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ほしいものがなかったら自分で作る ~ソフトイーサ会長 登大遊氏(後編)
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● SoftEther 1.0を作ろう!
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SoftEtherの開発では「作るのに苦労したというよりも、デバイスドライバでエラーが起きると再起動の必要があるため、単純に時間がかかった」という
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情報処理推進機構(IPA)という、独立行政法人があります。コンピュータウイルスやセキュリティに関する調査や情報提供、ソフトウェア開発補助事業を行っているところです。天才的プログラマーの発掘のための未踏ソフトウェア創造事業などを行っていることでも知られています。
経済産業省の補助金制度があって、「こういうソフトを作りたい」と言って通れば、国から300万円もらえます。人件費に使ってもいいし、良い機材も買えるという。そこで申し出たところ、IPAが主催する未踏ソフトウェア創造事業未踏ユース部門に採択され、支援を受けてSoftEther 1.0を開発しました。ソフトウェアイーサネットから、“SoftEther”という名称に決めました。2003年の7月から12月まで、毎日朝から晩まで作り続けていましたね。作るのに苦労したというよりも、デバイスドライバでエラーが起きると再起動の必要があるため、単純に時間がかかったのです。
SoftEther 1.0は、それまでWindows向けのVPNソフトウエアは有償が普通だったのがフリーウェアだったこともあり、話題になりました。また、それまでのVPNソフトウエアの設定にはネットワークに関する知識が必要でしたが、SoftEther 1.0では、インストールだけで簡単にVPN機能が使えました。企業などでも利用が広まった結果、リリース後まもなくSoftEther 1.0の通信遮断ツールとして、ファイアーウォールソフトウェア「One Point Wall SoftEther」が出たりもしました。
発表した時の反応は色々とありました。通常のソフトウェアは、評判が良くて「窓の杜」に載るくらいのものだと思います。しかしSoftEther 1.0は、それ以外の媒体でもよく取り扱っていただきました。きっと、使える範囲が違ったからでしょうね。普通のソフトウェアの利用範囲はパソコンの中だけなのに、通信は社会的に影響が大きいからでしょう。僕自身は、あまり考えずに作ったんですけれどね。
この影響で未踏事業の応募者が増え、SoftEther 1.0が生まれたことが、未踏事業自体が継続できる理由の1つとして使っていただけていると聞いています。2004年1月に、三菱マテリアルが商用化したいと言ってきたので、個人でライセンス契約をしました。これは、法人向けの商用版「SoftEther CA」となりました。その後、周囲が「この際会社にした方がいいのでは」と勧めてくれたため、会社化することにしました。ちなみに、三菱マテリアルとはSoftEther 1.0の独占契約をしていましたが、SoftEther 2.0からは止めて独立しています。
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従来のVPNソフトはOSI参照モデルのレイヤ3(ネットワーク層)で接続するもので、NAT越えなどで不便な点があった。SoftEtherはレイヤ2(データリンク層)で接続。ソフトでLANカードとHUBをエミュレートすることで、NAT越えやファイアウォール設定などの従来のVPNソフト設定の難解さ、不便さを解消した
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SoftEther 1.0のインストール時設定は、ユーザー名登録などを除くとインストールフォルダの選択だけ
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● ソフトイーサ立ち上げ
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ソフトイーサ設立の翌月、2004年5月にIPAが開催した「IPAX Spring 2004」会場でSoftEtherのデモなどを行う、当時大学2年生だった登氏
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SoftEtherをリリースした頃はちょうど、大学で起業が流行っていた時期でもありました。2004年4月、大学の情報学類にいた先輩である、取締役の杉山と池嶋との3人で会社を立ち上げました。会社名は、最初は「AC」などにしていたのですが、ソフト名が広まって有名になったので、社名はわかりやすくソフトイーサとしました。
会社を作ってからは、せっかく会社を作ったので存続させようと、三菱マテリアルへのライセンス供給や、ソフト開発の受託などをしていました。やがて、SoftEther 1.0の後継としてPacketiX VPN 2.0を作り、2005年12月に販売開始しました。主要部分は自分が作り、他の人たちにサポートしてもらいました。売上高は、1年目が1200万円、2年目4000万円、3年目で1億円と順調に伸びていきました。
最初は、製品を作るのも大学でしたね。大学に学内ベンチャー支援制度があり、学内のインキュベーションセンターである筑波大学産学リエゾン共同研究センターに入ることができました。ちょうど、ロボットスーツHALの研究開発で知られるサイバーダインも、同じ施設を借りていました。これが縁で、サイバーダインの社内LANを組んだり、顧問をさせていただいたりしています。
サイバーダインと話している時に「高速回線が欲しい」と言われ、サイバーダインと大学との間を高速につないだりもしています。物理的な配線をどうするかなどのハードウェア部分が大変でしたね。
最初は3人での起業でしたが、その後筑波大の学生などが入ってきて、現在は社員数は10人に上ります。メンバーのうち 6 割が筑波大学関係です。場所は本社の他、大学内に何カ所かと、別の場所もあります。
● ハードイーサを作ったわけ
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「ハードイーサ」発表会でサービスの説明をする登氏。手にしているのは、エントリー向け「バリュープラン」で利用する回線終端装置
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起業して5年目になります。これまで一貫してVPNソフトウェアの開発・販売を行ってきました。しかし、VPNソフトウェアには、VPN自体の問題がつきまとっていました。能力は優れているものの、元々の通信環境以上には速くならないということです。
