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これが新時代のNASか!! 「+AI」でNASに新風、NAS上でローカルLLMが動く「Zettlab D6 Ultra」を使ってみた

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Zettlab AI NAS D6 Ultra。LLMを利用してNAS上のデータを活用できる

 NASの世代が新時代へと変わろうとしている。中でも注目なのが、「AI」を武器に新たな道を切り拓こうとしているNASベンチャーのZettlab(ゼットラボ)だ。生成AIの活用は、今やさまざまな分野で取り組まれており、画像認識などに活用しているNASも存在するが、Zettlabは製品レベルのNASにLLM(大規模言語モデル)をいち早く実装したメーカーとなっている。LLMの活用によって果たしてNASはどう変わるのか? 実機で試してみた。

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何にグラウンディングするか?

 生成AIの分野では、現在、「情報との結びつき」、いわゆる「グラウンディング」が非常に重視されるようになってきている。もちろん、言語モデルやハードウェアの進化もトピックのひとつではあるが、特に業務シーンでは、組織のデータをいかに活用するかが重視されるようになっており、特定の情報を基に回答するRAGシステムや特定タスクを実行するエージェントなどが大きな市場として見込まれている。

 こうした中で、長らく情報の倉庫として使われてきたNASに、いち早く、この発想を取り入れることに成功したのがZettlabだ。

Zettlabのウェブサイト。日本語での商品説明、設定用Wikiなどの情報も充実している

 筆者もかつて、LLMからNASのAPIを呼び出してファイルを検索できないかと試行錯誤した結果断念した経験があるが、それを製品に組み込んだ形でリリースしたのが、今回の製品となる。

 この分野は、まだ進化の途上ではあり、今回試用した製品も発売前のファームウェアを搭載した製品となるものの、生成AIを活用したNAS上のデータ検索、ユーザーデータを基にした回答が可能なAIナレッジベース、AIによる写真の分類、AIによる音声と動画からの自動文字おこしなどの機能が、すでに実装されている(利用可能な機能は後述するNASの型番によって異なる)。

 古典的なファイルサーバーの代替が第一世代、モダンなUIとアプリによる自由度の高さが第二世代、パーソナルストレージ発想が第三世代のNASの特徴とすれば、今回は、早くも生成AIを特徴とした第四世代と言ってもいいNASの進化とも捉えられるだろう。

競合を凌ぐスペックでローカルLLMが動作可能なUltraシリーズ

 それでは製品を見ていこう。まずは、Zettlabのラインアップを簡単に紹介する。現在クラウドファンディングで販売されているのは、「D2」から「D6 Ultra」までの4製品となっている。「D」に続く数字がベイの数を表しており、D2なら2台まで、D6なら6台のHDDを搭載可能になっている。

 今回試用したのは6ベイ対応の「Zettlab D6 Ultra」という製品になる。システム用に256GBのフラッシュメモリを搭載し、底面にNVMe SSD用のM.2スロットを2基搭載、同じく底面に2基のメモリスロットを搭載し、標準32GB、最大96GBまで拡張可能な仕様となっている。

 ネットワークも豪華で、10GbEポートが2つ搭載されており(LAGの構成は現状非対応)、USBポートもUSB4×2、USB3 Gen2(TypeA)×1、USB2.0×1と豊富。さらに前面のワンタッチボタンで写真などを一括で簡単にコピー可能なSDカードスロット、TFカードスロットも搭載される。

正面
側面
背面
背面のインターフェース。ネットワークは10GbE×2

 このほか、本体前面左下には、ストレージ、CPU、メモリの使用率、リモート接続用のID、ローカルのIPアドレスなどが表示されるディスプレイも搭載されている。

 また、液晶の上部に本体幅いっぱいまで光るLEDが内蔵されており、この色を調整可能となっている。もちろん常時オフにもできるが、一定間隔で色を変えながら光る設定もできる。

