レビュー
個人事業主待望のe-Tax送信アプリ! 「freee」の“スマホ電子申告”が快適・便利だった
「ICカードリーダーライター不要」がとにかくありがたい!
2021年3月9日 07:00
フリーランスで稼ぐライターやデザイナー、あるいは飲食店などを個人で経営している人たちは一般的に「個人事業主」と呼ばれ、会社勤めで給料を払ってもらう「給与所得者」とは税法上の立場が微妙に異なる。毎年2~3月の確定申告にあたっては、伝票整理や帳簿処理をキチッとまとめ上げ、所得税を申告したり、事前徴収(源泉徴収)されていた税金の還付を受けるための手続きが必要になってくる。
こうした個人事業主の確定申告手続きは、IT化によって年々カンタンになってきてはいるが、2021年に新たなステップを踏み出した。クラウド会計ソフトで知られるfreee株式会社が、スマホアプリから直接、電子申告(e-Tax)を行うための機能を提供開始したのだ。筆者も早速試してみた。
freeeなら、個人事業主がスマホアプリから直接、電子申告できるように
「あれ? 確か確定申告ってスマホからできなかったっけ? ニュースとかで『スマホでできる』ってアピールしてたような……。」
その認識は半分正解、半分はずれといったところ。確かに給与所得者が、医療費が多額になった場合の所得税還付を受ける手続きなどは、国税庁のウェブサイトにある「確定申告書等作成コーナー」にスマホでアクセスすれば行うことができる。
しかし個人事業主(厳密には報酬を「事業所得」として計上している個人)は、同サイトのスマホ版だけでは機能が足らず、どうしてもPC版サイトを利用しなければならないのだ。「確定申告のスマホ対応」は2019年あたりから段階的に拡大しているが、今年2月16日にスタートした「令和2年分確定申告」でも、この仕様は変わっていない。
そんな中、freeeでは独自の対応を進めた。「確定申告書等作成コーナー」にアクセスすることなく、あくまでfreee製のスマホアプリにおいて、日常的な経理業務を行う延長線上で、年に一度の確定申告をオンラインで行えるようにしたのだ。「個人事業主が」「PCレスでも」「スマホ会計アプリから直接」の三拍子そろったことが画期的なのである。この機能は、「会計freee」の個人事業主向け有料プランの契約者が利用できる。
その“スマホ電子申告”に必要になるものは、まず「マイナンバーカード」。これだけは意識的に取得しておかないとはじまらない。昨年の「マイナポイント」キャンペーンを契機に取得された方も多いはずだ。
そして「マイナンバーカード読み取りに対応したスマートフォン」を使う。具体的な機種名は「JPKI(公的個人認証サービス)」のポータルサイトなどから一覧を確認でき、例えばiOS端末であればiPhone 7以降が含まれる(ただし最新のiPhone 12はリストに未掲載)。
つまり、申告にあたってはきっちりとマイナンバーカードを電子的に読み取る方式だ。暫定発行されたID・パスワードを使う方式ではなく、あくまで王道を行く本格的な電子申告方法であり、来年以降も継続的に選択可能な手法になっていくことだろう。
パスワード間違いにさえ気を付ければ、あとはカンタン
ここからは実際に「freee」のアプリを使って、スマホ電子申告の流れを見ていこう。今回はPixel 5を用いてAndroid版アプリで試しているため、iPhone利用時とは画面の挙動などが異なることにご注意を。
まず、2020年1月1日~12月31日の期間に発生した取引の記帳をしっかり済ませておく。「3月1日 交通費 1000円」「7月20日 売上 10万円」「9月30日 消耗品費 5000円」といった感じだが、1年分となると軽く100~200件はあるはず。「領収書は集めておいたけど記帳してない!」という人は、あきらめて淡々と手動で記帳なされますよう。なお、こうした作業にPCを使えば、Excelなどでデータを取り込むことも可能だ。
記帳が全て終わったなら、freeeアプリのメニューから「確定申告」を選択する。ここの画面からは、確定申告に必要となる追加情報の入力について、ステップバイステップで確認していく。氏名や電話番号などにはじまり、多額の医療費を払ったか、株式や仮想通貨の取引があったか、扶養家族はいるかなどに答えていくと、記入すべき内容を提示してくれる。支払った社会保険料(国民年金や健康保険)の額についてもここで具体的に入力することになるので、役所から送られてきた書類を見ながら転記する。
また、肝心の申告方法についても「電子申告」を選んでおくことをお忘れなく。
こうして入力が完了すると、納税額・還付額などが確定し、PDF形式の書類にまとまる。筆者は事前に「青色申告」を選択しているので「青色申告決算書」「確定申告書B」という2つのPDFが作成されたが、「白色申告」であったり、所得の種類によっては、書類の名称や数が微妙に異なる。
ただいずれにせよ、これらの書類を電子的に送信することが、オンライン確定申告(e-Tax)の中核である。昨年までは、freeeでもスマホでそこそこの作業ができていたのだが、いざ税務署に送るとなったときにPCが必要だったり、PCがあってもICカードリーダーライターがないときは紙に印刷して郵便で送らなければならなかった。これがスマホだけで完結するようになったのが、この1年の進化……というわけだ。