しかし、これからの時代は、遠隔拠点間での速さと遅れの最小化が必要になります。また、現在ではサービスが止まることはユーザーに許容されませんから、バックアップ回線による冗長化も必要となります。ところがこうした通信回線契約は、中小企業やベンチャーでもニーズはあるものの、料金が高いために敬遠されていました。
そこで作ったのが、「ハードイーサ」です。「ハードイーサ」というのは、ソフトイーサの対義語であり、物理的なイーサネット専用線サービスになります。一言で言うと「ギガビット広域イーサネット専用線サービス」です。指定した2拠点間で通信を実現し、しかも月額料金は従来の他社サービスと比較するとおよそ半額から数分の1にするというサービスです。
料金やその他の部分は他社サービスに比べて優れていると自負しています。ただし、弊社は規模が小さいのでサポートだけはあまり良くないので、銀行の決済業務のように非常にクリティカルな業種では、従来通り他社を選ばれるのがいいと思います。うちは従来の企業とは違い、中小企業やベンチャーが安く使えるベンチャー割引を設定し、それらの企業を支援するサービスとして始めました。
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ソフトイーサのVPNソフト「PacketiX VPN 2.0」では最大3.1Gbpsまで出るが、当然ながら物理的な回線速度に制約される。Gbps回線はベンチャー企業には手の届かない利用料であることから、物理的な接続回線を提供するサービス「ハードイーサ」をリリースした
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ハードイーサの基本となる2拠点間を直結するバリュータイプ(バックアップ回線なし)では、1Gbpsで月額18万円から。月額5万円割引となるベンチャー割引を利用すると、月額13万円から利用可能となる
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本当は、ビジネスとしてはもう少し高くてもいいと思います(笑)。しかし、それでは使ってもらいたい人に使ってもらえないことになってしまって意味がない。これまで無視されていたような会社が扱えるようになるサービスとして、意義があると思っています。
ハードイーサを作ったからと言って、今後ハード系の会社を目指しているとかいうことはありません。あくまで自分たちの持つノウハウを生かして新しい事業をしたいから始めただけです。何よりも、弊社と同じような中小企業やベンチャー企業に専用回線を使ってもらいたい、世の中の発展に貢献したい。アカデミック割引もあるので、大学などにも良いと思います。
大阪などはサービス拠点として駆けつけが難しく別途営業所が必要なので、関東近辺のみを対象としていますが、サポートの提携先があれば、名古屋や大阪辺りまで手を広げていくつもりはありますね。
● ほしいものがなかったら自分でやる
ソフトイーサは「ほしいものが見つからなかったら自分でやる」ことをモットーとしています。ハードイーサも、他の人から相談されて始めたことです。仕事をしていて嬉しいことは、サービスを開発して実際に動いた時ですね。「使えてます」などのユーザーからの声がメールで送られてくるのももちろん励みになります。
小学生だった頃は、周囲にプログラミングがわかる子は自分以外にあと1人くらいしかいませんでした。中学になるともう少し増えましたが、やはり多くはなかった。だから、周りがプログラミングがわかり、できる人たちばかりの今の環境は、本当にすばらしいです。
メディアに出た時に、“日本のビル・ゲイツ”とか“天才”とか書かれたこともあります。言うのは自由かなとは思いますが、周りにはもっとすごい人がいるので、僕自身は全然ピンときません。起業したことについては、両親は喜んでくれていますね。今でも仕事面で手伝ってくれています。
現在、僕は代表取締役社長から代表取締役会長になっています。代わりに取締役社長をしてもらっている原氏とは、2001年に「月刊アスキー」でWindowsの内部構造に関する記事を書いた時に知り合いました。会社を持ってから顧問になってもらい、今のように取締役になってもらったのです。社長が2人いるのは変だし、営業系の人物が社長の方がいいだろうと考えて、今のようにしました。代表取締役会長の今は、技術にわりと特化していられるところがいいですね。
でも、せっかく作ったものの、面倒くさくてまだ放ってあるソフトウェアもあるんですよ。“イーサロガー”というのですが、イーサネットでの通信をすべてログに取ることができるというものです。作った時はセキュリティブームだったんですよ。できているので出せばいいのですが、他のことが忙しくてそのままになってしまって。
● 実用的で役に立つことがしたい
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「仕事が趣味」という登氏は、「人や社会の役に立つものを作るのが楽しい」。事業では今後も「通信にこだわってやっていきたい」という
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今後、ハードイーサなどの実際に他の企業に役立つような、実用的な仕事をしていきたいですね。ソフトは製造原価はかからないので利益率は高いですが、売りきりです。これと比較して、通信サービスは安定して動き始めたら何もせずに収入が入るので、ソフトと通信サービスの両方の事業を実施することでより安定した利益が確保できます。ただ、儲かる仕事は大手がしているので、僕らベンチャー企業が同じ価格でやったらダメだと思うのです。
ソフトイーサは、IPOは目標にはしていません。何のためにするかが決まっていないでIPOだけを目標にするのは良くないと思うのです。もちろん、資金調達が必要になったらやる可能性はあります。今後は、通信事業について経験豊富な人が社にほしいですね。そして、これからも通信にこだわってやっていきたいです。
僕は仕事が趣味です。そして、もっともっと社会に役立つものを作り出していきたいと思うのです。(おわり)
(→ 前編をみる)
関連情報
■URL
ソフトイーサ
https://www.softether.com/jp/
「ハードイーサ」サービス紹介
https://www.softether.com/jp/products/
SoftEther入門(INTERNET Watch、全5回短期集中連載、2004年)
http://internet.watch.impress.co.jp/static/column/sether/2004/02/02/
■関連記事
・ ソフトイーサ、1Gbpsで18万円からの専用線サービス「HardEther」(2008/11/25)
・ 登大遊氏が代表取締役社長となって「ソフトイーサ株式会社」設立(2004/04/01)
・ ほしいものがなかったら自分で作る ~ソフトイーサ会長 登大遊氏(前編)(2009/01/26)
2009/01/27 11:16
取材・執筆:高橋暁子 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。 PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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