 と、ハードウェア構成はてんこ盛りという印象だが、デザインはスッキリとした印象で、嫌なメカメカしさを感じさせず、よくまとまっている。

左下にディスプレイ搭載。LEDも光る

 もちろん、HDDトレイは、ツールレスでの装着が可能なタイプで、こちらも新世代のNASらしく、ボタンでサイドレールがポップアップし、ガシャリとHDDをはめ込む凝った作りになっている。

 トレイのHDDねじ穴部と接するゴムや本体底面のゴム足など、最低限の防振、防音対策もなされている。試しに、4TBのHDD(WD Red)を6台搭載した状態で検証したが、少なくとも今回のテストでは音や振動が気になることはなかった。

手前のボタンを押すと広がるHDDトレイ

 なお、本製品は、HDDが格納される上部の金属製エンクロージャー部分と、CPUやメモリなどを搭載するメイン基板部分が格納される下部の樹脂製ケースという、凝った2階建て構造になっている。

 おそらく冷却の効率性を考慮して分離しているのではないかと推測される。実際、上部のHDD部分は背面の2基の12cmファンで冷却されるのだが、珍しいことに背面から吸気で前面から排気という方向になっている(よって付属の金属メッシュのフィルターも背面につける)。

背面にファンが2つ。付属のメッシュフィルターをマグネットで取り付け可能。背面から吸気して前面に排出する

 そして下部のメイン基板部分は、背面とは別のもう1基のファンで冷却される。分解して内部を見ることができなかったので、これは推測となるが、おそらくノートPCと同様にヒートパイプなどを使った凝った冷却機構になっているのではないかと思われる。

 さらに底面には、M.2およびメモリスロットがあるが、ここだけ金属製のフタになっている。

底面にM.2スロットとメモリスロットを搭載。下部は樹脂製ケースだが、このフタのみ金属になっている

 当初は、ケースがすべて金属ではなく下部が樹脂製になっていること、底面のフタだけ金属であること、前面のHDDベイが隣接するトレイ同士で隙間が広めになっていることなど、筆者がこれまで触れてきたNASと異なる設計となっている点に違和感があったが、おそらく冷却効果とコストを両立させるための工夫なのだろう。

 ちなみに、背面ファンは常時1000rpm前後で負荷がかかっても音はまったく気にならなかったが、底面のファンはアイドル時は2000rpm前後でほぼ気にならないものの、大量の画像や動画をコピーしてAIによる学習が開始されると、3500rpm前後にまで回転が上がり、音が若干気になった。

 ただし、ファンについては設定画面から調整が可能で、標準のスマートモードに加えて、「サイレントモード」で背面が700rpm前後、底面が1800rpm前後、「フルスピードモード」で背面が2300rpm前後、底面が4600rpm前後となる。通常はスマートモードで問題ないだろう。

データ学習時のリソースの様子。背面ファンは1000rpm前後で静かだが、下部のファンは3500rpm付近になった

無印とUltraの違いは?

 D2、D4、D6の無印シリーズと、D6 Ultraの「Ultra」シリーズの大きな違いは、CPUと使えるAI機能だ。無印シリーズはArm系のRK3588を搭載しているが、UltraシリーズはCore Ultra 5 125H(14コア18スレッド 34TOPS NPU)という、一見、NASには過剰ではないかと思えるような豪華なCPUが搭載されている(メモリも標準でDDR5 32GB! 搭載)。

 このCPUのおかげで、Ultraシリーズでは、画像や動画のベクトル化をNPUで処理し、音声認識やNAS上でのローカルLLM(言語モデルは小規模サイズのQwen-VLと推測される)動作にGPUやCPUを利用することが可能になっている。

 ZettlabのNASでは、前述したように複数のAI機能が搭載されているが、その動作は型番によって異なり、「AIナレッジベース」と「AIチャット」に関しては、UltraシリーズではNAS上で動作するローカルLLMを利用可能となっている。

