三上洋の「深掘り! IT時事ニュース」

バイトテロ動画が金儲けの手段に。大炎上で閲覧数を稼ぐまとめサイトやユーチューバー

 バイトテロはSNSだけで炎上するわけではありません。まとめサイトやユーチューバーが派手に取り上げることで大炎上に繋がることがほとんど。金儲けの手段になっているのです。

「SNSで炎上が頻繁に起こるのはなぜ?」「ネット犯罪はどんなしくみで起こるの?」「生成AIってなにが問題なの?」

この記事は、ワイドショーにもすっかり常連となった“IT時事ニュース”について、その背景も含めてITジャーナリストの三上洋氏が解説した書籍『深掘り! IT時事ニュース ――読み方・基本が面白いほどよくわかる本』(技術評論社)より、内容の一部を抜粋・再構成してお届けするものです。

  1. ワイドショーのIT時事ニュース報道が果たす役割とは。その制作体制とメリット・デメリット(別記事)
  2. バイトテロ動画が金儲けの手段に。大炎上で閲覧数を稼ぐまとめサイトやユーチューバー(この記事)
  3. iPhoneの「ヘルスケア」アプリの記録が事件の証拠となる時代に。データの信頼性は? プライバシー侵害の懸念も(別記事)

スクショ感覚で使われる「画面収録」

 バイトテロの多くは身内=フォロワーだけに見せるつもりで投稿されますが、なぜストーリーズなどの動画まで外部に流れるのでしょうか。それはスマホの動画保存機能が使われているからです。

 たとえば10代20代で圧倒的シェアがあるiPhoneには「画面収録」という機能があります。スマホの画面に映っているものを、そのまま動画ファイルとして保存できます。設定さえすれば、2回タップするだけで動画保存できるのです。

 イラスト:タラジロウ

 バイトテロの主な舞台となっているインスタグラムのストーリーズは24時間で消えますが、閲覧者は画面収録をすればずっと保存できます。バイトテロ炎上でSNSなどに流れた動画は、ほとんどが画面収録などのスマホ画面動画保存機能を使ったものでした。

 スマホでは大事な情報や気になる画面を、スクショ(スクリーンショット)として画像として保存する人が多いでしょう。10代20代は動画でも同じことをやっているのです。

 バイトテロとは別に、いじめ動画をインスタグラムのライブ配信機能で流されたものが炎上したことがあります(2019年)。これも画面収録されたもので、動画にその痕跡が残っていました。

 アプリの制限があったとしても、スマホの画面に映るものはすべて保存されてしまうということを理解する必要があります。

まとめサイト・ユーチューバーが金儲け

 ネット炎上の燃料となる動画はこのように画面収録などで保存され、X(旧ツイッター)などで「これはひどい」と告発され炎上します。

 しかし、実はXでの炎上は、それだけで社会的な大事件に広がることはまれです。社会的な大事件に広がるのは、拡散力のあるインフルエンサーやユーチューバー、まとめサイトが取り上げることがきっかけです。

 200万人以上のフォロワーがいる著名Xユーザー、万単位の同時視聴者数がいる有名ユーチューバーが取り上げることで、大拡散するのです。彼らは炎上系インフルエンサー、暴露系ユーチューバーとも呼ばれています。影響力はとても大きく、彼らが取り上げることで企業の不正行為やトラブルが報道されることがあります。社会的意義もあるのですが、炎上によって収入を得ていることも否めません。著名XユーザーはアフィリエイトやXでの収益で収入を得ていますし、ユーチューバーには広告収入もあります。

 また、ネット炎上をネタとして広告収入を得ている「まとめサイト」もあります。まとめサイトとは、SNSや掲示板などからネタを拾って閲覧数を稼ぐサイトのこと。まとめサイトがXでの小規模の炎上を拾ってきて「あの外食チェーンでバイトテロ!」と煽るタイトルを付けてSNSなどで拡散します。

 それが広まると今度は一般のニュースサイトが取り上げ、さらにテレビや新聞などの報道にも繋がって大炎上になるのです。

 最初のバイトテロ動画の炎上に、いわばガソリンをかけて大炎上させるのが炎上系インフルエンサーやユーチューバー、まとめサイトと言えるでしょう。彼らはアフィリエイト収入や広告収入が目的ですから、炎上が大きいほど金儲けになります。

 イラスト:タラジロウ

三上 洋(みかみ よう)

東京都世田谷区出身、1965年生まれ。都立戸山高校、東洋大学社会学部卒業。テレビ番組制作会社を経て、1995年からフリーライター・ITジャーナリストとして活動。文教大学情報学部非常勤講師。専門ジャンルは、セキュリティ、ネット事件、スマートフォン、ネット動画、携帯料金・クレジットカードポイント。