5分でわかるブロックチェーン講座

不動産のLIFULLがブロックチェーン活用へ、金商法に抵触しない先進的な取り組み

Jリーグのカードゲームがブロックチェーンで

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

Image: Shutterstock.com

不動産領域で本格化するブロックチェーン活用

 大手不動産ポータルを運営するLIFULLが、デジタル証券プラットフォームを運営するSecuritize Japanとの提携を発表した。両者は以前より協業を行なっているが、今回の提携により、不動産特定共同事業者(不特法事業者)向けのSTO(Security Token Offering)スキームの提供を本格的に開始する。

 Securitizeは、米国に本社を持つセキュリティトークン関連のブロックチェーン企業だ。セキュリティトークンとは、デジタル証券をブロックチェーンで管理するための仕組みである。ICOなどに使用されるトークン(ユーティリティトークンという)とは異なり、日本でも2020年5月1日より金融商品取引法(金商法)の枠組みにおいて、正式に取り扱いが開始されている(ユーティリティトークンは資金決済法の枠組み)。

 セキュリティトークンを発行するメリットについては後述するが、ブロックチェーン技術に明るくない事業者にとって、セキュリティトークンの発行は困難を極めるだろう。

 そのためLIFULLは、Securitizeの運営するセキュリティトークン発行・管理プラットフォームを活用することで、不特法事業者のセキュリティトークン発行をサポートしていく方針だ。

参照ソース


    LIFULLとSecuritize社が協業で不動産特定共同事業者向けのSTOスキームの提供を開始
    [LIFULL]

スポーツ選手のカードゲームがブロックチェーンで

 ブロックチェーンを活用したサッカーゲームSorareが、日本のプロサッカーリーグであるJリーグとの提携を発表した。Jリーグで活躍する選手たちが、Sorare内でカードとして登場する。

 Sorareは、イーサリアムブロックチェーンを活用することで、実在するサッカー選手をNFTとして発行しているサッカーゲームだ。

 NFT(Non-Fungible Token)とは、デジタルデータに一意性をもたらすことができるトークンを意味する。以前よりゲーム領域での活用が進んでおり、「ブロックチェーンゲーム」として1つの市場を形成してきた。

 デジタルデータに一意性をもたらすことができる特徴は、ゲームと非常に相性が良い。なぜなら、ゲーム内のアセットに金銭的な価値を持たせることができるからだ。ブロックチェーンゲームで登場するキャラクターやアイテムは、運営によって複製や削除ができなくなる。つまり、そのキャラクターやアイテムが、世界に1つだけのものになるのだ。

 このNFTがサッカーゲームに採用される場合、現実世界と同様にゲーム世界でも選手が1人しか存在しなくなる。つまり、メッシのカードを保有しているプレイヤーはゲームの世界においてもたった1人になるのだ。

 この経済的インパクトは相当なものがあるだろう。極端な話、理論上は現実世界のメッシと同等の価値が、メッシのカードについてもおかしくないのではないだろうか。

参照ソース


    SorareのファンタジーフットボールゲームにJリーグ選手が参入!
    [PR TIMES]
    Ethereum-based soccer game scores deal with Japan’s J.League
    [Decrypt]

今週の「なぜ」セキュリティトークンはなぜ重要か

 今週は不動産領域とスポーツ領域に関するトピックを取り上げた。ここからは不動産領域にトピックを絞り、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

理論上は全ての資産がブロックチェーンで管理可能
ICOとは異なる安全性の高い市場
金商法に抵触しない先進的な取り組み

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

理論上は全ての資産がブロックチェーンで管理可能

 セキュリティトークンは、世界中で取り組みが活発になる中で日本でも2020年の5月より正式に市場が動き始めている。きっかけは金商法の改正だ。日本ではこれまで、セキュリティトークンに関する規制が定められておらず、事業者が本格参入できない状況が続いていた。

 セキュリティトークンは、文字通り証券(セキュリティ)をトークン化してブロックチェーンで管理できるようにしたものである。現実世界のアセットをトークン化(デジタル証券化)してブロックチェーンで管理する際に使用されるため、理論上は全てのアセットがセキュリティトークンになり得る可能性を秘めているのだ。LIFULLが取り組む不動産領域における今回の事例も、当然その1つになってくる。

ICOとは異なる安全性の高い市場

 このセキュリティトークンを使った資金調達手法をSTOと呼び、日本でも本格的な盛り上がりが期待されている。

 2017年前後にバブルとなったICOと異なり、STOには発行体の体力が必要となる。なぜなら証券のトークン化である以上、証券法の枠組みによって規制されるからだ。証券法の規制水準は、ベンチャー企業が容易に満たせるものではない。

 一方で、気軽に実施できるものではないという一面は、ICOのような詐欺が起こりにくい市場であることも意味する。そのため、機関投資家のような大口の投資家からは、市場の盛り上がりが大いに期待されている。

金商法に抵触しない先進的な取り組み

 今回のLIFULLの取り組みの中でスキームとしておもしろいなと思ったのは、発行されるセキュリティトークンが金商法ではなく不動産特定共同事業法の枠組みである点だ。不特法事業者に基づく権利は、金商法で定められている有価証券の対象にはならないという。

 つまり、不動産領域における既存規制のみを考慮すれば良いということだ。これは、現在進行形で整備が進む規制産業においては、非常に大きなアドバンテージだといえる。他の領域に先駆けて、今後も不動産領域におけるセキュリティトークンの活用が進みそうだ。

編集部より: 当連載は、第9回(3月末掲載)まで仮想通貨 Watchにて掲載していたものです。第9回以前はこちらからご覧ください

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami