を受けるための手続きが必要になってくる。

 こうした個人事業主の確定申告手続きは、IT化によって年々カンタンになってきてはいるが、2021年に新たなステップを踏み出した。クラウド会計ソフトで知られるfreee株式会社が、スマホアプリから直接、電子申告(e-Tax)を行うための機能を提供開始したのだ。筆者も早速試してみた。

freeeなら、個人事業主がスマホアプリから直接、電子申告できるように

 「あれ? 確か確定申告ってスマホからできなかったっけ? ニュースとかで『スマホでできる』ってアピールしてたような……。」

 その認識は半分正解、半分はずれといったところ。確かに給与所得者が、医療費が多額になった場合の所得税還付を受ける手続きなどは、国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」にスマホでアクセスすれば行うことができる。

 しかし個人事業主(厳密には報酬を「事業所得」として計上している個人)は、同サイトのスマホ版だけでは機能が足らず、どうしてもPC版サイトを利用しなければならないのだ。「確定申告のスマホ対応」は2019年あたりから段階的に拡大しているが、今年2月16日にスタートした「令和2年分確定申告」でも、この仕様は変わっていない。

国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」にスマホでアクセスしたところ。「収支内訳書や青色決算書を作成される方はパソコンをご利用ください」とある。つまるところ、個人事業主はスマホだけでは書類を完成させられない

 そんな中、freeeでは独自の対応を進めた。「確定申告書等作成コーナー」にアクセスすることなく、あくまでfreee製のスマホアプリにおいて、日常的な経理業務を行う延長線上で、年に一度の確定申告をオンラインで行えるようにしたのだ。「個人事業主が」「PCレスでも」「スマホ会計アプリから直接」の三拍子そろったことが画期的なのである。この機能は、「会計freee」の個人事業主向け有料プランの契約者が利用できる。

1月18日に開催されたfreeeの記者発表会の資料より。電子申告専用のスマホアプリが新規リリースされ、個人事業主でもPCレスでオンライン申告できるようになった

 その“スマホ電子申告”に必要になるものは、まず「マイナンバーカード」。これだけは意識的に取得しておかないとはじまらない。昨年の「マイナポイント」キャンペーンを契機に取得された方も多いはずだ。

 そして「マイナンバーカード読み取りに対応したスマートフォン」を使う。具体的な機種名は「JPKI(公的個人認証サービス)」のポータルサイトなどから一覧を確認でき、例えばiOS端末であればiPhone 7以降が含まれる(ただし最新のiPhone 12はリストに未掲載)。

 つまり、申告にあたってはきっちりとマイナンバーカードを電子的に読み取る方式だ。暫定発行されたID・パスワードを使う方式ではなく、あくまで王道を行く本格的な電子申告方法であり、来年以降も継続的に選択可能な手法になっていくことだろう。

freeeの“スマホ電子申告”ではマイナンバーカードが必須

パスワード間違いにさえ気を付ければ、あとはカンタン

 ここからは実際に「freee」のアプリを使って、スマホ電子申告の流れを見ていこう。今回はPixel 5を用いてAndroid版アプリで試しているため、iPhone利用時とは画面の挙動などが異なることにご注意を。

 まず、2020年1月1日~12月31日の期間に発生した取引の記帳をしっかり済ませておく。「3月1日 交通費 1000円」「7月20日 売上 10万円」「9月30日 消耗品費 5000円」といった感じだが、1年分となると軽く100~200件はあるはず。「領収書は集めておいたけど記帳してない!」という人は、あきらめて淡々と手動で記帳なされますよう。なお、こうした作業にPCを使えば、Excelなどでデータを取り込むことも可能だ。

Android版「freee」アプリのメイン画面
スマホでの取引入力はこんな感じ。毎日コツコツつけていくと、あとでラクできます

 記帳が全て終わったなら、freeeアプリのメニューから「確定申告」を選択する。ここの画面からは、確定申告に必要となる追加情報の入力について、ステップバイステップで確認していく。氏名や電話番号などにはじまり、多額の医療費を払ったか、株式や仮想通貨の取引があったか、扶養家族はいるかなどに答えていくと、記入すべき内容を提示してくれる。支払った社会保険料(国民年金や健康保険)の額についてもここで具体的に入力することになるので、役所から送られてきた書類を見ながら転記する。

