ニコニコ生放送、公式番組でユーザー増加「集客の次は収益化へ」


「12時間ぶっ通し生放送」の様子

 ニワンゴが運営する「ニコニコ動画(ββ)」は、リアルタイムで配信される動画上にコメントできる「ニコニコ生放送」の公式生放送を強化している。

 毎週月曜日から金曜日の午後9時から10時まで配信する帯番組「とりあえず生中(仮)」を5月25日から開始したほか、7月30日には午後12時から午前12時まで配信する「夏だ!祭りだ!コメントだ!ニコニコ動画12時間ぶっ通し生放送」を行った。さらに、8月24日から月一のレギュラー生放送も開始した。

 公式生放送の展開について、番組の企画・制作・キャスティングを行う株式会社CELLの横澤大輔代表取締役会長と、原知行代表取締役社長に話を伺った。

“一般化”路線は生番組の編成にも現れる

CELLの横澤大輔代表取締役会長

 公式生放送を定期的に配信するようになった理由について横澤氏は、「固定ファンを付けること」「外部とのアライアンスを定期的に組めること」を挙げた。

 ニコニコ動画では以前から“一般化”を目標に掲げているが、公式生放送の番組編成においてもその点を重視し、テレビにもよく出演するメジャーなタレントを起用した番組が多い。

 横澤氏は、「ニコニコ的な出演者とは真逆なものにした。また、ニコニコ動画をわかっているパーソナリティを作ることが長期的に重要で、パーソナリティを育てていくという意味でも帯番組は必要だった」と話す。

 「とりあえず生中(仮)」では、月曜が「ガールズトーク」でパーソナリティはタレントの優木まおみ、火曜が「ニュース」でパーソナリティは政治ジャーナリストの角谷浩一とグラビアアイドルの松嶋初音、水曜が「音楽」でパーソナリティは芸人の陣内智則とタレントの大島麻衣、木曜が「アニメ・ゲーム」でパーソナリティはラジオMCの鷲崎健とアーティストのMay'n、金曜が「だらだら」でパーソナリティは芸人の次長課長とタレントのさとう里香という布陣だ。

 「とりあえず生中(仮)」を視聴するユーザーの男女比は8対2だという。「毎日見ているユーザーが多い。統計を取っているわけではないが、コメントを見ると昨日のことを書いていたりもする。取捨選択をして、見る曜日を決めているユーザーもいる。ユーザーのセグメンテーションがはっきりしている部分もコメントから見て取れる」とのこと。

大物タレントの出演で次につなげたい

 「12時間ぶっ通し生放送」を企画したきっかけは、産経新聞の「Web面」だという。「Web面」では、インターネットに関する事柄を掲載しているが、ニコニコ動画は「Web面」開始当日のテレビ欄の中央部分に「ニコニコ生放送」のタイムスケジュールを掲載していた。

 横澤氏は、「テレビ欄24時間分のスペースをどう埋めようかという話になった。それなら12時間や24時間の配信をしたほうがわかりやすいと思い、最終的に12時間生放送に落ち着いた」と話す。CELLの持つWebコンテンツの企画・制作ノウハウと、テレビ番組の制作・キャスティングノウハウを融合し、「公式生放送の集大成をやることになった」。

浜田雅功が司会を務めた「自分ギリギリやで!!」

 「12時間ぶっ通し生放送」の話題の1つは、ダウンタウンの浜田雅功が司会をする2時間番組を配信することだった。キャスティングを担当した原氏によれば、浜田雅功は「ニコニコ動画」という言葉は知っていたものの、実際に見たことはなかったという。

 「まず、マネージメントに話を持って行ってスケジュールを押さえてもらい、浜田さんに話をしたが、最初は了承をもらえず、内容次第ということになった。その時点で放送の1週間前。テレビでは考えられないスケジュール。」(原氏)

 さまざまな理由から、メジャーなタレントはネットメディアへの出演を踏み止まることが多いという。原氏は、「今回、大物に出演してもらうと、次の世代も出てきやすくなる」と話す。

テレビに比べて効率的に番組を制作できるネットの利点

 タレントとの打ち合わせもニコニコ動画独自の手法があるという。ニコニコ生放送の説明では、いくつかの番組をDVDに焼いたものを見せる。番組が盛り上がったときはコメントで出演者が見えなくなることもあるが、出演者の発言に対してリアルタイムで反応が返ってくるメディアだと説明する。「テレビの説明だと2~3時間かかるところを、15分程度の話で済むことが多い」。

