特集
Withコロナ時代の「企業間の連携」とブロックチェーンを考える
2020年8月24日 08:07
コロナがもたらしたリアルとデジタルの主従逆転
4月7日の非常事態宣言の発令から早4カ月が過ぎましたが、みなさん、コロナ禍以前の生活を思い出すことができるでしょうか? 以前の私たちは、仕事はオフィス、移動は公共交通機関、プライベートは飲食店と、さまざまなリアルな場を渡り歩く生活を送っていました。
しかし、Withコロナ時代に突入した今の生活はどのように変わったでしょうか。
オフィスに行くことなく在宅のままパソコンで仕事をし、公共交通機関を使って取引先に会いにいくことはなく、ビデオ会議で打合せをし、飲食店ではなく、オンラインで友達と飲み会をする………。そんな風に「デジタル空間の中で毎日多くの時間を過ごす生活者」が、たった3ヶ月で爆発的に増えたのです。それも世界中で。
そして、その変化は、大人だけではありません。多くの子供たちも、オンライン授業で勉強し、オンラインレッスンでスポーツの指導を受け、オンラインゲームで友達と遊ぶようになり、次の時代を担う世代はさらにデジタルネイティブ化が進むことになるでしょう。
このような、コロナがもたらした不可逆的な社会生活の構造変化により、私たちは今後いやおうなく、生活の主軸をリアルな空間から、デジタルの空間へ移していかざるをえないのだと思います。
「デジタルだからしょうがない」はもう許されない
リアル空間ではなく、デジタル空間が生活の中心となった社会とはどのようなものになるのでしょうか。
これまでの普段の生活や仕事で、こんなシーンはなかったでしょうか。
・毎日学校で友達といつも会って遊んでいるが( リアル空間 )、家にいる時はメールで連絡を取り合う( デジタル空間 )
・店舗で飲食店を営業しているが( リアル空間 )、オンラインデリバリーの注文も受けている( デジタル空間 )
・いつも客先に足を運んで打合せしてるが( リアル空間 )、先方が忙しい時はビデオ会議で済ませる( デジタル空間 )
そう、これまではリアル空間が生活のメインで、デジタル空間はサブ的な存在でした。
ですから、もしメールサービスが止まってしまっても、次に友達に会った時に話せば良いですし、オンラインショップが障害でダウンしても店舗に足を運べばよかった、ビデオ会議システムの接続が悪く、プレゼンできなくても次回客先に行ったときに説明すればよかった。
デジタル空間で何か起こったとしても、リアル空間で解決できるため、そこまで大きな問題にはなりませんでした。
デジタルはリアルを補完する役割だったため、オンラインのシステムに時々何かがあっても、「ある程度はしょうがない」ということで済んでいたことも多かったのではないかと思います。
ですが、Withコロナ時代では、その状況は一変するでしょう。なぜなら、リアル空間を前提にできなくなった社会生活では、デジタル空間が徐々に中心となっていくからです。デジタル空間で企業が提供するサービスや商品に対し、生活者の求める要求レベルが格段にあがってくるでしょう。
そのような生活者の意識の変化に対し、われわれ企業は自社のビジネスをどのように対応させていくべきなのでしょうか。
中心が「デジタル」になるなら、ビジネスはどうすればいいのか?
生活者の過ごす時間の中心がリアルからデジタルへ移行する中で、いやおうなく、われわれ企業もそれにあわせてビジネスを変えていかなければなりません。そして、もはやデジタル上での顧客体験は、「リアルでの顧客体験を補完するもの」ではなく、「それこそをビジネスのど真ん中」に据えていかなければなりません。
そのためには、WebサイトやスマホアプリをつくってWeb上の接点を新たにもうけたり、手作業でおこなっているオフラインの既存業務を自動化するといったことはもちろん必要です。
ですが、そのような生活者との接点や自社内に閉じた業務のトランスフォームに加え、もう一つ見落とされがちな大事な視点があります。
それは、「自社のビジネスに関わる、全ての企業との間の連携をトランスフォームすること」です。
なぜなら、いかなる企業も自社1社のみでビジネスを展開することはできないからです。自社のステークホルダーには、生活者のみならず、株主、取引先企業、顧客企業などさまざまな企業が存在します。そのため、ビジネス全体をトランスフォームするためには、生活者接点、自社内業務に留まらず、自社と関連する企業との連携のトランスフォームも行う必要があります。
そして、その企業間連携のトランスフォームを実現するために、以下の2つの取り組みが求められています。
【企業間連携のトランスフォーム1】デジタル空間における企業間の権利、契約、保証の履行
企業活動では、それぞれのスタークホルダーとさまざまな約束を履行する業務が数多く存在します。
例えば、「株主総会の会場で株主が議決権を行使する」「書面による取引先との契約の締結」「書面による顧客企業に対する商品・サービスの保証」などが、リアル空間で行われてきました。
