三上洋の「深掘り! IT時事ニュース」
ワイドショーのIT時事ニュース報道が果たす役割とは。その制作体制とメリット・デメリット
2024年8月14日 06:00
IT時事ニュースの一般向け報道では、テレビのニュースと情報番組(ワイドショー)が大きな役割を果たしています。制作体制を見ながらメリット・デメリットを見てみます。
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この記事は、ワイドショーにもすっかり常連となった“IT時事ニュース”について、その背景も含めてITジャーナリストの三上洋氏が解説した書籍『深掘り! IT時事ニュース ――読み方・基本が面白いほどよくわかる本』(技術評論社)より、内容の一部を抜粋・再構成してお届けするものです。
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IT時事ニュースの扱いが増加
地上波テレビは以前より影響力が小さくなったとはいえ、いまだに多くの国民が視聴しています。特に高齢者はテレビが情報源という場合が多く、IT時事ニュースの伝え方が重要だと言えるでしょう。
筆者はテレビ情報番組でのIT時事ニュース解説やリサーチ業務をすることが多く、年間で約300本のニュースのお手伝いをしてきました(2019年から2023年の実績)。
2015年より前はテレビでのIT時事ニュースの扱いは小さかったのですが、スマホ普及や社会全般のICT[*1](情報通信技術)利用が広がったこともあって、2016年頃からテレビでIT関連の話題を取り上げることが急激に増えました。
IT時事ニュースを扱う主なテレビ番組をまとめたのが次の図です。大きく分けて「ニュース」「情報番組(いわゆるワイドショー)」「夜のスタジオ収録番組」の三つがあります。
ニュースは事実が中心のストレートニュースがメインです。それに対して情報番組はひとつのネタをパネルなどで詳しく解説したり、スタジオでのコメントや討論があります。ニュースは短時間の番組が多くなっていますが、情報番組はトータルで毎日10時間近く放送する局もあります。
この情報番組はほとんどが生放送であり、最新のニュースや話題を取り上げるため、制作日数が極端に短くなっています。多くの場合は前日にネタが決まり、そこから半日程度でVTRや台本を作って放送しているのです。
[*1]…… Information and Communication Technologyの略。
専門知識なしのスタッフが制作も
情報番組の体制をまとめたのが次の図です。制作時間が短いことに加えて、スタッフのほとんどがIT専門知識を持たないため、取り上げ方にとても苦労しています。リサーチの時間が十分取れないことも問題です。
そんな中で、情報番組では大きなパネルを作って、ニュースの問題点・背景・対策を紹介しています。IT知識のない視聴者層にも理解してもらうためのビジュアル重視のパネルで、テレビならではの取り組みです。
そして情報番組では、VTRやパネルを受けてスタジオにいるコメンテーターや専門記者が解説するのが一般的です。テレビでは視聴者目線にするために、あえて知識のないタレントさんに素朴な疑問や感想を言ってもらうことがあります。
しかし問題点もあります。IT知識が不足しているコメンテーターが発言することで間違った情報が流れたり、ニュースの焦点がぼやけることもあるのです。生放送であるがゆえの問題点と言えそうです。
またパネルやVTRの作りでも、知識のないスタッフが急いで制作することで間違った情報になってしまうこともあります。たとえばセキュリティ対策では、以前は有効だとされたものの、今では紹介するべきではない対策(例:パスワードの定期変更)を紹介してしまったこともありました。
影響力の大きいテレビ情報番組ですが、制作時間の短さ・専門スタッフの不在、コメンテーターのあやふやな発言などで情報がうまく伝わらないことがあります。多くの視聴者が見るだけに正確性・客観性が不可欠ですが、準備時間の短さや予算や人員の問題でおろそかになることがあるのです。
テレビ局・制作スタッフの努力は必要ですが、私たち視聴者も「テレビや新聞などの大手メディアであっても完璧ではない」と心に留めておいた方がいいかもしれません。
三上 洋(みかみ よう)
東京都世田谷区出身、1965年生まれ。都立戸山高校、東洋大学社会学部卒業。テレビ番組制作会社を経て、1995年からフリーライター・ITジャーナリストとして活動。文教大学情報学部非常勤講師。専門ジャンルは、セキュリティ、ネット事件、スマートフォン、ネット動画、携帯料金・クレジットカードポイント。