福井弁護士のネット著作権ここがポイント

(これでも)超高速! TPP著作権問題の経緯と展望

いよいよ・・・なのか?

 いよいよ今度こそ、そうなのだろう。何がといえばTPP(環太平洋経済連携協定)知財条項の妥結だ。このコラムで最初にTPP知財問題を紹介し反響をいただいたのが2011年10月。足かけ5年にして、各国は著作権でどうやら、どうやら大筋合意の時期を迎えつつあるらしい。「最大最後の難関」と政府交渉団が言い切る知財分野である。残る製薬特許で折り合えれば、今度こそTPP締結は現実的になりそうだ。

 特に先週からNHKが二度にわたり、「著作権保護期間」と「非親告罪化」という、日本で最も関心の高い2項目について米国の要求を呑む方向で調整に入ったと報じ、ネット上は再び大きな反響に沸いた。

◇著作権の保護期間、70年に延長へ TPP交渉でアメリカ基準に(ハフィントンポスト)
http://www.huffingtonpost.jp/2015/02/03/copyright-tpp-70years_n_6601342.html
◇TPP交渉 著作権侵害は「非親告罪」で調整(NHKニュース)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150211/k10015379371000.html

 筆者は、こんなことを呟いた。

 何だか上からである。年のせいか年々ひどくなる。でもね、瞬時に光景が浮かんだのだ。【悲報】とか何とかいいながら事態を過大に煽る、事実とネタが混在したような情報が飛び交い、結局お祭りで終わって何も変わらないという見慣れ過ぎた情景が。

 ちょうど、複数の筋からTPP著作権問題の経緯をまとめて欲しいとお願いされた。特急作業で、あくまで「自分の位置から見えた経緯」で大恐縮なのだが、中間稿としてまとめておこう。実際にはもっと多くの価値ある活動・発言をされた方々がいるので、「俺はどうした!」と怒られちゃうかもしれない。いずれ決定版を誰かが作って下さることを期待しながら。

(なお、同様に重要な対EU協定などの影響はいったんはずしておく。また、法定賠償金など重要な論点はほかにもあるのだが、情報が少ないこともあって今回詳論は見送り。人物名は敬称略。)

前史

 期せずして、保護期間の延長問題と非親告罪化は、ともに2006〜2007年に国内で最初の大きな論争を迎えている。延長問題については、いくつかの先人達の訴えを経て、延長に慎重論を唱える「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」(thinkC)が、富田倫生(青空文庫)・津田大介・中村伊知哉・筆者や多くの有数のクリエイター・研究者・実務家で結成されたのが2006年だった。

◇著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム
http://thinkcopyright.org/
◇発起人一覧
http://thinkcopyright.org/list.html

 フォーラムは時代に先駆け、多様な論者を招いて連続ネット中継シンポを行い、その際にまとめられた「賛成派・慎重派それぞれのワケ」で、ほぼその後の延長問題の論点は出尽くしている。

◇賛成派・慎重派それぞれのワケ
http://thinkcopyright.org/reason.html
◇各シンポ模様
http://thinkcopyright.org/resume_talk.html

 政府は訴えを受けて文化審議会に略称「保護利用小委員会」を設置し、フォーラムメンバーも多数参加した闊達な議論の末、2009年に延長を事実上見送る報告を出して解散した(その後の「基本問題小委員会」も同様)。

◇過去の著作物等の保護と利用に関する小委員会 報告案(PDF)
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/singikai/hogo/07/pdf/shiryo_02.pdf

 この間の議論は、同年の田中辰雄・林紘一郎編『著作権保護期間 −延長は文化を振興するか?』(勁草書房)にまとめられているし、そこにも収録された丹治吉順の「本の市場寿命」に関する研究ほか、貴重な検証も残された。