画面では、オンライン申告に必要なものを改めて表示してくれる。マイナンバーカード、マイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォン、そしてfreee製の「電子申告アプリ」(これが正式名称)をGoogle Playストアからダウンロードしておく。電子申告アプリは、会計freeeの本アプリと連携する確定申告専用のアドオンといったイメージだ。また、Androidの場合は「JPKI利用者ソフト」(地方公共団体情報システム機構)も必要だ。
筆者の場合は、前年にもオンラインで確定申告を行っていたので、電子申告に必要な「(国税電子申告・納税システムの)利用者識別番号の取得」および「電子証明書の登録」作業は完了済み。もし今年初めてオンライン申告する場合は、ウェブサイトの「freee電子申告開始ナビ」に従って準備をすることになる。
画面の案内に沿って「電子申告アプリの起動」をタップ。freeeのアカウントでログインする。ほどなくすると申告用PDFの書類がアプリ内部にダウンロードされるので、今度は前述の利用者識別番号の認証を行う。
ここでようやく、マイナンバーカードの出番になる。画面の表示に従って、スマホ背面のカードリーダーにマイナンバーカードをタッチさせる。読み取りが完了すると、画面が自動的に遷移するので、ここで「公的個人認証サービスにおける署名用パスワード」を入力する。
ここで言うパスワードとは、マイナンバーカード発行時に申請した「署名用電子証明書用の暗証番号」のこと。英字(大文字のみ)・数字6文字以上~16文字以内で設定したはずである(4桁の数字ではない)。
このとき、マイナンバーカードをスマホから離してはならない。スマホを机には置かず、空中で、かつ片手でカードを固定したまま、もう片方の手で入力するのが理想的だ。鉄製の机の上において入力しようとすると誤作動を起こしやすい。
そして、入力ミスにはとにかく注意してほしい。署名用電子証明書用の暗証番号は5回連続で間違えるとロックがかかり、解除するには役所の窓口に足を運んで、身分証明をしなければならないからだ。筆者は、マイナンバーカードの前身たる住民基本台帳カードの時代にこのミスをやらかし、心底落胆した経験がある。なにかと忙しい時期に、ロック解除のためだけに役所へ行くのは本当に骨が折れる。ある意味、オンライン確定申告で最も緊張する場面なので、とにかく慎重にやってほしい。また、複数のID・パスワードを場面ごとに入力するので、取り違えにも注意しよう。
ただ、ここの認証さえ終われば、あとはものの十数秒で送信は完了。「え、これでいいの?」と思うほどあっけない。
だが、メリットは大きい。普通郵便で紙の確定申告書類を送るのとは違い、その場で送達確認ができる。封筒に宛名書きをせず、切手代も要らない。もちろん税務署に書類を持参する必要もない。新型コロナウイルス感染症の警戒を緩められない昨今、実に合理的な申告方法だと言える。
まとめ:ICカードリーダーライター不要がとにかくありがたい! あとは日々の記帳をしっかりと
筆者が個人事業主として確定申告をするようになって15~16年ほど経つ。電子申告に初めてチャレンジしたのが2009年2月のことで、そのときにWindows対応のICカードリーダーライターを購入し、以来ずっと使い続けていた。筆者にとってこのICカードリーダーライターは1年に1回、確定申告のときにだけ使う、出番の少ない製品。3000円前後でニューモデルがラインアップされているとはいえ、積極的に買い替える気が起こらず、とにかくだましだまし使い続けていた。ただドライバーの準備やらなにやらで、とにかく運用には気苦労が多かった。
それが今年、freeeを使えば個人事業主でも、マイナンバーカードの読み取りに対応したスマートフォンからオンライン申告できるようになった。利用にあたっての準備も、公式アプリストアからアプリを2~3個ダウンロードするくらいで済み、また、筆者の環境ではトラブル無く動作してくれた。本当に、本っ当ーーーーーに感慨深いことである。来年の2月を考えても、まさに心が軽くなる想いだ。
個人事業主の電子申告を巡っては、今年から制度変更が入った。詳しくは奥川浩彦氏の記事『今年「e-Taxで確定申告」すべき理由とは?』をご参照いただきたいが、青色申告を選択した納税者、つまり「所得税の青色申告承認申請書」を事前に提出していて、かつ青色申告に適合したルールで帳簿を作成し、電子申告すると、トータルでは控除額が10万円増える(所得が10万円減った扱いになるので、その分、税金が減る)。だが内訳を見ると、「青色申告特別控除」は従来なら65万円だったが、今年は電子申告時に最大65万円、紙申告時には55万円と差が付いている。よって電子申告をしないと確実に損してしまう。
青色申告を行うための事前申請は、原則として毎年3月15日にまで済ませる必要がある。freeeのような会計ソフトさえ使えば、青色申告はそれほど難しくない。漫然と白色申告を続けている方は、ぜひこれを契機に青色申告への移行を検討してみてほしい。
そして白色申告・青色申告どちらであっても、スムーズな確定申告のためにぜひ意識したいのが「こまめな記帳、こまめな帳票整理」である。日記や小遣い帳と同じで、金銭の出入りがあったらとにかく早めに記録する。クラウド会計ソフトのスマホアプリを使えば、今や電車移動の最中にも入力は可能。あとは月単位で領収書などを小分けにしておくと、さらによい。
最近は、クラウド会計ソフトのほとんどが、オンラインバンキングやクレジットカードの利用者サイトと連携して、自動的に取引を記帳できるようになっている。筆者も2021年1月分からは、こうした自動化機能を使った帳簿作成にチャレンジする予定だ。成果があれば、また来年ご報告したい。