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無線から有線を選んだカンボジア

~戦後復興国の例を見る

 カンボジアのインターネット事情を紹介しよう。今回紹介するのは世界的に有名な仏教寺院「アンコールワット」の観光基地として栄えるシェムリアップという小さな町だ。シェムリアップは日本からもツアーがあり、もちろん日本だけでなく世界中から観光客が訪れる。今のインターネットが当たり前のご時世では、観光地では現地からメールを送りたい、安価に知人家族に一報を送りたいという要求から、インターネットカフェは当然のように存在する。シェムリアップも例に漏れず、インターネットカフェは町中に存在している。

予想外に無線インターネットが普及していた1年前

 4年前のシェムリアップは、インターネットカフェの存在すら皆無であったし、インターネットカフェができた後でも数が少ないために値段は大変高く、現在の数倍はしていた。支払いも現地通貨のリエル(カンボジアの現地通貨。1$は約4,000リエル)ではなく、米ドル払い。それでいながら、しょっちゅう停電で止まった。電話回線にもうまくつながらなくて、大変だった。

 その後、1年前に筆者がシェムリアップを訪れたときは、電話に関して“ほぼ無線の状態”だった。“ほぼ無線の状態”というのは、文字通り、有線の電話線がほとんどない状態だ。公衆電話はそのような目印があるところで店員が携帯電話を貸し出し、対価を店員に払うというシステムである。インターネットカフェも、当時はIrDAで携帯電話と接続し、ルータで複数台のPCに回線を割り振るというシステムのものが多かった。

 シェムリアップと首都プノンペンの間に電話線が存在しないため、各携帯電話からシェムリアップ空港へ、そこから衛星回線を使いプノンペンの空港までデータを飛ばし、プノンペンのISPを使用していた。したがってコストは高く、それに反して速度は快適とは程遠いものであった。当時はIrDAだったが、速度が速くなるという理由からBluetoothに変えられるだろうとIT技術を知る現地の人は囁いていた。


シェムリアップ周辺の道路の様子。雨季には車の轍でかなりの悪路になる 旧式の公衆電話。声を掛けると、携帯電話が渡される

BlueToothだったはずが“普通”の有線回線に……

 筆者が先日シェムリアップを再び訪れたときには、「BlueToothに変わって新技術搭載で以前より快適な無線インターネットの町となったのか」と期待して訪れたのだが、期待は裏切られた。無線の町が有線化したのだ。

 町中では日本のようなカード型公衆電話が設置されており(取材当時、まだサービスは開始された状態ではなかったようで、現在でも携帯電話による人手の公衆電話は健在であった)、インターネットカフェの利用料金は格段に安く快適になり、市外通話も安くなったのだ。年々インターネットカフェの数が増加して店同士の競争が激化したことによって、店によっては茶を出したり、飲料水が無料だったり、エアコンを効かせたりして差別化を図り、全体的に価格は徐々に下がっていった。

 そして遂に有線化され、インターネットをするコストが大幅に下がったことにより、今では多くのインターネットカフェが15分1,000リエルで快適なネット環境を提供するに至っている。また、ネット環境には必ず必要な電力の供給についても、今でこそ停電は稀だが数年前までは停電は日常茶飯事で、内戦中は停電の時間のほうが長く、とてもインターネットどころの話ではなかった。

 そのようなインターネットには“不向き”と言わざるを得ない環境の中、わずか1年でシェムリアップの町中の地下に電話線が敷かれ、主要都市間の地中にはケーブルが敷かれたのである。このためか、無線システムを牽引したBigbond社は倒産し、現在は「Camintel.com」「camnet.com.kn」「online.com.kn」のダイアルアップ接続3社とブロードバンド接続の「Telesurf」の1社がシェアを競っている状況に変わった。

 かくしてハイテクな無線の町は“普通”の有線の町になり、カンボジア内で都市に限ってだが、インターネットは主にインターネットネットカフェを通じて、少しずつ国民にその存在を認識させつつある。ブロードバンドによるインターネットカフェはまだ存在しないが、いずれ現われる日もそう遠くないだろう。個人的に言えば、町が急激な発展によって綺麗になり驚いたが、急激な有線化にはそれ以上に驚かされた。


シェムリアップの町の様子。自転車とバイクが道を多く走っている。日本人が非常に多く、外国人の半分近く居るのではないかという印象を受ける “新型”の新しい公衆電話。日本と同じ形式だ

□ダイアルアップによるISP
・「Online.com」:http://www.online.com.kh/
・「Camintel」:http://www.camintel.com/home.asp
・「Camnet」:http://www.camnet.com.kh/

□ADSLによるISP
・「Telesurf」:http://www.telesurf.com.kh/


ネットカフェのPCは、日本語環境やMSN Messengerが入った観光客向け仕様

 ちなみにインターネットカフェは、シェムリアップのメインストリートや市場のあたりなど、外国人観光客が訪れそうな場所にひしめき、使用するPCは地元のパソコン屋が作ったタワー型ケースに入ったショップブランドPCだ。英語圏だけでなく日本からも多くの観光客が訪れるため、日本語IMEが入っているPCは当たり前で、日本語入力環境は整えられている。

 旅行者はほとんどが「Hotmail」を利用しているので、ブラウザの起動ページがHotmailのWebサイトになっていることが多く、カンボジアのポータルサイトがトップページになっていることは滅多にない。また、利用客の多くがHotmailを利用することから、多くのPCに「MSN Messenger」が入っている。そのほかに、特別なソフトウェアやゲームがインストールされているわけではなく、至ってシンプルなシステムだ。シェムリアップではインターネットカフェはPCゲームをする場所ではなく、あくまで観光客のためのものなのだ。


シェムリアップのネットカフェの様子。日本と比べると殺伐とした印象を受けるが、サービスは良い ネットカフェのPC。机の下のPC本体は基盤むき出しだ

イラクやアフガニスタンの復興時は、最先端技術の実験場に?!

 これはカンボジアのシェムリアップというローカルな例だが、かといってそれで終わりというわけではない。内戦や外国との戦争が終わった国もカンボジアと同様のことが起きるであろう。電線や電話線など、線という線が寸断されても、そこにニーズがあれば、コストが高くともエンジンで電気を起こしてPCを起動させ、携帯電話や衛星インターネットなど無線で情報を送受信できる環境はでき上がる。

 さらに、そこが不幸にして被災地として知られるようなことがあれば、集まった世界中のジャーナリストらの需要によって、緊急のインフラが整えられるだろう。著名な観光地ならばインターネットの需要は世界中から訪れる観光客により確実に発生し、戦後のゼロの状態からのニュービジネスとして地元住民はインターネットカフェを作り、インフラは加速度的に高コストから低コストのものへと整うだろう。インターネットカフェで言えば、利用者としては誰もが高い技術を融合させたシステムよりも、技術は何でもいいから快適な接続と利用しやすい価格を望むのだから。

 イラクにはメソポタミア文明の跡が、アフガニスタンには破壊されたバーミヤンがある。そこが平和であれば、それを見たいと思う人は世界中にはかなり居る。そのときにはカンボジアのシェムリアップの例と同様、有線へのステップアップのための無線技術が存在することになるだろう。シェムリアップの無線時代はIrDAだったが、それが別の復興地では一時的にBlueToothや、無線LANなど最新技術が使われる最新インターネットシステムの実験場になるかもしれない。


街中にあるネットカフェの看板。過密地帯では、2~3軒並んでいる 新型の公衆電話。その隣の乗り物はシクロ

山谷剛史 dtgoshi@dan.wind.ne.jp
2003/10/14


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