日本にはあまりないが、海外には外国人相手の“国際的ネットカフェ”が少なからず存在する。今回のレポートでは、ユーザーの声を交えながらこのようなネットカフェの様子を紹介し、日本のネットカフェのあるべき姿を考えてみたい。前編ではまず、観光大国タイの旅行者向けネットカフェを紹介しよう。
■外国人の集うカオサンロードのネットカフェ
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カオサンロード |
タイは東南アジアの旅の起点として、さまざまな国から個人旅行者、特にバックパッカーと呼ばれる放浪型の旅行者が集う。国籍別だと、よく見かけるのが我らが日本人、アジアの2番手に韓国人、欧米人ではアメリカ人、カナダ人、イギリス人、フランス人、ドイツ人、オーストラリア人、それに欧米ではないがイスラエル人もよく見かける。
タイの首都バンコクには、旅行者が集うカオサンロードという通りがある。東京でいえば六本木のような外国人の集うエリアで、ここでは旅行者に必要な施設がすべて揃っている[追記]。ネットカフェも無数にあり、ちょっと歩けばすぐ見つかるほどだ。しかも、ほとんどが常に客が入っていて繁盛している。ネットカフェを利用する外国人にとって、もっとも大事な目的は故郷の友人や旅先で会った友人にメールを送ることだ。
ただし、どこのカフェの端末もアナログモデム回線で、ブロードバンド接続のネットカフェはカオサンロードにない。利用料は1分1バーツ(3円弱)だが、1時間使うと30分の料金が割引となり、30バーツ(約80円)で1時間利用できるところが多い。
インストールされているソフトは非常にシンプルだ。OSは英語版Windowsで、タイ語版は見たことがない。中には、日本人向けに日本語Windowsを入れているところもある。入力ロケール(言語システム)は日本語、韓国語、まれに中国語繁体字(台湾、香港、シンガポール)が選択できる。欧米人がアルファベットで文章を入力するには事足りるらしく、追加入力ロケールに欧米系はない。
アプリケーションはInternet Explorer(IE)、MSN Messenger、Yahoo! Messengerぐらい。Windows XPが入っている端末は珍しく、Windows 98がいまだ現役だ。余談だが、一昨年から去年にかけてアジアを周って感じたことのひとつに、ネットカフェの端末のOSは多くがWindows 98だということがある。Windows 98のサポート期間が切れようが、簡単にインストールできてマシンパワーも必要ないので、今後もアジア諸国では使われるのかもしれない。
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カオサンロードにあるネットカフェ |
ネットカフェのデスクトップPC |
■タイのネットカフェの満足・不満足
カオサンロードの旅行者に、「ネットカフェで何をしますか?」「ネットカフェに何を求めますか?」という質問をぶつけてみた。
「メールをしたり、ニュースを見たり、情報を探したり。あとは家族と話したりするために、1日1回ネットカフェを訪れます。いつも使うアプリケーションは、MSN MessengerやIEですね。料金や、どこにでもネットカフェがあるということには満足していますが、回線速度は不満ですね」(イスラエル人男性)
「メールをしに毎日来ています。メールはHotmailを使っています。時々遅くなるのが不満ですが、どこにでもネットカフェがあって、英語なので簡単に触れて、安いのがいいです」(スウェーデン人女性)
「メールのチェックで来ました。お金を気にしてネットサーフィンはしませんでした。アプリケーションはIEしか使っていませんが、友達の多くはMSN Messengerを使っています。回線速度がちょっと遅いです。それに、タイの物価感覚でいくとだいたい1時間800円くらいの感覚で、それを考えると観光客相手の商売で高いなと思います。実際は旅行者にとってそんなに問題ないとは思いますが。日本語がサポートされていることは満足です。Hotmailしか使わないので特に不満な点はないです」(日本人男性)
「メールが目的で、3日ごとに来ています。IEとMSN Messengerがあればそれでいいです。問題は遅すぎること。便利な点は、どこにでもあることですね」(カナダ人男性)
「メールで週に1回来ています。フランスのYahoo!を見ています(フランス語圏のケベック州出身)。遅いのが不満です」(カナダ人男性)
■「どこにでもあること」が重要なファクター
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ネットカフェのPCでHotmailにアクセスしたところ |
このように、旅行者にとってネットカフェは、メールやWebブラウジングが要であるようだ。旅行者の大多数がこのような目的ならば、ネットカフェに高スペックのPCは配備する必要はないだろう。国際的にウケるネット端末を作るならば、ブロードバンド回線に接続したPCにWindowsをインストールしたあと、入力ロケールをいくつか追加して外国語でも入出力できるよう設定し、MSN MessengerとYahoo! Messengerをインストールするだけ……そんなシンプルなシステムで十分だろう。
多くの人が不満な点として回線速度を挙げるのは想像できるが、満足な点として「どこにでもネットカフェがある」というのは日本にない特徴といえる。東京でいえば六本木、新宿、浅草など、外国人に縁があるところでも、外国人向けネットカフェがそこらじゅうにあるかといえば、残念ながらそういう状況ではない。
意見としては挙がらなかったが、カオサンロードのネットカフェは、どこでもIP電話を配備している点も特徴だ。「遠く離れた異国の家族に元気だと伝えたい、でも電話は高いし……」と悩む旅行者も少なくない。IP電話はそのニーズに応えたものだ。ちなみに、価格はどこのネットカフェでも日本まで1分50円位。ただし、以前試したが音質はよくなかった。
さて、話はバンコクと日本のネットカフェの比較だけでは終わらない。後編では、中国語を学びにくる留学生御用達の中国のネットカフェを紹介したい。旅行者と留学生では、ネットカフェに来る目的が少々異なるのだが、それはまた後編にて。
[追記]……記事中のカオサンロードの説明について、タイ在住の読者の方よりご指摘のメールをいただきました。参考情報として掲載いたします(2004/4/22)
カオサンロードが「六本木のような」という表現に、在住者としては違和感を覚えました。確かに外国人は多く集まりますが、カオサンはその中でも治安の悪いエリアで、決して六本木という雰囲気ではありません。“表”には出ない犯罪(盗難、殺傷、麻薬など)が日常茶飯事に起こる場所で、先週のソンクラーン(タイ旧正月)では武装警官が警備にあたったほどです。最近はタイ人の若者が「カオサンがナウい(死語)」といって出入りしては犯罪に巻き込まれており、タイ政府も犯罪多発地帯のカオサンの取り締まりや改良を始めています。
「六本木のような」を鵜呑みにする日本人がいると少々心配です。現に「カオサンはバックパッカーの聖地」とか「あそこの安宿に泊まって一人前」と勘違いしている人が多いのも特徴です。
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( 山谷剛史 yamayaushi@ybb.ne.jp )
2004/4/19
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