◇田中辰雄・林紘一郎編『著作権保護期間 −延長は文化を振興するか?』(Amazon.co.jp)
http://www.amazon.co.jp/dp/4326503084/ref=cm_sw_r_tw_dp_J1b3ub1FGECET
◇丹治吉順「本の滅び方」(PDF)
http://thinkcopyright.org/tanji-book.pdf

 他方、非親告罪化の方は2007年に竹熊健太郎の指摘などが注目を集めた後、事態は本格化することなくいったん終息に向かう。

◇【著作権】とんでもない法案が審議されている(たけくまメモ)
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/05/post_b72f.html
◇著作権の非親告罪化、断念の方向か(たけくまメモ)
http://takekuma.cocolog-nifty.com/blog/2007/07/post_5f93.html

TPP知財条項流出

 2011年2月、米国有力NPOによってTPP知財条項案(米国提案)が流出する。

◇TPP知財条項案(PDF)
http://keionline.org/sites/default/files/tpp-10feb2011-us-text-ipr-chapter.pdf

 「保護期間の死後70年などへの延長」「著作権侵害などの非親告罪化」「法定賠償金」「いわゆる3ストライクルール」「医薬品データ保護制度」その他、山盛りの論点を含む条項案を紹介したコラムと抄訳は、以下を参照。

◇TPPで日本の著作権は米国化するのか(本コラム2011年10月31日付記事)
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/fukui/20111031_487650.html
◇条文案抄訳
http://www.kottolaw.com/column/000438.html

 その内容と評価は、コラムのほかシンポやブックフェアや議連やプライムニュースやマル激などの場で、そりゃもうさまざまな方々と語り合って来たが、自分のものとしては下記新書が最も詳しい。

◇光文社新書『「ネットの自由」vs.著作権』(Amazon.co.jp)
http://www.amazon.co.jp/dp/4334037070/ref=cm_sw_r_tw_dp_zec3ub07AM7S8

 2012年12月、クリエイティブコモンズジャパン、MIAU(インターネットユーザー協会)、そして前述のthinkCで、thinkTPPIP(TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム)が結成され、ニコニコ動画でのネット公開シンポ、政府説明会への出席や各種意見の提出、国際共同声明への参加などが展開されて行く。

◇thinkTPPIP(TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム)
http://thinktppip.jp/

 2013年から、政府TPP交渉説明会に知財関係団体が多数出席するようになるが、説明内容は守秘を求められる上、そもそも「知財は極めて対立しておりネックである」という以上の具体的な協議内容や政府方針が開示されることはほぼ無い。

◇政府TPP対策本部への提出意見
http://thinktppip.jp/?p=437

保護期間延長問題

 保護期間延長問題に絞った経緯や問題点の解説は、2013年6月のコラムを参照。

◇著作権「死後50年」は本当に短すぎるか?」(本コラム2013年6月18日付記事)
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/fukui/20130618_603718.html

 同6月、thinkTPPIP主催のネットシンポで、富田倫生は「後世」という芥川龍之介の短文を読み上げた。彼の生前最後の登壇であり、青空文庫とパブリックドメインの価値に賭ける情熱が詰まった映像である。ぜひ、見てほしい。

◇シンポ動画(YouTube)
http://www.youtube.com/watch?v=OsmeGmy0WuU
◇TPP交渉、著作権保護期間延長や非親告罪化を阻止するのは国民の関心(本誌2013年7月1日付記事)
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20130701_605885.html

 2013月8月、青空文庫と保護期間延長問題への思いを遺して富田倫生は亡くなった。決して目立つことが好きな男ではなかったが、NHKニュースは異例の死亡報道を流し、ネット上は追悼の声で満ちたことを記しておく。翌月には記念シンポジウムがおこなわれ、彼の志を継ぎ青空文庫を支援する「本の未来基金」の創設が発表された。

◇追悼イベント「青空文庫の夢:著作権と文化の未来」
http://honnomirai.net/report.html
◇富田倫生氏が抱いた「藍より青い」青空文庫の夢(本誌2013年9月26日付記事)
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/event/20130926_616972.html

