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DocuSignがClause買収を発表。ブロックチェーンを用いたスマートコントラクト導入へ

エルサルバドルがビットコインを法定通貨に

 暗号資産・ブロックチェーンに関連するたくさんのニュースの中から見逃せない話題をピックアップ。1週間分の最新情報に解説と合わせて、なぜ重要なのか筆者の考察をお届けします。

エルサルバドルがビットコインを法定通貨に

 米マイアミの大型カンファレンスBitcoin 2021で、中南米に位置するエルサルバドル共和国大統領のナジブ・ブケレ氏が、国の法定通貨としてビットコインを採用するための法案を提出する方針であることを発表した。

 エルサルバドルは人口640万人の小国で、2001年より法定通貨として米ドルを採用している。国民の約7割が銀行口座を持っていないものの、GDPの約2割を国内送金が占めているという。

 このような状況下では、送金手数料が安価な暗号資産による国際送金が高い需要を持つ。もし今回の法案が承認されれば、世界で初めてビットコインを法定通貨として採用した国となる。

 ブケレ大統領は今回の発表について、「エルサルバドルのような小国が、現金主体の経済からモバイル端末が銀行口座の代わりとなるデジタル経済へと移行するための大きな第一歩だ。」と言及した。

 ビットコインの時価総額は約6800億ドルである一方、エルサルバドルのGDPは約270億ドル。仮にビットコインの1%がエルサルバドルへ投資された場合、GDPを25%押し上げるポテンシャルを秘めている。

 一方で、ビットコインが法定通貨として採用された場合、現状各国で整備されている暗号資産に関する法律は、大幅な改定を余儀なくされる可能性がある。現状の法律では、暗号資産を法定通貨とは別物として定義しているため、米ドルなどと同じ法定通貨として取り扱うことになった場合、各国政府および事業者に与える影響は少なくなさそうだ。

参照ソース


    El Salvador looks to become the world’s first country to adopt bitcoin as legal tender
    [CNBC]

DocuSignがClauseを買収

  電子契約サービス大手DocuSignが、ブロックチェーンを使った契約書の自動締結サービスを提供するClauseの買収を発表した。DocuSignの電子契約サービスに、文字通りスマートコントラクトを導入する構えを見せている。

 新型コロナウイルスの影響から世界各国で導入が進んだ電子契約だが、日本を含む各国で法整備はまだまだ進んでいない。今回DocuSignが買収したClauseは、電子契約にブロックチェーンを導入したこれまでにない製品を提供している。

 Clauseは、ブロックチェーンを活用することで電子契約の透明性と耐改ざん性を実現している。基本的には、契約者間にCluaseが仲介者として介入するオフチェーン形式を取っているが、コンソーシアム系のブロックチェーン(Enterprise EthereumやHyperledger Fabric)を使用することで単一障害点を排除する設計だ。

 電子契約の領域では、文字通り「スマートコントラクト」を実装したブロックチェーンが非常に大きな効力を発揮することが期待できる。仮に「ブロックチェーンに記録された情報であれば法的効力を認める」といった法律が整備された暁には、ブロックチェーンはもはやマスに届いていると言っても良い状況になりそうだ。

参照ソース


    Taking the Next Step in Our Smart Agreement Journey
    [DocuSign]

今週の「なぜ」DocuSignのClause買収はなぜ重要か

 今週はエルサルバドルのビットコイン法定通貨案やDocuSignのClause買収に関するトピックを取り上げた。ここからは、なぜ重要なのか、解説と筆者の考察を述べていく。

【まとめ】

電子契約とブロックチェーンは相性が良い
電子契約の法整備の文脈でブロックチェーンに焦点が当たる可能性あり
ブロックチェーンのキャズム越えのポイントは法的効力を持つかどうか

 それでは、さらなる解説と共に筆者の考察を説明していこう。

電子契約とスマートコントラクト

 DocuSignは、ブロックチェーンとは無関係の文脈で、以前よりスマートコントラクトという言葉を使っている。その名の通り電子契約を意味するが、ブロックチェーンでも同じように電子的に自動実行される契約としてスマートコントラクトという言葉が使われている。

 今回買収したClauseは、電子契約にスマートコントラクトを組み込んだサービスを提供しており、主に以下の4つのシーンに対応している。

1.オフチェーンインバウンド方式
スマートコントラクトのプログラムをブロックチェーンから呼び出すことが可能。契約用のコードがブロックチェーンに記録されているものの、契約自体の実行は現実世界(オフライン環境)で行いたい場合に使用

2.オフチェーンアウトバウンド方式
契約の実行もブロックチェーン上で行いたい場合に使用。Clauseを仲介者としての信頼することになる

3.オンチェーンCiceroエンジン方式
第三者を介入させずに、全ての行動をブロックチェーン上で完結させたい場合に使用。ネットワークを構成する複数のノードによってスマートコントラクトの実行を検証・承認する

4.オンチェーンErgoコンパイル方式
3つ目のシーンに類似しており、Ciceroエンジンを使うかErgoロジックによるコンパイルを行うかが異なる

 Clauseの優れている点は、利用者のニーズを認識したサービス展開にある。ブロックチェーンを使用する際のニーズとしては、全てをオンチェーンで実行したい場合と、信頼できる人物ないし機関であれば仲介者として介在させ効率を高めたい場合と様々だ。

 オンチェーンとオフチェーンとで方式を分けて提供することで、黎明期のブロックチェーン産業における幅広いニーズに対応することができている。

電子契約の法整備にブロックチェーンを含める

 日本でも新型コロナウイルスの影響により普及した電子契約だが、法整備は依然として進行中だ。電子契約の市場を牽引するのがDocuSignであり、当然ながら法整備のステークホルダーとして議論に参加していることが予想される。

 そんなDocuSignがブロックチェーン活用のClauseを買収したことで、電子契約に関する法律にブロックチェーンが組み込まれる可能性が浮上したと個人的には考えている。

 ブロックチェーンがわれわれの生活に浸透する1つの大きな条件として、「ブロックチェーンに記録されたデータだから正しい」という状態にまで持っていく必要がある点があげられる。そのためには、ブロックチェーンが法的効力を持たなければならい。そしてそのきっかけが、電子契約になると考えている。

 「電子契約でもブロックチェーンに記録されていれば法的効力を持つ」。このような法律が整備されることになれば、ブロックチェーンのキャズム越えは果たされたも同然だと言えるだろう。

田上 智裕(株式会社techtec代表取締役)

リクルートで全社ブロックチェーンR&Dを担当後、株式会社techtecを創業。“学習するほどトークンがもらえる”オンライン学習サービス「PoL(ポル)」や企業のブロックチェーン導入をサポートする「PoL Enterprise」を提供している。海外カンファレンスでの登壇や行政でのオブザーバー活動も行う。Twitter:@tomohiro_tagami