5分でわかるブロックチェーン講座
ソーシャルグラフからトークングラフへ、「人の繋がり」がブロックチェーンとNFTで変化していく
ブロックチェーンに信用を持ち込む分散型レピュテーションの概念
2021年3月23日 10:55
信用を分散化してブロックチェーンへ持ち込む
分散型レピュテーション(Decentralized Reputation)というワードが少しずつ使われるようになってきた。今週のDeFi界隈で話題になった概念であり、分散型が前提となるWeb3.0の世界における信用のあり方を定義する言葉として使われ始めている。
ブロックチェーンの外の情報を参照することを意味する「オラクル」の一種とも言えるが、管理主体の存在しないブロックチェーンの世界を拡張させるためには、やはり一定の信用というのは欠かせないだろう。
とはいえ、ブロックチェーンの世界に管理者を持ち込んだり、例えばSNSの情報を持ち込んだりしては、そもそもの分散型の思想を脅かしかねない。そこで提唱されているのが分散型レピュテーションだ。
分散型レピュテーションの必要性としては、例えばDeFi市場でレンディングサービスを使用する際に、現状は良くも悪くも全ユーザーが同一の利率で使用することになっている。しかしながら、元手の少ないユーザーと裕福なユーザーとでは、DeFiの用途も大きく変わってくるのではないだろうか。
このような場面で、外部情報(職歴や決済履歴)を参照するのが一般的な金融サービスだが、DeFiの場合はウォレットに格納されている暗号資産の金額や、過去のDeFi市場における利用履歴を参照したりする。
そして、その多くはDID(Decentralized Identity)として個人が自ら管理する仕組みとなっているのだ。これを分散型レピュテーションと呼んでおり、特定の管理者が存在しない環境で生じた情報を元に信用データを生成している。
現時点では少なからず抽象性を帯びた内容になるが、分散型レピュテーションは海外における2021年の主要トピックになるであろうテーマの1つだと考えている。
参照ソース
Decentralized Reputation is About to Open a New Web3 Frontier: Kevin Owocki
[The Defiant]
ソーシャルグラフからトークングラフへ
分散型レピュテーションに加え、今週は少し踏み込んでブロックチェーンの未来について考察したい。続いては、トークングラフについてだ。
SNSを中心にインターネット上での生活が当たり前になったことで、インタレストグラフやソーシャルグラフといった考え方が定着するようになった。これは、インターネット上での行動データを元にその人の趣味嗜好を特定してマーケティングなどに活用するための概念だが、Web3.0の世界ではトークングラフという考え方が定着しつつある。
トークングラフは、文字通りトークンを使うことで保有者の趣味嗜好を特定する仕組みのことだ。その人(厳密には人間ではなくウォレットアドレス)がどんなトークンを保有しているかを参照している。
使用するトークンは、ビットコインやイーサリアムといった一般的な暗号資産ではなく、NFTと呼ばれる一意性を持ったトークンだ。NFTというと投資対象のイメージが強くなってしまっているが、これまでに何度か紹介してきた通り、本質はそのトークンを唯一無二の存在として流通させることができる点にある。
NFTには、deedIDという識別子が付与されており、そこには保有者の情報が含まれている。NFTであればトラッキングすることができるため、他にどんなNFTを保有しているかを参照することもできるのだ。
NFTの金融資産的な盛り上がりと共に、ここ最近はNFTを使ったトークングラフの概念が海外で徐々に普及しつつある。今週は、このトークングラフについて考察を深めていきたい。
参照ソース
【独占取材】NFTの次のフェーズはトークングラフ(Dapper Labs NBA Top Shot プロデューサー Benny Giang)
[あたらしい経済]
今週の「なぜ」トークングラフはなぜ重要か
今週は分散型レピュテーションとトークングラフという先端的なブロックチェーン業界の中でもさらに先を行くトピックについて取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。
Web3.0は匿名性が前提となるため、マーケティグ手法も大きく変わる
NFTを参照することで保有者の行動データを収集する
社会的な繋がりはWeb3.0で劇的にアップデートされる
それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。
インタレストグラフ、ソーシャルグラフからトークングラフへ
Web3.0における1つの重要なトピックとして、プライバシーや匿名性があげられる。ブロックチェーンの世界では、基本的に暗号資産を保管しておくためのウォレットがインターフェースとなり、現実世界における実際の人間とはリンクされない。
そのため、ウォレットアドレスは特定できてもそのウォレットが誰のものなのかは特定できないのだ。この性質上、AML/CFTとして規制当局が本人確認の対象をウォレットにまで拡大し続けているものの、全てが自動実行されるスマートコントラクトの世界を特定することには限界がある。
こういった考え方が前提となるWeb3.0では、データ収集やマーケティングの手法も大きく変わらざるを得ない。その1つがトークングラフだ。
これまでに提唱されてきたインタレストグラフやソーシャルグラフでは、GoogleやFacebookといったアプリケーションが大きな力を持ちデータを独占してきた。これがWeb3.0の世界では、Fat Protocolという理論で指摘される通りアプリケーションがデータを独占できず、プロトコルにデータが集約されるようになる。
行動データはNFTで収集
そこで利用されるのがNFTだ。先述の通り、NFTには保有者の情報(ウォレットアドレス)が含まれているため、各NFTを集計して逆算することによりウォレットアドレスに紐づくNFTを全て導き出すことができる。
この性質を応用すると、例えばこのNFTを保有している人があのNFTも保有していた、といった発見が出てきたりする。最近は、オンラインイベントに参加するための権利としてNFTを使用していたりするため、保有しているNFTを参照することで過去にどんなイベントに参加していたかを特定することもできるのだ。
これにより、例えば「このNFTを保有している人にだけプロモーションを行う」といったことが可能になるだろう。また、お互いのNFTを見せ合って「このNFT持っているってことは君もあのイベントに参加したんだね?」という会話ができたりもする。
もちろん既存の仕組みでも同じことは実現できるが、現実世界の情報を伏せたまま、かつ本当に正しい情報(この場合は本当にイベントに参加したかどうか)をブロックチェーンで保証することが可能となる点は大きな違いだと言えるだろう。
匿名性が前提のインターネットにおける新たな繋がりの創出
これまでのインターネットは、良くも悪くもデジタルデータが簡単にコピーできてしまっていたために、それに伴う弊害も発生していた。わかりやすいのが著作権やプライバシーの侵害だろう。
Web3.0は、大前提として匿名性であるためプライバシーは侵害されづらく、またNFTによってデジタルコンテンツの著作権を明確にすることもできる。トークングラフは、匿名性が前提の世界でいかにして繋がりを創出するか、ビジネス的にはいかにマーケティングをしていくかの鍵となる概念だと言えるだろう。
社会は少しずつ個人を重要視する方向へシフトしているため、近い将来で匿名性が前提のトークングラフの考え方が当たり前になる日が来るかもしれない。事業者は、この考え方を今のうちから理解しておかなければ、次のインターネットの波に乗り遅れかねない可能性がある。