 2013年11月、筆者は保護期間延長を大した問題ではないとする玉井克哉東大教授と、成り行きで公開討論を行った。

◇たられば氏まとめ
http://tarareba7222.hatenablog.com/entry/2013/11/05/153425

非親告罪化

 非親告罪化を巡っては、2012年6月の日本マンガ学会シンポジウムで恐らく初めて、代表的論者の赤松健氏と出版社、コミケ3者の視点を交えた公開討論が行われ、多様な論点が提示された。

◇日本マンガ学会シンポジウム
http://www.jsscc.net/taikai/12
◇ホントは怖いTPP…「非・親告罪化」で日本の漫画界はどうなる?(赤松健氏のエントリー)
http://kenakamatsu.tumblr.com/post/44592778197/tpp

 その後、赤松氏は、2013年3月の文化庁主催シンポや前述のthinkTPPIPシンポで同人誌創作と即売を認める「黙認のマーク」を提唱し、話題を集める。クリエイティブコモンズを運営するコモンスフィアに、明治大学知的財産権法政策研究所(中山信弘代表)や筆者の事務所も協力し、「同人マーク」は同年8月から実際に運用が開始された。

◇「警察の萎縮効果狙う」 赤松健さん、2次創作同人守るための「黙認」ライセンス提案(ITmediaニュース)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1303/28/news093.html
◇「同人マーク」のデザイン決定のお知らせ(コモンスフィア)
http://commonsphere.jp/archives/320

 同8月、日本劇作家協会が非親告罪化をはじめとする表現問題についての連続座談会を開始するなど、「著作権と表現の自由」を巡る議論は頻出トピックとなって行く。

◇TPP・児童ポルノ法をどう見るか?(日本劇作家協会)
http://www.jpwa.org/main/genronhyogen01

 なお、筆者の解説としては、前述のほか2013年12月の弁護士ドットコムのインタビューがあるが、むしろ前述の赤松エントリーがビビッドだろう。

◇著作権侵害の「非親告罪化」にTPP参加国の大半が賛成!? コミケに迫る危機とは?(弁護士ドットコムNEWS)
http://www.bengo4.com/topics/1070/

再度の流出と国際的な動き

 TPP知財を巡る議論の動きが見えない中、2013年11月にはウィキリークスによって再度の条文流出が起こり、保護期間延長での各国対立ぶりや、非親告罪化に反対する日本の孤立ぶりが明らかになった。

◇TPPウィキリークス流出文書〜激戦区「知的財産」、主要11条項での交渉勢力図(本コラム2013年11月26日付記事)
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/fukui/20131126_625004.html

 2014年10月には三度目の条文流出が起きる。解説は栗原潔弁理士のものが詳しい。

◇Wikileaksが暴露したTPP知財条文案(栗原潔のIT弁理士日記)
http://www.techvisor.jp/blog/archives/5204

 こうした中、thinkTPPIPでは香月啓佑MIAU事務局長、渡辺智暁CCJP常務理事らメンバーが国際会議への出席など、各国NPOとの連携を深めて行く。

 2013年8月には米国での運動の中心に立つEFF(電子フロンティア財団)のマイラ・サットンが来日し、また同12月にはメンバーがTPPシンガポール交渉会議にNPOとして参加し現地記者会見も行った(本の未来基金が支援)。

◇TPPで「ミッキーマウス法」がやって来る? 福井健策弁護士と「電子フロンティア財団」マイラ・サットンさんの対話から(ハフィントンポスト)
http://www.huffingtonpost.jp/2013/08/20/eff_n_3783630.html

 国際的なTPP知財などへの懸念表明も続いた。2013年11月には米国の80名を超える知財法学者らがオバマ大統領への公開書簡で知財条項の即時全文公開を求め、2014年7月には各国の有力NPOが連名にて保護期間の延長に反対を表明し、さらに12月には協議の透明化を訴えた。

◇米国知財法学者らからオバマ大統領への公開書簡の全訳掲載(thinkTPPIP)
http://thinktppip.jp/?p=246
◇TPPによる著作権保護期間の延長に反対する国際共同声明の和訳公開と声明への参加の呼び掛け(thinkTPPIP)
http://thinktppip.jp/?p=383
◇世界各国の有力NPO等による、最終局面を迎えるTPP交渉での透明性を求める公開書簡を緊急邦訳(thinkTPPIP)
http://thinktppip.jp/?p=476

デジタル化促進で欧米も変化?

