レビュー
話題の招待制SNS「Clubhouse」の気軽さが生み出すオンライン音声コミュニケーションの魅力
2021年2月12日 16:30
音声SNSとして急速に話題を集めている「Clubhouse(クラブハウス)」。米国ではすでに2020年春ごろからサービスを開始しているが、2021年1月に入って日本のユーザーが急増。有名人や著名人などもアカウントを取得し、ネットニュースはもちろんのことテレビや新聞といったマスメディアでも毎日のように報じられるほどの注目ぶりだ。
招待制のアプリだが、利用するうちに招待枠が増えていく
利用は招待制となっており、電話番号をお互いに知っているユーザーからの招待で参加できる。初回の招待枠は2名までだが、利用しているうちに招待枠がどんどん増える仕組みとなっており、話題のサービスということもあって急速な勢いでユーザーが増えている。
現時点ではiOS限定のサービスだが、他の携帯電話でSMS認証を行うことで、iPhoneではなくiPadで利用することも可能。
コミュニケーションは音声に特化。気軽に参加/退出できる設計
「音声SNS」と呼ばれるように、コミュニケーション手段が音声に特化されているのがClubhouseの特徴。一般的なビデオ会議やボイスチャットでは、音声だけでなくテキストでやり取りできるチャットが用意されていることが多いが、Clubhouseではテキストでのコミュニケーション手段が一切用意されていない。発言したい意志を示す機能はあるものの、基本的に全てのコミュニケーションは音声で行なう必要がある。
音声のみというとハードルが高いと感じる人がいるかもしれないが、気軽に音声コミュニケーションが楽しめるよう設計されているのがClubhouseのポイントだ。
Clubhouseでは「ルーム」と呼ばれる部屋ごとに参加して会話を楽しむ仕組みだが、各ルームには参加者の名前が入室前に表示される。そのため「誰がいるのか」を事前に知った上で入室でき、退室も「Leave quietly」をタップするだけと非常に手軽。「Leave quietly」にピースサインが表示されているのは、「気軽に退出していいよ」という運営のメッセージなのだろう。
※本記事の画像は、スクリーンショットを撮影・掲載することをルームの入室者に説明し、事前に許諾を得たものです。
聞き手と話し手の距離が近い
Twitterのようなフォロー/フォロワーの機能も用意されており、フォローした相手がClubhouseを始めると通知が来たり、フォローしている人がルームに入室済みだと名前が表示されるようになっている。入室前に表示される参加者名は一部に限られるが、参加者の中にフォローした相手が表示されることで、「入室したはいいが、知っている人がいない」という状況も避けられるようになっている。
話し手と聞き手の垣根の低さも特徴だ。ルームの参加者は、音声で会話できる話し手と、話し手の会話を聞くだけの聞き手に分かれているが、話し手は、聞き手を自由に話し手へ招待でき、聞き手も挙手ボタンで話し手への参加意志を表明できる。招待が来ても都合が悪ければ断ればいいし、挙手ボタンが上がっても承認しなければ聞き手のままだ。
Clubhouseはあくまで音声チャットのため、ルーム内での会話は記録が一切残らない。利用規約でも許可の無い録音は禁止されており、「その場だけの話」を楽しむ場所という位置付けだ。
「事前に参加者が分かる」安心さ。退室の自由度も魅力
筆者も知人に招待してもらい、Clubhouseを毎日のように試している。現状のClubhouseの盛り上がり方は、招待制ゆえの盛り上がりや、既存のSNSに飽きた人たちにとっての目新しさといった本質ではない部分もあるものの、音声を使った新たなコミュニケーションスタイルとしての期待も大きいと感じた。
その1つはコミュニケーションの手軽さだ。前述の通り、Clubhouseは入室も退室もボタン1つで済む手軽さに加えて、「誰がいるのか」が入室前に分かるため、参加するまでの心理的障壁が非常に低い。
筆者は本誌記事でも紹介した通り、Zoomを使ったオンライン飲み会を何度も開催している。同窓会のようなメンバーが固定している場合はともかく、知り合いなら誰でも参加できる形式で開催した飲み会では「誰がいるのか分からないから参加しにくい」という感想を何度も受けていた。
一方、Clubhouseなら事前に誰がいるかが分かるし、退室も気軽だ。ビデオ機能がないため顔を出したくないという人も、Clubhouseならそもそも顔を出すことができないし、ただ人の話を聞いていたい、という人も聞き手として参加できる。この心理的障壁の低さは、Clubhouseが盛り上がっている理由の1つだろう。
登壇者が入れ替わり立ち替わりすることでリアルタイムに成長するイベント
現在は話題の新サービスということもあり、一般ユーザーはもちろん芸能人や著名人、芸能関係者なども多く参加しており、芸能人同士のトークイベントや業界人の裏話など、ライブイベントに近い感覚のルームも数多く開かれている。
筆者もいくつか著名人のルームに参加してみて、非常に面白い話を聞けたり、知らない業界の知識を経て学びを経たという実感はあるものの、こうした著名人のトークが聴ける場所、というのはいつまで続くかは分からない。リアルタイム限定のため途中からの参加では話題についていけないという課題や、そもそもClubhouseの流行自体が一過性という可能性もある。
そうした懸念もある一方、Clubhouseを体験して感じるのは、新しいかたちのオンラインイベントとしての可能性だ。