 では、無印シリーズでは「AIナレッジベース」や「AIチャット」は使えないのか? と言うとそうではない。無印シリーズ(D4/D6)ではPC上で動作するLLMを利用する(D2はLLMに非対応)。NASに接続するためのアプリから、PC上に言語モデル(gemma3やphi4、DeepSeek-R1-Distill-Qwen、Llama3など)をダウンロードし、PC上で動作するLLMを使ってAIナレッジベースの機能を利用する(UltraもPCにダウンロードしたローカルのLLMに切り替え可能)。

言語モデルをPC上にダウンロードして利用できる

 「ローカルでLLMが動かないなら、AI NASじゃないじゃん」と思うかもしれないが、そうではない。冒頭でも触れたが、大切なのは、LLMが動くことではない。LLMからNASの情報にグラウンディングできることだ。

 もう少し具体的に紹介すると、ZettlabのNASでは、NAS上にデータを保存するだけで、自動的にAIで利用可能な状態に「学習」される。

学習の状況はファイルのプロパティで確認できる

 この学習というのは、データの種類によって異なるが、例えば写真ならAI OCRで写っている文字をテキスト化したり、Vision Languageモデルによって被写体を解釈してカテゴリ分けしたりする。文書なら、チャンクに分割し、ベクトル化し、グラフデータベースに格納し、RAGで使えるようにする。さらに音声や動画からも自動的に文字おこしをしてテキストとして格納するといった動作となる。

 ZettlabのNASの優位性は、こうした一連のAIシステムがNAS上に実装済みになっていることに他ならない。つまり、製品の核となる部分は、RK3588を搭載した無印シリーズも、高性能なUltraシリーズも共通なので、どちらを選んでも「AI NAS」という本質を味わえることになる。

 個人的には、正直、言語モデルの部分は、どこで動いていてもいいと思っている。むしろ、豊富なメモリや高性能なGPUを搭載したPCがあるなら、そこで処理した方が速度が速く、効率的な場合もある。

 Zettlabは、データも、LLMもローカルで完結すること、つまり内部にとどめておきたい重要なデータやプライバシーを保護できることを商品のテーマとしているので、筆者の考え方とは少し違うが、個人的にはOpenAIやAzureのAPIを使ってLLMを呼び出せるようにしてくれてもいいとさえ思っている(将来的にMCPサーバーに対応してくれればさらに応用が利きそう……)。

見落としがちなユーザー間のデータ隔離も実装

 実際に使ってみた感想としては、確かに新しいNASという印象だ。

 まず、初期設定だが、これは現代的なNASらしく簡単だ。例えば、リモートアクセスの設定も単に設定をオンにするだけで、自動的に設定が完了する。ネットワーク機器側でのポートの解放などの操作は不要で、中間サーバーを使った外出先からのアクセスに必要な一連の設定が自動的に行われる。

 ユーザーは、PC上のアプリやスマートフォンアプリから、接続時に指定した「Zettlab ID」を指定するだけで、外出先などからもシームレスにNASを利用できる。

 初回にストレージプールを作成する必要はあるが、基本的にはおすすめの構成を選択しておけばいいので特に苦労はない。今回は6ベイの内、HDD2台を使ったRAID 1と、HDD4台を使ったRAID 10の2つのボリュームで構成してみた。

初期設定は簡単
リモートアクセスもオンにするだけ
RAIDの構成も簡単

 ファイルの参照やコピーは、ブラウザーや専用のアプリからも可能なほか、PCとのリアルタイム双方向同期もサポートしている。また、本製品は伝統的なSMBファイル共有も標準でオンになっているため、既存のNASに慣れているユーザーでも扱いやすい。無理やりモダンなパーソナルストレージ的発想に誘導するのではなく、伝統的なNASユーザーの「慣れ」とのバランスをうまくとっている印象だ。

ブラウザーやアプリを使ったアクセスや、SMBでのアクセスが可能

 パフォーマンスも問題ない。簡単にRAID 10構成のHDD(SSDキャッシュあり)に10Gbps経由でアクセスした際の速度を以下に示すが、10Gbpsネットワーク恩恵でアクセス速度は高速だ。

CrystalDiskMarkの実行結果

AI機能をチェック!