 保護期間延長を求める当の米国にも、変化が見られる。2013年3月、米国議会著作権局長マリア・パランテは、恐らく議会史上初めて、著作権保護期間の部分短縮などを提案した。(ヨーロッパでも、著名なガワーズ・レビュー以後、同様の提案は続いている。)

◇マリア・パランテはかく語りき ―米国著作権局長による著作権法改正提言を全訳する(骨董通り法律事務所)
http://www.kottolaw.com/column/000527.html

 背景には大規模デジタル化社会の到来で、長すぎる保護期間などの現行著作権法の制度疲労を指摘する声が高まったことが挙げられる。特に、探しても権利者が見つからない「孤児著作物(orphan works)」の問題は深刻で、保護期間の超長期化でそれが激増したと指摘される。

◇そろそろ本気で「孤児作品」問題を考えよう(本コラム2013年3月12日付記事)
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/fukui/20130312_591351.html

 日本でも、欧米と同様にデジタルアーカイブの促進を巡る議論が高まっている。筆者自身のものとしては以下の2冊を挙げておくが、そのほか各種議連・内閣知財推進本部・文化庁・民間研究会などさまざまな場でアーカイブ促進のための提言が相次いでいる。

◇ポット出版『アーカイブ立国宣言』(Amazon.co.jp)
http://www.amazon.co.jp/dp/478080213X/ref=cm_sw_r_tw_dp_bMd3ub1CYZPCY
◇集英社新書『誰が「知」を独占するのか』(Amazon.co.jp)
http://www.amazon.co.jp/dp/4087207560/ref=cm_sw_r_tw_dp_ELd3ub048ZPX6

 最新のものでは、2015年1月の文化資源戦略会議「アーカイブサミット」は大きな成功を納めたが、そこでも孤児著作物問題の解決は主要なテーマのひとつだった。言うまでもなく、最大の孤児著作物対策、アーカイブ振興策のひとつは、著作権の保護期間を無用に長期化させないことである。

◇アーカイブサミット2015
http://archivesj.net/?page_id=19

 同じ問題意識から、権利者側からもTPP知財について踏み込んだ発言が見られるようになり、以前のように単に権利強化一辺倒の状況にはない。特に非親告罪化については、権利者側でも賛成意見はほとんど見られない状況と言って良い。

◇瀬尾太一氏発言(本誌2013年7月24日付記事)
http://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/20130724_608794.html

日本譲歩の報道と「これから来るもの」

 しかし、こうした国内外の懸念表明にもかかわらず、2013年ごろから、大メディアで「TPPで保護期間延長は既定路線となった」旨の報道が目立つようになる。政府はその都度、誤報であると否定して来たが、ここに来て、NHKも「非親告罪化」「保護期間延長」の双方で日本も譲歩の方向と報ずるなど、協議の方向性自体は否定すべくもない状況と言えそうだ。

 万一、(1)米国の要求を大筋で受け容れる場合、その先はどうなるか? (2)条文の詳細を詰める作業がある。このラストミニッツの攻防は極めて重要だ。(3)いずれかの段階で全分野の条文案の公表があり、恐らく世論は沸騰する。(4)各国政府の採択・署名。まだ終わりではない。(5)日本の場合、ここから国会承認があって「批准」だ。(6)通常は一定数以上の国の批准手続が済んで、条約は発効。(7)決められた期限までに各国が国内法を整備する(前倒しで国内立法を済ませてしまう場合もある)。(8)国内法ができると、しばしば、ここでも施行までの猶予期間が設けられる(即時施行の条文もある)。(9)施行期日が来て、はじめて新ルールで動きはじめる。

