先週はいくつか、今後に大きな影響を与えそうなニュースがありました。1つは、Winnyで地図ソフトをダウンロードしたユーザーが書類送検された事件。Winnyでダウンロードしただけで逮捕という新しい解釈が成立すれば、今後は取り締まりの強化が予想されます。
YouTubeでJRC管理楽曲が利用可能になった件は、JRCが「時代に敏感な著作権管理事業者でありたい」とコメントしているように、インターネットにおける著作権関連の大きな一歩となるものです。また、米Adobe Systemsの「Photoshop Express」は、パッケージアプリケーションの超大手である同社が時代に乗った新しい試みとして注目すべきもの。今週はこちらを解説します。
◆Winnyで地図ソフトを"ダウンロード"して公衆送信権侵害、2人が送検
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/24/18922.html
3月24日、福岡県警はWinnyでゼンリンの住宅地図ソフトをダウンロードした2人を著作権法違反(公衆送信権侵害)の疑いで書類送検した。2人はWinnyを利用して地図ソフトをダウンロードしただけだが、Winnyではダウンロードしたファイルがキャッシュフォルダに残って他のユーザーに公開されるため、この特性を知りながらダウンロードしたことが、公衆送信権の侵害にあたると判断された模様だ。関連してACCSが注意喚起を行なっている。
◆グーグルと音楽著作権管理会社のJRC、「YouTube」で包括利用許諾契約
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/27/18972.html
3月27日、グーグルとJRCは「YouTube日本語版」における音楽著作権の包括利用許諾契約を締結。Mr.Children、L'Arc-en-Ciel、スピッツなどのJRCの管理楽曲をユーザー自らが演奏した動画をYouTubeで公開できるようになった。
◆Adobe、オンライン画像編集サービス「Photoshop Express」ベータ版を公開
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/27/18980.html
3月27日、米Adobe Systemsは無料のオンライン画像編集サービス「Photoshop Express」のパブリックベータ版を公開した。利用するにはFlash Player 9以上がインストールされたWebブラウザが必要。2GBまでの写真を保存でき、切り抜きや色調補正などの編集が行なえる。また、FacebookやPicasaなどのサービスと連携している。
◆Web改竄の攻撃が再開の兆し、十分な警戒を~ラック川口氏
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/27/18971.html
3月27日、ラックが今月発生した大規模なWebページ改竄攻撃についての調査説明会を開催。手法について解説を行ない、攻撃プログラムや、過去に成功したサイトのリストが取り引きされている可能性を指摘した。一般ユーザーに対してはOSおよびアプリケーションのアップデートや、ウイルス対策ソフトの定義ファイル更新など一般的な対策の徹底を呼びかけた。
◆中国の動画共有サイト「優酷網」の利用者が日本でも増加
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/03/26/18950.html
3月26日、ネットレイティングスが発表した2008年2月度のインターネット利用動向調査レポートで、中国の検索サイト「百度」や動画共有サイト「優酷網」の利用者が徐々に増加していることが明らかになった。百度の利用者は71万3,000人で、画像と動画検索の比率が高い。優酷網の利用者は65万3,000人で、「YouTube」や「ニコニコ動画」の人気上昇期に似た傾向が見られるとした。
● 「Photoshop」が無料!? 「Photoshop Express」が与えるインパクトとは?
米Adobe SystemsがPhotoshopのWebアプリケーション版を提供すると明らかにしたのは、2007年の3月のことでした。「Webアプリケーション」とは、従来はパッケージで提供されてきたような高度な機能を持つアプリケーションを、Web上のサービスとして(基本的には無料で、そのかわり広告付きで)提供するものです。つまり、これまでパッケージソフトとして提供してきたPhotoshopブランドの製品を、Web上で誰でも無料で使える形で提供するということです。
GoogleがWebアプリケーションの分野で一定の成功を収めており、Abodeのこの判断は、Googleの画像管理アプリケーション「Picasa」に対抗する必要からと見られています。プロユースのPhotoshopが持つ高度な編集機能をWebアプリケーション化するのでなく、写真の管理機能やよく使われる基本的な編集機能にオンラインでの共有機能を加え、デジタル写真の分野ではきわめて強力なPhotoshopブランドによって提供しようというものです。
3月27日に公開された「Photoshop Express」オープンベータは全体にFlashを利用し、きわめて軽快な動きでリッチなユーザーインターフェース(UI)を実現しています。さすがはFlashの販売元といったところ。2005年頃のWeb 2.0ブーム以降は、リッチなUIを作るにはAjaxが主流でしたが、YouTubeやニコニコ動画、最近では「iKnow!」の学習アプリケーションなど、Flashを利用したリッチなWebサービスが目に付くようになってきており、Flashの評価が高まっていきそうです。
画像の管理はデータ量が大きく、画像の編集に必要な処理は重いため、Webアプリケーションの提供には大量の回線と強力なサーバーが必要になります。Picasaではこの対策として、重い編集機能をデスクトップアプリケーションとして提供していますが、Photoshop Expressの場合はすべてオンラインで提供しています。ただし、やはり負荷が気になるためか、Photoshop Expressのオープンベータでは米国のユーザーを対象とし、他国からの利用はパフォーマンスが悪くなる場合があるとしています。また、利用できるディスク容量が2GBと、ライバルとなりうるPicasaやFlickrなどと比べて決して多くない容量に設定されているのも負荷対策の一環かもしれません。なお、日本のユーザーでもオープンベータの利用は可能です。
世界のユーザーに対応するためのサービス強化と同時に、ビジネスモデルの確立も今後の課題となるでしょう。今のところPhotoshop Expressの登場は、Webアプリケーション化の流れに対応するためといった意味合いが強く、このままではPhotoshopの(主にローエンド製品の)ユーザーに無料でアプリケーションを提供しただけとなってしまいます。
Adobeは、FlashやPDFなど閲覧用のソフトを無料で配布して、作成者向けにアプリケーションを販売するというビジネスモデルで実績があります。しかし、写真では多くの場合が「閲覧者=作成者」となるため、今までとは違う形を模索する必要があるでしょう。これから広告による収益の確保などが試行されるはずです。そして、このAdobeの試みは、同じくWebアプリケーション化を模索しているMicrosoftにとっても、ロールモデルの1つとなるはずです。
2008/03/31 11:56
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小林祐一郎 プログラマ、編集者、Webディレクター等を経て、ライター・編集者として活動。興味のあるテーマは「人はどうすればネットで“いい思い”ができるのか」 。ごく普通の人の生活に、IT技術やネットのコミュニケーションツールがどんな影響を与え、どう活用できるのかを研究している。近著「Web2.0超入門講座」(インプレス) |
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