 さて、肝心のAI機能についてみていこう。

 これは複数の機能があるので、個別に紹介する。なお、AI機能については、いずれも標準でオンになっているため、ユーザーは特別な設定は必要ない。普通にNASにファイルを保存するだけで、AI機能を利用できる。

AI検索機能

 従来のファイル名やキーワードによる検索だけでなく、自然言語によるファイルの検索が可能となっている。

 OCRによる画像内のテキスト抽出に加え、Vision Languageモデルによる画像内容の理解(説明文生成)によって、写っているものを言語化しているため、例えば、「宇宙服を着た子供」のように検索すると、大量の写真の中から、JAXAの体験施設に訪れたときの写真がピックアップされる。

 完全にピンポイントでファイルがピックアップされるというよりは、指示に近いファイルに絞り込まれるという印象で、一見、関係のなさそうなファイルも結果に表示される。NASはあくまでも汎用的に使う機器であることを考えると、ピンポイントで精度を追求するよりは、編み目を広くして、取りこぼしを少なくする方が実用的と言えそうだ。

 なお、AI検索は3通りの方法で利用可能となっている。Zettlabアプリや設定画面のホームに表示されている検索ボックスから実行した場合は自分のデータ全体が対象となり、「ファイル」アプリから実行すると開いているフォルダーが対象となる。このほかZettAIアプリの「検索」からも利用できる。ざっくりとした指示から広く探したい場合は前者、ピンポイントで特定のファイルを探したい場合は後者という使い分けになるだろう(検索結果からファイルをNAS上のOffice互換アプリなどで直接開いて編集できればさらによかった)。

ホームの検索ボックスから写真を検索

 もちろん、検索対象は写真や文書だけでない。前述したように本製品では動画や音声についてもAIによる分析が可能となっているため、こうしたファイルも検索可能となっている。

 AIクリップアプリで、インタビューで録音した音声や、YouTube用に収録した動画から自動生成されたスクリプトを確認できるのも便利だ。このほか、AIクリエイタースタジオという動画のストーリーボードやタスクを共有しながら作成できるアプリも用意されている。

「10GbpsのUSBアダプター」で検索したところ。筆者のYouTubeチャネルの動画が検索できた
クリップアプリで、文字起こしされた動画のスクリプトを確認できる

AIカテゴリ

 画像ファイルをAIが自動的に分類してくれる機能となる。

 NAS上に写真などをコピーするだけで自動的に「犬」や「ケーキ」など、被写体ごとに分類される。従来の撮影時のカメラの情報(時間や場所)、さらに手動のタグに加えて、自動的に分類されたカテゴリで写真を整理できる。

 AIが自動的に判断するため、必ずしもユーザーが意図しているカテゴリが作成されるわけではないが、大量の写真を手間なく分類できるのがメリットとなる。

写真が自動的にカテゴリ分けされる

AIナレッジベース

 おそらく、読者の多くがイメージしているAI NASらしい機能が、このAIナレッジベースとなる。

 いわゆるRAGを実現する機能で、NASに保存されているデータを基にLLMに回答させることができる。例えば、筆者が過去に執筆したレビュー記事(Word文書、JPEG/PNG画像)や動画(MP4)をNASに保存した状態で、「USB接続の10Gbpsアダプターの性能はどれくらいですか?」のように質問すると、パフォーマンスに関する記述部分を取り出してLLMによって回答が表示される。

 つまり、現在、NASやファイルサーバーに蓄積されている個人や組織の情報を、LLMで活用できることになる。

NASに保存されているデータについて質問できる

 現状、Microsoft 365 CopilotなどのクラウドAIサービスでも、こうした組織の情報に対してAIチャットを実現する機能の方が実務でのニーズが高い。これをローカルで実現できるのが、ZettlabのNASということになる。