◇国会承認条約の締結手続
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/tpp/pdfs/tpp03_03.pdf

 保護期間の延長は、通常この(9)の時点でまだ切れずに残っている作品に対して適用される。よって、最短シナリオでも、来年著作権切れを迎える江戸川乱歩や谷崎潤一郎の保護が延びるケースは考えにくい。告訴なしの起訴・処罰も法定賠償金の請求も、この(9)の時点以降の話である。

 大筋合意すると、次は(7)の国内法導入において各国にどこまでの裁量が認められ、どんなセーフガードが考えられるかが焦点となる。これまで、「登録作品のみ保護期間延長」「孤児著作物対策」「累犯のみ非親告罪化」「海賊版のみを対象にすべく、翻案行為は非親告罪化から除く」などの提案がされて来たが、いずれも導入には課題も多い。

◇紹介された中山信弘教授の見解など
http://dotplace.jp/archives/13121

 他方、これを機に、米国ではパロディや各種デジタル化が認められる原動力となっている「フェアユース規定」の導入論が再燃する可能性もある。権利者に実害がない公正な利用は、許諾なく自由に行って良いとする一般規定だ。韓国などは、米韓FTAでTPPと同様の知財条項を受け容れた際、フェアユース規定を導入している。

◇著作権制度における権利制限規定に関する調査研究報告書 別紙・参考資料3(PDF)
http://www.bunka.go.jp/chosakuken/pdf/houkokusho_090626.pdf

 もっとも、フェアユースには権利者側の反対意見が強い。先日の文化審議会での議論でも多くの賛同は得られないなど、立法論は高まって来ない。そもそもフェアユースが導入されても同人誌販売が救われる保証はない上、権利者側からすれば、頼んでもいない非親告罪化の代償としてフェアユースを受け容れるなど、受け入れ難いところだろう。果たして、政府にその舵取りをする覚悟はあるのか。

◇クラウドサービスと著作権等に関する報告書(案) 30頁以下(PDF)
http://www.bunka.go.jp/Chosakuken/singikai/hogoriyou/h26_09/pdf/shiryo_1.pdf

曲がり角の先の未来

 TPP知財問題は、情報社会のルールメイクそのものである。その利害関係者は、我々全員だ。我々の自立も豊かな文化の創造とアクセスも、(特許と違い著作権では年間6000億円以上の巨額の収支赤字を続ける)日本の知財立国の行方も、情報のルールメイクに大きくかかっていることは誰も否定できまい。

 そのルールが、国の外で広範に、秘密裡に一部ロビイングの影響を受けて決まりかねない点が多国間貿易協定の最大のリスクだ。一度決まったルールは国会をもってしても覆せない。仮に、流出条文のような米国型の知財ルールが良さそうだとして、日本でも数年試みてみるのは良いとしよう。しかし、日本には米国型のいわばガチガチの契約慣行も訴訟文化もない。数年経って各分野で混乱が広がって、間違いだったとなっても、もはや国会議員にも変えられない。情報ルールのような変化の速い、柔軟性が求められる分野でそれをやり、本当に我々の文化社会やビジネスの強みは生かせるのか?

 我々が、いっときの祭りではない粘り強い関心を「情報のルールメイク」に対して持ち続けることが出来るかどうかに、曲がり角の先の未来はかかっている。

福井 健策

HP: http://www.kottolaw.com
Twitter: @fukuikensaku
弁護士・日本大学芸術学部客員教授。骨董通り法律事務所代表パートナー。著書に「ネットの自由vs著作権」(光文社新書)、「著作権とは何か」「著作権の世紀」(ともに集英社新書)、「契約の教科書」(文春新書)ほか。最近の論考一覧は、上記HPのコラム欄を参照。