Clubhouseでは登壇者が参加者を気軽に登壇者側へ招待できるため、時間が経つにつれて登壇者が増えたり入れ替わり変化していき、気付けばイベントの内容自体が大きく変わっていることも珍しくない。
筆者もとある著名クリエイターのルームに参加したところ、聞き手として入室した他のクリエイターがどんどん話し手として参加していくことでイベントの内容がより深くなり、リアルタイムにイベントが成長していく、という経験をしている。
登壇者の途中参加自体は他のビデオ会議サービスでも実現可能ではあるものの、参加者が気軽に登壇者になれるというUIと、このUIがもたらした気軽な空気感はClubhouseならではと言えるだろう。
また、ルームに入室したり、スピーカーとして参加するとフォロワーにも通知が届くため、通知をきっかけに新たなルームに参加したり、スピーカーになったりという循環も生まれている。気になるイベントを自由に行き来できるという気軽さに加えて、ユーザーの行動が他のユーザーに影響を及ぼすという仕組みは、オンラインイベントの活性化という点でも興味深い。
いまはまだ立ち上がったばかりのサービスで足りない点もあるが、複数のセッションが同時に行われるようなイベントでは、Clubhouseを活用すると非常に面白くなるのでは、という期待を感じた。
電話番号を扱うSNSならではの注意点。マイクの音質も大事
まだ一部ユーザーのみしか利用できない環境ではあるが、Clubhouseを楽しむための設定もいくつか紹介したい。
まずはエイリアス。Clubhouseは実名制を採用しており本名を入れる必要があるが、ルーム参加時には姓ではなく名が表示されるため、姓でのやり取りが多い日本では名前で誰か分からないということもある。エイリアスには好きな名前を一度だけ設定できるので、自分の名前やハンドルネームなど分かりやすい名前を設定しよう。
なお、アカウントは電話番号と紐付いているため、「自分の電話番号を知っている人に見える名前」という点には注意しておこう。例えば家族や親族、職場の上司や同僚など、ネット上ではコミュニケーションしていない人にもClubhouseのアカウントを見られる可能性がある。TwitterアカウントやFacebookアカウントも同様で、設定することで「自分の電話番号を知っている人にTwitterやFacebookが知られる」ということにもなる。
音声のみのコミュニケーションのため、唯一のコミュニケーション手段であるマイクも重要だ。利用端末がスマートフォンやタブレットに限られるため音質はそもそもそこまで高くないのだが、環境によっては周りの雑音が騒がしかったり、鼻息や吐息が伝わってしまうこともある。
自分の音を自分で確認するのは難しいため、友達同士のルームなど気軽な場所でまずは普段使っているマイクの状況について聞いてみるといい。また、音が大きすぎる、雑音が入ってくるというときは、きちんと本人に伝えてあげるほうが本人のためにも、他の参加者のためにもなる。外出中などは周囲の音が騒がしい可能性もあるため、話すとき以外はミュートにするといった配慮も必要だ。
自由度と必然性の高いコミュニケーションのかたち
Clubhouseの登場前から音声でのコミュニケーションサービスはいくつも存在するが、Clubhouseの特徴は、全てのユーザーが1つのClubhouseという世界にに存在し、ルーム間の移動がとても手軽だという点にあるだろう。オンラインゲームで言うならパーティー単位で楽しむMOではなく、全てのユーザーが同じ世界でプレーするMMO、というイメージだ。
リアルの体験に例えるなら、会社の全部署が1つの会場に集まる忘年会、のようなものだろうか。顔なじみの部署で楽しむのもいいし、知り合いのいる部署に顔を出して他の社員と交流する、普段は関わりがないけれど気になる話題が聞こえてきて会話に参加する、そういった自由度と偶然性の高いコミュニケーションがClubhouseの楽しさだと感じる。
一方で、オンラインコミュニケーションの楽しさそのものは他のサービスも変わらない。Clubhouseの特徴は参加へのハードルをできるだけ下げることにあるため、こうした要素を他のサービスが取り入れることで、音声だけではなくネット上のコミュニケーションそのものがより楽しくなるのではないかと感じた。
また、イベント型のルームについては、遅れて参加すると話が分からなかったり、そもそもスケジュールが合わなくて楽しめないという機会損失もある。リアルタイムならではの楽しさももちろんあるのだが、Clubhouseでユーザーが音声の楽しさに触れることで、ポッドキャストやラジオ番組など、アーカイブ型の音声コンテンツに注目が集まることも期待できる。
なお、日本ではまだあまり使われていない「Club」という機能がある。これはClubhouseのルームを定期開催できる機能で、メッセンジャーでいうグループ機能に近い。この機能が日本でも普及すれば、イベントとしての使われ方はまた新しい広がりが生まれるかもしれない。
以前からの友達同士でコミュニケーションを楽しむのはもちろん、友達が参加しているルームで知らない人と仲良くなる、普段は接したことがない業界のトークを聞くなど、Clubhouseの楽しみ方はさまざま。まだ一部のユーザーしか体験できない状況であり、最近では夜のアクセスが多すぎてルームが落ちてしまい、まともに参加できないこともあるが、機会があればぜひ試してみて欲しい。
【お詫びと訂正 23:20】
記事初出時、iPadでは他のユーザーを招待できないと記述しておりましたが、iPadでもユーザーを招待する方法があるとのご指摘をいただきました。お詫びして訂正いたします。