 ちなみに、回答の基になるNAS上の情報は、もちろんNASのアクセス権の影響を受ける。つまり、NASに営業部のAさんが保存したファイルと、経理部のBさんが保存したファイルがあったとして、BさんがAIナレッジベースで質問しても、Aさんが個人フォルダーに保存した情報は参照されないし、きちんと部署間での権限が分離されていれば、経理部の人の質問で営業部のデータが参照されることもない。

 前述したように、ZettlabのNASの注目点はNAS上のデータへのグラウンディングの仕組みだが、こうしたユーザー単位でのアクセス制御も考慮した実装がされている点も重要だ。こうした制御がずさんだと、実用シーンで個人情報や部署内の情報が思わぬ形で漏洩しかねない。

 実際にAIナレッジベースで情報を検索してみると、正直、物足りない部分もある。小規模な言語モデルらしく用語や読みを間違えたりするケースがあった(MLOなどの略語の間違い、「屋台(いえたい)」と間違った読みを記述、など)。ただ、まあ、これは許容範囲と言える。

 個人的に、精度が気になったのは、同じような情報が多いケースでのミスだ。これはいくつかのパターンがある。

 今回、テストとして、筆者が普段、執筆しているWi-Fiルーターのレビュー記事(Word形式1本5000字くらいのファイルを5本)を保存し、ここからどれくらいの情報を取得できるのかを検証してみた。

 シンプルに「バッファローWSR6500BE6Pはどんな製品ですか?」と質問すると、原稿で書かれている内容をコンパクトにまとめて紹介してくれた。製品名を「WSR6500B6P」と「E」を抜いて紹介するあたりに不安を感じるが、内容は正確だ。

内容はほぼ正確。ただし、型番を間違えるのは好ましくない。請求書などから数値を取り出したいときなどが心配

 しかし、「バッファローWSR6500BE6Pのパフォーマンスを教えて」や「バッファローWSR6500BE6Pのベンチマーク結果を教えて」という質問には、シンプルなスペックしか回答しない。保存されたファイル(原稿)内では、これらについてきちんと記述がある。これは想像だが、RAGの仕組み的に、前半に登場するキーワードが重視されているのではないかと思われる(コンテキストからあふれた情報に対応できていないのかも)。

原稿の後半に記述があるベンチマーク結果(原稿内ではパフォーマンスと記述)について回答してくれない

 また、「WRC-BE72XSDのスペックを教えて」と質問すると、対象となるファイルは検索して表示されるものの、「WRC-BE72XSDのスペックは教えていません。」と回答されてしまう。同様に、似たようなファイルがある場合に片方がスルーされてしまうこともある。

ファイルは存在するうえ、学習済みになっているにもかかわらず、なぜかこの製品についてはかたくなに回答してくれない

 さらに、現状は、前の会話のコンテキストが考慮されずに回答されるため(メーカーによると現在のバージョンでは単一ターンでのクエリ処理のみに対応とのこと)、例えば、「WSR6500BE6Pについて教えて」に続けて「スペックを教えて」とだけ入力すると、WSR6500BE6Pのスペックではなく、シンプルに「スペック」に関連するファイルを検索し直してしまう。なので、主語を省略して質問すると、意図しない回答になりやすい。

現状はマルチターン回答に対応しないため、質問の際にプロンプトを省略すると意図しない回答になる

 しかしながら、それでも、大量の資料の中から、知りたい情報を取り出すことができるし、あいまいな記憶から目的のファイルを探し出すこともできる。これだけでもNASの使い勝手は向上するはずだ。

 もちろん、まだ発売前の製品ということで、現状はベータ版よりさらに手前のアルファ版で検証している影響も大きいが、同社は日々改善を進めているので、今後、さらに使いやすくなっていくはずだ。

AIチャット

 AIチャットは、ChatGPTやCopilotなどと同様のチャットサービスだ。一般的な質問に回答してくれる機能となる。

 この機能と、前述したAIナレッジベースについては、前述したようにPC向けのアプリを利用することで、PC上で動作するLLMも利用できる。ただし、これには相応のPCスペックが必要だ。