 実際、出演者の多くはニコニコ生放送を楽しんでやっているようだ。原氏は、「12時間ぶっ通し生放送」終了から3週間後に浜田雅功に会い、「視聴者の反応がすぐわかるところが面白い」との感想を聞いた。「浜田さんの後輩芸人が、ネットの掲示板などさまざまなコミュニティを見て、生放送の評判が良かったことを本人に報告していたらしい。私が『次もお願いします』と言ったらニンマリして去っていった」。

 また横澤氏は、「ニコニコ生放送に出演するまで、その面白さがタレントに伝わらないところがもどかしい」と話す。「2回目から劇的に良くなることが多い。それはタレントだけでなく、ジャーナリストや政治家も同じ。1回目はとても緊張されて堅いが、2回目は雰囲気がわかっているのでものすごく良くなる」。

 このほか、「12時間ぶっ通し生放送」では、映画「レッドクリフPart0.55」(ニコニコ特別Ver.)を配信。さらに、「テレビの長時間生放送番組へのオマージュ」として、「とりあえず生中(仮)」で天気を伝えている大石里沙が、自転車で箱根から大手町間110kmを走る12時間通し企画を行った。野外からの中継にはFOMAの回線を利用。ノートPCに取り付けたWebカメラで撮影し、動画はSkypeでスタジオへ送った。

 「12時間ぶっ通し生放送」に対するユーザーの反応も良く、来場者数25万、総コメント数209万を記録。ユーザーからは、「これだけ豪華な出演者を使って、コストかけすぎなのでは?」など、運営を心配するコメントもあったという。それについて横澤氏は、「テレビの長時間生放送は300~400人のスタッフが必要だが、ニコニコ生放送は50名ほど。かなり効率的な番組制作をしており、想像よりは安価に制作していると思う。夏や冬にやったリアルイベントに匹敵する予算規模で、12時間生放送ができている」と説明した。

公式生放送は今後も増加、課題は集客から収益へ

 8月から開始した新しい月一レギュラー生放送について横澤氏は、「企画性を高めないで、アーティストとユーザーがコミュニケーションを取れる番組を作りたかった。個人的には『映像ブログ』だと考えている。1カ月の出来事や時事ネタを話題にして、アーティストとユーザーがゆるく語り合える場所にしたい」と説明する。

 現在、月一レギュラー生放送をしているのは、HIPHOPアーティストの童子-T、ビジュアル系ロックバンドのナイトメア、歌手や俳優として活躍する松岡充、そしてホリエモンこと堀江貴文といった面々だ。「まずは固定ファンを持っているアーティストであること。または、ホリエモンのようなシンボリックな人物を持ってくることで、新規のユーザーを獲得し、生放送を多くの人に知ってもらいたい」と横澤氏は話す。

 アーティストは特に、生放送中のコメントを気にすると思われるが、「運営側でもそれ以上にコメントの内容を気にしているので、事務所サイドとも綿密に話をしている」という。

 公式生放送の枠は、今後も増やしていく方針だ。CELLは現在、スタジオを改築しており、従来1つだったスタジオを2つに増やす。横澤氏は、「スタジオが1つだと、転換の時間のために、番組終了後1時間ほど間を置いてから、次の番組を配信していた。これからは2つのスタジオを使って1時間番組の3本立てもできる」と説明した。

 公式生放送枠は午後9時以降に増やすことを検討しているが、24時間生放送にする予定はないという。「ネットの動画は、テレビと違って“ながら見”するものではないと思っている。ゴールデンタイムにしっかり生放送をやることが重要だと考えている」。これからは、アーティストがユーザーからのコメントやメールを読んだりする、「オールナイトニッポンのような番組」を動画でやってみたいとのこと。

 横澤氏は、ニコニコ動画の主軸の1つが生放送になっていると話す。現在、ニコニコ動画は毎月10万人のペースでユニークユーザーが増えている。「今までは、“一般化”するミッションがあったので、従来のニコニコユーザー以外に向けた番組作りに努め、その効果で新規のユーザーも取り込めた。次は、集客したものをどのように収益に変えて行くのかが課題になってくる」とした。

「12時間ぶっ通し生放送」ひろゆき氏(左)と夏野剛氏(右)も出演



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(野津 誠)

2009/9/25 11:00