 また、肝心の申告方法についても「電子申告」を選んでおくことをお忘れなく。

メニューから「確定申告」を選択すると、やるべきことを順番に教えてくれる
質問に答えていけばOK。もちろん項目によっては、取引先の氏名・住所、金額などを記入する必要があるので、書類は集めておくこと

 こうして入力が完了すると、納税額・還付額などが確定し、PDF形式の書類にまとまる。筆者は事前に「青色申告」を選択しているので「青色申告決算書」「確定申告書B」という2つのPDFが作成されたが、「白色申告」であったり、所得の種類によっては、書類の名称や数が微妙に異なる。

 ただいずれにせよ、これらの書類を電子的に送信することが、オンライン確定申告(e-Tax)の中核である。昨年までは、freeeでもスマホでそこそこの作業ができていたのだが、いざ税務署に送るとなったときにPCが必要だったり、PCがあってもICカードリーダーライターがないときは紙に印刷して郵便で送らなければならなかった。これがスマホだけで完結するようになったのが、この1年の進化……というわけだ。

個人個人に応じた書類がPDFとして出力されるので、これを税務署に電子的に送る

 画面では、オンライン申告に必要なものを改めて表示してくれる。マイナンバーカード、マイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォン、そしてfreee製の「電子申告アプリ」(これが正式名称)をGoogle Playストアからダウンロードしておく。電子申告アプリは、会計freeeの本アプリと連携する確定申告専用のアドオンといったイメージだ。また、Androidの場合は「JPKI利用者ソフト」(地方公共団体情報システム機構)も必要だ。

 筆者の場合は、前年にもオンラインで確定申告を行っていたので、電子申告に必要な「(国税電子申告・納税システムの)利用者識別番号の取得」および「電子証明書の登録」作業は完了済み。もし今年初めてオンライン申告する場合は、ウェブサイトの「freee電子申告開始ナビ」に従って準備をすることになる。

いよいよ送信。今回は「スマートフォン」を選択する。今回は省略したが、必要に応じて「利用者識別番号」などの取得も必要
freee製「電子申告アプリ」をインストールしておくこと。Androidの場合は「JPKI利用者ソフト」も追加で必要だ

 画面の案内に沿って「電子申告アプリの起動」をタップ。freeeのアカウントでログインする。ほどなくすると申告用PDFの書類がアプリ内部にダウンロードされるので、今度は前述の利用者識別番号の認証を行う。

 ここでようやく、マイナンバーカードの出番になる。画面の表示に従って、スマホ背面のカードリーダーにマイナンバーカードをタッチさせる。読み取りが完了すると、画面が自動的に遷移するので、ここで「公的個人認証サービスにおける署名用パスワード」を入力する。

「電子申告アプリ」に切り替わるので、利用者識別番号に対応するパスワードを入力
この表示が出たらマイナンバーカードをスマホにタッチ。OKが出るまではタッチし続けること

 ここで言うパスワードとは、マイナンバーカード発行時に申請した「署名用電子証明書用の暗証番号」のこと。英字(大文字のみ)・数字6文字以上~16文字以内で設定したはずである(4桁の数字ではない)。

 このとき、マイナンバーカードをスマホから離してはならない。スマホを机には置かず、空中で、かつ片手でカードを固定したまま、もう片方の手で入力するのが理想的だ。鉄製の机の上において入力しようとすると誤作動を起こしやすい。

スマホの機種によって、マイナンバーカードをタッチさせる位置は若干異なる。正常処理されると音が鳴るので、うまくいかないときはカードをタッチしたままズラすとよい

 そして、入力ミスにはとにかく注意してほしい。署名用電子証明書用の暗証番号は5回連続で間違えるとロックがかかり、解除するには役所の窓口に足を運んで、身分証明をしなければならないからだ。筆者は、マイナンバーカードの前身たる住民基本台帳カードの時代にこのミスをやらかし、心底落胆した経験がある。なにかと忙しい時期に、ロック解除のためだけに役所へ行くのは本当に骨が折れる。ある意味、オンライン確定申告で最も緊張する場面なので、とにかく慎重にやってほしい。また、複数のID・パスワードを場面ごとに入力するので、取り違えにも注意しよう。