一般的なQAが可能だが、NASに組み込まれたモデルは小規模モデルなので、知識は限られる

 提供されるモデルは、現状、同社が用意したものに限られており、4bitや8bit量子化されてはいるものの、小型なgemma-3-4b-it-Q4_K_Mでも2.49GB、gemma3-27b-it-Q8_0などは28.7GBの容量がある。これらをローカルのPCにダウンロードする必要があるうえ、チャット時にはメモリに読み込む必要がある。

 メモリ16GBのPCでは、起動中のアプリケーション次第では動作可能な言語モデルはgemma-3-4b-it-Q4_K_Mで、それ以外はメモリ不足になってしまう可能性が高い。手元のメモリ32GBの環境で、gemma3-27b-it-Q4_K_M(16.5GB)を読み込むことはできたが、残りメモリが1GBなどになり、PCの動作が不安定になってしまった。

gemma3などをローカルで実行可能。ただし、快適な利用には高い性能のPCスペックが要求される

 また、CPUのみの環境でも小型なgemma-3-4b-it-Q4_K_Mなら実用的な速度で動作するが、それ以上の大きな言語モデルは、かなりトークンの出力スピードが落ちて実用的ではなくなる。GPUによるアクセラレーションが可能な環境が欲しくなる印象だ。

 ただし、本製品の本質は前述したAIナレッジベースのように、あくまでもNAS上の情報にグラウンディングした回答なので、LLM自体の性能や賢さはさほど重要ではない。RAGによって取得したコンテキストから文章を生成できればいいので、小規模なモデルでも、十分実用的と言える。

NASとしての機能も今後充実する予定

 本製品は、筆者が検証している段階ではアルファ版のファームウェアとなっているうえ、現状は本製品の特徴となるAI機能の開発が中心となっているため、まだ機能は完全ではない。実際、筆者が試用している間に、2度ファームウェアが更新され、そこで追加された機能もいくつかある。

 このため、今の段階で、あの機能が足りない、こうした方がいい、と指摘するも野暮だが、一応、現時点で足りないと思われる機能も挙げておく。

 まず、前述したようにLAGが構成できない。10Gbps×2なので、この構成を生かした冗長構成はぜひ欲しい。

 次に、現状はまだストレージの拡張に対応していない。おそらく製品版では、後からHDDを追加したり、容量を増やしたりできるようになるだろう。

 また、バックアップ機能については、外付けストレージや同じZettlab製品同士、Rsyncなどが提供されているが、クラウドストレージへのバックアップやスナップショット機能は現状実装されていない。今後の開発に期待したいところだ。

クラウドファンディング実施中

 以上、海外のNASマニアの間で話題になっているZettlabのAI NASを実際に使ってみたが、ハードウェアとしても、ソフトウェアとしても、なかなか凝った製品というイメージだ。

 開発者が、既存のNASのどこに不満があり、何を改善しようとしているのかが伝わってくるコンセプトが明確な製品と言える。おそらく競合他社も今後、追従するであろうNASでのAI活用で一歩先を行く製品となっており、実用的な機能として製品に落とし込んでいる点は興味深い。

 すでに12月11日からMakuakeでクラウドファンディングによる募集が開始されている。

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 今回のレビューでもいくつか気になる点は指摘したが、昨今のNASはクラウドファンディングで先進的なユーザーに使ってもらい、その声の中で製品をブラッシュアップさせていくケースが多い。

 本コラムの執筆中も何度かファームウェアのアップデートが実施されたが、同社は製品の改善や新機能への取り組みに非常に前向きで、スピード感のある開発を実施している。製品がどんどん良くなるプロセスを楽しめるのも、こうした製品の醍醐味なので、AI NASという先進的な開発に参加し、一緒に成長していくプロセスを楽しみたい人はクラウドファンディングへの出資を検討するといいだろう。