しかし、今後のWithコロナ時代では、デジタル空間上でそれらを履行していかなければなりません。
これまでは、会場での投票や挙手、紙の書類の取り交わしなどが法的に有効な実務上の手続きとして位置づけられ、補完的な記録としてデジタルデータが保存されていました。
しかし、これからは、これら企業間の権利、契約、保証の関連業務は「会場」「紙」というリアルがないことを前提として完全にデジタルへ移行する必要があります。そしてもちろん、間違いのないように記録し、確実に企業間で履行していくことになります。
【企業間連携のトランスフォーム2】デジタル空間おける企業間のクローズドな情報交換
また、企業活動における外部情報の重要性の高さは言うまでもありません。
どの企業も自社の閉じられた内部情報だけでビジネスを行うことはできません。
われわれは、これまでビジネスを⾏う中で、打合せ、カンファレンス、挨拶などの⾯会、はたまた会⾷など、さまざまなリアルな場で他社のビジネスパートナーと時間と空間を共有して、⾃然に外部情報を得てきました。
そのような場では、既知の情報しかないオープンなインターネット上では決して得られない、ビジネスに活かすことができる貴重な外部情報が得られたものです。
しかし、今後はそのような、「価値の高い外部情報を取得できるクローズドなリアル空間」が増えていくことは期待できず、確実に縮小していくと考えられます。
とすると、これまでリアル空間で自然に行われていた「クローズドな外部情報を得る手段」をデジタル空間でシステム的に行えるように代替していかなければなりません。これはもちろん、クローズドでセキュアな形でなくてはなりませんし、リアル空間を前提としない、新しい連携システムが求められるでしょう。
つまり、今後のWithコロナ時代のビジネスでは、リアル空間でこれまで行われてきた企業間の約束の履行や情報の共有をデジタル空間上に実現することが重要になってくる、というわけです。
「デジタル中心」でブロックチェーンに脚光が?
コロナの影響で、いやおうなく企業が取り組まざるを得なくなった、この「デジタル空間における企業間連携のトランスフォームの実現」という時代の要請が、もともとあった「デジタルトランスフォーメーション」というキーワードと重なり、今、さまざまな企業がデジタルトランスフォーメーションへの取り組みを加速しています。
それを「実現するキー」として挙げられているのが、ビックデータ、機械学習、5G、XRなど、数あまたの技術です。
そして、私が注目している「ブロックチェーン」も、その選択肢の一つとして、再び注目が集まりつつあります。
私は2016年からブロックチェーンを活用したビジネス開発に取り組んできましたが、2020年8月現在、この技術に対する企業からの期待がこれまでで最も高まっていると実感しています。
実際、4月以降、「自社のデジタルトランスフォーメーションに、ブロックチェーンの活用を検討したい」という声をよく聞きますし、私の知る多くのブロックチェーンテックベンチャーも、最近、様々な方面からデジタルトランフォーメーション支援の仕事の相談を受けているようです。
ここではブロックチェーン技術の説明は割愛させていただきますが、ブロックチェーンが「デジタルトランスフォーメーション」の文脈で、今、企業から注目されているのは、まさに前節に示した2つの「企業間連携のトランスフォーメーション」が実現できるから、つまり、特に以下の特徴が期待されているようです。
・企業間において、透明性の高い権利、契約、保証の履行自動化が実現できる
・企業間において、安全にセキュアなデータの共有が実現できる
私が関わっている、博報堂ブロックチェーン・イニシアティブでも、コンテンツ業界のみなさんと一緒にデジタルトランスフォーメーションを推進していくべく、様々な施策を実施しています(関連ニュースリリース1、関連ニュースリリース2)
ぜひ、このWithコロナ時代に求められるデジタル空間における企業間連携のトランスフォームの実現を、コンテンツ業界に限らず、あらゆる業界で推し進めて、産業界のみなさんで一緒に日本を元気にしていきたいというのが私の考えです。
伊藤 佑介(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)
2008年にシステムインテグレーション企業を退職後、博報堂にて2016年から広告・マーケティング・コミュニケーション領域のブロックチェーン活用の研究に取り組み、8つのブロックチェーンサービスを様々なベンチャーとコラボレーションして開発。2020年2月には、日本のコンテンツ業界のデジタルトランスフォーメーションを業界横断で加速するための企業連合コンソーシアム「Japan Contents Blockchain Initiative」を、博報堂、朝日新聞、小学館関係会社などの7社で共同発足して、大企業とベンチャーの連携によるブロックチェーンを活用したビジネスの共創を推進中。