Baiduが「Box Computing」で目指す新たな検索エンジンの形

中国本社で担当者に聞く

 中国最大手の検索エンジンBaidu(百度)は、18日に中国・北京で開催したイベント「Baidu World 2009」において、今後の戦略として検索ボックスから様々なサービスを提供していくという「Box Copmputing」構想を発表した。

 中国で70%以上の検索シェアを持つBaiduが、「Box Computing」で提供しようとしているものや、中国の検索事情について、Baidu中国本社でシニアプロダクトマーケティングマネージャーの焦可(Jiao Ke)氏に話を伺った。

第三者のリソースも活用して、検索ボックスからあらゆるサービスを

Baiduシニアプロダクトマーケティングマネージャーの焦可(Jiao Ke)氏

――(Baiduの)Robin Li会長兼CEOが「Box Computing」の概念を発表しましたが、その中で既に実現しているものと、これから開発していくものはどのようなものでしょうか。

焦氏:Baiduの既存のプロダクトやサービスにおいても、Box Computingの考え方は既に反映されています。例えば、Baiduで企業の名前を検索すると、検索結果に株価やグラフが表示されます。あるいは、列車番号で検索すると、出発地と到着地、それぞれの時刻が表示されます。これはBox Computingのほんの一例です。ユーザーの本当のニーズを理解し、それに応じて適切な結果を返そうというのがBox Computingの考え方です。

 将来的には、さらに様々なサービスを検索ボックスから提供しようと考えています。例えば、ネットゲームの名称「WoW」(World of Warcraft)で検索すると、現状ではサービスのオフィシャルサイトのURLが表示されます。これが、「WoW」と入力して検索ボタンを押せば、そのままゲームがスタートするようになるといったイメージです。さらに将来的には、対象となるのはPCだけでなく、家電などにも「ユーザーが実現したいこと」を指示すれば、必要なサービスが受けられるといった構想までも含んでいます。

――まずPCでの検索においては、結果として表示されるものがダイナミックに変わるというイメージでしょうか。いわゆる「Web検索の結果画面」が出てくるとは限らないと。

焦氏:一部のクエリーに対しては、そういう結果が出てくることになると思います。クエリーによっては、たくさんの検索結果は必要なく、1件だけで十分という場合もあります。例えば、100件のURLよりも、1枚の画像の方が検索結果として重要な場合もあるでしょう。これまでの検索結果は主に文字情報だけで、それ以外のニーズに対してはあまりうまく答えられていません。そういう意味でも、今後検索エンジンの結果表示は大きく変わると思います。

――マイクロソフトの「Bing」も似たような概念を掲げているように思いますが、Baiduならではのアプローチは?

焦氏:中国でのサービスにおいては、バックエンドの部分に自信があります。というのは、Baiduはコンテンツを持っている第三者から直接情報を提供してもらうチャンネルを持っています。先ほど例として挙げた株価や列車の時刻表などがそうです。オープンなプラットフォームとしてインターフェイスを第三者に提供しており、リソースを持っている人は誰でもBaiduとデータベースを接続して情報を提供できるようになります。検索結果の画面は同じようなものでも、カバーしているリソース、コンテンツの範囲が違います。ユーザーのニーズがさらに多様化していく状況では、こうした第三者のリソースをフル活用していく必要があります。

企業名での検索例。株価とグラフが表示される列車番号での検索例。結果の一番上に出発地・到着地、時刻が簡潔に表示されている

自然文入力が多い中国ユーザー、Q&Aサービスが結果に貢献

――現状、中国のネットユーザーはどのようにBaiduを利用しているのでしょうか。

焦氏:Baiduの検索シェアは中国では70%以上ですので、Baiduのユーザー層は中国のネットユーザー層全体とほぼ同じ構成です。30歳以下のユーザーが全体の3分の2を占めていて、職業別では学生の割合が3分の1、企業務めの人が3分の1といったところです。学生については、掲示板サービスの「Baidu Post Bar」を利用する人が多いです。

 また、Q&Aサービスの「Baidu Knows」も学生の割合が高くなっています。Baidu Knowsは人々の頭に存在している情報をネットに反映させるサービスです。日常的な、例えば「ねんざをしたようだが、どう対処すればいいのか」といった、いろいろな知恵がそこに反映されています。さらに自然文への対応という意味でも大きな貢献があります。

――具体的に自然文への貢献とは?

焦氏:例えば、「早上好日語怎〓説」(〓は「公」の右側の払いが無い字)という文章で検索してみます。これは、「早上好(おはようございます)は日本語ではどのように言いますか」という、とても口語的な質問文です。中国ユーザーの行動は欧米とは違って、単語をスペースで区切って入力する割合が低く、このように丸ごと文章を入力する人が多いのです。この文章の検索結果を見ると、ほとんど同じ文章でBaidu Knowsで質問しているページが出てきます。Baidu Knowsがあることで、質問文自体をタイトルとするQ&Aのコンテンツが生まれ、それを検索結果として利用できることで、ユーザーの求めている答が返せる割合が高くなります。

――現状では、中国のユーザーは検索エンジンにどのようなものを求めているのでしょうか。

焦氏:とにかくシンプルなものが求められます。中国のネット業界はまだ成長の段階で、去年1年間でもユーザーは8800万増加したという統計があります。そのようなネットの初心者でもきちんと使えるサービスを提供しなければなりませんし、一方ではリテラシーが比較的高いユーザーに対するプロダクトも提供する必要があります。Baiduの戦略は、基本的にこうした中国の事情に合わせた形で進めています。

――Baiduのトップページはものすごくシンプルな形ですが、これはあまりリテラシーの高くない人向けには少し不親切なのではないでしょうか。

焦氏:実はそういうページも用意しています。いわゆるカスタマイズページ(http://my.baidu.com/)で、ニュースや音楽、動画、天気予報など様々なコンテンツを表示できるものです。ただ、やはり大半のユーザーはシンプルなページの方がいいようです。

――逆に、トップページはシンプルですが、「更多(More)」をクリックするととても多くのサービスが出てきます。初めての人にはサービスを探すのが大変なのでは?

焦氏:Baiduのサービスは「シンプルで頼れる」ことを理念としていています。「シンプル」はユーザビリティのことで、すごく簡単に誰でも使えるということ。「頼れる」はいつどこでも高い検索効率が享受できるということです。トップページはシンプルという理念の反映で、大半のユーザーに必要ないものは表示しない方がいいという考えです。これはBaiduのプロダクト設計上の重要な概念です。また、Box Computingの考え方で言えば、ユーザーのニーズがこのサービスの中のどれかにあれば、そのサービスを結果として表示していくことになります。

――ありがとうございました。

自然文での検索例。Baidu Knowsでの質問が結果として表示されているBaiduが提供する各種サービス

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(三柳 英樹)

2009/8/26 17:17