ここでマイナンバーカードのパスワード(正確には『署名用電子証明書用の暗証番号』)を入力する。連続5回間違えないよう、とにかく確実に

 ただ、ここの認証さえ終われば、あとはものの十数秒で送信は完了。「え、これでいいの?」と思うほどあっけない。

 だが、メリットは大きい。普通郵便で紙の確定申告書類を送るのとは違い、その場で送達確認ができる。封筒に宛名書きをせず、切手代も要らない。もちろん税務署に書類を持参する必要もない。新型コロナウイルス感染症の警戒を緩められない昨今、実に合理的な申告方法だと言える。

「署名用電子証明書用の暗証番号」が最後の関門。それさえ終われば、この画面までもう一息
やや分かりづらいが、freeeアプリからは送信結果が確認できる。ここでは「利用者識別番号」とそのパスワードを使う

まとめ:ICカードリーダーライター不要がとにかくありがたい! あとは日々の記帳をしっかりと

 筆者が個人事業主として確定申告をするようになって15~16年ほど経つ。電子申告に初めてチャレンジしたのが2009年2月のことで、そのときにWindows対応のICカードリーダーライターを購入し、以来ずっと使い続けていた。筆者にとってこのICカードリーダーライターは1年に1回、確定申告のときにだけ使う、出番の少ない製品。3000円前後でニューモデルがラインアップされているとはいえ、積極的に買い替える気が起こらず、とにかくだましだまし使い続けていた。ただドライバーの準備やらなにやらで、とにかく運用には気苦労が多かった。

これまで使っていたICカードリーダーライター「RC-S330」。10年以上前の製品ということもあり、接続ケーブルはなんとmini USB(!)。ドライバーや必須ソフトの挙動も、かなり怪しくなってきていた

 それが今年、freeeを使えば個人事業主でも、マイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォンからオンライン申告できるようになった。利用にあたっての準備も、公式アプリストアからアプリを2~3個ダウンロードするくらいで済み、また、筆者の環境ではトラブル無く動作してくれた。本当に、本っ当ーーーーーに感慨深いことである。来年の2月を考えても、まさに心が軽くなる想いだ。

 個人事業主の電子申告を巡っては、今年から制度変更が入った。詳しくは奥川浩彦氏の記事『今年「e-Taxで確定申告」すべき理由とは?』をご参照いただきたいが、青色申告を選択した納税者、つまり「所得税の青色申告承認申請書」を事前に提出していて、かつ青色申告に適合したルールで帳簿を作成し、電子申告すると、トータルでは控除額が10万円増える(所得が10万円減った扱いになるので、その分、税金が減る)。だが内訳を見ると、「青色申告特別控除」は従来なら65万円だったが、今年は電子申告時に最大65万円、紙申告時には55万円と差が付いている。よって電子申告をしないと確実に損してしまう。

 青色申告を行うための事前申請は、原則として毎年3月15日にまで済ませる必要がある。freeeのような会計ソフトさえ使えば、青色申告はそれほど難しくない。漫然と白色申告を続けている方は、ぜひこれを契機に青色申告への移行を検討してみてほしい。

 そして白色申告・青色申告どちらであっても、スムーズな確定申告のためにぜひ意識したいのが「こまめな記帳、こまめな帳票整理」である。日記や小遣い帳と同じで、金銭の出入りがあったらとにかく早めに記録する。クラウド会計ソフトのスマホアプリを使えば、今や電車移動の最中にも入力は可能。あとは月単位で領収書などを小分けにしておくと、さらによい。

 最近は、クラウド会計ソフトのほとんどが、オンラインバンキングやクレジットカードの利用者サイトと連携して、自動的に取引を記帳できるようになっている。筆者も2021年1月分からは、こうした自動化機能を使った帳簿作成にチャレンジする予定だ。成果があれば、また来年ご報告したい。

freeeでは「口座情報」から、銀行口座やクレジットカードを紐付けられる。あとは定期的に入金・出金の履歴が自動で取り込まれる。経理の効率化に大変有効な機能だ
「INTERNET Watch」ではこのほかにも、確定申告の基礎知識、e-Taxのメリット/デメリットから、確定申告ソフトの使い方、マイナンバーカードを読み取る際に必要なICカードリーダーライターの情報まで、確定申告に関する記事を多数掲載しています。まとめページ『確定申告の期間はいつまで? e-Taxのやり方は?【令和2年分(2020年分)確定申告まとめ】』よりご参照ください。